先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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援軍、援軍、援軍!

「ホシノ先輩を、囮にする!?」

「今僕らができる最大効率の作戦が、それになる」

 

 ホシノのアビドス退学を未然に防ぎ、カイザーコーポレーションに全員が一丸となって戦うと誓った直後の作戦会議。

 飛鳥が提案した作戦はホシノがアビドスを退学した様に見せかけ、そこから退部届を利用してこれでもかというほどの罪をカイザーに被せるというあまりにもえげつないものであった。

 

「アビドスを優位に、カイザーを不利に。これまで君達が被っていた多くの事柄を全て敵に跳ね返すというわけだ。GOサインさえあれば、僕の方でマスコミへのリークも行おう」

「う、動き早すぎない……?」

「正直言って、これまで散々にやられているんだ。これくらいの仕打ちは妥当だと僕は考えている。アビドスの今後も少しは前向きなものになると思うしね」

「飛鳥先生、怒ってます……?」

「怒ってはいないよ、そこは安心してほしい。さて……小鳥遊さん、この作戦は君から見てどう思う?」

 

 作戦において重要な確認、それはホシノ本人による承諾だ。仮初とはいえ一度は敵に下るのだから、不安な気持ちがあってしかるべきだ。もしも駄目な場合はまた頭をこねくり回して考える余裕が、とりあえず飛鳥にもある。

 

「うへ~、もちろんイケるよ。アレだよね、潜入任務みたいな?全然オッケー」

 

 全員の視線を浴びながら、ホシノは快諾した。待ち望んでいたと言わんばかりの返答で、飛鳥に頷き返すだけでなく自分から身を乗り出して、

 

「あのさあのさ先生。確認したいんだけど、カイザーのところに行くじゃん。その後はマスコミにリークした後、皆が私を助けに来てくれる手筈なんでしょ?」

「必ず見つけ出す。だから安心してほしい」

「うんうん、ならさ……私の方も勝手に暴れて良い?」

 

 にんまりと笑うホシノの声色は心底それを望んでいる様に聞こえる。つまり、合法的にカイザーの連中を気が済むまで殴って良いのかと彼女は飛鳥に確認しているわけである。

 無論合法である。作戦が滞りなく進めばホシノはカイザーに誘拐された事になり、その際に多少の『抵抗』をしたところで正当防衛として認められるだろう。

 

「思う存分やってくれて構わない。君は被害者になるんだからね」

「うへ~、どうやって武器隠し持つかな……」

「な、なんかホシノ先輩までノリが怖いんだけど。確かにカイザーの連中ギッタギタにできるチャンスだけど、なんか気のせいかカイザーそのもの潰すくらいの勢いじゃない?」

「ん、セリカ。くらいじゃない、潰す。できる限り潰す。ね、ノノミ」

「正義は我にあり!敵はカイザーにあり!ですよね先生!」

「そういう事になる。正直僕らしくないとは思っているけれど、思う存分やってほしい」

 

 先生からのお墨付きともなれば、セリカも目の色を変えて笑みを浮かべた。パキパキと指を鳴らし、今すぐにでもカイザーへ殴り込んでやろうかというこれ以上無いほどの気概を見せ始める。

 アヤネは若干汗をかきながらも、飛鳥へ質問するべく手を挙げた。恐らくそうするのは彼女だろうと見越していた飛鳥はどうぞ、と掌を見せる。

 

「あ、あの……作戦は理解できましたが、カイザーの勢力は凄まじいものです。本当に我々だけで倒せるんでしょうか?」

「良い質問だ。万が一の為に、僕の方で保険はかけておいた。彼女達が来てくれるかどうかは五分五分だけど」

「彼女達?それは――――」

 

「ふっふっふ、うふふふ、どうやらまだ命知らずな突撃はかましていない様ね。安心したわ、寝覚めが悪くなりそうだもの」

 

 思いのほか早かった、というよりもう来たのかと若干驚きつつ、飛鳥は本部のドアを勢いよく開けて入ってきた少女達に微笑みかける。逆に対策委員会は突然の来訪者に困惑の表情を浮かべてしまう。

 筆頭の少女は邪悪そうな笑みを浮かべ、恐らく彼女が考えているであろうこれ以上無いくらい格好良さそうなポーズを取っていた。

 

「便利屋68、対策委員会を手伝いに来てあげたわよ~~!!!」

「……テンション、高すぎない?」

「いえーい♪元気してた?元気してた?助っ人参戦だよ~」

「ラーメン屋を爆破した伊草ハルカです、ら、ラーメン屋を爆破した伊草ハルカです!!!処罰でしたら甘んじて受けます!!!!」

 

 飛鳥がかけていた保険、それはアビドスを狙う刺客として雇われ凄まじい紆余曲折の果てに一度は共闘の姿勢を取った、あの便利屋68だった。ラーメン屋を爆破した後、風紀委員長ヒナから逃げてそれきりだったのだが、舞い戻ってきたのである。

 が、アビドスの生徒達の表情は硬い。何しろ憩いの場であった柴関ラーメンを吹き飛ばされているのである。素直に喜べる援軍ではない。

 

「ん、よく戻ってきくれた。とりあえず柴関ラーメン爆破の罪に関して話し合おうか」

「良い度胸じゃないのねぇ、手伝いに来たとか偉そうにぃ……」

「へぇ!?あ、や、それに関してはそのね……ちゃんとこう、埋め合わせは、ええと、するつもりなのよ!?」

「砂狼さん、黒見さん、落ち着いて欲しい。ラーメン屋爆破の件に関しては、戦いが終わってから存分に話そうじゃないか」

「せ、先生!?い、いや確かに私達の方も悪いけど……!」

「社長、慌てふためいてないで説明して」

 

 シロコ達に睨まれ、白目を剥いて泡を吹きかけるアルの脇腹を、カヨコが肘を突く。仲間に尻を叩かれた事で慌てていたアルは気を取り直し、咳払いと共にまた邪悪そうな笑みを浮かべてみせる。が、あまり迫力はない。

 

「こほん。私達ね、考えたのよ。顔も見せず、依頼の内容も正確に教えないクライアント……そんなの契約として、あまりにも不誠実だってね。そしたらなんとその正体はあのカイザーコーポレーションだと言うじゃない。大企業にしてはやる事がみみっちいというか、ハッキリ言ってダサいわ。だから私、決めたの……幾ら金を積まれればなんでもやると言っても、時にはこっちから相手は選ぶ。不誠実きわまるクライアントなんて、こっちから願い下げという事よ!」

「アルちゃんカッコいいー!ザ・アウトロー!!」

「まぁ要するに、彼女達もカイザーに対して反感を覚えて、同じ敵を持つ僕らに力を貸してくれる事になったんだ」

 

 保険を兼ねて飛鳥は便利屋の事務所を見つけ出し、アル達に対してある申し出をしたのだ。アビドスを助けてはくれないか、と。

 

『一般的にアウトローと呼ばれる存在は、時には飼い主の手を噛む様な強さを持つと思うんだけどね』

 

 そんな一言も軽く添えてみたのだが、どうやらアルはその言葉に感じ入るものがあった様だ。予想していたよりも早く協力要請に応じてくれた。悪ぶっているが、善人であるのは間違いない。

 ついでにどうやら彼女達は覆面強盗団、そしてレイヴンの正体にも気付いていた様で、事務所ではちょっとした一悶着があったのだが、それについては割愛しよう。

 

「先生、ちょっと話が」

 

 アルが自信満々に胸を張る一方で、カヨコが飛鳥を手招きする。どうやら大声では話せない事な様なので誘われる通りに近付き、顔を寄せる。

 

「例の札束が入ったバッグ、ラーメン屋の大将が入院してる病院に置いてきたから」

「……良いのかい?」

「『処分して欲しい』って何処かのカラスに言われたからね。ウチの社長がそうするって言って聞かなかったし」

 

「ふっふっふ、安心してちょうだい。この陸八魔アルがカイザーなんてこう、くしゃっと一捻りにしてあげるから!」

「うへ~、心強い援軍……なのかな、わかんないけど頭数は多い方が良いからねぇ。皆仲良くしよっか」

「ホシノ先輩が言うなら、まぁ……」

「昨日の敵は今日の友、なんて言いますからね!お仕置きは先生が言う様に終わってからにしましょう!」

「そうそう、昨日の敵は―――待って、お仕置きって何の事ぉ!?」

 

 険悪そうな出だしから、一応共通の敵を控えているおかげか対策委員会と便利屋68は衝突する様子は無い。今はカイザーを叩き潰す、その大きな目的が彼女達にちょっとした結束を作り出している様だ。

 ともなれば、士気を高めるべく先生として飛鳥にもやらなくてはならない事がある。再び少女達の視線が一点に集める為にホワイトボードへと向かうと、努力して声を大きく出し、

 

「援軍はまだ終わりじゃない。明日、僕の方でゲヘナの風紀委員と、『我らがリーダー』に協力を要請する。陸八魔さん、ギョッとしている様だけど、アビドスの学区内である以上は彼女達からの干渉はしない方向に僕の方でしっかり決めておくつもりだ」

「ほっ……」

「でも、力を貸してくれるでしょうか。一応私達は彼女達と衝突しかけた関係ですし……」

「大丈夫。僕の先生としての権限で、助力を請う事はできる。それに……空崎さんは、話を聞いてくれる気がするんだ」

 

 

「風紀委員長に会いたい?まさか、それの為に単身でこのゲヘナにやってきたと言うのか!先生っていうのは随分と偉い身分なんだな」

 

 アビドスと便利屋が決戦に向けて準備を整える一方で、飛鳥はたった一人でゲヘナ学園に足を運んでいた。生徒達に話した通り、ヒナの協力を仰ぐ為である。

 ところが正門前に立ち塞がっていたのは風紀委員の一人であり、鉄砲玉じみた勢いを持つあのイオリだ。

 

「空崎さんに、どうしても頼みたい事があるんだ。五分で良いから会わせてもらえないだろうか」

「駄目だ。あのハッピー?ケイオス?とやらを捕まえてからというもの、大変なんだぞ!『ミルピコ無いの?ミルピコ?』だの『僕、君の卒業アルバム持ってるんだよ』とか信じられないくらい気色の悪い発言ばかりして……とにかく駄目だ。大体、この前会った時に私の事をメッタメタに言いくるめたのを忘れたのか!」

「……僕は事実を話していたわけで、別に言いくるめてはいないと思うんだけど」

「ええい、あの変態の様な屁理屈ばかり!じゃあこうしよう。風紀委員長に会わせてやっても良いが、その代わり私の足を舐めるくらいの事はしてもらおう!こうでもしなければ、ヒナ委員長になど会わせてやらない!」

「そ、そんな……!!」

 

 大人である飛鳥に、生徒の足を舐めさせる。こんな交換条件を出されれば恐らく引っ込むだろう、とイオリは恐らく考えていたのだろう。事実、そこらの大人であれば「誰がそんな事をするか」と憤慨しただろうし、それで何か言うのならば強引に追い出せば良いのだ。

 だがイオリは飛鳥という人物をあまり知らなかった。ギアを誤るとおかしな行動に走りがちな事を。

 

「……参ったな」

「どうした。わざわざここまでやってきたのに、それくらいの度胸も無いのか?」

「いや、そうじゃない。ちょっと待って欲しい。今、頑張って思い出そうとしているんだ」

「思い出すって、何を」

「丁寧な足の舐め方だよ」

「へ……?」

 

 イオリの顔面が硬直する。思わぬ発言にどう対応すれば良いのか、彼女には全くわからない。まさか足を舐めてみろと言って、舐め方を知らないなどと誰が予想できるだろうか。相手に恥辱を与える目的の発言であったのに、全身全霊で迎え撃とうとするなど想像の埒外だ。

 

「土下座の方法は知っているんだ。心からの謝罪と誠意を示す方法なんだから、覚えておいてしかるべきだ。でも足を舐めるっていうのはわからない……一体どうやれば」

「え、いや、待て。ええと」

「……よし、わかった。覚えている範囲の知識で失礼の無い『足の舐め方』を今思いついた。じゃあ始めるから、靴を脱いで欲しい」

「あ、あう、ま、待って」

「足を舐める、と言っても全体からなのか一部からなのか、そこが問題だ。なのでとりあえず足の親指から舐めていく。それでいいね?」

「待て!待て待て!?大人だろう!?もっとこう、プライドとか無いのか!?人として悩むとか!」

「僕が君の足を舐めて、それで空崎さんに会えるというのなら、むしろ僕のプライドなんて、天秤にかけるまでもないと思うんだ。靴を脱がすよ、良いかい?」

「良くない良くない!!この変態がぁ!!」

「じゃ、じゃあ靴はそのままでスネや太もも辺りを舐めれば良いのかな?でも言われてみればそうだ。相手に誠意を見せるのに、靴を脱いでもらうなんて失礼なのかもしれない」

「やめろおおおおおお!!!!」

「ま、待って欲しい、足を舐める、それが条件のはずじゃないか。どうして僕を蹴る姿勢を―――がぁ!?」

 

 驚きを超えて恐怖さえ感じさせる飛鳥の行動に、我慢の限界が訪れたイオリが渾身の蹴りを彼の顔面に叩き込む。端から見れば変質者に絡まれる哀れな少女なのだが、こればかりは不用意な発言をしてしまったイオリの側に責がある、あるのだろう。

 

「――――一体全体、何がどうしてこうなっているのか説明して欲しいんだけど」

 

 正門で風紀委員が変質者に足を舐められている。そんな騒ぎを聞きつけたヒナが現場に急行し、本気で困惑した表情を見せるのはおよそ数分後の事である。

 

 

『……先生?先生?聞いてますか先生』

「聞いているよ奥空さん。ちょっと、蹴られたところが痛んでね」

『???え、ええと、我々は今ホシノ先輩が囚われているカイザーPMCの施設に突入したところです。そちらは大丈夫ですか?』

「何も、問題は無いよ」

『ですが、凄い銃声が聞こえます』

「僕の方は心配いらない。小鳥遊さんとの合流を急いで欲しい。通信を切るね」

『は、はい!ではまた後で!』

 

 通話を切って、飛鳥は手を軽く動かす。法術が作り出した壁によって鼻先で止められていた弾丸は一斉に向きを変え、主であるカイザーPMCの兵士達へと再発射され、一度に数十の兵士が崩れ落ちる。

 多くの下準備を重ね、遂に訪れたカイザーとの全面対決の時。飛鳥は生徒達にホシノ救出を任せ、自身は街を制圧するべく押し寄せるカイザーPMCをたった一人で迎え撃っている。

 99秒の制限時間はこの状況下においてはさほど問題ではない。ネックなのは『倒しきれない』ではなく、『ついでに街も吹き飛びかねない』という部分なのである。

 

(アビドスの街はできれば壊したくはない。そして運が悪い事に僕の魔法は破壊力がピカイチだ。最小の範囲で最大効率を叩き出すなんて、数字の上ではできても実際の戦闘ではそうそう上手くはいかない。ジャック・オーの様にサーヴァントを呼び出して戦わせても良いが……)

 

 そこで飛鳥が目をつけたのは、アビドスという土地が持つ特殊な環境だ。

 「本」のページが独りでにめくられていき、飛鳥は冷静にその内の一枚を取り出す。ページは法術を使用する為に必要なマナと共に大気中へ溶け、即座に彼は両手を広げた。

 

「君達はアビドスを長い間苦しめてきた。次は、君達がそうなる番だ」

 

 さながらオーケストラの指揮を執るが如く、飛鳥は両腕を振るう。その動きに合わせて、アビドス市街にどこからともなく暴風が吹き荒れ始めた。法術により、飛鳥は自在に風を操れる様になったのだ。

 狙いはアビドス市街地を蝕んでいく砂漠。暴風は砂を巻き上げながら、龍の形を取ってカイザーPMCへと向かっていく。風圧と、その内側で際限なくかき混ぜられる砂、二つの力が混ぜ合わさる事によって絶大な威力を持つ竜巻が誕生したのだ。

 襲いかかる竜巻に打ち勝てるものなどそうそうありはしない。兵士達も、彼らが操る戦車も、あっという間に暴風が飲み込んでいく。可能な限り飛鳥の手で制御されている竜巻はアビドスの市街地に砂を撒き散らす事もなく、丁寧に敵だけを腹の中へと納めて街の外へと向かっていく。適当なところで飲み込んだ全員を砂漠へと吹き飛ばす算段だ。

 

「後はアレに任せて……残っているのは貴方だけだ、理事」

 

 敵の全てを竜巻に処理させたと思いきやたった一人、PMCの理事だけは飲み込まれずに留まっていた様だ。しかし彼一人で戦えるとは思えず、飛鳥は手を止めて彼に体を向けていた。

 

「なんだと言うんだ……!貴様は何者だ!?」

「僕は、先生です」

「違う!その力は一体、何を!」

「貴方には知る由もない、知ったところで意味もない事だ。貴方の身柄を拘束させてもらう。幾ら連邦生徒会が混乱状態にあるとしても、これほどの騒ぎになれば重い腰を上げざるを得ないだろう」

「ぐ、ぐぐ……今頃、我がカイザーPMCの全部隊が小娘共を捕らえるべく集結しているはずだ。後悔させてやるぞ……!」

 

 と、飛鳥の端末に再び通信が入る。相手はアビドスでも便利屋でもない、協力者からだ。

 

『もしもし先生?風紀委員の空崎ヒナよ。合流予定だった敵部隊はこちらで制圧しておいた』

「ありがとう。君達には何の得も無いのに、応じてくれて」

『良いのよ、私がそうしたいだけなんだから』

 

 なんとなく、飛鳥はヒナが協力してくれると予想していた。本来ならば決してそんな理由では突き動かされないはずなのだが、一度だけ見せてくれた微笑みは彼女が信用に足る存在なのだという確信に近いものを抱かせたのである。

 イオリの足を舐めるか舐めないかで揉めた際にも、信じられないものを見る目をしながらも説明自体は予想通り真摯に耳を傾けてくれた。信用に値する生徒なのは間違いないだろう。

 

『それじゃあ先生。私達はこれで撤収する、後は任せるわ』

「わかった。もう一度、助けてくれてありがとうと言っておくよ」

 

 ヒナとの通話を切って、飛鳥は改めて理事へと向き直る。と、彼は脇目も振らずに全力で逃げ出していた。どうやら話している隙を突いて咄嗟に選んだ選択の様だ。

 無論、飛鳥としては逃がすつもりもない。指先を宙に滑らせると、小さなつむじ風が理事の足を掬い取り、見事に彼は顔面から倒れ込んだ。

 

「なるほど、フレデリックがとりあえず相手を叩きのめしておく理由がわかった。手足は拘束しておこう」

 

 

 法術で周辺に落ちている銃器の形を細い帯状に変えると、飛鳥は理事の手足をガッチリと結んで拘束する。これならば逃げる事は愚か、まことに動く事さえ叶わないだろう。

 市街のPMCは全て撃退した事を連絡するべく、端末からアヤネへと通話を繋ぐ。予定通りならば今頃ホシノと合流し、制圧を終えている頃だろう。

 

「こちら飛鳥。市街の防衛は完了した、そっちはどうかな」

『今連絡しようと思っていたところです先生!こちらは……ビナーが現れました!小型のロボットを引き連れています!』

 

 この状況でカイザー以外の敵、それもビナー。タイミングとしては最悪の部類である。飛鳥は苦い表情を浮かべながらも、冷静な声色でアヤネへと返答する。

 

「了解した。今僕もそちらへ向かう、持ち堪えて欲しい」

 

 即座に飛鳥はヒナへの通話を繋いだ。翻る形になるが、彼女と仲間達にもう一度助力を請わなければならない。

 

『もしもし』

「空崎さん、もう一度力を貸して欲しい。対策委員会達が想定外の敵と交戦中だ」

『……こっちもよ、かなりの数が押し寄せてきている』

「っ、なるほど、向こうも備えてきたという事か。くれぐれも気をつけて」

 

 前回の遭遇で、法術によりビナーは大ダメージを被ったものの破壊にまでは至らなかった。どれほどの知能を有しているのかは定かではないが、少なくともリベンジの為に戦力を増やすという思考は存在するらしい。

 通話を終えると共に、飛鳥は「本」を開きテレポートの準備を開始する。残り時間は10秒ほどだ。テレポートを終えた直後にセーフティロックが起動してしまうだろう。となれば、不安になるが生徒達と合流した後に再び「本」を使わなければならない。

 

「アロナ、制限時間終了後のクールタイムも記録しておいて欲しい。小刻みに法力を引き出す事になるが……問題はないはずだ。それと『彼女』に砲撃の準備をする様にと連絡して」

『任せてください!先生、無理だけはしない様に気をつけて!!』

 

 直後、飛鳥の肉体は一瞬にして数十キロは離れているアビドスの砂漠へと跳躍した。

 ホシノがカイザーによって連れ去られた先はアビドス高等学校の旧校舎、砂漠の浸食を受けて放棄された場所が根城となっていたのだ。

 音も無く移動を終え、法力も尽きた飛鳥の頬に熱波と砂塵が襲いかかる。法術による防御は行えず、直撃を受けた飛鳥は思わず砂漠に倒れ込んでいた。

 

「あっ、先生!危ないよ~!」

 

 誰かが咄嗟に飛鳥の腕を掴み、無理矢理立ち上がらせる。ホシノだ。

 足を引っ張るわけにはいかない。飛鳥は引っ張られながら必死に体勢を立て直して周囲の状況を確認する。シロコ、ノノミ、セリカ……アビドスの生徒は全員無事だが、全員の表情は鬼気迫るものだ。原因はその視線の先にある。

 手足の生えた四角い箱、そう呼ぶしかない無数の小型ロボットに対策委員会はぐるりと取り囲まれていた。便利屋の姿は無いが、離れたところから銃声が聞こえる。どうやら分断されてしまった様だ。

 

「うへ~、先生割とヤバいね。カイザーは難なく倒せたけど、ビナーがお仲間連れてリベンジに来たみたいなんだよ」

「前回は撃退するのに留めてしまったからね。向こうも、僕がいる事を踏まえて用意は徹底したのか」

「ん、先生が来た。魔法は使えそう?」

「良いところに来ました~!この小さいロボットかビナー、どちらかを対処してもらえませんか~!」

「それが、制限時間が来て今さっきブレーキをかけたところなんだ。また魔法を使える様になるまで、ちょっとした間を置かなければならない」

「ええ!?い、一体どれくらいなのよその、間隔は!」

「……五分。大体それくらいだ」

「うへ、一分半の制限時間から更に五分の休憩時間?燃費悪いなぁ……!」

『地中に潜行していたビナーが来ます!皆さん、準備を!!』

 

 地響き、続いて尻餅をつきかける程の地震が砂漠を揺らす。前回と同じ、ビナーが現れる予兆だ。

 飛鳥を守る様にホシノ達が一斉に固まり陣形を立て直した直後、凄まじい勢いで砂煙を立ち上げながら鋼の竜が顕現し、耳をつんざく咆吼をあげる。

 

「■■■■―――――!!」

「うへ~!なんか怒ってなーい!?」

「ん、先生。私達から離れないで……!」

 

 これまでにない激戦が待ち受けている事を、この場にいる誰もが確信していた。同時に負けるつもりなどさらさら無いと、誰もが譲らなかった。

 ビナーが口を開けると共に、まばゆい光が喉から駆け上り始める。尋常では無い破壊力を持つレーザーを放とうというのだ。

 敵はビナーだけではない、小型ロボットまでもが迫り来る。残り五分、それまでに全員が無事でいられるのか。

 

「皆、回避を――――!」

 

 ビナーがレーザーを放つ、その瞬間。側頭部に爆発が起きた。続いて長い全身、そして小型ロボット達にも爆発が襲いかかる。

 何者かによる援護攻撃だ。便利屋でも、風紀委員でもない誰かがビナーから飛鳥達を守ってくれている。

 

『っ!!先生、通信が入っています。ええと――――『水着覆面強盗団リーダー ファウスト』からです!?』

「繋いで欲しい!」

『え、ええと……ヒフ、じゃなくて!ファウスト!覆面強盗団のファウストです!し、刺激的絶命拳!!皆さんご無事ですか!?』

 

 ヒフミだ。共に銀行を襲った後、在籍しているトリニティへ帰って行きそれきりだった彼女が三人目の援軍だったのだ。

 便利屋68、風紀委員、そしてヒフミ。これまでアビドスが遭遇した敵、味方、その両方に飛鳥は協力要請を出したのである。

 

「うへ~!これはこれは、我らがリーダー!元気してた?」

『は、はい!元気にしていました。先生から連絡をもらって、なんとか皆さんをお手伝いする準備が整ったんです!』

「ファウスト、タイミングは完璧だ。もしもの場合を想定して君を待たせていて良かった」

『いえいえ!あ、それと援護射撃はあくまでもこのファ、ファウストが用意したものです!トリニティ式の榴弾砲使っていますが、ファウストのものですからね!』

 

 援護砲撃は絶え間なく砂漠へ降り注ぎ、あっという間に小型ロボット達はその数を減らしていった。これならばビナーに集中する事ができるだけでなく、飛鳥の魔法発動までの時間稼ぎも十分だ。

 最初は対策委員会だけだった戦いに、多くの生徒達が力を貸してくれている。ならばこのまま最後まで走りきるしかない。勝利する以外の結末などあり得ないのだ。

 

「ビナーとの戦闘を開始する。皆、気を引き締めて行こう―――!」

 

 全員が駆け出す。困難を抜けたその先、全員が揃っていなければ意味のない、大切な世界の為に。




駆け足過ぎる気がしないでもない。いや凄い。
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