先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
トリニティ学区古聖堂にて武力衝突が起きたとの報告があった。誰と誰が、というのを七神リンは報告者に対して訪ねようとは思わなかった。この状況下で動く者とそれを迎え撃つ者など思い当たる節はあの二人しかいない。
飛鳥=R=クロイツ、そしてハッピーケイオス。彼らが現れてからのキヴォトスはリンの知るそれとは大きく異なる様相を呈している。良くも悪くもリンのいる世界は二人によって思わぬ影響が出始めていた。
「行政官、私達は一体どうすれば……既に連邦生徒会内部でも今回の事件にどう対応するべきか議論が始まっています」
この騒ぎを見かねた岩櫃アユムの問いかけにリンはじっと携帯端末に映り込む映像を見つめる。
ケイオスとその部下達によって築かれた要塞へと今、飛鳥率いる軍団が戦いを仕掛けようと突撃している。どちらが勝つかなどまるでわからない。これまでにない危機的状況だ。
それなのに指を咥えて見ているのは本来ならばキヴォトスの全てを管理している連邦生徒会……その歯がゆさにリンは眉をひそめていた。
「現場には既にヴァルキューレとSRTが待機していますね?」
「は、はい」
「では改めてヴァルキューレとSRTに指示を。古聖堂周辺に被害が及ばない様に防衛線を敷く様に」
「飛鳥先生の援護は……?」
「ここは飛鳥先生を信じます。今介入したとして連邦生徒会の分断が進む事になります。あくまでも今回の事態に対し、我々は被害を最小限に留める事を目的とします」
「わ、わかりましたっ……」
その答えが心苦しいものであるとリンはハッキリと自覚している。たった今アユムに伝えた内容は『飛鳥を見捨てろ』といっているのだ。そしてその理由が政治とあれば罵倒されるには十分だろう。
ケイオスの放送により連邦生徒会は見事に手玉に取られている。飛鳥=R=クロイツの過去とは何か、あの不可思議な能力は一体どういった原理であるのか……連邦生徒会長が後釜に据えた大人は『悪人』なのか。
まったくもって今の状況で話すべき内容ではない。そんな事をしている場合ではない。
だが、しかし、ここでリンが飛鳥に肩入れすればそれは大きな隙となり今後の運営に関わりかねないのだ。
それ故に我関せず。事態が収拾するまでの間にできる限りの支援を行い、その後に軌道修正を図る。
(……それも、飛鳥先生が勝てばの話)
何故こんなにも自分は他人事の様に見てしまっているのか。もしも飛鳥が負ければその時どうなるのか、容易く想像できてしまうというのに。
〇
軍団と軍団のぶつかり合いといえば文字通り大混戦である。
そしてその大混戦に巻き込まれるのは当然ながら最前列で旗を振る人間であり、そしてその人間は強く賢く、何より勇気がなければいけない。
この条件に飛鳥=R=クロイツは賢い部分しか当てはまらず、そもそも旗を振るとしてもあまりにも不甲斐ない。というより最前列に立つ柄ではない。
「しまった……! 後方支援に徹するんだった……!」
「もうおせーよ! 行くぞ先生!!」
啖呵を切ってケイオスに戦いを挑んだはいいものの、飛鳥の眼前には大軍勢である。まさか自分が先陣を切るとこんなにも威圧感を覚えるものなのか。彼は今になって後悔の念に襲われながらミレニアムのネルに背中を押されていた。
やるべき事はいたって単純。向かってくる敵を全員殴れば終わりである。単純明快、素晴らしい、無茶である。
だが今の飛鳥は、そんな状況を前にしてちょっとした高揚を胸に抱いていた。
後ろに誰かがいて背中を押してくる。自分を助けに来てくれた生徒達がいる。
その心強さに飛鳥はかつてない程に前へ進む意思を得ていた。かつてない程の自信に思わず拳を握り締め、彼は前方から迫るケイオスへと向き直り―――激突した。
「よーし飛鳥君最終ラウンドと行こう! 泣いても笑ってもここが最後! どっちが立っていられるかな?」
「いい加減、僕に勝たせてください」
そして互いの背後から続いていた両軍も遂に相打つ。切り込み隊長といわんばかりに突撃したネルの飛び蹴りがヴァレンタイン軍団の先頭へと叩き込まれ、そこに『C&C』の残り三人も凄まじい速度で続く。
爆発、銃声、殴打。ミレニアムが誇る最高戦力達は弾丸となって黒い波を貫き切り裂いていた。
「なかなかいい展開だ飛鳥君。よくこれだけの生徒達を集めたね。あの放送が効いたのかな?」
「ええ、まぁその……認めたくはありませんが貴方のいう通り自分をさらけ出してみたんです」
「あ、アビドスでのドライブの時? 成長したね、嬉しいよ!」
舌戦を交わしながら飛鳥とケイオスは互いの攻撃を躱し、防ぎ一進一退の攻防を繰り広げる。
法力による攻撃、銃撃、しかしそのいずれも決定打にはなり得ない。まさに千日手とでもいうべき戦いだが、この状況から前回は飛鳥が押し負ける結果となった。では今回も同じ結末が待っているのかと問われれば、断じて否、である。
「飛鳥君、先に聞いておくけど勝算はあるかい? まさか皆で集まったからなんとかなるとかじゃないよね?」
「……どうでしょう。僕は貴方との戦いは常に行き当たりばったりです。何故なら、いつだって僕にも予想がつかないからだ。たとえば思いも寄らない援軍とか」
「援軍?」
「生憎僕は忙しいので彼に貴方を任せます。積る話もあるようなので」
そこで、ジャラリと鎖の音が戦場に響き渡る。銃声ばかりのキヴォトスでは珍しいとさえいえる武器の音だ。
ジャラリ、ジャラリと鎖が軋み、そしてやがて風を切る音がケイオスへと襲い掛かった。
一瞬にして彼の首に、青い肌に鎖が巻きつけられる。瞬きの合間に現れた乱入者、アクセル=ロウの奇襲が成功したのだ。
「よぉ、こうして現実で話すのは初めてか?」
「ちょっと来るの早くない? 赤い空の下でっていったよね」
「悪ぃな。俺は気が早いんだよ!」
アクセルの得物、鎖鎌が風を切り裂きケイオスを飛鳥から引き剥がすのみならず、勢いそのままに地面へと叩きつける。完璧な不意打ちが成功し、アクセルはガッツポーズを構えながら微笑んだ。
「イェイッ、かましてやったぜ。こいつの相手は一旦俺に任せてアンタはラムレザルのところに向かいな!」
「ありがとう、すぐに戻る」
「あいよぉ!」
飛鳥が背を向けて走り出すと共にアクセルはケイオスに巻き付けた鎖へと更に力を込め、動きを封じようと試みる。しかし拘束した箇所が首だった為に彼の両腕はフリー。その手に握られていた拳銃から放たれた弾は法力によって瞬間移動し、アクセルの顔面へと向けられていた。
「おぉ!? そうくるとは思わなかったぜ」
普通ならば反応しきれない攻撃ながらもアクセルへと届く事はない。何故ならば彼は時間が跳んだかの様に移動し、弾丸が空を切ったからだ。
これまでにもアクセルはこの力を移動手段として用いてきたが、いざ戦闘になれば最早彼を止める術などありはしない。理を捻じ曲げる法力を更に凌駕する『因果律干渉体』としての能力はまさに反則級。飛鳥とほぼ同等とさえいえるだろう。
しかし……常軌を逸しているのはアクセルのみの話ではない。
「参ったな。あのサムライといいニンジャといい、僕の予想を超える状況になってきている。アクセル=ロウ、君は本来まだここにいていい存在じゃないんだ。おかげでアリウスにまで影響が出た」
拘束から抜け出したケイオスは体にまとわりついた埃を手で払いながら立ち上がる。その表情には珍しく笑みがなく、真剣そのものは感情が見て取れる。
対してアクセルも、普段の彼らしくない険しい面持ちへと一変している。
「話は色々聞かせてもらったが、アンタは一体アリウスにどこまで関わっているんだ。あの子達に酷い事をしたのはアンタか?」
「残念だけどそんなに単純な話じゃないよ。僕は相乗りさせてもらっただけ……わかるかい? あくまで僕は都合よく悪者になっただけで本当の敵は別にいるのさ」
「ああそうかよ。でもな……アンタこれまでに何をした?」
「何って」
「一人で苦しんでいる子がいた。悩んで、もがいて……あんな思いをさせたってだけで十分だ。本当も何もない。俺からすりゃ極悪人だ」
アクセルの瞳は炎に燃えていた。それはこの場にはおらずトリニティで帰りを待っている一人の少女を想って燃え盛る怒りの炎である。
「アンタを一発ぶん殴らなきゃ、いや百発はぶん殴らなきゃ気がすまねぇ。覚悟してもらうぜ」
「オーケーオーケー。ヒーローの口上としてこれ程のものはない。来なよ」
鎖鎌が唸る。軌道を予測しづらく、それでいて十分なリーチを持つこの攻撃は戦いのペースをアクセルが容易に掌握できてしまうトリッキーな武器だ。
対するケイオスはといえば、腰に収めてあるもう一丁の拳銃は抜かずに対応を試みていた。
横薙ぎの攻撃。しかし鎖鎌は途中で変え、折り曲がる様にしてタイミングをずらして攻め込む。
これに卓越した銃撃スキルを持っているわけではないにも関わらず、ケイオスの銃弾は未来を予知するかの様に襲いかかるアクセルの攻撃を撃ち落としてみせていた。
「今ちょっと集中してるからいつもより銃撃の冴えいいかもしれない。今度は僕の攻撃だ」
「させっかよ!」
返す刀でケイオスの銃撃がアクセルへと向けられる、直前。鎖鎌は素早く彼の手首を締め上げ、銃口を無理矢理地面へと向ける様に縛り上げていた。
凄まじい速度での対応はアクセルがこれまで何度も銃口を向けられ、命のやり取りをしていた事を証明していた。だが見落としていた点は相手がこれまでのどの相手よりも厄介で、何より常識が通用しないという事にある。
ケイオスは迷いなく地面に向けられているにも関わらず引き金を引き、そして再び銃弾をアクセルへと転移してしまう。これには舌打ちと共に鎖鎌を離し、再び防御せざるを得ない。
「アンタすげぇ厄介な奴だな」
呆れた口調で呟くアクセルに対してケイオスは自慢げに拳銃を構え、不敵に微笑む。
「でしょ? 練習したんだから」
面倒くさい、というのがアクセルが抱いた最初の感想だった。
銃とは狙いすまして発砲すれば確実に人間の命を奪える代物であり、裏を返せば狙いさえ逸らしてしまえばその危険性はほぼ抑え込めるといっても過言ではない。だからこそ鎖鎌という得物をアクセルは好んで使っているし、命を救われた事も数えきれない。
だが銃口と銃弾の軌道に極論繋がりがないという事は銃を封じても何の意味がない証明になる。銃身そのものをダメにすれば話は早いだろうが、果たしてケイオスがそれを許すのか。
「……よし、頭柔らかく行こうじゃないの。常識は投げ捨てていこう」
「スーパーヒーローとヴィランの戦い? いいよ、おいで」
ではアクセルもその真似をする他にない。次元が異なる敵を前にするならば自分自身も次元を移し替えるまでだ。
ふぅ、と息をつき、アクセルは脱力しきった姿勢を取る。自然体そのものな状態から、一瞬にして彼は姿を消した。
ケイオスが弾丸を移動させるならばアクセルは自分自身を跳躍させる方向での攻撃を選んだのだ。攻撃の方向どころかタイミングさえ読めなくさせる、予測不可能な展開がケイオスへと迫る。
「っ、でもそれなら僕にもやりようはあるよ。全部撃てばいいだけだか―――おおっ?」
ケイオスの見立ても誤ってはいない。どこから出てくるのかわからなければ銃口を増やせばいい。
腰のもう一丁の拳銃を抜き、二丁拳銃へと切り替えた上で法力によって作り出した無数の銃口を周囲一帯へと差し向ける。これならばアクセルは攻撃できない、そう思っていた。
しかし彼は容易にケイオスの予想を上回ってみせる。かつて神として降臨した存在の写し身であるアクセル=ロウは既に攻撃を終了していた。
「ワンヴィジョン」
無数の鎖が一瞬にしてケイオスをがんじがらめにする。それは出現の前兆が一切なく、それ故に対応は不可能。
これこそがアクセルの持つ最強の能力。時間を飛び越え、空間を飛び越えられるならば彼は時そのものも操れてしまう。わずか数秒だが世界の時間は停止し、その隙を突いて最強の攻撃を放つ準備を整えてみせたのだ。
「これはなかなか……!」
「勝てるとは思ってないけどサ、時間稼ぎくらいにはなったろ? そんじゃ……鋺烈火ッ!」
導線に火がついたダイナマイトの如く。鎖に縛られたケイオス目掛けてアクセルの炎の法力が炸裂した。
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
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区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
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このままもう少し早く出して欲しい