先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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書きながらこれだいぶぐだってるけどいいのか……?と思いながら書いております
シュッと評価が飛んでくると俺は騙されてるのか……?と思ったりもします


悪い大人

 階段を上がり、薄暗い廊下を進み、幾つもの空き部屋を通り抜け、唯一使われているオフィスに辿り着く。

 ノックをしようと手を添えると、室内から来客を見越していたのか、

 

「どうぞ、入ってください」

 

 その声に従って、飛鳥はドアノブを捻って部屋へと足を踏み入れた。

 『男』のオフィスは生活感というものが一切感じられず、不気味な雰囲気を漂わせている。

 最奥の窓際にテーブルを構え、『男』は飛鳥へと微笑みかけてくる。

 

「初めまして、飛鳥=R=クロイツ。ハッピーケイオスから貴方の事は聞いていますよ」

「僕も、ケイオスから貴方について少しだけ聞いています。まさか、黒幕だと思っていたカイザーの更に背後で暗躍しているとは予想していませんでしたが」

 

 ホシノをカイザーコーポレーションへと勧誘するべく何度も接触を図り、その都度借金を肩代わりしようと囁いていた謎の人物。それこそが飛鳥の前にいる『男』である。

 真っ黒なスーツに爛々と光る目、見慣れない容姿が数多くあるキヴォトスにおいて彼は異様と呼ぶのが相応しい。まさに異物だ。

 

「わざわざ貴方からお越しになったのですから、コーヒーの一つや二つでも出すべきなのでしょうが、いやはや申し訳ない」

「長居する気はありませんから結構です」

「それは残念。見たところ大変焦っている様ですが……申し訳ありません、小鳥遊ホシノであればつい先程カイザーコーポレーションの社員達に移送されましたよ」

 

 飛鳥は何も言わず、口惜しげな視線を向けるばかりだ。

 

「それよりも私は貴方と建設的な話がしたいのです、飛鳥先生。ケイオスから色々な話を聞きました。たとえば貴方が我々と同じ様にキヴォトスの外よりやってきている事、そして……一冊の『本』を持っている事」

「我々?貴方以外にも仲間が?」

「ゲマトリア、それが組織の名前です。そして私は『黒服』、と呼んでいただきたい」

「では、黒服。僕は貴方とも、貴方の仲間とも交流する気は無いと伝えておきます」

 

 黒服と名乗る男は、わからないと言う様に首を傾げた。心の底から疑問を抱いている様子だ。

 ケイオスが関わりを持つ理由が、言葉を交わす程度で理解できる。黒服は少なくとも飛鳥が好んで接触する存在では無い。

 

「私は貴方と敵対したくないのですよ飛鳥先生。貴方が優れた研究者であり、また真理の探究者である事は聞いています。実に興味深く、捨てがたい逸材と言えます。共に、このキヴォトスに潜む真理と神秘を探究し尽くしたい」

「断る」

「ふぅ……アビドスへの搾取が気になりますか?アレは何も珍しいことではありません。ただ災害に襲われ、どうしようもない彼女達にほんの少し手を添えたに過ぎません。ですが、約束は守るつもりです。小鳥遊ホシノが私の手中に収まった以上、契約を履行してアビドスは保護しますよ」

「そもそも貴方の干渉を指一本たりとも僕達は受けたくない、と言っておきます。小鳥遊さんに関しても同様に」

 

 そこで、黒服はくつくつと笑い出す。クレパスじみた深い笑みを作り、飛鳥をせせら笑う。

 

「貴方にその権利が?小鳥遊ホシノは正式な契約を以てアビドスを抜けました。いくらシャーレと言えど、そんな彼女をどうする事も……」

「そうでもない。むしろ、貴方にこそ権利はないのだから」

「なんですって?どういう意味です」

「それは───」

 

 数分、飛鳥は黒服に要件を話した。機械の様に、すらすらと。

 黒服はまた首を傾げ、それからまた笑い出した。

 

「先生、やはり貴方はゲマトリアと共に在るべきだ。そのやり方は、限りなく『悪い大人』です」

「僕は自分を善人だと思った事など一度もない。的外れな指摘だと断言しておこう」

「ふむ、何故そこまでアビドスに肩入れするのでしょうか。彼女達はこのキヴォトスに蔓延る無数の搾取、その一つに過ぎません」

「僕が先生、大人だからではダメなのか?」

「大人とはその様な都合の良いものではありませんよ。もっと現実的で、邪悪で、傲慢なものです。それとも、大人の定義について議論しますか?その時はコーヒーを淹れますが」

「それも遠慮しておこう。これ以上の議論は無意味だ」

 

 平行線、という言葉が相応しい。飛鳥も黒服も互いに決して自分の意見を曲げようとしない。今にもどちらかが拳銃を突きつけるのではないかという剣呑な空気が漂い始めていた。

 

「……まあ、良いでしょう。これ以上貴方と争う事に生産性は見出せません。飛鳥先生、今回は私から引き下がるとしましょう」

「なら、これで話は終わりだ。金輪際アビドスには近寄らないでほしい」

「貴方が睨んでいるのならばできませんよ、やぶ蛇というものです」

 

 会話を打ち切ると、飛鳥は黒服に背を向けて早足で歩いていく。と、唐突に彼は足を止め、踵を返して振り返った。

 

「どうして、僕がアビドスに肩入れするのかと聞いたけど……理由を教えてあげよう」

「……?」

「僕は────」

 

 

 アビドス市街地を大軍勢が進む。一糸乱れず、隊列も崩さないカイザーPMCの兵士達が向かう先は、アビドス高等学校の校舎だ。

 先陣を切る男の外見はロボットで、大柄なボディにピッタリとしたスーツを纏っている。見るからに上層部の役職に就いている事がわかる。

 アビドスの生徒会、その最後の役員だった小鳥遊ホシノは男の協力者からの誘いを受け、自らカイザーPMCへと足を運んできた。学校を自主退学したのだ。これにより男が、カイザーが何年も時間をかけて続けてきた計画が遂に実ろうとしている。

 

「カイザーPMC、そこで足を止めてください」

 

 何者も歩みを止めない、止められない。そんな威圧感を放ちながら我が物顔で進む軍勢の前に立ち塞がる、青年が一人。飛鳥だ。

 男が合図をすると共に、兵士達は一斉に足を止め、踵を合わせる。ダンッと重ね合わされた音が大気を震わせた。

 

「なんだ?お前は」

「僕は飛鳥=R=クロイツ。シャーレの先生です」

「シャーレ、連邦生徒会の妙な組織だったか。なるほど、小娘共の動きが妙だったのはそのせいか。ではこちらも自己紹介をしなければな。私はカイザーPMC理事だ。で?何の様だ、シャーレの先生」

「アビドスからの立ち退きを要求します。一体、誰の許可を得てこの様な暴挙に至っているのでしょう」

 

 飛鳥の問いかけに対して、理事は悩ましげにかぶりを振った。

 

「知らない様だな。ならば教えてやろう、小鳥遊ホシノは──」

「小鳥遊ホシノはアビドス生徒会最後の役員。だから彼女が自ら地位を捨てた事により、アビドスは正式な組織を失い丸裸になった。それ故に自治区のほとんどを所有しているカイザーが校舎を差し押さえる、ですか?」

 

 理事は飛鳥が話の先を読んだ事に動揺した。ギラギラと輝くボディを揺らし、どこでそれをと言わんばかりにカメラアイを光らせる。大昔のSF映画に出てきた殺人ロボットの様だ。

 対してロボットの様につらつらと冷静に捲し立てた飛鳥は、懐から一枚の封筒を取り出した。

 

「これはなんでしょう?」

「なんだと言われても、封筒だろう」

「中身を見てみましょう」

 

 もったいぶった動きで飛鳥は封筒から一枚の紙を取り出し、広げてみせる。理事はカメラアイを動かして書かれている事をじっと眺めて、

 

「フン!それは退部届だ、あの娘の名前も書いてある!何処でさっきの話を嗅ぎつけたのかは知らんが、既に受理されたものについてどうこう言える資格が貴様にはないだろう!」

「いえ、それがあるんですよ。何故なら僕は先生だから」

 

 飛鳥は用紙の端を指差した。名前欄よりずっと下にある、四角い枠に。

 

「ここには担任、または顧問の教師がサインをする枠があります。ですがこれには何の記入もされていない」

「当然だ。とっくのとうにアビドスから教師など……待て、貴様」

「この退部届には僕のサインがない。キヴォトスの全生徒に絶対的な権限を持つ、僕のサインが。これでは退部届に効力はない。つまり、無効」

「う、むう……!?」

「貴方達も大人であるならば退部届にもきっちり目を通すか、アビドスの責任者に対して確認を取るべきでした。社会を構成する存在としての自覚が足りない、と指摘しておきます」

 

 理事の顔が見るからに怒りに染まり始める。その背後で佇んでいる兵士達は彼の合図一つでいつでも何十丁ものアサルトライフルを斉射できるというのに、飛鳥の顔には汗一滴すら浮かんではいなかった。

 ホシノの退部届は無効となった。だが、彼女は既にカイザーPMCへとその身を明け渡している。この場合は一体どうなるというのか。

 

「これは誘拐ですよ。理事」

「ゆ、誘拐!?」

「貴方は退部届に目を通すべきだった。いや、もしかしたら目をわざと通さなかったのかもしれない。小鳥遊ホシノの身柄を何としても我が物にしたくて、強引な手段に走ったのかもしれない。いくらでも解釈できてしまう」

「ふざけた事を言うな!何を、デタラメな!」

「重要なのは、契約の不履行であるにも関わらず貴方達が小鳥遊さんの身柄を確保したという点です。これはシャーレの先生として、見過ごすわけにはいかない」

 

 理事はうぬう、と呻いた。まさか生徒の背後にシャーレの存在があるなど知らなかっただけでなく、更にそれが原因で計画に思わぬところで亀裂が入ったのだ。焦らずにはいられない。

 だがすぐにハッとし、気を取り直すと冷静な態度を取り繕う。

 

「ふっ、ふっふっふ。確かに私はその項目を見逃した。誘拐、なるほどそう取られても仕方あるまい。だが?こんなちっぽけな学区での事など、誰も気には留めん!あの連邦生徒会でさえ、アビドスが幾ら窮状を訴えたところで動こうとはしなかったのだ。見捨てられた小娘共が、今更……!」

「僕もそう思いました。なので……」

 

 形勢逆転を狙う理事に対して、飛鳥は端末を取り出す。そして画面を見せつけた。

 画面にはニュース番組の放送が映し出されている。そこに表示されているのは、

 

『こちら、クロノススクール報道部!今我々はキヴォトスでも有数の大企業、カイザーコーポレーション本社前へとやってきています。なんとカイザーコーポレーション傘下であるカイザーローンが、債務者からの利息金を横領していたという衝撃の事実が明らかになりました!』

 

「!?!?なんだこれは!?!?」

「そのままです。連邦生徒会が動かなくても、ゴシップだろうとなんだろうと情報なら手を伸ばしてくる者達はいる。ブラックマーケットの闇銀行で入手した書類を含めて、色々リークさせてもらいました」

 

『更に!カイザーが生徒の誘拐を図ったという情報までもが……え?それはまだソースがハッキリしていない?明らかになってから?いやでも……ああはい!わかりました!』

 

「ついでに誘拐の話も漏らしておきました。アビドスがしばらくの間マスコミの注目を浴びる事は間違いないでしょうが……それは悪徳企業からの搾取によって苦しんでいたという被害者の立場としてでしょうね」

「貴様〜〜〜!!!!」

「それと、お気付きですか。街が先程から静かな事に」

 

 理事は完全に飛鳥のペースに飲まれ、周囲へと視線を動かす。

 PMCの軍団が大通りを跋扈していたというのに、市民は疎かアビドスの生徒達が現れる気配が一切ない。まるで最初から何処にもいないかの様だ。

 と、そこで理事のスーツからぶるりと端末が震えるくぐもった音が響く。

 

「出た方が良いですよ。きっと大切な事ですから」

 

 飛鳥に言われるがままに理事は端末を取り出し、通話を始めた。

 

「な、なんだ?どうしたというんだ」

『理事!襲撃です!アビドスの生徒達と便利屋共が徒党を組んで……凄まじい勢いです!』

「なにぃ!?馬鹿な、何故そこに……」

 

 理事はぴたりと動きを止め、涼しい顔で立っている飛鳥へとゆっくりと顔を向けた。

 彼は驚き、慄き、そして呆気に取られている。想像している通りの事をまさか飛鳥の立場で行うなど、予想もしていなかったのだろう。

 

「……飛鳥=R=クロイツ!まさか、貴様!」

「本当は僕だって選びたくはなかった。けれどこうする以外に道はなかったから……小鳥遊さんに『行って』もらったんだ」

「貴様!!!教え子を、利用したのか!!!!」

 

 シャーレの先生は生徒の為にある。生徒の悩みを聞き、生徒からの依頼をこなす、学園都市キヴォトスにおける便利屋に近い存在だ。

 そんな先生が、飛鳥が取った行動は……わざとホシノをカイザーへと向かわせるという大胆極まるものだったのだ。

 

「貴様はサインを書いていなかったのではない、書かなかったんだ!我々が見落とす事を知っていたから!」

「ものの見事に貴方達は小鳥遊さんを連れて行った。後はアビドスの生徒達が尾行して、即座に襲撃を仕掛ければ良い。言っておくが、彼女達はとても強い。僕なんて比べ物にならないくらいに」

「PMCの所有する領域内で戦闘を、ましてや襲撃を仕掛けるなど……何をしているのかわかっているのかぁ!」

「連邦生徒会に所属する組織として、生徒を誘拐した企業に対して真っ当な対応をしているまでです。正当性は十分にある」

 

 飛鳥は丁寧に退部届を封筒に戻し、懐に仕舞い込む。余裕綽々な態度にますます理事は逆撫でされ、敵意を漲らせていく。

 

「正直なところ借金と自治区に関して、僕が介入できる要素など見つからなかった。長い時間をかけてじわじわと追い詰めていったカイザーの手法は大したものだと言っておきたい。でも、貴方達は欲を出して小鳥遊さんへと誘いをかけた。悪い大人らしい、卑怯な方法を。そこが抜け穴になった」

「……なるほど、なるほどな。大したものだよ、飛鳥=R=クロイツ。よくもまあここまでカイザーを虚仮にしてくれた」

 

 烈火の如く怒り狂うかと思いきや、理事は重いため息をつくと飛鳥を真似るかの様に余裕げな表情を浮かべ、分厚い胸を張ってみせる。そしてゆっくりと手を振り上げた。

 命令を待っていた兵士達が一斉にライフルを構える。全員がロボットであり、敵対者を前にしてその動きに微塵の隙もありはしない。

 

「だが貴様は一つ致命的なミスを犯した。この圧倒的な数の兵士を前にして、たった一人で現れるなど愚かだという他にない!このまま貴様を蜂の巣にして、無理矢理にでもアビドスを占拠してくれる!」

「忠告する。これ以上の進行は貴方達の為にならない、引き返した方が良い」

「状況がわかっていない様だな?忠告するのはこちら側だ。土下座して許しを乞うならば、見逃してやるぞ」

「……もう一度、忠告する。引き返した方が良い」

 

 それ以上の会話は無意味だと判断したのは理事だった。彼が手を振り下ろすと同時に、ライフルが一斉に火を吹いた。その全てが飛鳥一点へと注がれ、その細い体を細切れにしようと迫る。

 あっという間に銃撃が土煙を巻き起こし、路上を白く染めていく。その場にいる誰もが飛鳥の死を確信しただろう。

 

「僕が何の対策もせずに一人で立ち向かうはずがないのに……」

 

 だが声は聞こえた。白煙の向こうから足音と共に。

 

「馬鹿な」

 

 理事は茫然としながら呟く。銃弾を雨の様に叩き込まれて生きているはずがない、否、そもそも歩いて来られるはずもない。

 では何故足音が少しずつ近付いてくるのか。一体誰によるものだというのか。

 

「撃てッッッッ!!!」

 

 再びライフルが一斉発射し、煙の向こうにいるはずの飛鳥へとこれでもかというほどの銃撃を行う。すると、何かが弾かれる小気味良い音が理事の耳に届いた。

 コンコンコンコン、コンコンコン。

 まるでノックするかの様な音の正体が何かを確かめるより先に、頬を何かが掠める。遅れて背後から兵士達が倒れる耳障りな音が幾つも聞こえた。

 理事が振り返れば、そこにはどういうわけか弾丸がめり込み動けなくなっている兵士が絨毯の様に寝転がっている。彼らはまるで、自分達が放った弾丸をそのまま跳ね返されたかの様だ。

 

「貴方達は戦闘を行った。この行動の意味を理解してもらいたい」

 

 煙が晴れる。その奥から現れたのは、やはり飛鳥だ。無数の弾丸を受けたにも関わらず彼の体は傷一つない。

 無傷のまま、飛鳥は服についた埃を手で払いながら、カイザーPMCの軍団へと進んでいく。その手に一冊の『本』を握りしめて。

 

「99秒……その間に決着はつくだろう」

 

 マスターオブソーサリー、最強の魔法使いによる戦いが始まった。




本当ならビシッとキメるところでStory tellerの歌詞でも入れたかったんですがJASRACにもNexToneにもなかったので諦めました。
ゲーム音楽の扱いって結構普通のものとは異なるみたい。
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