先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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ペロロ様いいですよね


ファウスト&ペロロ

「カイザーローンをご利用いただき、誠にありがとうございます。それでは」

 

 アビドス対策委員会が汗水垂らして稼いだ金を分厚い装甲車に仕舞い込み、カイザーローンの社員であるロボットは顔を司る液晶画面に喜びの表情を出力する。

 一ヶ月に一度の利息返済日、相手からも、そして飛鳥からも待ち望んでいた日である。対策委員会の面々は皆、ニコニコと社員に笑みを浮かべてその時をじっと待ち構えている。シロコに至ってはよく見ると手に目出し帽が握りしめられていて、危険極まりなかった。

 

「また来月、よろしくお願いしますね」

 

 装甲車が走り出す。それをしっかりと手を振って見送り、一同は一斉に動き出した。

 社員は完全に生徒達を下に見ている。何か不審な動きをしていても気付かない程度には。その隙をつき、飛鳥は装甲車に発信機をひっそりとつけておいたのである。

 そういうわけで装甲車が走り去った直後に全員で生徒会室へと駆け戻り、パソコンを開いて発信機の反応を確かめる。しっかりと機能している様で、アビドスの地図を赤い点がチカチカと光りながら進んでいく。

 

「一体何処へ向かっているんでしょうか。アビドスの学区内から離れていくのは当然ですが、場所によっては……」

「うへ、外交問題になっちゃうね。でも大丈夫だよアヤネちゃん、一応こっちには先生という大きなカードがあるからさ?」

「できれば外交問題は避けてもらえると僕は嬉しいかな……それより装甲車は一体何処へ向かっているんだろう。様々な学区を通過しているけれど、これは尾行を避ける為なのかな」

「やる事いちいちズルいなぁ!ん、待ってこの方向もしかして……」

「あー!もー最悪です!カイザーローンの人達、最低です!」

 

 堰を切ったようにノノミが声を上げる。続いてセリカも同じ様に怒りの炎を瞳に宿され、砕けんばかりに拳を握りしめている。ざっと画面に表示されている学区を見た範囲では、飛鳥にはそこがどういった場所なのか判断がつかない。

 一体どういう事なのか確認するべく、とりあえず詳しそうなホシノへと聞いてみる。

 

「小鳥遊さん、ここは?」

「んー、うへぇー。こりゃ参ったねぇ。先生はまだ知らないみたいだから教えてあげるよ。装甲車が向かっている先は『ブラックマーケット』、全体的に犯罪係数高めのキヴォトスでも特に真っ黒な闇市場だよ」

 

 当たり前の様に銃撃戦を行うのが日常のキヴォトスで闇市場と称される地帯。それだけで尋常ではない危険と直視できない犯罪が渦巻いているのを感じられる。

 しかしホシノは続いて口の端をニヤリと歪めた。飛鳥も顔には出さずとも同じ感情を込めて頷き返す。

 

「今のは悪い報せ、次は良い報せだねぇ。ブラックマーケットにアビドスのお金を載せた車が入り込んでいるって事は、私達の返済した利息が不当に利用されている可能性が一気に高まった。証拠を確実に掴めるよ」

「うん。黒見さんが怒り狂う理由も納得だ。ならすぐに出発する準備をしよう、奥空さんはこれまで通りここで支援を。僕も含めた残りの皆でブラックマーケットへ向かう」

 

 そうと決まれば動きは速い。事前にきっちり準備していたらしい生徒達はいそいそと銃火器と弾薬を持てるだけ持って生徒会室から出て行く。飛鳥はと言えば今日と言う日の為に用意していたドリンクやエナジーバーをバッグに詰め込みまくる。これまでの失敗を踏まえて、体力不足を補う戦略だ。

 一人だけ武器の類いを持たずに食料品で膨らんだバッグを肩にかけて、飛鳥は自信ありげな表情で深く頷いた。

 

「うん。なんていうか、遠足みたいになってきているね」

「うへぇ~、先生、おやつ持っていって良い?」

「僕のエナジーバーだったらいくらでも」

「ん……いざという時の飲み物」

「スポーツドリンクもそれなりに入れてある。欲しい時は言ってくれると嬉しい」

 

 戦闘能力が著しく限定される以上は生徒達の補助に専念する他にない。そういうわけで飛鳥の気合いの入り様はこれまでにないものであり、同時にその様子を見ながらホシノ達はある程度ではあるが結末を予測できていた。

 

「行こう、ブラックマーケットへ」

 

 

「はぁ、はぁ、ちょっと待って欲しい。荷物が、重くて」

「あんだけ食べ物と飲み物入れたら重くなるに決まってるじゃないのよもー!先生、頭良いのに急にコントしないでよね!?」

「いや、これくらいは持てると思っていたんだ。けど、いや、参ったな」

 

 飛鳥以外の全員が予想していた通り、彼は自分が抱える荷物の重さに息を切らし、ブラックマーケットの入口前で崩れ落ちようとしていた。セリカが慌ててバッグを代わりに持ってやると、飛鳥は苦しげに息をしながら弁解を試みるがうまく話せないものでほとんどが呻き声として漏れ出るばかりだ。

 重い、重すぎる。少しでも負担を軽減するべくバッグからスポーツドリンクを一本取り出して勢いよく飲み干す。焼ける様な喉の渇きは満たされたが、疲労は相変わらずだ。

 

「先生、大丈夫ですか?もしも辛かったら休んでいきますけど……」

「心配いらないよ十六夜さん、大丈夫。こうしている間にも時間は過ぎていく。行こう」

 

 助けに来たというのに足を引っ張ったとあっては流石に飛鳥も羞恥心に苛まれる。自らを奮い立たせ、よろよろと覚束ない足取りながらも彼はブラックマーケットへと足を向けて動き出した。

 入口から見えている限りでも明らかに治安が悪い。マスクをつけた不良生徒達が顔をつきあわせて何やら怪しい品々を交換していたり、手に持つ火器の銃身を撫でながら獲物を求めて彷徨う輩もいる。まさに無法地帯と言えよう。

 

「なんというか、逆に安心するな。絵に描いた様な危ないところで。日常の一環として街中で銃声が聞こえるより遙かに落ち着ける」

「ん……先生がキヴォトスに慣れてきた証拠。良かった」

「良かった……良いのかなそれは。常識というものが揺るぎつつある、この感覚に慣れるのは正しいのか?」

 

 果たして逸脱した倫理観に適応してしまうのは良い事なのか、是正した方がよいのではないか。

 飛鳥は口には出さないものの麻痺しつつある自分自身に僅かな恐れを抱きつつも、気を取り直し生徒達を引き連れて足早にブラックマーケットへの扉をくぐっていく。不良生徒達には獲物を品定めするような視線を投げかけられていたが、シロコ達が睨み返してくれるおかげでなんとか守ってもらえた。

 

「奥空さん、反応は?」

『間違いありません、マーケット内にいます。危険も沢山待ち構えていると思うのでくれぐれも注意を!』

「うん、むしゃむしゃ、わかったよアヤネちゃん、もぐもぐ」

『ホシノ先輩?もしかして飛鳥先生が持ってきたエナジーバー食べてます?』

「うん~、口の中の水分が弾け飛ぶけど美味しいねぇ。先生ドリンクもらえる?」

『え、遠足ではありませんからね!?』

 

 マーケット内の治安は確かに悪いが、その代わりとして出回っている品々は合法から違法様々である。飛鳥は通りを歩きながら見た事のない不可思議なアイテムに視線が引き寄せられて仕方がなかった。

 しかし今回の目標はブラックマーケットにやってきている装甲車である。利息金を何処へ持っていき、どうするつもりなのかを確かめなければならない時間との問題だ。キヴォトスの科学力や文化に触れる機会は次回に回し、知的探究心を抑えて飛鳥はアヤネの誘導に従って装甲車を追いかけていく。

 

「先生、今日は学校を空けてきて大丈夫なんでしょうか。昨日の今日で便利屋の方々は来ないと思うのですが、ちょっと不安でして」

 

 道中、ノノミが恐る恐ると言った様子で訪ねてくる。昨日襲撃を仕掛けてきたものの、話し合いの果てに撤退した便利屋が今日も来る可能性は少なくはない。しかし飛鳥はその不安に問題ない、と首肯を返した。

 

「恐らくまだ黒幕は僕達を騙しきっていると思い込んでいると思うから、焦らなくても大丈夫。すぐに襲撃を命じはしないだろう。便利屋にしても、一度僕達が完全な防衛を築けていると見せた以上は下手には動けないはずだ」

「兎にも角にもここでの仕事を片付けない限りは……という事ですね。やる事が多すぎます~☆」

「でも、ちゃんと証拠掴めたら私達の利息なくなったり減ったりする可能性あるんでしょ?これからを見越して考えるなら、やらない手はないわよ」

 

 対策委員会の士気は一気に上がってきている。本当に利息金が怪しい用途に用いられていたのはショックであったが、同時にそれが現状を打開しうるきっかけとなった事で多少なりとも高揚せずにはいられないのだ。

 全員の歩調が僅かに早まる。一刻も早く装甲車を発見し、犯罪の現場を目撃せねばならないのだ。

 なのでいざ進め、と言うところで、

 

「おう待てやトリニティの小娘ぇ!」

「身代金!身代金!トリニティお嬢様身代金!」

「ひぇ、わ、私の事でしょうか。私は見ての通りどこにでもいるペロロ様のファンでして……」

「そんなイカれた顔してるマスコット背負ってる奴なんざまともじゃねえなー!」

 

 道端で見るからに気の弱そうな生徒が不良生徒二人に挟まれて悲鳴を上げている。悪漢に絡まれる無辜の民という表現が似合いそうなほどに、絵に描いた様な光景だ。

 無論、困っている生徒がいるならば助けるのが先生のスタンスである。示し合わせるわけでもなく飛鳥達は現場へと歩いて行き、まず先頭に立つ大人の飛鳥が声をかけてみる事にした。

 

「あの、すみません」

「あ?なんだこのモヤシは」

「小突いたらブチ折れそうだなこの野郎」

「……モヤシ、という表現は確かに的確かもしれない。ではなくて、嫌がっている様ですからその、誘拐はやめておいた方が良いんじゃないかな」

「ああ!?小遣い稼ぎに誘拐する事の何処が悪いってんだモヤシ野郎が~!」

「……全部かな」

 

 やはり倫理観が逸脱している。生徒という存在が銃弾を叩き込まれた程度では大したダメージにならない事は知っているが、そこから誘拐という選択肢が全く悪事として重大なものではない事実に飛鳥は驚愕するほかになかった。

 肝心の誘拐対象生徒はといえばじっとりと助けに現れた飛鳥へ救いを求める視線を投げかけてきている。勿論それに答えるつもりなのだが、一体何をすべきかと言われれば難しい。

 

「ええと、まず誘拐という行為がどれだけ重い罪なのかについて説明しよう。とりあえず人権というものは確かにあるはずなので、誘拐や拉致はその人権を侵害するわけだから……」

「????」

「何言ってんだこいつは……??」

「わかった端的に説明しよう。誘拐は犯罪だからやってはいけないんだ」

「????」

「何言ってんだこいつは……??」

 

 言葉が通じない、恐ろしすぎる。否、言葉は届いているはずなのだ。だが不良生徒にとって誘拐≠犯罪なのだ。咎められる理由がわかっていない。

 

(……言語の問題ではなく、倫理の問題か。なるほど根本的な教育から見直さなければならない。僕が感じていたズレはこれだ)

 

「ん……先生、時間稼ぎありがとう」

「しゅぱっ!」

 

 などと考え込みそうになっていたところで飛鳥の動体視力では少々捉えられない速度で回り込んでいたシロコとノノミの手刀が不良生徒を襲い、あっという間に事態は解決した。流石と言う他になく、飛鳥は発砲沙汰にならずに済んだ事で安堵のため息をついていた。

 じわじわと生徒を助けるのが先生の在り方ならば今こうして地面でのびている不良生徒はカウントされないのだろうかという自問自答が湧くものの、すぐに頭の隅へと追いやり被害者生徒へと意識を変える。

 

「大丈夫だったかい」

「は、はい大丈夫です!助けてくださってありがとうございます。私、トリニティ学園の阿慈谷ヒフミです!」

 

 トリニティ学園。ゲヘナと敵対関係にある三大校の一つ。飛鳥の知り合いで言えば羽川ハスミと守月スズミが在籍している。いわゆるお嬢様が多く通っている学園で、全体的に粗暴なゲヘナと争っているのも頷ける。

 そうしてそんなトリニティの生徒は誘拐の対象としてもってこいの様だ。ヒフミもその例に漏れなかったらしい。

 

「皆さんに助けてもらわなければ、どうなっていた事やら……さらに言えばどんなお礼をすれば良いのやら……!」

「ん……お礼が欲しかったわけじゃない」

「うへ、困ってるなら助けるってもんだよねぇ。ね、先生」

「で、でも何もしないというのも……ああそうだ!」

 

 ヒフミはうんうんと唸った後に背負っていたリュックを地面に下ろすと、何やらゴソゴソと探し始める。お礼は別にいらないよ、と飛鳥が答えるよりも先に彼女は「見つけました!」と声をあげて、ソレを突き出した。

 可愛らしいキャラクターのストラップ、それも今いる対策委員会のメンバー全員分だ。まさか用意していたとは考えられない、恐らくヒフミの私物だろう。

 

「よければこれをどうぞ!」

「でもそれは君の物じゃないか。そこまでしなくても」

「いいえ、私の気が収まりません!はい、このペロロ様ストラップをどうぞ!」

 

 ここまで言われれば受け取るしかない。飛鳥は言われるがままにヒフミからストラップを受け取った。

 目の焦点が合わず、嘴から舌をべろりと覗かせる不気味なキャラクターだ。とても不気味だった。

 

「……」

「ん……これって前にノノミが話していた気がする」

「モモ☆フレンズですね!まさかこんなところでファンに会えるだなんて思っていませんでした~☆」

「モモ、フレンズ?」

 

 飛鳥がぽつりと呟いたところで、ギュッとヒフミが熱視線を送ってくる。先程マーケット入口で獲物を探し求めていた不良生徒のソレに酷似しており、嫌な予感が全身を駆け巡った。

 別に興味はないんだ、などと言うよりも先にヒフミの口から堰を切るように、

 

「もしかしてご存じありませんかモモフレンズを!キヴォトスでも大人気のマスコットキャラクターでそれはもう沢山のグッズが出ているんです。実を言うと私がブラックマーケットへやってきた理由もモモフレでも特に大好きなペロロ様の限定コラボグッズ(限定一〇〇個)が出品されたというウワサを耳にしたからでして……ああペロロ様っていうのは今ちょうどお渡ししたストラップのキャラです。可愛いですよねペロロ様、オススメできますペロロ様。初めての人に向けたペロロスターターエディションから玄人向けのペロロアルティメットエディション、更に全てのファンに向けたペロロデアデビルエディションなんかも出回っていて」

「待って、待って欲しい。情報の洪水は処理するまでに時間がかかる」

 

 友人達と討論していた際にも何度か「少し黙れねぇか」「一旦口を閉じろ」ときつめの口調で止められた記憶が脳裏をよぎる。今彼らの立場に立ってみて初めて何故あそこまで嫌がられたのかを理解し、飛鳥は遠い目でヒフミのマシンガントークを静止していた。

 モモフレンズ、ペロロ、ペロロ、ペロロ。

 ペロロという単語がゲシュタルト崩壊寸前にまで追い込まれている。膨大な情報量が処理できない。

 

「わかった、ペロロがペロロでペロロなんだね」

「そうです!ペロロ様がペロロ様です!」

「ちょっと!?先生大丈夫なのこれ!ホシノ先輩!」

「いやぁ、おじさんには気持ちわかるよ。若い子の流行ってまず名前覚えるまでが大変なんだよね」

『そういう問題なのでしょうかこれは……』

 

 不良生徒の恐怖から解き放たれたせいなのだろう、ヒフミは飛鳥に対して怒涛のペロロマーケティングを迫る。あんまりにも楽しそうに話すものだからシロコ達も割って入る事ができず、解放されるまでにおよそ五分は時間を労した。

 

 

「え、それじゃあ皆さんはカイザーローンに渡したお金が何処へ行ったのかを探していたんですか!?」

「うへぇ〜、飛鳥先生がその辺り見当つけてくれてさ?それで追いかけてみたら……まさか私達の大切なお金が闇銀行に入れられているなんて思いもしなかったよ」

 

 ここで会ったのも何かの縁、という事でヒフミを加えたアビドスの面々が発信機を追いかけて行った先、それはブラックマーケットの中心部から少し離れたブロックに位置する、巨大な銀行であった。

 ブラックマーケットはキヴォトスでも特に淀んだ地域であり、無秩序であるからこそある程度の治安維持をするべく企業が非合法で管理しているという歪な市場であり、その一環としてマネーロンダリングや秘密の金庫を目的として闇銀行が作り出された。

 カイザーローンの装甲車が向かった先、それは恐るべき事にその闇銀行だったのだ。反応がちょうどその辺りで止まり、しばらくして動き出すという挙動からも確かである。

 

「……阿慈谷さん、トリニティではカイザーローンの名前は知れ渡っているのかい?」

「え?ええ、それはもう……ティーパーティーの方でも目を光らせているくらいです」

 

(であれば僕の予測は的中だ。アビドスを狙っているのは間違いなくカイザーコーポレーション……借金を半ば押し付ける形で貸して、廃校に追い込もうとしているのか)

 

 飛鳥の中では大まかにはであるが陰謀の内容が形となって浮かび上がりつつあった。闇銀行で利息に関する記録の様な物が得られれば、社会的制裁の為に必要なパズルは揃うはずだ。

 と、銀行から少し離れた公園で思案していた飛鳥は偵察に行っていたシロコが足早に帰ってきている事に気付き手を振りかえす。妙に自信満々な表情には色々と問い詰めたい事が多いが、今はその時ではない。

 

「ん……先生、ざっくりとだけど警備やら何やら確認してきた。闇銀行と言われるだけあって記録とかは全部オフライン、つまり紙媒体で管理しているみたい。ハッキングは無理」

「その辺りは徹底しているか……。ありがとう砂狼さん、少し休んで。さっき十六夜さんがたい焼きを買ってきたから、食べるといい」

「先生」

「なんだい」

「ごうと──」

「却下だよ」

「ん……」

 

 堅牢な銀行からデータを盗む。そんなシチュエーションでシロコが奮い立たないはずがなく、装甲車の行き先が何処だったのかを知ってすぐに銀行強盗を提案してきた。

 警備、監視カメラの位置、その他諸々はすぐに把握したのでGOサインさえ出してくれれば颯爽と奪ってくる、と本人は主張するが問題はそこではない。飛鳥は仮にも学生が犯罪を犯すという点に関して断固として譲れないものがあったのだ。

 

「いいかい砂狼さん、いくら非合法と言っても犯罪行為は駄目だ。なんとかしてそうせずに済む方法を見つけるから……」

「ん……でも時は一刻を争う。奥深くにまで仕舞われたら無理」

「そうよ先生!これ以外に方法はないってば!それにシロコ先輩の……アレを使えば顔は隠せるし!」

 

 生徒達の言葉に対して飛鳥は大人という立場から否定はするものの、事実他に良い作戦があるかと言われたら代案は出せない。

 最初は魔法を使って銀行内に瞬間移動し、一気に記録を探し出そうかと考えた。しかし具体的に何処に何が置いてあるのか把握せずに向かうのは危険であるし、シャーレの先生がそれをやったともしバレてしまえば問題になる。

 それに比べて生徒であれば、広大なキヴォトスから犯人を見つけ出すのは非常に難しい。何処の誰かさえも最悪ハッキリしないのだから。

 

(……こういう時に胸を張って僕がやる、と言えないのは辛いところだ。フレデリックがいれば、正面から突っ込んでいるのにな)

 

 しばらく考え込む。今この場で得られる最適解は、果たして何であるか。

 そうして飛鳥はふむ、と一拍置いて、

 

「わかった。今回だけ、今回だけ闇銀行への強盗作戦を決行する」

「ん……!」

 

 飛鳥の決断まで動かずにいたシロコ達だが、号令に続いて全員が一斉に動き始めた。目出し帽を被り、銃器のチェックを迅速にこなしていく。一人アビドスの校舎にいるアヤネまで、何やらゴソゴソと身支度を始めた。

 善良ではあるが、やはり彼女達も立派なキヴォトスの住民だ。それを改めて認識しつつ、飛鳥もまた彼女達のサポートをするべく算段を頭の中で組み上げる。

 

「うへぇ〜、先生がやると決まればさあ準備だ。ヒフミちゃんも頑張ろうね」

「え!?はい!?私も!?で、でも顔隠すものとか……」

「はーい!ノノミ、この紙袋をあげますね!はい!」

 

 本来無関係なはずのヒフミにも容赦はない。ホシノとノノミは逃げるという選択肢を与えるよりも先に彼女の頭にたい焼き(ノノミが買ってきたモノ、ちゃんと全員食べた)の袋を被せてしまう。しっかり目の当たりに穴を開けて、即席の目出し帽だ。

 

(……なんだか、ものすごい既視感があるな?)

 

「ひ、ひええ、本当に私も行くんですか!?」

「そうだよ〜。ヒフミちゃんは私達強盗団のリーダー、『ファウスト』。逆らう奴らに必殺の刺激的絶命拳(カンチョー)をお見舞いする恐怖の怪人だよ」

 

(……なんだか、ものすごい聞いた事がある技名だな?)

 

 紙袋、カンチョー。確か元の世界にも同じ様な要素を持ち合わせた人物がいた覚えがある。飛鳥はパッと名前が出てこずに、強盗計画から自然とそちらへシフトしてしまっていた。

 

「そういえば飛鳥先生も顔隠さなきゃね。ここで一人はまずいでしょ。もう一個紙袋持ってくる?」

「そ、それでしたら私、持ってますよ。まさか使う日が来るとは思っていませんでしたが……」

「え?ちょっと待った、それくらいは僕が自分で……阿慈谷さん、僕にそれをつけろって言うのかい?」

 

 紙袋を被ったままでファウスト、もといヒフミがリュックにゴソゴソと手を入れて、何かを引っ張り出した。顔を隠すマスクなど持ち合わせているのだろうか、と疑問に思っていた飛鳥は、次の瞬間思わず目を細めずにはいられなかった。

 マスクといえばマスクである。首から上をすっぽり覆えてしまう被り物、しかもペロロを模している。

 

「ペロロ様の被り物です。以前トリニティのオークションでなんとかして手に入れた物なんですが……折角なので、飛鳥先生被ってみてもらえませんか!」

「……拒否権は、ないんだろうな。でも良いのかい、大切な物だろう」

「良いんです。むしろ隣にペロロ様がいると思えば、ちょっとくらいは怖くないと思うので」

 

 話している限りではペロロが大好きすぎる普通の生徒かと思っていたが、会話していく毎に段々とその認識が『キヴォトスの住民』へと置き換わっていく。思えばグッズ目当てにマーケットへやってきているところからおかしいと気付くべきだったのだ。

 拒絶しようにもそういう空気ではない。飛鳥はため息と共にペロロマスクを受け取り、ゆっくりと被った。

 視界は一応確保されている。動く分にも問題はないだろう。と、ヒフミに顔を向けたところで彼女は心から嬉しそうに目を輝かせていた。

 

「わぁ……ペロロ様です!飛鳥先生、似合ってます!」

「先生、似合ってるね。じゃあ今からコードネームは『レイヴン』で行こうか。名前そのままだとペロロに悪いしね」

 

(すまない……こんなシチュエーションになるだなんて全く予想していなかったよ。次に会う時があれば、埋め合わせをさせて欲しい)

 

 親しい友人の名を借りて強盗に行く日が来るなどとは思っておらず、飛鳥は内心で彼に対して深い謝罪の言葉を呟く。

 ともあれこれで全員の変装が終了した。ヒフミと飛鳥を除いた全員がお揃いの目出し帽を被った姿は、何処に出しても恥ずかしい立派な強盗である。

 

「よし、じゃあ作戦をおさらいしよっか。警備に関してはシロコちゃんが把握している。まず最初に建物の電気を落として警報装置を解除、そこから一気に制圧しちゃうよ。それでさ先生……先生とヒフミちゃんには皆の気を惹いてもらいたいんだよね」

「気を惹く……?」

「電気が消えた瞬間にヒフミちゃんを連れてパッとテレポートして、銀行員達をパニックにさせる。そこに私達が突っ込む!意表をつき、動揺を誘うって寸法だよ」

「え、ええ……私、そんなの無理ですよ」

「大丈夫!飛鳥先生がそれっぽい事言っている間にヒフミちゃんはリーダーらしく胸を張っていれば良いから!もしくは適当な銀行員に刺激的絶命拳ね」

「ひええ……飛鳥先生、良いんでしょうかこんな方法で」

「まあ、まあ、意表をつくと言うのは間違いではないかな。でも小鳥遊さんの言う通り、君は無理せず立っているだけで大丈夫だよ。僕がやるから」

「……わかりました。ペロロ様に見つめられながら言われたら、頑張るしかありません!あれ、そもそもテレポートって何の話を」

 

「よっし!皆配置について、先生お願い!」

 

 有無を言わさずホシノが号令をかけた。時間との戦いになる、これ以上の説明は必要ない。シロコを筆頭に生徒達は一斉に動き出し、襲撃の為に散り散りになっていく。

 陽動を任されてしまった飛鳥は『本』を取り出すとヒフミへと申し訳程度に声色を高くした。

 

「阿慈谷さん、巻き込んでしまって申し訳ないね。できれば息を止めておいた方が良い、多分びっくりするだろうから」

『飛鳥先生、いえ、レイヴン!停電まで残り五、四、三、二、一……今です!」

「え?先生、その本は一体何処から──」

 

 一瞬。飛鳥は法術を起動させるとヒフミと共に瞬間移動するのだった。

 




ペロロ様いいですよね
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