先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
「勇者飛鳥先生、よくぞ私達ゲーム開発部村の者達の頼みを聞いてくれました……今、私達の部活が魔王早瀬ユウカにより存亡の危機に立たされているのです」
「私達はのんびりと毎日ゲームを楽しんでいたところで、彼女はゲーム開発部を廃部にすると言いだしたのです。私達はのんびりと毎日ゲームを楽しんでいただけなのに……」
「私達だけでは魔王には勝てません。なので、勇者飛鳥先生に助けてもらいたいのです」
「はい、質問なんだけど今の話を聞いている限りでは君達が部活動というには単にゲームを遊んでいただけだから怒られたというシンプルな話に受け取れてしまうんだ。僕の勘違いかな」
「あっー!そんな事言わないでよー!確かにちょっとサボってたけど、だからと言って廃部は酷いじゃーん!!」
「私とお姉ちゃんは心よりゲームを愛する者であり、横暴なやり方に断固反対するんです……!」
才羽モモイ、双子の妹である才羽ミドリ。二人が所属するのはミレニアムでも特異な存在と言える、ゲーム開発部である。最先端を行く学園内でもレトロ、もしくはアナログなゲームを楽しんでいるらしい。
ただゲーム開発とは名ばかりで、日がなゲームばかりしていたところをユウカに目をつけられ、雷が落ちたという次第だ。
飛鳥は自分がいる部屋をぐるりと見回して、思わず口の端を歪める。モモイに手を引かれるままゲーム開発部の部室へと連れてこられたのは良いが、とてもではないが部室と呼ぶには相応しくない様相を呈している。ゲーム機や雑誌が床にはどっさりと散らばっているし、一つしか無い窓がカーテンで半分ほど閉まっているおかげで室内はほのかに薄暗い。
十代の少女が過ごすには少々、いやかなり不健康という他にない。ただ是正しようと思えばいくらでもできる余地があるだけマシであろう。
「……安心したよ、なんていうかとても平和な話題で。もっとこう借金とかどうしようもないトラブルとかそういったシリアスそのものが待ち受けていると思っていたから、現実的な問題で良かった」
「あの、先生。全然良くないんですが?平和とは言いがたいんですが!」
「ああ、ごめん。最初に受けた生徒からの依頼が僕の中でのスタンダードになりかけていたから、殺伐としていない内容に『ああ良かった、派手にドンパチやるのが全てじゃないんだ』となっていて……いや、本当に。とりあえず銃を撃つ子が多いんだ。HAHAHAHAHA」
廃校の背景に大企業の陰謀が隠れているだの、祭りを中止させる為にチンピラを暴れさせるだの、コッペパンを配達させるという名目で人を罠にはめようとするだの、キヴォトスは想像以上に悪知恵が働く者達が多い。無法地帯、そう呼ぶ以外にないのだ。
「ごめん、話が脱線したね。廃部から助けて欲しいそうだけど、一体僕は何をすれば良いのかな。言っておくけど、君達の代わりにゲームを作るっていうのは無理だよ。それでは、ゲーム開発部の活動と認めてもらえないだろうから」
「もっちろん!ちゃーんと私達の力でユウカを見返してやるつもりなんだもん!先生には後ろ盾になってもらいたいんだよね、ゲーム開発部のミレニアム内での地位は最悪だからさ!」
「そんなに胸を張って言う事じゃないんだからね、お姉ちゃん?先生、お姉ちゃんが言う通りゲーム自体は私達だけで頑張ります。ミレニアム内で発明品の完成度を競うコンテストの様なものがあって、そこに私達のゲームを応募する予定なんです。先生には作品を作る間に、第三者の目線と言いますか、大人からのアドバイスとかをお願いしたいんです」
才羽姉妹はわかりやすく性格が異なっている。わんぱくで考えるより先に体が動いてそうな姉のモモイと、活発な姉に手を焼いているのであろうしっかり者な妹のミドリ。
全く正反対な二人が同じ部活に属しているというのは、二人にとってそれだけゲームが大切なものに違いない。飛鳥はそれをすぐに察していた。
「ふむ……それじゃあこれからまずゲームの開発を行うという事で良いんだね」
「それなんだけどね、ゲームを作るにあたって大切なアイテムを今から取りに行くんだよ」
「大切なアイテム?機材の事かい、それともゲームに必要なアイディア?」
「ふっふっふ……その名は『G.Bible』。最高のゲームクリエイターが遺したと言われる、最高のゲームを作り出す方法が載っていると噂の『ゲームの聖書』だよ!」
G.Bible。聞き慣れない言葉である。ゲームそのものに対して疎い飛鳥であるが、知る人ぞ知る存在なのだろうかと疑問に思い、雄弁に語るモモイからミドリへと視線を移す。ミドリは驚いた顔で自分の姉を見つめていた。
「お姉ちゃん、その話初めて聞いたんだけど」
「え?言ってなかったっけ?」
「完全に初耳だし、ものすごく胡散臭いと思うなぁそれ……」
「いやいや!これは本当だよ、本当!」
「僕としては、そのG.Bibleが信用に値するものなのか気になるな。一体何処からの情報で、確かな信憑性を伴っているのか」
「そこは安心して!ミレニアムが誇る天才ハッカー集団『ヴェリタス』のお墨付きだから!」
モモイは自信満々に答えるが、飛鳥は口元に手を当ててしばらく考え込む。
「G.Bibleは何処に?」
「ミレニアムから少し離れた場所にある、立ち入り禁止区域の『廃墟』。そこにある」
「……立ち入り禁止区域に君達が入っていく事を僕に見逃せと言うのか。少し無理があるんじゃないかな」
「そうだよお姉ちゃん。立ち入り禁止って事は、そこに何か危ないものがあるって事なんだから」
「ん~!でもさ、起死回生のチャンスなんだよ?G-Bibleさえあれば、ユウカに私達のゲームがガラクタなんかじゃないって証明できる!」
「―――ガラクタ?早瀬さんがそう言ったのかい?」
立ち入り禁止区域への侵入、その是非について思案していた飛鳥はモモイの口から飛び出した情報に思わず反応していた。
ユウカとはそれなりに付き合いがある。どんな人間であるかはよく知っているつもりだったが、そんな刺々しい言葉を言い放つとは少し意外だったのだ。
モモイは頬を膨らませて、
「言った言った!ミレニアムには必要ないものだ!なんて事まで!」
「……なるほど。ガラクタ、必要ない、か」
話を聞いている限りではユウカの言葉は一理ある。ゲーム開発部が部活としての体を成していない事は部室を見れば明らかであるし、ノアが教えてくれた予算関係で忙しいという話を踏まえれば、モモイ達に冷たい物言いをする理由も察せられる。
道理としてはユウカの方が筋は通っている。それを理解した上で、飛鳥は決心して頷いた。
「確かに君達の部活はあやふやだ。ここにあるゲームも、興味が無い人間からすればガラクタと言われてしかるべきだろう」
「え!?先生まで!?」
「でも君も、君の妹もゲームが好きなんだろう。危なっかしい事をしてでもこの部活を守りたいとは思っている……変な事を唐突に言うけれど、生徒の中には忍者になろうと頑張っている子がいるんだ」
「に、忍者ですか?」
「うん、荒唐無稽に聞こえるけれど本人は至って真面目だ。人に何を言われようとも自分の道を突き進む……そんな姿勢を僕は先生として尊重したい。君達も同じだよ。ゲームが好きだと、そう心から思っているのならば僕はゲーム開発部を応援しよう」
「じゃあ、つまり!?」
「どの道僕が却下したところで勝手に廃墟へ向かいそうだ。何かあった時が怖いから、僕も着いていくよ」
才羽姉妹は飛鳥が承諾したのだと気付くと、じっと顔を見合わせた。一番喜んでいるのがモモイで、爆発しそうなくらいの満面の笑みだ。ミドリは廃墟への侵入が決定してしまった事と、先生が自分達の活動を応援してくれる事、二つの事実に動揺と喜びがない交ぜになった複雑な表情である。
「うわぁい!そうと決まれば準備準備!行くよミドリ!」
「え~!本当に行くのぉ……仕方ないなぁ」
姉妹が遠征の準備を始めたところで飛鳥は端末を開き、モモトークを起動する。連絡先を交換しておいたノアからのメッセージが届いていた。
『飛鳥先生?ゲーム開発部の子達はどうですか?』
二人と一緒にミレニアムが封鎖している廃墟に行ってくるね、などと絶対に返信できるはずがない。飛鳥は数秒ほど悩んでから、嘘の内容を打ち込んで返した。
『早瀬さんにこっぴどく言われたのが応えているみたいだ。やる気になっているよ』
『それは良かったです!私もこっそり応援しますね!』
嘘をついてしまった事に内心謝罪しつつ、飛鳥は廃墟探索に対して前のめりな姿勢になっていた。
正直なところ飛鳥はG.Bibleという存在に興味を抱き始めている。ゲームの聖書とまで言われるアイテムにどの様な内容が記されているのか、まるで想像できないのだ。
娯楽についての感情は数値化できたとしても、最終的には個人の主観に全てが集約される。だが最高のゲームを作る方法が記されているというからには、全てのプレイヤーに『面白い』と思わせるメソッドが確立されているという事になる。
(一体、どんなものなんだ?G.Bible……)
※
廃墟と呼ばれる地域は、それ以外に呼称し難い荒廃した場所であった。
砕けた道路や苔むしたビルは、かつて広大な都市があったと想像できるが、同時に得体の知れない不気味さを漂わせている。文明の痕跡とは人間の奥底にある恐怖をくすぐるのだ。
加えて所属不明のロボットが銃器を構えて巡回に当たっている。立ち入り禁止の理由が明瞭なものとなった。
瓦礫から顔を覗かせて、三人は一糸乱れぬ動きで巡回を続けるロボット達を観察する。見つかったらどうなるか、それは議論するまでもない。
「ふぅむ、あんなのがいるとは聞いていなかったかも」
「もう、お姉ちゃん本当に見切り発車で来たんだね……」
「私が聞いていたのは連邦生徒会の部隊が撤退して、監視網に穴が空いたって部分だからさ」
「連邦生徒会?という事は、ここを立ち入り禁止にしたのはミレニアムじゃないのかい?」
「そう、連邦生徒会長が廃墟を封鎖したの」
連邦生徒会長、その名を飛鳥が聞くのはもう何度目だっただろうか。
キヴォトスに迷い込んだ始まりの日、飛鳥は連邦生徒会長から推薦されたという理由で『先生』になった。彼女が有していたあらゆる権利を全て任される形で、である。
当の本人は飛鳥を先生に任命した直後に失踪し、現在も行方不明と来ている。完全に押しつけられたと言って良いだろう。
(……僕をこの世界に連れてきたのは、もしかしたら彼女なのかもしれないな)
存在するという事は、誰かに求められているという事。
ケイオスの言葉を完全に信用するわけではないものの、飛鳥がキヴォトスへやってくるのと同じタイミングで行方不明になるというのは関連性があると思わざるを得ない。
「先生、先生。どうかした?」
「ごめん、ちょっと考え事をしていた」
「気をつけてよねー?もしもバレたらあのロボット達が一斉に襲ってくるんだよー?」
「やめてよお姉ちゃん怖い事言うの……ん?先生、ロボット達の動き、ちょっと変じゃありませんか?」
今は考えるべき事ではない。飛鳥はかぶりを振ると、袖を引っ張ってきたミドリが指を差す先に目を向ける。
それなりに長い時間ロボット達の巡回ルートを確認した事で、不自然な点が見つかった。ある一定のポイントまで歩いたところでロボットは一斉に踵を返して元来た道を戻っていくのだ。つまりそのポイントの先に、守りたい何かがあるのだろう。
廃墟という物騒な単語を事前に聞いていたので、飛鳥は持参していた双眼鏡を覗き込む。恐らくロボットが防衛している場所、それは古ぼけた工場の様だ。
「……工場がある。そこに何か隠されているのかもしれない」
「なるほどね先生。このロボット達は宝箱を守っている雑魚キャラって事だよ。この先にお宝が、G.Bibleが待っている!」
「で、でもその雑魚キャラに見つからない様にあそこまで行くって難しくない?」
「こんな事もあろうかと、私は準備してきたんだよミドリ」
そう言ってモモイは背負っている何やら膨らんでいるリュックを指差して、一度地面に下ろすとゴソゴソと探し始める。しばらくして引っ張り出してきたのは平べったい皿の様なものだ。
「これね、この前クレーンゲームで取った『デコイ』!スイッチを入れれば風船が膨らんで音を出すの。銃弾にも四~五〇発までは耐えるんだって!」
「流石キヴォトスだ。サッと恐ろしいものが出てきたな……?」
「ええと、よし!準備万端!行けっ、デコイ!」
モモイがその小柄な体からは想像できない力でデコイを路上へと放り投げる。音を立てて着地した皿は数秒後にピカッと光ったかと思えば、みるみる内に二メートル程はありそうな巨大な風船を膨らませた。
風船の形は白い体色、一対の羽、そして何処を見ているのかわからない目のだらしなく嘴からこぼれている舌……阿慈谷ヒフミが心から愛し、飛鳥が銀行強盗を行う際に使用した被り物の元ネタ……ペロロのそれだった。
『ペロペロ~!ペロペロ~!ペロロだペロ~!』
「うっさ!思った以上にうるさい!」
「リュックの中で電源点けなくて良かったねお姉ちゃん……あ、ちゃんと囮になってる」
ペロロ風船は信じられない程にやかましい声で鳴きながら、ついでに愉快な音楽と七色のライトを放ちながらくるくると回転している。物の見事にロボット達は突然現れた怪鳥へと向かっていき、何の容赦もなく銃撃を開始した。
『ペローーーーーー!!!痛いペローーー!!!!!』
「どうしてダメージボイスがあるんだ……?」
「行くよ先生!ペロロが囮になってる間に工場まで行かなきゃ!」
凄まじい勢いで銃弾の雨に晒されながらも耐えるペロロを犠牲にして、飛鳥達は謎の工場へと足早に向かう。廃墟をうろついているロボットの殆どが騒音に近いペロロの声に引きつけられている様で、大通りを進みながらも見つかる事は一切無かった。
工場の入り口は厳重な警備の割には施錠されている気配もない。さっとモモイを先頭にして三人は工場内へと足を踏み入れた。
「ロボット達、追いかけてこないね」
「気付かれてないみたい。さっさと中を探索しちゃおう」
「二人共、見た目よりも広いみたいだから勝手に動かないで僕のそばにいて欲しい。迷子になったら見つけるのは大変だ」
工場内は薄暗く、最低限の明かりしか存在しない。いつ何処から敵が現れてもおかしくない状況だと認識するや否や、飛鳥は才羽姉妹のそばに立って周囲の安全確認をする。
人の気配は全くと言って良いほどなく、逆に侵入者である飛鳥達の声は反響して奥底にまで広がっていた。
「まさにダンジョンって感じだね。たいまつとかないのかなぁ」
「懐中電灯は一応持ってきているけど……」
もう少し明かりが欲しいという事で姉妹揃って背負っていたリュックからまた荷物を取り出そうとした、その時である。
「―――――ヌオオオオオ」
『ひゃあ!?』
低く、唸る様な声が何処からともなく聞こえた。耳が痛くなりそうな程の静寂から突然響いた不気味な唸り声にモモイもミドリも飛び上がって驚き、助けを求めて飛鳥の腰あたりにしがみついてくる。それなりの力が加わった事で「うぐうっ」と短い悲鳴があがった。
「い、今のなにぃ!?おばけ!?スライム!?大魔王!?」
「ゾンビかも……!!」
腹部への強烈な衝撃に苦しみながら、飛鳥は足下に転がっている懐中電灯を拾い上げる。持ち主であるミドリがリュックから取り出していたものの、唸り声を聞いて落としてしまったのだ。壊れていないか確認して電源をつけると、薄暗い廊下を強い光が照らした。
人の姿はない。相変わらずの静寂がそこにはあった。
「誰もいないよ、二人とも」
「ホント?誰もいない?ゾンビいない?」
「でも今、確かに声が……」
「――――ヌオオオオオ」
「ま、また聞こえた!?一体何!?」
「恐らく、工場内で何かがまだ稼働しているのだと思う。室内で反響して唸り声に聞こえるんだ」
「なるほど……?じゃあモンスターとかではない、と」
「僕としては、現実的ではないと思うね……そろそろ離れてくれないかな、その、動けない」
ハッとして才羽姉妹は飛鳥から離れると、何事も無かった顔で懐中電灯が照らす先を睨み付ける。恥ずかしいところを見せてしまったおかげで、気まずい空気が流れた。
「ふぅーん、まぁ?私はわかってたよ、モンスターなんていないって!」
「ゾンビっていうのは冗談だから、うん。知ってたよ」
「モンスターもゾンビもいないけれど、敵がいないとは限らない。気をつけて」
そこからの探索はいつの間にか、飛鳥が先頭となりその後ろをモモイとミドリが並ぶという三角形で進む編成になっていた。口では平気な風に装っているが、不気味な唸り声がまだ忘れられないのである。
二人は高校一年生のはずだが、怖がる様子はもっと幼く見えてしまう。無意識に飛鳥の服の裾を掴む力はキヴォトスの住人らしく中々に強いが。
「飛鳥先生、ゲーム遊んだりする?」
工場内を進む中、モモイが唐突に飛鳥へとそう問いかける。不気味な静寂が嫌になり、空気を和ませようとしているのだ。
「僕はあまり娯楽に興味を持たなかったからね。それよりも数式を解いたり、科学実験を行う方が楽しかったんだ。おかげで社会に出た時、趣味嗜好の話に入れなくて困ったよ」
「えー!?やった事ないの?」
「アナログなゲーム、たとえばカードゲームやすごろくくらいは遊んだけど、君達が遊ぶ様なテレビゲームは無いかな」
再起の日で電子機器の使用が公的に禁じられてから、飛鳥の世界ではテレビゲームは完全に消滅した。法力によってエネルギー問題が解決された一方で娯楽は数十年は巻き戻ってしまったのだ。
キヴォトスにやってきてからテレビゲームの存在を知りはしたものの、元からそこまで関心を持たない飛鳥は触れていない現状である。
「ゲームは嫌いですか?」
「そういうわけじゃない。単に僕は勉強の方が楽しかったんだ。昔から僕が好きなものは周囲とズレていてね」
「んー、それじゃあさ!G-Bibleをゲットして最高のゲームを作ったら、飛鳥先生が一番最初に遊んでみてよ。ぜっったいドハマりするようなの作るから!」
「ファンタジーで行くつもりですから、楽しみにしていてください!先生を立派なゲーマーにしてみせます!」
モモイとミドリは数分前までの怖がっている様子から打って変わり、飛鳥がゲームに疎いと気付くや否や、沼に沈めんという勢いで食いついてくる。好きな事の話になると、ここまで熱くなれるものらしい。
熱弁されたとあっては、飛鳥も避けられはしない。姉妹の勢いに素直な首肯を返してしまっていた。
「わかった、わかったよ。僕も食わず嫌いをする年齢はとっくの昔に終えている。君達が作るゲームを楽しみにするとしよう」
「大丈夫!面白いゲームって言うのは初めての人だとしても、ゲーマーでも楽しめるまさに名作なんだよ~!先生もユウカもびっくりさせるくらいなの作るから!」
「ん……二人共、待って。何か聞こえない?」
モモイが興奮してきゃいきゃいと声をあげていたところで、ミドリが割って入る。工場に入った時聞こえた不気味な唸り声の事かと思ったが、すぐに彼女が不安げな表情を浮かべる理由は判明した。
「マエ……ワシに言ワセレバ……ゾ?」
「……不能……理由が……」
ちょうど飛鳥達が立っている真下から、誰かが話し合う声が聞こえてくるのだ。間違っても機械が立てる音ではない。誰もいないと思われていた工場に、飛鳥達以外に人がいるのだ。
外をうろついているロボットをかいくぐったのか、それとも以前から工場に住み着いているのか。どちらにしても敵である可能性を考慮して、飛鳥は才羽姉妹に音を立てない様にと人差し指を立てた。
『接近を確認』
ところが、狙い澄ましたかの様に突然天井から電子音声が降り注いでくる。ギョッとしながら飛鳥がスピーカーを探そうと頭上を照らすが、それらしいものは見当たらない。では一体どの様にこの声は聞こえてくるのだろうか。
『対象の身元を確認。才羽モモイ、才羽ミドリ、どちらも資格がありません。飛鳥=R=クロイツ先生……資格を確認、その生徒である才羽モモイとミドリ両名も合わせて入室権限を付与します』
「何!?なんで私達の名前を……」
「二人共僕の元に!」
連邦生徒会によって封鎖されていた廃墟、そこでロボットに守られている工場、きな臭いとは思っていたが、飛鳥の名を知っていたというだけで途端に状況は危険な色に変化していた。
罠とまでは考えられないが、穏便な結果に落ち着いてくれる保証は無いだろう。モモイとミドリをいつでも守れる様にした上で飛鳥は「本」を取り出す準備をする。
『下部の扉を、解放します』
一瞬にして、飛鳥達が立っていた床は消えていた。落とし穴の様に左右に開く仕組みになっていたのだ。
「ほわぁ!?ええ!?」
「先生、お姉ちゃ、きゃあ!?」
「間に合うか……!」
即座に「本」を開いて、飛鳥は落下するモモイとミドリに風の法術を利用した、急ごしらえのパラシュートを作り出す。落とし穴の下がどの様になっているのかまではわからないが、落ちていった先で怪我をする事だけは避けたい。
落下を開始して数秒後、思いのほか着地は速かった。最初に飛鳥が、次に即席パラシュートのおかげでふわふわとした動きでモモイとミドリが落下してきた。
「え?何、何これ……!」
「これは、先生が?」
「説明は後にしよう。今は僕達が何処に落ちてしまったのかを確認するべきだ。注意して」
飛鳥達が落ちたのは、ぽっかりと穿たれた様な広場だった。舞台の様に盛り上がった部分に玉座らしきものが置かれており、何者かがそこに寝かされていた事を想像させる。
物々しい工場に何故こんなものがあるのか、飛鳥が状況を把握するべく恐る恐る玉座へと近付こうとすると、
「オイオイ!ワシら以外ニ誰カイルトは思ワナカッタゾ!」
「侵入者、と呼ぶべきなのでしょうか。ロボカイ、そちらの判断を仰ぎます」
「侵入者ァ?マぁワシらノねぐらに入ッテキテイルカら侵入者と言エバソウダガ……助けニ来タト考エタイな!」
声。それも二人。飛鳥が「本」を構えて身構えた先、部屋の隅から人影が姿を現した。
(人影は一つ?だが声は確かに二人だったはず……)
「質問、貴方達は何者ですか?侵入者ですか?」
「ん……?女の子……?」
ペタペタと裸足で歩いてきた何者かの姿がハッキリする。少女だ。人形の様に整った顔だが出で立ちはボロボロの布を纏っており、不釣り合いと言うほかにない。
更に飛鳥達を驚かせるものが、少女の真横に『浮遊』している。ピカピカと光るランプの目、灰色の肌、そして無駄にキューティクルを感じさせる金髪、全てが不釣り合いな生首が、なんと頭からプロペラを生やして浮いているのだ。
「ギャアアアアッ!生首、先生生首!おばけ~!!」
「ホントにいたー!?!?」
「アア!?コノ、ガキドモ!人の顔ヲ見テ最初ニ言う事ガ『おばけ』ダトォ!?無礼ダゾッ!」
「同意。しかし、生首が宙に浮いているのが不気味と言われれば、否定できません」
「アリスッ!貴様、ワシとこのガキドモどっちの味方ナンダ!」
謎の工場、謎の玉座、謎の少女と生首。
ゲーム開発部を手伝うだけ、そう思っていた飛鳥はまたもや騒動が巻き起ころうとしているのだと理解するや否や、『やっぱりこうなるのか』とある種の諦めに近い感情を抱くのだった。
Chapter2は原作になぞって先生、つまり飛鳥の出番はそこまで多くありません。
代わりにChapter2は勇者アリスとその仲間達、加えて汚い妖精ロボカイが主人公になります。
ロボカイの台詞くそめんどくさいです。ひらがなとカタカナと漢字がない交ぜです。千葉繁で読み上げてください。