先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
とりあえず今のところ2はシンプル&コンパクトに、大体1の半分以下くらいにできたらよいなぁ!!!
クエスト ミレニアムに向かえ
「さささっ!さささっ!」
シャーレの仕事はキヴォトス全土の多種多様な依頼をこなす事、それ故に一日で行う業務の量は凄まじいものとなってしまう。先生である青年が幾らドローンを利用したところで、仕事量の軽減には至らないだろう。なので先生は権限を利用し、生徒達を当番として借りる事が出来るのだ。
そういうわけで、今日も執務室を目指して当番の生徒がやってくる。ただし小走りで、足音を立てない様に。文字通り風の如く華麗な動きで。
シャーレの廊下を疾走し、久田イズナはご機嫌極まる足取りでそのまま執務室へ突入、ビシッと決めポーズを取ってみせた。
「主殿!おはようございます!イズナ、当番にやって参りましたぁ!」
「はい、おはよう。朝から元気なのは良い事だ。ただ廊下は走らない様にして欲しいな、曲がり角で誰かとぶつかったら大変だからね。僕とか……」
「あ、あうっ!すみません、主殿!!」
先生、飛鳥=R=クロイツは椅子に腰掛けたままで、やんわりとイズナを窘めた。
狐の耳と尻尾を生やした一年生である彼女は、なんと忍者を目指しているのだという。屈託の無い眼で自信満々に話す姿は、若々しさの結晶体と称するほかに無い。
けれどイズナは心から忍者になりたいと、忍者でありたいと信じている。それが夢なのだから。
「主殿!主殿!実はイズナ、新しい忍術を思いついたんです!」
「ふむ、それは興味深いな。少し見せてもらえないかな」
「はいっ!忍法『ちゅうげの術』!まずこうしてパンチ、続けて足払い、最後に一回転してかかと落とし!これを忍者のスピードでさささっ!と放つ事で、相手の守りを崩せるのです!」
「……忍術なのかい、それ?けれど、高度に発達した科学は魔法に見えると言うし……無くは無いか?」
「では主殿のお墨付きという事で、この『ちゅうげの術』。イズナの新しい必殺技にしたいと思います!」
「ああ、それじゃあ僕からアドバイスだ。三段攻撃の時にかけ声をつけてみたりして、相手を威嚇してみるのはどうだろうか」
「かけ声、なるほど。それではお寿司!お鍋!おまんじゅう!これで!」
「ものすごい既視感があるけれど、まぁ……問題は無いか」
イズナが忍者について熱心に語っても、飛鳥は決して彼女を否定する事は無かった。これまで会ってきた多くの人々は、イズナの夢を真面目に聞いてくれなかったが、彼は真っ正面からしっかりと腰を据えて耳を傾けてくれたのである。
当番の日、イズナは必ず思いついた新しい忍術を飛鳥へ披露する。そうすると先生は嫌な顔一つせず見てくれるだけでなく、改善点まで教えてくれるのだ。
「主殿!今日の任務は何でしょうか?何なりとイズナに命じてくださぁい!」
「僕の護衛を頼めないかな。実は、これからミレニアムに挨拶しに行くつもりで……」
「ミレニアム、ですか?」
「うん。仕事の合間を縫って、キヴォトスの大きな学園に挨拶して回っているんだ。顔を覚えておいてもらいたいからね。久田さんと初めて会った時も、その一環でね」
「ああ、桜花祭の時の……え!?遊びに来たわけではなかったのですか!?」
イズナが飛鳥と出会ったのは、彼女が所属する百鬼夜行連合学園で開催される祭りの場である。
その時イズナは勘違いをしており、祭りを中止に追い込もうとする悪者の手助けをしてしまっていた。しかし飛鳥との出会いを経て、何が正しいかを見極めて正義の忍者へと生まれ変わったのだ。
『僕は他人の夢を笑うつもりなんてこれっぽっちもない。忍者を目指すなんて、凄いじゃないか』
「ううう、イズナ……思い出しただけで涙が出てきます!」
「どうして急に感傷的になっているのかわからないな……?ともかく、ミレニアムまで僕を送ってもらえないかな。それで今日の当番は終わりで良い」
「わかりました!イズナ、全力で飛鳥先生をミレニアムまでお守りします。ええと、先生を背負って行けば良いのでしょうか?」
「……電車で行くから、そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ」
――Chapter2 『時計仕掛けのワシと貴様のパヴァーヌ』
「主殿、色々な学園に挨拶していると先程教えてくれましたが、顔を覚えてもらう為とはいえ大変ではありませんか?」
「ちゃんと互いに顔を合わせるのは大事だ。相手の顔も知らない、もしくは言葉も交わした事が無い状態だと円滑なコミュニケーションは成立しないからね。いざという時頼れる様に、頼られる様にしておきたいんだ」
「流石です、主殿……!イズナも任務が終わったら、百鬼夜行に戻って挨拶して回ります!」
イズナという生徒は底抜けに明るい。飛鳥は彼女の天真爛漫な性格を純粋だと評価する一方で、危なげもあると推察していた。
初めて会った時も、彼女は自分が悪事に手を染めていると確かな認識をしていなかった。ボタンの掛け違いで取り返しのつかない過ちを犯さない様に、細かな指導が必要になるだろう。アビドス高等学校の生徒達がカイザーコーポレーションに苦しめられていた一件から、飛鳥はその辺りに敏感だった。
イズナが当番の日に彼女が見せる忍術を評価する理由は、純粋すぎる精神状態に変化は無いかと確認する目的があるのだ。忍者を目指すというパワフルな夢を応援したい気持ちは当然伴っている。
ミレニアムサイエンススクールへと電車で向かう道すがら、飛鳥はイズナと他愛もない会話を交わす。
イズナは一つ質問すれば蛇口を捻ったかの様に、最近どんな事があったかを話してくれる。同じ志を持つ忍術研究部に入部して、先輩達と日々忍者になるべく鍛錬を詰んでいる事については滝の如く語ってくれた。
「久田さんは、本当に自分の夢にまっすぐなんだね。僕まで、もっと頑張ろうという気持ちになるよ」
「えへへ……!イズナ、いつか立派な忍者になって飛鳥先生を驚かせたいです。くーるに、すたいりっしゅになってみせますので!」
そうして話している内に、電車はミレニアムの最寄り駅に停車した。ご機嫌なイズナと共に飛鳥は駅を出て、ミレニアムへの道をてくてくと歩いて行く。
ミレニアムはキヴォトスの最先端を行く理系の学園だ。在籍する生徒達は皆一芸に秀でており、全員が天才だと評される程である。学園内で生み出された最新技術はそのままキヴォトスでも運用され、最先端=ミレニアムという認識が当然なのだ。
「あ、主殿。あれは……?」
ミレニアム校舎の正門が見えてきた辺りで、イズナがビシッと指を差す。飛鳥の人並みな視力では何を捉えたのかよくわからず、目をぎゅっと細めて指の先を確認しようと試みるが、生徒らしき人物が立っている事しかわからない。
「多分ミレニアムが迎えによこした生徒だと思う。行こう久田さん」
「はい!とは言ったものの、なんだか緊張して来ました。すっごく偉い人なのでしょうか?」
「基本は君と同じ学生なんだ。そんなに不安がらなくても大丈夫だと思う」
正門に近付いていくと、迎えに来た生徒の全貌が見えてきた。おとなしめなミレニアムの制服を着崩した白髪の少女が、飛鳥へと手を振っている。
「こちらです、飛鳥先生」
誘われるままに少女の元へと辿り着くと、飛鳥は最初にペコリと会釈する。イズナもハッとした顔でそれに続き、少女は笑みで応える。
「ようこそ、ミレニアムへ。生徒会『セミナー』二年生、生塩ノアです、はじめまして」
「こちらこそはじめまして。シャーレの飛鳥=R=クロイツです。それから彼女が、ここまで護衛してくれた久田イズナさん」
「は、はじめまして……いつも先生にお世話になっていますイズナと申します」
ノアと名乗った少女は緊張してガチガチなイズナにクスリと笑いながら、きっちりと会釈を返した。礼儀正しいだけでなく、ゆったりとした余裕を持ち大人びているのだ。
「では先生、どうぞ中へ。久田さんもご一緒に」
「え!?イ、イズナもですか?」
「もちろん、そちらが良ければですが……お茶を用意しますよ」
「で、では行きます!主殿、良いですか?」
イズナは目をキラキラさせながら飛鳥を見上げてくる。思っている事、考えている事がそっくりそのまま顔に出るのが彼女の良いところだ。普段ならば立ち入る事の無い場所へ足を踏み入れる体験にワクワクが止まらないのだろう。
「構わないよ。さぁ行こうか」
「はい!」
ピカピカの笑顔を見せるイズナにノアも釣られて明るい笑みを浮かべながら、ミレニアムの校舎へと入っていく。シャーレの二人もそれに続いた。
事前に調べた通り、ミレニアムの校内は他の大型校と比べると近未来的な雰囲気を漂わせている。科学を前面に押し出しているというのが相応しい表現だろう。
「先生、先日ご連絡した通り、セミナーの長である生徒会長の調月リオ先輩なのですが……今大変忙しく、申し訳ないのですが不在の状態での挨拶になります。大変申し訳ありません」
「謝るべきなのは、無理を言って時間を作ってもらっている立場の僕です。申し訳ない」
「いえ、こちらこそ……なんて、お互い謝ってばかりでは終わりませんね。ともかく応接室へご案内します」
広大な廊下を進んでいった先、来客用の広い部屋と案内される。先程までミレニアムの整った雰囲気に目を輝かせていたイズナは、また緊張に駆られた顔でどうしたものかと飛鳥に視線を送ってきていた。
いつも通りで良いと視線で訴えかけながら、飛鳥は部屋の中心に設置されているソファーへと歩いて行き、静かに腰を下ろす。ちょこちょことその後を追いかけてきたイズナも、隣に座った。
「あ、主殿。隣に座っても良いんでしょうか?後ろで待機するべきでしょうか?」
「護衛を頼みはしたけど、君は僕の生徒なんだ。そこまでかしこまらなくても良いよ」
「ふふ、飛鳥先生は優しい方なんですね。ユウカちゃんから聞いている話では、もっと不思議な性格だと思っていたんですが。なんと言っても、『あのラジオ』を放送している人ですし」
ノアは手早く紅茶を用意し、ソファーの前にあるテーブルへと静かに並べ、向かい側に座った。
そういえば、と飛鳥は手を叩き室内を観察する。ミレニアムの生徒会ことセミナーのメンバーは会長とノア以外にもう一人、早瀬ユウカがいるはずだ。
「早瀬さんの姿が見当たらない様だけど……どうかしたのかい?てっきり彼女もいるものかと」
「ユウカちゃんは、今ちょっと忙しいんです。ミレニアムは予算がいつもカツカツなもので、彼女はなんとか安定させようと頑張っているんです。各部活が不必要にお金を使っていないか、とか」
「なるほど、彼女らしい真面目さだ」
「一応先生が今日来るという旨は伝えておきました。ユウカちゃん、楽しみにしてたんですよ」
「……楽しみに?僕は彼女に迷惑ばかりかけているから、むしろ避けられるものかと」
紅茶が注がれたマグカップを手に取り飛鳥が苦笑すると、ノアはびっくりした顔で数秒程口をつぐみ、それからまた楽しそうに微笑んだ。理由はわからないが、何か琴線に触れたらしい。
隣ではイズナがちびちびと紅茶を口に運んでいる。出来る限り丁寧に、そんな手つきだ。
「申し訳ない、話が逸れてしまった。生塩さん、今日ここに来たのはシャーレからの挨拶の為であり……いくつかの連絡をする為なんだ」
「連絡……ですか?」
「とりあえず、この書類に目を通してもらいたい。重要な情報が入っている」
飛鳥は肩から提げていたバッグを下ろし、少し厚い封筒を取り出すとガラステーブルへと置いた。しっかりと封をされたソレが言葉通りのものであるとすぐに理解したノアは手に取ると、手慣れた手つきで開封して中身に目を通し始めた。
「……ハッピーケイオス、ですか?この人は一体」
「危険人物だ。少なくとも、キヴォトスに害を与える存在であるという認識でいてもらいたい」
封筒に入れておいたのはケイオスに関して飛鳥が自らまとめ上げた諸々の情報である。
動向がまるで予測できないだけでなく、不規則な破壊活動を行う可能性がある、大まかにそう記しておいた。生徒誘拐犯だとも。
「この情報は、他の学園にも?」
「トリニティ、ゲヘナ……大きな学園には大体渡したと思う。データで送ろうかと思ったけれど、彼がネットワークで網を張っている可能性を考慮してアナログで渡す事にしたんだ」
「連邦生徒会はケイオスについて何か動きを見せたりは?」
「指名手配をする事が決まったけれど、彼は自分の姿を自在に変えられる不思議な力を持っている。顔写真をそこら中に貼った程度では抑止力にはならない。だから情報を渡したいんだ。『顔は違うけれど、話に聞いているケイオスかもしれない』、そんな意識を今の内に持って欲しい」
アビドスの一件から、飛鳥はキヴォトス中の学園を巡ってはケイオスの情報を共有していた。ゲヘナの監獄を意図もたやすく脱走してからというもの、彼が何処で何をしているのか、一切わかっていない。今この瞬間にも恐るべき計画を準備している可能性が十二分にあるのだ。
「信じられないかもしれない。けれど、事実なんだ」
「いえ、信じますよ。わざわざアナログの情報を手渡しに来るなんて、イタズラにしては真面目すぎますから。ありがとうございます飛鳥先生。この書類は私の方からセミナー内で共有しておきます」
「……ありがとう。とても素直に受け取ってもらって助かる。ミレニアムの前にゲヘナの方に行ったんだけど、とても大変だったから」
「急に顔が青白くなっていますが、一体何が……?」
「ゲヘナの生徒会長は、なんというか、凄い性格だったんだ。まともに話を聞いてもらうのも一苦労だった」
『キキキ……よく来たな、シャーレの先生。わざわざ自分の足でここまでやってくるとは、褒めてやろう!とりあえずこの私からの袖の下を受け取れ、キキキ……プリンだぞ、美味いぞぉ』
『マコト先輩、普通袖の下って言葉は口に出すものではないと思うんですけど。というか普通に考えて、賄賂としてプリン出します……?』
『まぁ見ておけ。先生と言えど、いや多忙な先生だからこそ甘味の誘惑には逆らえんはずだからな……何?ハッピーケイオス?何だこのサングラスは!アホほどダサいな!!このマコト様ならもっとクールなサングラスの一つや二つ――――(以下略)』
「……思い出すだけで、少しため息が出てくる」
「それは、お疲れ様です」
「主殿。えーと、このけいおす?という人のお話は百鬼夜行でもされたのですか?」
飛鳥の服の袖をイズナが引っ張ってくる。話を聞いていた彼女からすれば、自分の学園がケイオスの標的になるのか不安なのだろう。
「大丈夫、陰陽部の生徒に渡しておいた。情報は伝わったはずだ」
「ほぉ、ほぉ……」
「生塩さん、とりあえず僕から渡せる情報はこれだけになる。それから後は、改めての挨拶だ」
そこで飛鳥は襟を正し、背筋を伸ばしてノアへと顔を向けた。ケイオスの情報を渡す事だけが来訪の理由ではない。しっかりとシャーレの先生として、伝えるべき言葉があるのだ。
「シャーレはいつでも困っている生徒を助ける手伝いをする。これから、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ……よろしくお願いしますね。飛鳥先生」
生徒との、学園との信頼関係を結ぶには時として責任者が自ら顔を出さなければならない。飛鳥は自分の言葉が信用を得る必要がある以上は、しっかりと足を運び誠実な姿勢を見せる事がシャーレの地位向上に繋がるものと考えて、各学園への挨拶回りをしているわけだ。
かつて『透明なガラスの如く誠実でありたい』と考え、報道機関に片っ端から国際問題スレスレのリークをぶちかました時と比べれば、よほど正しい選択なのである。
「……生塩さん、用件を一通り済ませたところで、一つお願いがあるんだ」
伝えるべき情報、伝えるべき意思、両方を終えたところで飛鳥はスイッチを切り替えて、軽く身を乗り出してノアへとぐっと顔を寄せた。
「?なんでしょう」
「ミレニアムで行われている研究、良ければ見せてもらえないだろうか……?もちろん見せられる範囲で構わない」
「ああ、なるほど。もちろん良いですよ、ご案内します」
「良し……!」
恐らくキヴォトスにやってきて、ここまで飛鳥が喜びの感情を発するのは初めてだろう。小さく拳を握りしめ、目をキラキラとさせる姿は生徒によっては『気味が悪い』とさえ思いかねない。
「久田さん、僕はもう少しミレニアムを見ていくつもりなんだ。事前に申告しておくと陽が沈むまでにシャーレに帰る自信がない。ここに泊まっていきたい気持ちまであるほどだ。久田さんを巻き込みたくはないから、この辺りで一度解散しよう」
「あ、主殿、なんだかテンションが……」
「正直、気持ちが抑えられない。以前ブラックマーケットに立ち寄った時からずっと思っていたんだけど、キヴォトスの科学は僕が知るものとは異なっているんだ。異なる技術体系は深く知りたいし、いずれは僕もシャーレとしての活動を更に効率的にできる新型ドローンの開発にも着手したい程なんだ」
「あるじどの……?」
「キヴォトスの最先端を行くミレニアムなら、多くの事を知る事ができるはずだ。久田さん、ここまで聞いていてわかる様に今の僕は少し、いや、かなり興奮状態にある。だからむしろこれは忠告だ。先に帰っていて欲しい、僕がこんな風に際限なく君に語り続けてしまうその前に」
「わ、わかりましたあるじどの。いずな、さきにかえります」
……その時、久田さんの目には確かに恐怖が宿っていた様に思う。
後にノアはユウカにこう語った。
イズナ登場!です。イベントストーリーをどうしていこうか非常に悩んでいるのですが、無理に書いてパッとしない事になるくらいならばとりあえずイベントストーリーはこんな風でしたよという感じに濁して、書けそうだったら追加していくスタイルで頑張ろうと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。