先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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思っていたよりもずっと簡潔だったな

 陸八魔アルは必ずや自分達を雇い、アビドスへの襲撃を命じた謎のクライアントが何者なのかを突き止めてやろうと決意した。元より手付け金は受け取っておらず、ある程度は自由に動ける様にしていたのが功を奏したのだ。

 アウトロー的に言うならば『不誠実なのは気に入らない』である。顔を見せないのは良いが、ロクに目標の情報も与えずにやる事が一方的な地上げなど面白みが無いにも程があるのだ。それ故にアルはクライアントからの命令に従うフリをしながらも、水面下では不敵に動いてやろうという計画を立てた。立てはした。

 

「陸八魔様、融資の件なのですがちょっと無理ですねこれ」

「えっっっっ!!」

 

 計画をいくら立てようが実行に足る資金が無ければただの妄想でしかない。しかし口座をとっくの昔に凍結されているアルが頼った先はブラックマーケットの闇銀行であり、そして無残にも彼女は身一つからでも口座を作ってくれるとウワサの闇銀行からも軽く融資を拒絶されたのである。

 驚愕に目を見開くアルの隣でカヨコはまぁ知っていたと言わんばかりにため息をつき、

 

「しょうがないよ。多分私が同じ立場でも融資断ってる」

「え、や、でも……!」

「あのですね陸八魔様、我々も融資の相手は選ぶんです。その……貴女の全てが火の車でして、そんな火の車にわざわざ貴重な藁を投げ込みたくないと言いますか」

「便利屋稼業自体、割と破綻中だし……」

「カヨコ!?貴女、味方なのか敵なのかハッキリしてちょうだい!」

「気持ちは味方だけど、それはそれとして『でしょうね』っていう感じなんだよアル……」

「ひぃぃん!?そんな本当の真顔で言うのやめて~!」

 

 融資、不可。

 便利屋68経営破綻。アルの脳裏には路頭に迷う年若き少女四人の姿がよぎり、持ち前の責任感がギシギシと彼女を苛み始めようとしていた。

 カヨコ、ムツキ、ハルカの三人はアルのアウトローを目指すという夢についてきてくれたまさに親友なのだ。そんな彼女達を自分のミスで苦しませたくはない。アルは苦笑いを液晶画面に表示させる銀行員ロボをじっと見つめながら、今ここでこれでもかというほど弾丸をばらまいてやろうかという衝動に駆られ始めていた。銀行強盗をしてやろうというのだ。

 

(……アウトローなら、銀行強盗の一つや二つ華麗にしてやるべきよ!それに本当の敵はクライアントなわけで、これは前哨戦としてなら!)

 

 とはいえ、残念ながらアルにはそれほどの度胸は無い。何故ならば基本的に小心者であり余裕げな表情の裏ではいつも白目を剥きかけている事などザラだ。嫌いな人間を前にしてどれだけ苦しめてやろうかと脳内で妄想するソレに酷似しているのだ。

 

「アルちゃんアルちゃん、GOサイン出してくれたらすぐに私達動けるからね。いつでも良いよ!」

「万ですか、億ですか、兆ですかアル様……囮なら私が行きます」

「ハルカは絶対に動かないで、お願いだから……」

 

 既にムツキとハルカは意を汲んで臨戦態勢である。が、肝心のアルはそんな事をすればどうなるかなど簡単に予想できてしまう。裏の社会で下手に暴れて顔と名前が知れ渡れば、何処にも居場所がなくなってしまう。

 想像するだけでも恐ろしいが、しかしアウトローとはそうした危険を敢えて踏み抜いていくものに違いないという確信もアルを追い込んでいた。

 飛鳥=R=クロイツは彼女の事を冷徹極まる性格だと勘違いしているが、陸八魔アルとはアウトローを目指す小心者であり、大それた野望を具体的に持っているわけではない。憧れに突き動かされて身一つで動き回る、ある意味夢見がちな少女でしかないのだ。

 

「陸八魔様?あの、他のお客様がお待ちですのでお引き取りを……」

「ぬ、ぬぬぬ!」

 

 と、その時、突然銀行全体がバチン、という音と共に真っ暗になった。停電だ。まるでアルの未来を暗示するかの様な暗転である。

 

「なんだ!?」

「停電!?」

 

 しばらくアルの周囲をバタバタと銀行員達が駆け回る音が聞こえ、またバチンという音に続いて電力が復旧したのか消えていた照明が一斉に点灯した。

 不思議と停電が解決すると安堵の気持ちが湧いてくる。アルはホッとため息をついて、そしていつの間にか目線の先、銀行ロビーの中心部に見慣れない二人組が出現している事に気付いた。

 背が低い生徒らしき人物は紙袋を被り、背が高い大人と思わしき人物は不気味な鳥の被り物を身につけている。

 

「え!」

 

 思わずそんな声が出てしまう。間違いなく停電する前までは影も形もなかった怪人を目にすれば、誰でも同じ反応を取ってしまうだろう。

 停電から復旧まで十秒ほど、その一瞬であの二人は銀行の中心に現れたのだ。

 

(何アレ……いや、どっちもおかしいんだけど特にあの鳥頭の方!キモい、凄いキモい!)

 

「な、なんだお前達は!?」

「いつからそこに!!」

 

 アルの素っ頓狂な声に続いて、銀行員達も怪人の存在に気付き、似た様な驚きの声をあげる。しばらくすれば警備員がやってきて瞬く間に二人を取り囲み制圧する事だろう。

 だがまさか驚かせる為だけにやってきたはずがない。アルはアウトローとしての勘をフルに活用し、仲間達に振り返った。以前見た映画のワンシーンにちょうど今の状況に近いものがあった。となれば次の展開も予想できる。

 

「皆、ちょっと伏せておくわよ。なんか嫌な予感するの」

「社長がこう言い出すって事は、まぁ当たるかな……」

 

 銀行員達の注意が逸れている間に便利屋一同はそそくさと近くのテーブルへと駆け寄り、しゃがみ込んだ。

 

「あ――――ええと」

 

 鳥頭怪人がまっすぐに手を挙げる。その第一声に注目し、視線を集中させる。地の底から響く様な低い声だ。映画に出てくるザ・悪役な声色にアルは笑みが漏れそうになり、口元を抑えた。

 

「私はレイヴン、隣にいるのはファウスト。君達に警告をするべくやってきた。全員頭を抑えて、床に寝転がった方が良い」

「そ、そうですよ。怪我するから、アレですよ!」

「下手に抵抗した場合の負傷や金銭的被害について私達は一切保証できない。あしからず。それと私達への攻撃もやめておくべきだ。特に私は不死身だし、ファウストに至っては君達の穴という穴に刺激的絶命拳をお見舞いするだろう」

「そ、そうですよ!え?すみません、今なんて―――」

「ファウスト、もう時間だ」

 

 鳥頭怪人、レイヴンは落ち着き払った声でそう言うと人差し指を口元に当てる。『静かに』という事だ。

 

「な、なんだこいつらは!?おい、早く警備員を―――」

 

 レイヴンの警告を気にもせずに銀行員の一人が叫ぶ。既に何が起きるかざっくりと見越していたアルは「そろそろ来るぞ!」と身構えた。

 予感は的中し、轟音が銀行の入口から鳴り響いた。爆弾を用いてまず逃走経路を確かなものとして、更に音によって室内の人間がパニックを引き起こす様に誘導するのだ。

 

(ま、間違いないわ!銀行強盗が来たのよ!それもキヴォトスでも名の知れたブラックマーケットの闇銀行を狙って!これが本当の、プロの犯行って奴ね!?)

 

「手を挙げて!さもなきゃ撃つ!」

「撃ちますよ~!撃ちますよ~!ほら撃ちますよ~!あ、本当に弾出ちゃいましたすみません☆」

 

 怒号と銃声が響き渡る。そろそろ良いだろうとアルが顔をあげると、覆面をつけた少女が四名、全員が銃器を手にして銀行内へと足を踏み入れていた。

 一人がテキパキとした動きで窓口へと駆け込むと銃口を突きつけて銀行員を脅し、残りの三人は残りの者達が下手な動きなどしないかと見張っている。こうした荒事に慣れているとしか言えない。

 

「ななななな、なんですかあれ」

「すっご~!」

「間違いない。プロよ、プロが来たんだわ。さっきの二人は陽動で、残りの奴らは実働隊。時間差で攻めてきたワケね!」

「アル、興奮しすぎ。一応ヘンな動きしたら私ら撃たれるからね?」

「で、でもでも、プロの犯行を見て覚えておかないと……」

「そこに誰かいるのか?」

 

 興奮気味なアルが早口で捲し立てていたところで、低い声に会話が打ち切られる。ギョッとして顔をあげると、そこにはレイヴンが佇み彼女とその仲間をじっと見下ろしていた。

 焦点の合っていない瞳と垂れ下がった舌、怪人と呼ぶほかに無いその威圧感に悲鳴さえあげられない。アルはただレイヴンを見上げた。銀行強盗が目障りな相手を見つけた時の脅し文句は大抵が「黙ってろ!」「殺されたいのか!」あたりだが、レイヴンはしばらく言葉に詰まらせた後に、

 

「……陸八魔アル?どうしてここに」

「は、はわわわわ……へ?」

 

 思わぬ言葉を彼は漏らした。アルはレイヴンが何者かなど知らない、銀行強盗の一員である以外何もだ。だが相手は顔とフルネームを知っている。これが意味するところはつまり、

 

(どうして私の名前を……!?も、もしかしてプロにも便利屋68の名前は知れ渡っている感じ!?)

 

 アルはそれ以外の答えを知らなかった。きっと自分のアウトローとしての名が界隈に浸透を始めているに違いないと。いくら依頼をド派手にしくじろうとも便利屋68を続けられる理由はこの前向きさにあると知っているのはアル本人を除いた便利屋の社員全員である。

 

「あ、あの、そう、です」

「なるほど……動かない方が良い。私達の仲間だと疑われる。それじゃあ」

「は、はいぃ!」

 

 レイヴンはそれだけ言うと踵を返して何やら叫んでいる仲間達の元へと向かっていく。アルはその背中を見送りながら、心中でガッツポーズを取っていた。できる事なら全力で喜びを表現してやりたいと思ったが、言われた通りに目立たない様にするべきだ。

 

「カヨコ……!聞いてたわよね、私認知されてるみたいよ!」

「……というかあの人、何処かで見た様な?」

 

 覆面強盗団の手際はまさにプロと言う他に無い。誰一人として動けない様に注意深く牽制し、目的の金は迅速にバッグへと詰め込ませていく。迅速な動きながら、随所に余裕も感じられる。どうやら警備員がやってくるまでの間隔まで計算済みの様だ。

 アルの憧れる全てがそこにあった。できる事ならば自分もああなりたい、そう強く願ってしまう程に。

 

「ん……!ブツは手に入れた。撤収する!」

「警備員が来るわよ!ほらほら!」

「うへぇ~、たまには良いもんだねこういうのも」

 

 手早く目的を達成した強盗団は撤退まで素早い。全員が足早に爆破したおかげでバックリと開いている入口から去っていく。不気味な紙袋怪人ファウストもそそくさとそこへ続いていき、最後にレイヴンが信じられないくらいゆったりとしたスピードで走って行く。

 去り際まで手慣れている、流石プロだ。とアルが最後まで見届けようとしたところで、

 

「く、くそ~!逃がすものか~!」

 

 つい先程まで銃を突きつけられ、両手をあげて引きつった表情を液晶に浮かべていた銀行員の一人が懐から拳銃を取り出している姿をアルは目撃した。液晶には怒りマークが表示され、突きつけられた銃口は無防備そのものとしか言えないレイヴンの背中へと向けられていた。

 レイヴンは自分を不死身だと嘯いていたが、それがハッタリであろうと何だろうとアルには関係が無い。目の前で憧れのアウトローに狼藉を働こうなど許せない。たとえ彼を助けて仲間と思われようとも、関係無いとさえ決断出来た。

 

「え、ええと……あ!」

 

 何か無いか、とアルが床一面を見たところで見つけたのは床に放り投げられているペン立てだ。これしかない、と咄嗟に鷲づかみにして彼女は勢いそのままに拳銃を構える銀行員へと全力投球していた。

 

「ええーい!!」

 

 ペン立ては空中でクルクルと回転しながらまっすぐに飛んでいき、狙い通りに銀行員の頭部へと直撃した。

 

「ほぎゃ!?」

「やった!」

「いや、やっちゃ駄目だってばアル!」

「うは~!アルちゃんたまんなーい!」

「アル様……!かっこいいです!」

 

 やってしまった、が、やってしまった事は仕方が無い。レイヴンを助けられた喜びが満足感となってアルを包み、そして即座に「ブラックマーケットの銀行員をやってしまった」という恐ろしい事実が背筋をぞわぞわと這い上がっていく。

 そこからの判断は覆面強盗団ばりに速い。アルは顔が見られたかそうでないかも確認せずに、一目散にレイヴンの後を追いかけて銀行の入口へと走り出した。

 

「に、逃げるのよぉぉぉぉ~~!!」

「やっっっぱりこうなるのか……!」

「あははは~!やっぱりやるならこうだよね-!」

 

 

 シロコ立案、全員実行による銀行強盗は無事に成功を収めた。顔は見られておらず、更に言えば敵味方問わずに被害者ゼロ。まさに完璧な作戦であったいう他に無い。

 大通りを避けて裏路地へ、できる限り人気の少ないところを選んで飛鳥とヒフミは駆け込んでいく。

 

「ぶ、無事成功したみたいですね。飛鳥先生!」

「正直僕は、砂狼さんの手際の良さに少しびっくりしているよ。まさか本気で今日の為に備えていたとは」

 

 飛鳥はヒフミと話しながら、喉の辺りを抑えて声色を確かめる。銀行内では途中まで法術を用いて声を変化させていた。イメージしていたのは成人を超えて老人の肉体に近かった頃の声色である。制限時間を過ぎてからは努力して声を低くしていたが、何かおかしくなっていないかと不安でならなかった。

 ヒフミは実行前まではあんなに怖がっていたのだが、今は心なしか落ち着いている。紙袋の奥でキラキラと達成感に満ちた瞳が輝いていた。

 

「これで利息に関する証拠も手に入りましたし、皆さんの問題は解決するんでしょうか?」

「少なくともこちらから一歩近付いたのは確かだと思う。ともかく、まずは落ち着けるところまで向かおう。皆、緊張がほぐれている頃だと思うしね」

 

 ともかく作戦は成功である。後はシロコ達と合流するだけだが、そこで飛鳥は後方から聞こえてくる足音に気付いた。

 バタバタと忙しない。もう追っ手がやってきたのかと飛鳥が振り返ると、思わぬ顔ぶれがそこにいた。

 

「……ん?」

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ、やっと追いついた!追いついたわよ、レイヴン!」

 

 誰かと思えば、アルとその仲間達だ。後をつけられていたのだ。レイヴン、と呼ぶあたり恐らく正体はばれていないはずだが、それでも飛鳥は平静を装いつつ息を切らすアルを観察する。

 飛鳥を見つめるアルの目はキラキラとしていた。それが憧れの色であると、彼にはすぐにわかった。

 

(……銀行で会った時は一体どうしたのかと思ったが、どうやら彼女達はただあの場にいただけの様だ。それにしても何故追いかけてきたんだ?まったく読めないぞ)

「私達に何か用かな?」

 

 できる限り声色を低くし、レイヴンとして飛鳥はアルへと問いかけた。それに対して喰い気味に、

 

「すっっっごかったわ!さっきの強盗、惚れ惚れしちゃった……仲間は何処?レイヴンだけ?残念だわ!ホントに!」

 

 アルがそれはもう楽しげに話す背後では仲間達が苦笑いに近い表情でボスの様子を窺っている。その面持ちからして、恐らくアル以外の全員が強盗団の正体が何者かを認識している様だ。

 つまるところ陸八魔アルだけは、覆面の裏側について何も知らないわけである。

 便利屋の一人、カヨコと目が合う。切れ長の瞳が僅かに揺れて、小さくウィンクした。『合わせて欲しい』という意味だろう。

 

「凄いわ、本物のアウトロー!たまらない!」

「あ、アウトローか、なるほど。ええと、ファウスト。君は先に合流しておいて欲しい。私は彼女と話すよ」

「良いんですか?」

「ちょっと、話すだけだ」

 

 ヒフミは逡巡の後、飛鳥がしっかりと頷き返すと唇をきゅっと結んで走って行った。彼女が少しおかしなところこそあれど真面目な少女なのは少し話しただけでわかる。しばらくしたらシロコ達を連れて戻ってくるかもしれない。

 今は、目を輝かせるアルの相手をしよう。飛鳥はペロロのマスクを被ったままで彼女へと顔を向けた。

 

「それで、陸八魔アル。わざわざ追いかけてきたんだ。まさか感想を言うだけではあるまい」

「どこで私の事を知ったの!?私、そんなに有名!?」

「……私はレイヴン、カラスだ。情報収集に長けているんだよ。君が最近アビドスで仕事をしている事も、知っている」

「は、はぅわ……」

 

 飛鳥はどういうわけか、役を演じている時だけは躊躇いというものがなかった。性分として、あまり自分というものを出さずに済むせいなのだろう。興奮するアルに対して飛鳥はレイヴンとしての会話を試みていた。

 

「本当に、感想が言いたかったのよ。私、貴方達みたいなアウトローを目指しているの。いつかはキヴォトス一番になりたいんだけど、全然上手くいかなくて……でも、改めて私の夢がどんな存在なのかを認識できた!って」

 

 違和感は以前からあったが、話に聞いていたよりも便利屋68は危険ではないのではないかという疑惑がいよいよ確信に至ろうとしていた。

 話し合いの際にもちらほらとアルは慌てていたり、顔色を曇らせる事があった。無闇に攻撃を仕掛けるわけでもなく、あっさりと引き下がるおとなしさも見せた。そして今、レイヴンの正体が飛鳥だと気付かぬままに心の底から喜びを発露させている姿だ。

 

(……人から見聞きした情報を鵜呑みにするのは誤りだな。僕とした事が、性急だった様だ)

 

 舌を噛みそうな勢いで話すアルを前にして飛鳥は自らが先入観を持って接してしまっていた事を素直に恥じて、それから純粋な質問をするべく咳払いをする。

 

「陸八魔アル、君はどうしてアウトローになりたいんだ?」

 

 飛鳥の抱く疑問、それはキヴォトス全体に存在する犯罪行為に対して著しく低い倫理観についてだ。アルにしても目を輝かせながらアウトロー、要するに荒くれ者への夢を語っている。

 手慣れた銃器の扱い、暴力行為への忌避感の無さ。元の世界でもここまでの歪な社会が敷かれている事などなかった。

 それ故に尋ねたいのだ。アルがどうしてそこまでアウトローを目指すのか。

 

「え、だってそれは……カッコイイじゃない?」

「――――思っていたよりも、ずっと簡潔だったな」

 

 飛鳥はこめかみに手を当てて、アルの言葉を反芻する。

 

「カッコイイ、か。本当にそれだけなのかい」

「う、うん……」

 

 屈託の無い瞳が飛鳥を射貫く。本気の言葉であるのは疑えない。逆に、疑えてしまえばありがたいとさえ思うほどに淀みの無い瞳だった。

 陸八魔アルが便利屋という立ち位置にあり、そしてキヴォトスを生きる理由は「アウトローがカッコイイので憧れている」である。

 

(……なんて事だ、こんなの想像できるはずがない。想像力がないとかそれ以前だ。参ったぞ)

 

「レイヴン?どうしたの?」

「なんでもない。……陸八魔アル、君は今の在り方を気に入っているのかな。つまりその、アウトローを目指す事を」

「勿論よ!だって、私の夢なんだもん!レイヴン達に元気も貰っちゃった!」

 

 ニンマリとアルが笑う。それに対して便利屋の仲間達は同じ様に笑みを浮かべた。 

 その光景に飛鳥は見覚えがある。ついさっきまで共に行動していた、アビドス対策委員会の面々である。

 そこでようやく、合点がいった。飛鳥は被り物の内側でハッとして、

 

「ありがとう、陸八魔アル。君のおかげで一歩前進できた。僕も学ぶ事があったというワケだ」

「ホント?ホントに?そ、そんなぁ……うふふ、えへへ」

 

 飛鳥は何かを理解して頷き、アルはよくわからないが自慢げに胸を張る。後者に関してはまず自分が話している相手が何者なのかまったく理解していない。

 

「ん……せん、レイヴン。迎えに来たよ」

 

 会話が一段落したところで、ヒフミの案内のもとで覆面を被ったままのシロコ達が迎えにやってきた。強盗団が登場した事でアルが感激して息を呑む中、赤い覆面のセリカが重たそうにボストンバッグを抱えて飛鳥へと近付いてくる。

 確か闇銀行から奪うのはカイザーローンが集めた利息について記された書類のはずなのだが、一体ボストンバッグの中身は何なのか。

 

「……これ、中身見てよ」

「ん?」

 

 セリカに言われた通りバッグのファスナーを開けて中身を検めれば、中にはぎっしりと札束が詰め込まれていた。

 

「これは一体、どういう事なんだい?」

「銀行員が勝手に詰めちゃったらしいのよ。で、ホシノ先輩から何処かに捨てようって提案されたの」

 

 口を尖らせてセリカは桃色の覆面姿のホシノを顎でしゃくる。どうやら飛鳥のいない間にちょっとした一悶着があったのだろう。

 わざわざ中身を見せたのは大人に対して意見を求める為なのだと判断し、飛鳥はしばらく口をつぐむ。そうして、何か思い立ってセリカからバッグを受け取ると踵を返してアルの元へと向かった。

 

「陸八魔アル。君がアウトローに憧れているのはよくわかった。そんな君に私から一つ、依頼を頼みたい。ちょっとしたお遣いだ」

「お遣い!私に?そんな、一体……」

「このバッグの中身、私達には不要な物なんだ。君達にこの処理を頼みたい、良いね?」

「~~~っ!わ、わかったわ!!その依頼、受けようじゃないの~!」

 

 アルは中身を検める事もせずに飛鳥から受け取ったバッグを両腕で抱えて、喜びに破顔した。やはり彼女に悪意というものは存在しない。良くも悪くも純粋すぎる。

 そんなアルが、飛鳥に大切な事を教えてくれた。それ故にバッグを渡すのだ。

 

「では、頼むよ便利屋68」

「ま、任せなさい!うふふ、あはははー!!」

 

 高笑いするアルに背中を向けて、満足げに飛鳥はシロコ達へと合流すると、アビドスへの帰路につく。

 

「先生、良いの?アイツらに渡しちゃって」

「黒見さん達はもうどうするかについては話し合ったんだろう。それなら僕は、ああするまでだ。陸八魔さんは、恐らくあの金を悪用しないだろうし」

「ん……書類の方はしっかりある。本来の目的はコンプリートしてる」

「お金もまぁ、困っている人達に渡した事にしましょう☆」

 

 そこで飛鳥は便利屋68が対策委員会へ接触したのは柴関ラーメンで、しかもその時に困窮していたという旨の話をしていた事を思い出した。今思えば、それも真実なのだろう。

 

(……これは僕なりの謝罪だ。間違ってはいない、と思う。多分)

 

「ひええええええええ!!!!な、何よこのお金ええええええええええ!!!!!」

 

 絶叫は、遅れて聞こえてくるのだった。




ようやくアビドス編も中盤になって参りました。原作を尊重して、でもほどほどに改変してぇ~~なんて思いながら書いておりますが、ほどほどにできず原作をなぞりすぎていて悔しい!
どうしても原作沿いでやりたいシーンが多いものでして!!
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