先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
爆発があった事は覚えている。目が眩む程の閃光、耳をつんざく轟音。
その後に何かが頭にぶつかり、コハルは意識を刈り取られていた。ずっと誰かに名前を呼ばれている様な気がしたけれど確かめる方法はなく、まどろんでいるかの様にぼんやりとした意識だけは持ち続けていた。
ハッキリと意識が戻った時、視界にはハナコとヒフミの不安げな顔があった。名前を呼んでくれていたのがこの二人によるものだと気付いた時、ほんの僅かではあるが安堵に襲われてしまう。
「コハルちゃん! よかった!! 私の声、聞こえます!?」
「聞こえて、る……うるさい」
ハナコが普段からは想像ができない程の大きな声でいうものだからコハルは顔をしかめながら返答する。隣のヒフミは泣いていたのか目が赤くなっており、心配させてしまっていたらしい事はわかった。
首を動かし、周りを眺める。白い部屋……トリニティの保健室だと気付くのにそう時間はかからなかった。
他のベッドにも生徒が寝かされている。全員何かしら傷を負っており、まるで野戦病院か何かだ。
「あれ、私確かファミレスにいて……ラムとアズサが飛び出したからそれを追いかけて……」
そう、爆発があった。どうしてそうなったのかまったく覚えていないが確かに。
そういえばラムレザルとアズサの姿がない。ヒフミとハナコがいるのにあの二人がいない理由を導き出せず、コハルは首を傾げ、
「ラムは? アズサはどこ?」
「……ええと、それは」
ヒフミが視線を泳がせる。答えあぐねているのだと気付いたが、どうして押し黙るのかがコハルにはわからなかった。
もしかしてどこかで戦っているのだろうか? だとしても、何故黙ってしまうのかまるでわからない。
ヒフミが助けを求める様にハナコに視線を投げかけると、普段は饒舌な彼女にしては珍しく歯切れが悪く、
「ラムちゃんとアズサちゃんは、ここにはいません」
「え……なんで」
「ラムちゃんは、なんていえばいいのか……怪物になってしまったんです。アズサちゃんはラムちゃんを止める為に後を追いかけて、連絡がつかないんです」
いっている事の意味がまるでわからずコハルは呆然としていた。ハナコらしく冗談でもいっているのかと思ったが、数秒経っても続きがない事から真実なのだと遅れて理解できてしまった。
怪物になった? 止める為? 嘘ではないとわかっても飲み込む事ができず、コハルはただただ絶句していた。
「なんでそんな事になっているの」
「コハルちゃんはラムちゃんがおかしくなった時に近くにいたせいで衝撃をまともに受けて気絶していたんです。その間に……街は大変な事になってるんですっ」
「ハッピーケイオスが調印式会場を襲撃したんです。情報が錯綜していて私達にも何が何だか……幸いだったのはレイヴンさんが助けに来てくれた事ですね。私達を助けてすぐにまたどこかへ行かれてしまいましたが……」
レイヴン。まともに話していないがヴァレンタインに攫われた時にラムレザル達と一緒に助けに来てくれた人物だと聞いている。今トリニティに運び込まれているのは彼のおかげらしい。
一度に多くの情報を詰め込まれコハルは事態に置いていかれている事にただただ困惑する事しかできなかった。
何がどうなって、どうしてそんな状況なのか。正義実現委員会の他の生徒達は今何をしているのか。
いてもたってもいられないコハルはベッドから弾ける様に起き上がっていた。
「行かないと……!」
「行くってどこにですか!? 無理しちゃダメですよコハルちゃん!」
「でも、ラムが大変なんでしょ!? アズサだって……!! それなら急がないとっ」
「今現在も、戦闘が続いているんです。ひとまず安全な場所で……」
「友達が大変なのにじーっとしてられないでしょ!」
制止しようとするハナコに対してコハルは思わず叫んでいた。状況についていけない自分への不甲斐なさと、冷静に振舞おうとする仲間への激情が口から飛び出してしまう。
ラムが大変な目に遭っている、アズサは独りで追いかけた、それを聞いてじっとしていられる人間がどれほどいようか。コハルは感情のままに動こうとしていた。
「っ……コハルちゃん」
「どいてっ!」
ハナコを押しのける様にしてコハルは保健室を飛び出す。止まってと呼びかける誰かの声が聞こえたが、振り返る事は絶対にしなかった。
トリニティの校内は混沌としていた。銃を手に生徒達が右へ左への大騒ぎ、正義実現委員会の生徒達も何度か見かけたが声をかける前に大声で話しながらどこかへと走り去ってしまう。
大騒ぎなどというものではない。これまでにない大混乱がトリニティを襲っているのだ。
「ラム……アズサ……!」
それでもコハルの心は行方知れずの友達への焦燥感でいっぱいだった。二人が今どこで何をしているのか、無事でいるのかという不安で心が埋め尽くされてしまいそうだった。
トリニティの外に出るしかない。現状を理解するしかない……その気持ちで足を動かそうとしていたコハルは、ふと行き交う生徒達の中で不審な集団を目にした。
(……?)
端的にいえば怪しかった。他の生徒が混乱に浮かされているかの様にドタバタと動く中で、異様に冷静な様に見えるのだ。
どうして冷静なのか、その理由はすぐに導き出せていた。目的があるのだ。指揮系統が乱れてしまっている為に右往左往するのとは異なり明確な目的を持ってどこかへ向かっているのだ。
コハルはパニックになりかけていた思考が途端にクールダウンしていくのをハッキリと感じていた。謎の一団は周りの目を縫う様にしてそそくさと移動していく。その先は確か……聖園ミカが収監されている地下の牢獄だったはずだ。
「―――」
まさか、いやそんなはずはない。そこら中が大パニックな状況でそんな馬鹿な事をしでかそうなどという生徒はいるはずがない。
だが……いくら下っ端なコハルでもトリニティがどんな場所かは理解している。そのまさかが起こり得る場所であると。
静かに、迷いなくコハルは後を追いかけていた。どうか自分の勘違いであって欲しいと願って。
「ミカ様! チャンスです! ゲヘナを、ひいてはこの混乱の元凶であるシャーレを消し去る時です!!
最悪な事に、予想は当たってしまっていた。
〇
「レイヴン! 行って! 怪我人沢山出てると思うから!」
中継越しに古聖堂での爆発を見たその瞬間、ミカは自分でも驚く程の速さでレイヴンにそう命じていた。
そしてレイヴンも一切の躊躇なく、ミカが囚われている地下室から瞬時に移動する。相当な速度であった辺り、恐らく飛鳥と既に話はつけていたのだろう。
『ハーイ、キヴォトス。僕はハッピーケイオス。手短にいうと超悪者。今から凄い悪い事をするよ。遠くから見てる君、退屈させないよ。期待しててね』
画面の奥で笑う怪人をミカは心の底から憎んでいた。
ナギサの心を惑わし、苦しめ続け、飛鳥を重傷に追いやった悪鬼。
できる事ならばこの手で命を奪ってやりたいと、心から強く願ってしまう程にミカはケイオスを憎んでいた。
だが状況が状況だ。一時の感情で飛び出し、万が一トラブルになれば更なる混沌を呼ぶ。レイヴンに釘を刺されずともそれを理解していたミカは狂おしい程の怒りに襲われながらも耐え忍んでいた。
上が常に騒がしい。誰かの叫ぶ声が聞こえる。
そうして、幾つかの足音が降りてきた。何かいい合いながら近付いてきたかと思えば、慌ただしく何人かの生徒がミカの部屋へと飛び込んできた。
「ミカ様、お迎えに参上いたしました!」
「お迎え……?」
既にティーパーティーの権利など剥奪されたも同然だというのに随分と丁寧な物いいだと思った。少し気味が悪いと思うくらいに。
次にミカは見覚えのある顔ばかりなのだと気付いた。全員がゲヘナとの徹底抗戦を唱え、ナギサに何度か嘆願を試みていたいわゆるタカ派の生徒達だ。
凄まじく悪い予感がした。今この状況で何故そんな面々が自分のもとへ会いに来るのか、思いつく事など一つしかない。
「ミカ様! チャンスです! ゲヘナを、ひいてはこの混乱の元凶であるシャーレを消し去る時です!」
「は?」
「ご存知ないのですか!? 先程の放送を! 飛鳥=R=クロイツはハッピーケイオスと旧知の仲……戦争犯罪者だというんです!」
「え、待って、待って」
「今こそ仇敵であるゲヘナを滅ぼし、そして我々を惑わす『大人』の飛鳥=R=クロイツをも亡き者にする絶好の機会! そして錦の御旗を振るうに相応しいのは、誰よりもトリニティの未来を憂いていたミカ様だけです!」
「待ってよ、ちょっと……なんでそんな事になるの? 先生は、ケイオスに狙われていたナギちゃんを助けたんだよ?」
ただただ困惑があった。興奮した声色で捲し立てるタカ派の生徒が放つ熱量にミカは怖れさえ抱いていた。一体何の話をしているのか、と。
思わず疑問が口から飛び出してしまうが、その生徒は何をいっているんだといわんばかりに眉をひそめ、
「わかりませんか? あの得体の知れない大人はケイオスと繋がっていたんです。すべてはマッチポンプ……自分が思う様にトリニティをコントロールするつもりです!」
「じゃ、じゃあ今古聖堂で起きてる事は? まさかアレもお芝居だっていうつもり?」
「当然!!」
自分が何をいっているのかわかっているのだろうか。矛盾している事はわかっているのだろうか。
そうしてミカはある結論に辿り着いた。
違う。飛鳥に裏切られたとか、そういった感情から彼女達は動いているのではない。
自分達にとって都合のいい展開がやってきたから、わざと騙されている素振りで飛鳥を葬ろうとしているのだ。
憎んでいるゲヘナも、気に入らない大人も、どちらも消えて欲しいなどと考えているのだ。
「は―――はは」
唇から漏れ出たのは乾いた笑みだった。あまりにも愚かな思考を理解しきれず笑うしかなかった。
「ば……馬鹿じゃないの? 状況わかってる? 街が大変な事になってるんだよ? 怪我人もいっぱい出て……飛鳥先生あそこに残っているんだよ!? ケイオスと戦ってるんだよ!?!?」
心からの叫びだった。古聖堂で爆発が起きたその時、ケイオスに真っ向から挑む飛鳥の姿をしっかりと見ていたが故に目の前にいる『怪物』達への怒りを口にせざるを得なかった。
ゲヘナがどうとかいっている場合ではない。協力して事態を解決しなければならない窮地なのだ。
だのに、だというのに、
「……は? 何いってるの、元はといえばアンタが始めた事でしょうが!」
怪物達はミカの叫びを鼻で笑った。嘲笑した。
「アリウスと手を組んでクーデターなんて考えて」
「アンタのせいでトリニティはぐちゃぐちゃになった」
「知ってるんだから。ケイオスに騙されているなんて気付かなくて馬鹿正直に手を貸してた事」
「世間知らずで馬鹿なお嬢様の癖に……アンタに花を持たせてあげるっていうのよ!」
「―――」
まるで、別の生き物と話しているかの様で。
その生き物は話が通じなくて。
「この魔女が! 黙っていう事聞きなさいよ!」
別の生き物のいっている事は意味がわからなくて。
別の生き物の考えている事は意味がわからなくて。
別の生き物の口を今すぐにでも塞ぎたくて。
ミカは割れんばかりに拳を握り締め、憎たらしいその顔面をぐちゃぐちゃにしてやろうと思って。
「ダメェェェェェェッ!!!!!」
〇
(なんで、なんで今こんな事してるのよ!)
怪しい集団を追いかけた先でコハルが目の当たりにしたのはゲヘナを憎む生徒達の凶行だった。
ミカを開放し、ゲヘナとついでにシャーレを滅ぼす? まるで理解できない、理解したくない。
状況を把握した上で、彼女達はまるでそれが当たり前だと捉えている。それがコハルには恐ろしくて仕方がなかった。
「ば……馬鹿じゃないの? 状況わかってる? 街が大変な事になってるんだよ? 怪我人もいっぱい出て……飛鳥先生あそこに残っているんだよ!? ケイオスと戦ってるんだよ!?!?」
そしてミカは彼女達に否定的だった。ハッキリとノーを突きつけた。それは当然の事だ。誰だって同じ事を思う。
だが狂っているという他にない生徒達はミカの言葉をせせら笑い、あろう事か罵倒まで始めた。
コハルとてすべてを知っているわけではない。聖園ミカがクーデターを企てていた裏で何かを考えていたらしいという程度だ。
「……は? 何いってるの、元はといえばアンタが始めた事でしょうが!」
しかし、いくらなんでも彼女に差し向けられる罵倒は度を越していた。許されざるものではなかった。きっとコハルが同じ立場であれば涙を流し黙りこくっていた事だろう。
許してはいけない。罪人であろうとも、やっていい事と悪い事がある。
だが、割って入って何ができる? 相手は大人数、対してちっぽけな自分一人で何が……?
(や、やっぱり誰かに助けを求めて!)
その方がいい、そうした方が事態を収めてくれるはず。
そう思いコハルは踵を返して誰かに助けを求めようとした。それが正しい選択だと信じて。
――『私とコハルは同じじゃない。でもそれは当たり前の事。他人と同じ人なんていない……コハルだからできる事、きっとある。今日も私を助けてくれた。もし、今日の事を『そうするもの』だとか『当たり前』だと思えているなら、それは誇っていい。
どうして今、その言葉を思い出してしまうのだろうか。
背中を向けて走り出そうとしていたというのにコハルは足を止めてしまっていた。
大切な友達から向けられた言葉に引き戻される様にして、彼女は走り出していた。
そして完璧なタイミングで逆上したミカの拳が振り下ろされる寸前に彼女は滑り込んでいた。
「ダメェェェェェェッ!!!!!」
絶叫と共に両者の間に割って入ったコハルを前に、ミカの拳はぴたりと止まった。
「ひ、ひぃぃぃ!!!!」
自分の顔面が空き缶の様に潰される寸前だったと気付いた生徒が腰を抜かし、悲鳴と共に崩れ落ちる。顔を真っ赤にし、ぶわっと涙を流して彼女は膝を震わせていた。
コハルはといえば怖くて怖くて仕方がない。ミカを助けに入るつもりが、彼女の暴力が眼前に迫っているのだから。
「……なんで止めるの」
ぽつりとミカが呟く。彼女の表情は能面の様で、その下に怒りの感情が渦巻いている事くらいは容易に想像できた。
喉が干上がる。声を出そうにも変な呻き声が出てしまいそうになる。それでもコハルは泣き出す寸前で、どれだけみっともなくても、いわなければならないと己を鼓舞する。
「ダメ……こんなのダメ」
「そこのおバカさん達はね、飛鳥先生を殺すつもりだったんだよ。自分が嫌いってだけで……気に入らないってだけで!」
「それでもダメ!!」
「どうしてッッッ!!!!!」
「今こんな事してる場合じゃないんだってばぁっ!!!」
心からの叫びだった。絞り出す様に、嘆く様にコハルは叫んでいた。
ゲヘナが憎いだとか、そんな感情のままに動いて何かをしている場合などではない。
今もどこかで誰かが傷ついているかもしれない。友達がどこかで苦しんでいるかもしれない。
そんな時に、憎み合ってどうするというのか……!
「この人達がとんでもないバカなのは私も知ってる! 私だってできるならぶん殴ってやりたい! でも……! それでやり返してたらいつまで経っても終わらないでしょ!!!!」
「っ……!!」
その言葉はミカの怒りを冷ますのには十分な効果を持っていた。
感情のままに動き、セイアを殺しかけた過去を持つ聖園ミカにとってコハルの叫びは恐ろしい程に突き刺さり、彼女の心を揺さぶっていた。
―――この時。未来は変わった。
セイアが目にした予知―――否、『本来の時間軸』では逆上した聖園ミカはタカ派の生徒達に襲いかかり……全員を殺める事となる。人を呼ぶべく逃げ出したコハルが戻ってきた時には、血の海に立ち尽くす『魔女』の姿があった。
アリウススクワッドの襲撃を受け飛鳥=R=クロイツが窮地に追いやられ、桐藤ナギサは爆撃によって意識を失い、百合園セイアが夢から覚めぬままの中で起きたこの事件をきっかけにトリニティは加速的に崩壊し……ねじれた終着点へと繋がる、はずだった。
ラムレザル=ヴァレンタインの出現。彼女との交流によってもたらされた情動は下江コハルに思わぬ影響を与え……予知を回避するに至ったのである。
〇
「……なるほど、君も新生ティーパーティーの一派というわけか」
同時刻。セイアは大混乱の校舎から引き離されていた。ミカを開放しようとする一派の下へ案内すると名乗り出た生徒は彼女を人気のない場所まで連れていき、あろう事か拳銃を突きつけたのである。
本来セイアのボディガードを務めていた蒼森ミネは負傷者の治療に当たるべく別の場所にいる。というより運悪くセイア自身がそう命じていたのだ。
「それで、君の望みはなんだ」
「無論。我々の行いを見逃がしていただきたいのです」
「君は自分が何をしようとしているのかわかっているのか。この行いはトリニティの、更にいえばキヴォトスの未来を閉ざす事になるんだぞ」
「違います。私達は新たなる秩序を築くのです……!」
「敢えていうが、敵はゲヘナでもなければシャーレでもないぞ」
「いいえ、いいえ! それは違います!!」
それまで抑え込んでいたであろう感情を迸らせ、生徒は叫ぶ。冷静な判断ができない状態にある事はセイアもよくわかっていたが、口で抑え込められそうにはない。
「私はずっと思っていました。ナギサ様があの大人をトリニティへ招待した時からずっと……何かがおかしくなり始めたと! 彼は花園に土足で踏み入り、花を踏みしめ、すべてを滅茶苦茶にしたのです!」
「飛鳥=R=クロイツはトリニティを守る為に尽力していた。それから目を背けるというのか?」
「あんな……あんな得体の知れない化け物を慕うナギサ様が理解できない! 貴女もですセイア様。トリニティに戻られた貴女は変わってしまった。大人に歪められて、セイア様ではなくなってしまった! 毒されてしまった貴女達から私は正しいトリニティを取り戻す!」
(……突然の変化に耐えられる程、私達の情緒はまだ育っていない。彼女もまた、疑心暗鬼など当たり前なトリニティが生んだ被害者の一人というわけか)
突き付けられた銃口は震えているが、しかし決してセイアから逸れる事はない。
昏睡から目覚めたばかりでは拳銃程度でも撃たれれば体には響く。当たり所が悪ければ……最悪ヘイローが『砕ける』かもしれない。
助けを呼ぼうとすればその瞬間に撃たれるだろう。万事休すという奴である。
絶体絶命のピンチだが、それでもセイアの瞳は眼前の生徒へと向けられ続けていた。
「いいだろう。君が心からトリニティを愛しているのはわかった。では撃てばいい」
「っ……」
「どうした。私やナギサは君達の上に立つには不適格なのだろう。それならば今すぐ撃て。だが覚悟するといい。その決断は君のみならず、トリニティそのものを滅ぼすぞ」
「う、撃てないと思ってバカにして!」
「そうではない。他人の命を奪うという事は手を血で汚すという事だ。血にまみれた人間が向かう先など……地獄以外にあるまいよ。君は友人知人愛する人、すべてを地獄へ連れ込む悪魔になるぞ」
「黙れッ!!」
(せめて最後に恨み節の一つでも吐いてやろうという気持ちでいいきったものの、これではおしまいか。すまない飛鳥先生。私は君の力にはついぞなれなかったな)
銃声が鳴り響く。続いて待ち受けるは死の闇か。
最後まで自分を殺す相手の顔を見届け、そして他者を殺める事の恐怖を教えてやろうという意地の悪い気持ちでいたセイアだったが、案外死は遠かった。というより、セイアに向けて放たれた弾丸は空中で静止していた。
時が、止まっているかの様だった。
「―――ふぅ、危ない危ない。俺さ、喧嘩も嫌いだけど血はもっとヤなの。間に合ってよかった」
その声を聞くのは随分と久しぶりだった。軽薄で、けれどどっしりと構えている様な安心感がある。
夢の中で悲観に暮れていたセイアに生き続ける事の意味を解き、『型にハマるな』と激励してくれた男は最高のタイミングで彼女のピンチに駆け付けていた。
「遅かったじゃないか、我が友……アクセル=ロウ」
「むふふ、主役は遅れてくるもんっしょ?」
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
-
区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
-
このままもう少し早く出して欲しい