先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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クエスト ユウカをだませ

「なるほど、アリスは無事に言葉を学習できた様だね。少し偏っているみたいだけど」

「モモイ達が見せてくれたゲームのおかげで、アリスは柔軟な言語学習を達成しました。レベルは99で間違いありません!」

「チーっと変ダガまあ、ゲーム遊ンデイル連中ダカラ問題ハ無イダロウ。この際ダ、モモイとミドリも同じ喋リ方ニシテミタラドウダ?」

「いやー、ちょっと難しいかな……」

 

 アリスに言葉を覚えさせる作業は一晩で終了した。モモイ達から勧められたゲームをたった一晩でクリアした結果、彼女は偏った知識、特にRPGを下敷きに学んでしまったおかげで言動の節々にそれらしい単語がちらほら見え隠れしている。

 それでも機械的な話し方よりはマシという事で許容され、モモイが手を回して、アリスは少々癖が強いものの違和感のない話し方と、ミレニアムサイエンススクールに在籍する生徒の身分を手に入れた。才羽姉妹と同様に首から下げられている学生証には『天童アリス』という新しい名前が記されていて、心なしか彼女は満足げな表情を浮かべている。時折じっと眺めては、わずかに頬を緩ませた。

 ミレニアムの長い廊下を歩きながら、アリスは黒く長い髪を引きずりながら自信満々な様子で突き進んでいる。自分が何処の誰なのか、そんなアイデンティティが確かになった事を喜んでいるのだ。

 ロボカイとしても、アリスがひとまず腰を落ち着けられる居場所ができた事に安堵していた。暗く狭い地下でずっと彼女が見窄らしい出で立ちでいるのは我慢ならなかった。

 

「飛鳥先生、私達がゲームをしている間にいなくなっていましたが、何処へ行っていたんですか?」

「少し野暮用というか、呼び出されてね。大した事ではないから心配しないで良い。ゲーム開発部を助けるという依頼を放り投げたりはしないから」

「んもー、飛鳥先生に見せたかったよ。アリスのゲームの上達っぷり!」

 

 ミドリと飛鳥の会話を聞きながらロボカイは片目を細めた。ゲーム開発部の部員達がゲームに夢中で意識が逸れている間にいつの間にか姿を消していた飛鳥だが、明け方になって何食わぬ顔で戻ってきたのだ。

 先生という役職がどうも大変忙しいものだとは察せられたが、ロボカイとしては飛鳥の素性を完全に窺い知れない点がどうにも不信感を抱かせる。何しろ、『あの男』だというのだから。

 飛鳥は自分が『あの男』だと告げてからそれきり、ロボカイに対して何か話しかける事はなかった。話しかけるチャンスが見つからないのだろうが、ロボカイからすれば何を考えているのか全く読めないもので漠然とした不安が消えず、胸(首しかないが)がざわついて仕方ない。

 そんなロボットの心など知るはずもなく、飛鳥はゲーム開発部と連れ立って歩きながら、

 

「それで、モモイ。今から皆で何処へ行くんだい?ゲーム開発に必要な事なのかな?」

「まぁまぁ飛鳥先生。今はアリスを立派な部員をする為に大事な事が先だよ」

「大事な事?身分は手に入れたんじゃ……」

「銃を入手するんです先生。キヴォトスで銃を持たないだんて、大変ですから」

 

 それを聞いたロボカイと飛鳥は顔を見合わせた。あまりにもショッキングな発言がドッキリの類ではないかという気持ちの視線をロボカイが向ければ、飛鳥は頭を振って諦めを促してくる。彼は先にキヴォトスを知り、恐らく同じ様な反応を取ったのだろう。

 キヴォトスの生徒は銃を持って当たり前、なんとも驚愕する内容である。ロボカイは目をパチパチとさせながらも、しかしなんとか言葉を飲み込んだ。

 

「ソレデ?銃ハ何処ニ?武器庫デモアルノカ?」

「ミレニアムに発明が好きな生徒達が沢山いるんだけど、中でも武器開発にも力を入れてる人達がいるんだよ。その名もエンジニア部!しょっちゅう変なもの作ってるけど……技術力は確かだと思う!」

「それは興味深い。アリスに武器を宛がう間、見て回ってもいいかな?」

「え〜!良いけど飛鳥先生、夢中になんないでよね?噂になってたよ〜、シャーレの先生がミレニアムのそこら中歩き回ってたって」

「その件に関しては、この学園があまりにも優れすぎている事に原因がある。本当に困ったよ……でも、今はゲーム開発部が先だ。約束する」

 

※ 

 

「ふむ、新しい武器が欲しい。それで我がエンジニア部にやってきたと。ならば歓迎しよう、幸いな事に試作品を始めとしてそういったものは溢れんばかりにあるからね。ええと」

「はい、天童アリスです。ミレニアムサイエンススクールの一年生で勇者です。魔王は三十六回倒し、四十回程世界を救いました!」

「……なるほど、ゲーム開発部というだけあって個性的な子だね。生首のロボまでついてきている」

「ワシはコイツの付き添イみたいなモンダ。気ニスルナ」

 

 エンジニア部の部室はとても学生のものとは思えない程に多くの発明品で埋め尽くされていた。右を見ても左を見ても、得体の知れないデバイスや不思議な見た目の機械が置かれている。部室というよりかは研究室というのが最適な呼び方かも知れない。

 部長である白石ウタハにしても、外見ならば何処にでもいる少女に見えてしまう。だが、彼女の視線は科学者らしく先程からロボカイをじっと見つめていた。クロウ、というある男が時折見せていたものに酷似しているものだから、嫌な予感がよぎった。

 

「ウタハ先輩、どんな武器があるのか見せて見せて!」

「いや、待って欲しい。確かに銃器は幾らでも披露するが、そこのロボットに聞きたい事があるんだよ」

「エ?ワシ?」

 

 ロボカイが首を傾げていると、ウタハは「失礼」と呟きながら装甲に触れ、首の断面を覗き込み、興味津々といった様子でしきりに頷いた。

 

「面白いな……オートマタではない。見た事のない構造だと一目でわかる。君の名前を教えてくれないか」

「ろ、ロボカイ」

「ロボカイ。決して危害は与えないと約束しよう。私に君を分解させてくれ」

「ハァ!?良イ訳ナイダロウ!?」

「しかし、いや、凄く気になるんだ君の中身が……!」

「イーヤーダー!アリス、助ケテクレ!頼む!」

 

 ウタハの目がギラギラと激しく光る。技術職に長けている彼女からすればロボカイは相当興味深いものなのだろう。事実、異世界と元々の世界では技術体系が異なっている事はロボカイにも察せられた。しかしだからといって初対面の人間に体を預けるなど言語道断である。

 独りではもがくばかりなので救いを求めてアリス、モモイ、ミドリ達三人へと必死に呼びかけるが、

 

「多分、貴女にはこの銃が向いていると思う……小さいけど機能性十分」

「アリス、これ良いんじゃない?」

「コンパクトだしね。ライフル持たせるわけにもいかないし」

「はい、アリスはあそこにあるバズーカが気になります!」

「オイ~~~~!!!」

 

 完全にロボカイそっちのけで別の部員である猫塚ヒビキと共にエンジニア部秘蔵の武器庫を見て回っていた。声が届いている様子はなく、ロボカイは「ヒエエ」と悲鳴をあげながら次に自分と同じ世界からやってきた存在である飛鳥へと視線を向けた。いまいちロボカイとしては怪しさがぬぐえないが、助けを求めれば応じるはず。そう思っていたのだが……

 

「豊見さん、この銃器について質問が……」

「流石数十の部活からの相談を請け負った飛鳥先生!着眼点が鋭いです!これはライターを参考に作ったものでして、着火する如くスイッチを押せば内蔵しているエンジン部分が燃え上がり、火炎放射による移動を可能としているのです!ただ相当のじゃじゃ馬でして未だに使いこなせる生徒が見つかっていない現状です!理論上ゴリラレベルであればいけるかと!」

「面白い……!」

「貴様~~~~!!!」

 

 完全にロボカイそっちのけでまた別の生徒である豊見コトリと激論を交わしている。エンジニア部の生徒と波長が合ってしまっている様で、部室に入ってきてからの飛鳥は目を輝かせてとにかく質問をしたくてしかたがない様子だったが、引率者という名目は完全に消し飛んでいる可能性まである。

 こうなってしまえば恐怖のエンジニアを前にしてロボカイは生首という状態で立ち向かわなければならない。理不尽極まりない。

 

「ま、待テ!ワシの話ヲ聞け!流石ニ人権……ロボ権クライあるダロウ!」

「もちろん、君の意志を尊重するよ。ただそれはそれとして技術者としてまあまあ気になってしまっているわけで」

「ナらコウシヨウ!ワシの内部ヲ見ルニシテモ、条件ガアル!ワシハ見テノ通り体がナイ!無クナッテいるワシの体ヲ直スと約束シテクレタラ、見セテヤランデモナイ!」

「ほう……!ならばこちらから確認を取っておきたい。内部機構の確認にプラスして色々付け足してみたい機能があるんだけど、試してみても良いかな。安心して欲しい、君にとっては都合の良いものばかりになると約束する」

「イヤ、イヤイヤ!何ヲスル気ダ!?」

「うん、とりあえず首だけでは不便だから、そこの戦車に接続するとか……」

「フ~ザ~ケ~ル~ナ~!」

 

 ロボカイの脳裏、否、思考回路によぎったのは戦車の砲塔辺りにポンと接続させられた自分の首である。無残という言葉以外に表しようがない。尊厳について話した直後にその尊厳を放り投げられかけ、ロボカイはウタハに頭を掴まれた状態でブルブルと首を震えて、全力の抵抗を示した。

 

「イイカ、体ガ欲シイとは言ッタガナ!?戦車ハナイダロウ!」

「それはすまない。あの戦車はどのような悪路でも走行可能なエンジニア部お墨付きのものなんだが、確かに君が求めるボディについてはリサーチが足りていなかった。では、まずは君の発声機能を直すというのはどうかな?」

「発声機能……?」

「聞いている限り、あまりメンテナンスをしていないだろう。私ならば直すのにそうそう時間はかからない。まずは私がどれだけの技術を持っているかを君に見せる、それで不満を感じた様ならば、私は一切手を出さないと約束しよう。どうかな?」

「ウヌウ」

 

 そこでロボカイは初めて騒ぎ立てるのを止めた。ウタハの提案でようやく否定できないものがやってきたのである。彼が自分を作り出した終戦管理局から逃げ出してからというもの、ボディの調整、点検などはしばらくの間ご無沙汰だ。挙げ句に首から下は爆散し、とてもでは言えないが万全とは言い難い現状にある。そもそも今の状態は一言で言うならば『悲惨』なのだ。

 首を振れない、振るのが難しい誘いにロボカイはしばらく悩んだ後に、唸り声と共に頷いた。

 

「良イダロウ。貴様ガソコマデ自信を持ッテイルナラ、ヤッテミロ。モシ前ヨリ調子ガ悪クナッタラ、頭ニ噛ミツイテヤルからナ!」

「ふふ……ありがとう、マイスターの名にかけて君をこれまでよりもベターにしてあげよう」

「ロボカイ!」

 

 そこで、アリスの呼ぶ声が聞こえた。ようやく相棒が恐ろしい研究者に襲われかけていたという事態を理解したのか、気付くのが遅いぞ、そうロボカイが一言愚痴ってやろうと声の方向に視線を動かすと、

 

「アリスの武器を見つけました!勇者の剣です!」

 

 小柄な体格には似つかわしくない、恐ろしいほど極太で巨大なレーザー砲をアリスは満面の笑みで掲げていた。細い腕であっさりと持ち上げている様にはロボカイだけでなくモモイやミドリ、何よりエンジニア部の生徒達が一番驚きを隠せない。ロボカイを掴んだままでウタハは衝撃のあまり口を開けていた。

 

「オ、オイナンダそれハ!?」

「誰も持つ事ができないもの……つまり、勇者の剣で間違いありません!光よ───!」

 

 ホクホク顔のアリスが高らかに叫び、レーザー砲の砲口が天井へと向けられる。チカチカと砲身が光ったかと思えば、轟音と共に放たれたレーザーが見事にエンジニア部部室の天井に大穴を空けてしまった。

 

「ロボカイ見てください!アリスの勇者への輝かしきロード、その第一歩です!」

「ギャアアアアア!オイ、エンジニア!アンナ武器まで持っテルのかァ!?」

「ふふふ、あれこそは宇宙戦艦に搭載する予定だったがまず戦艦そのものが予算の問題で完成せずにいたレールガンだ」

「貴様、アレか!?阿呆ナノカ!?」

「ロボカイ!見てくださいアリスの剣を!カッコいいです!」

「コッチに向けナガラ走ッテ来ルな〜〜!」

 

 

「良かったね〜アリス。こんなにおっきな武器もらっちゃって!」

「勇者の剣を手に入れました。次は盾が欲しいです!」

「ロボカイも良かったじゃん!喉直してもらったんでしょ!」

「あー、うン。それは良いんだがナ?」

 

 ロボカイの発声機能はウタハの手であっという間に修復されただけでなく改良までされたおかげで、これまでよりもスムーズな発声が行える様になっていた。アリスもレールガンをエンジニア部より与えられ、一同は大収穫で部室へと帰る最中だ。

 だが当のロボカイは口を真一文字に結び、イマイチ不満げである。

 

「確かにワシ、凄く喋りやすくなったとは思うんダ。だが一つ物申したイ。なんで……ワシはアリスの武器にくっついてるんダ?」

 

 エンジニア部の生徒達はアリスが勇者の剣、もといレーザー砲、でもなくレールガンをいたく気に入ったと見るや快く譲渡するだけでなく、持ち運べる様にと肩紐や取っ手まで付けてくれた。まさにアリス専用の武器というわけである。

 しかもウタハの提案によりそんなレールガンのお尻辺りに特別な加工を施した磁石を取り付け、ロボカイがそこに接着する仕組みまで用意してくれたのだ。

 

「でもこうすれば、飛ばなくても一緒に動けるから……ウタハ先輩の心遣いだよロボカイ」

「うーム……!!」

 

 正面から見れば、アリスの肩にロボカイの首が乗せられている様に見えてしまう。非常に滑稽な絵面で、彼はそれがどうにも気になって仕方がないのだ。

 

「一応、ワシの意思で磁石から離れる事はできるガ……あの小娘、ちょいちょい変な弄り方をしていたのが気になル……」

「ウタハ先輩は変な人かもしれないけど、人に迷惑をかける事はないから大丈夫だって!あ、よく見たらロボカイのうなじのところにケーブル差し込み口沢山できてる。すごーい!」

「うわっ、ほんとだ。大体の規格に対応してるユニバーサルデザインだ」

「はぁ!?ちょ、ちょっと待テ!?ワシのうなじに何!?」

 

 モモイとミドリが面白がって覗き込んでくるが、ロボカイは自分のうなじなど全く見えない。そんなものが取り付けられているなど言われるまでわからなかったし、何よりさらっとえげつない手の加え方である事に衝撃を隠せない。

 素知らぬ顔で「前より良くなったんじゃないかな」などと笑っていたウタハの元に今から戻って頭を噛んでやろうか、とロボカイは怒りに駆られたものの、それはそれとして人間が医者から帰ってきた時と同様に調子が良い事も把握しており、ムムムと呻いた。

 

「ちっ、今日のところは勘弁してやるとするカ。くそぉ、あいつメ……」

「妖精ロボカイがレベルアップして、アリスは嬉しいです。気のせいか肌艶が良くなっている気もします」

「ありがとうよアリス……そういう貴様は、また随分とデカい武器を手に入れたものだナ」

「アリスが武器を手に入れて、ロボカイの調子も良くなったところで聞いておきたい。モモイ、ゲーム開発の方はどうするのかな。G-Bibleは?」

 

 アリスの身の回りが片付いたと判断して、飛鳥は割って入る様に咳払いと共にモモイへと問いかけた。ロボカイが聞いている説明は確か『部員が足りない』というものだったが、ゲームを作る件で飛鳥はモモイ達の面倒を見ている様だ。

 問いかけに対してモモイはふふん、と腕を組んだ。本当に自信満々な表情が鼻につくなとロボカイは思いこそすれど、口にする事は避けた。

 

「それなんだけどね先生。アリスがこうして部員として入ってくれたおかげで、私達の部活は存続できそうなんだよね。部員の数が四人になった以上、ユウカは正式な部を廃部になんてしないはず!まだアリスは部員として承認されてないけど、オッケー!」

 

 調子が良い性格だとは思っていたが、モモイのはしゃぎ様は凄まじいものだった。廃部の危機が思わぬ形で解決できてしまったのがよほど嬉しいのだろう。対して飛鳥は冷静に、

 

「え?いや、でも……ゲームを作って見返すと聞いていた気が」

「ゲームはちゃんと作る!それはホント!でも、ひとまず大急ぎで作る必要はなさそうって話!」

「ふむ、イベントフラグという奴にしか聞こえないけど大丈夫なのかな……」

「だいじょーぶだいじょーぶ!」

 

 こういう事を言う時は大体、飛鳥が言う様にフラグとやらが建ってしまい思いもしない展開がやってくるものである。というよりロボカイに至っては確信していた。はしゃぐモモイは気付いていないが、目的地である部室の前に生徒が一人、明らかに待ち構えているからだ。

 

「……おや?あれは早瀬さんじゃないか」

 

 ロボカイの次に飛鳥が気付き、ぽつりと呟いた。彼もフラグが回収された事を察したのだろう、なんとも言えない表情でこくりと頷いている。

 

「あ!!モモイ、ミドリ!!」

 

 早瀬と呼ばれた生徒は怒髪天と言わんばかりの表情で、凄まじい歩幅で近付いてくる。鬼という言葉はきっとこういうタイプに対して当てはまるのだろう。ロボカイは嫌な予感がしたので、アリスに「ちょっと左にどいておケ」と耳打ちする。言われた通りにアリスはゆっくりと廊下の端辺りに逸れた。

 

「おわ、ユウカ。待ってたの、どうして?」

「どうもこうもないわよ。変な動きをしてるもんだから、ちょっと見に来たの。飛鳥先生を引きずり回してるなんて聞いたのよ?」

「変な動きなんてしてないよ!ちゃんと廃部にならない様に頑張ってるんだから!それに先生はちゃんと手伝ってくれてるんだもーん!ね、ミドリ!」

「え!?あ、うん!そう!」

「ええ……?」

 

 ユウカはモモイとミドリの言葉が全く信用できないと言いたげな表情を浮かべて、飛鳥に視線を移した。

 

「先生?どうなんですか実際のところ。ノアからモモイに連れて行かれたなんて聞いて、びっくりしましたよ」

「二人の言っている通りだよ。僕は彼女達から依頼を受けて、シャーレとして手伝っている。心配しなくても大丈夫」

「しますよ、心配!目を離すと先生はすぐトラブルに巻き込まれるんですから!」

「ブラックマーケットの一件は申し訳なかったよ。あんな事になるとは僕も予想できなかった」

「白目を剥いた先生を看病するの、大変だったんですからね!?途中でお見舞いに来たアビドスの生徒さんまで来て執務室がぐちゃぐちゃになりましたし!」

 

 ロボカイは目を釣り上げて、飛鳥に噛みつくユウカをじっと観察する。嫌っているというよりかは、むしろわざとキツい言い方をしている様に見えて仕方がない。何処かで見た事のあるタイプである。飛鳥も慣れた様子で対応している辺り、喧嘩よりも漫才とでも呼ぶべきだ。

 

「ええと、それで早瀬さん。話をモモイ達に戻そう。廃部の危機はなんとか回避できそうなんだ、彼女……アリスが入部するらしい」

「え?入部?」

 

 飛鳥が手を差し伸べた先はロボカイに言われた通り廊下の端で待機していたアリスだ。ユウカはキョトンと不思議そうな表情を浮かべ、口元に手をやった。

 時は来てしまった。本来生徒ではないアリスが疑われてしまう事態だ。もしもここでこんな生徒は知らないと騒ぎになれば、アリスの立場はおろかゲーム開発部まで危うい。モモイとミドリは意を決して、アリスの元へと駆け寄った。

 

「そ、そうだよ!ゲーム開発部四人目の生徒なの。ね、アリス!」

「私達と同じくゲームが大好きなんだよ!」

「ふむ、とりあえずモモイとミドリは離れて。どうにも怪しい……」

「うええ!?きゅ、急に何言うのぉ!」

「続きは部室に入って話しましょうか。このタイミングでの入部だなんて、色々取り調べの必要ありそうだし。飛鳥先生も良いですよね?」

「……大丈夫だよ。アリスは立派な部員だと証明してくれるだろうから」

 

 

 拒否権などない。むしろ下手に拒否した時の方が立場は危うくなる。モモイとミドリの弁護を得られない状況で、アリスはユウカと一対一でちょっとした面談を行う事となった。

 薄暗い部室のカーテンがユウカによって勢いよく開かれ、日光が差し込んでくる。アリスは光を背負う形で床に座り込み、真向かいにユウカが同じく腰を下ろした。まさに『取り調べ』といった雰囲気だ。モモイとミドリは割って入らない様にと部室の隅で体育座り、飛鳥に至っては部室の外で待たされている。そしてロボカイはと言えば、床にゴロリと転がされていた。

 

「さて、まず自己紹介をしてもらえるかしらアリスちゃん」

「は、はい!天童アリス、一年生です。そこにいる生首は妖精のロボカイです」

「え?妖精?」

(馬鹿!ワシをそう呼ぶナ!)

 

 ロボカイは慌てて目をピカッと光らせる。それを見たアリスはハッとした顔で、

 

「ロ、ロボカイは昔からアリスと一緒にいるんです。ですので、妖精みたいなものだと思ってますです、はい」

「そ、そうだ、デス。ワシとアリスは、長い付き合いダ」

「な、なるほど。じゃあアリスちゃんはどうしてゲーム開発部に入部する事を決めたの?開発なんていうんだから、ゲームを作ってみたかったり?」

「は、はいぃ。ゲームは楽しいです。私も作ってみてかったです。特にRPGはアリスの思考回路を焼き尽くしかけた衝撃的な体験でした」

「ゲーム開発のどういった部分を担当するの?」

「ええと、アリスはプログラマーです。大変厳しい仕事です。二四時間働きます」

 

 アリスが言葉を覚えてきた段階で、知らない人と話す時はできる限り自然な自己紹介をする様にとはモモイもロボカイも口を酸っぱくして話していたが、緊張の為か既に崩れ始めている。違和感だとかそういう問題ではない、明らかに怪しい。

 しかしだからといってここで妖精ロボカイが助け船を出してなんとかなるだろうか、怪しまれはしないだろうか。

 

「ふぅん、一応ゲームへの知識もある、熱意もある……でも変ね、こんな子がいたらもっと早くに気付いていたと思うんだけど」

「ア、アリスは今月になって入学しました。申請が滞っているばかりにまだ授業が受けられていないだけです」

「……ちょっと待ってね。生徒名簿を確認するから」

 

 ユウカは怪訝な目で携帯端末を取り出し、画面に集中し始める。数分程で首を傾げながらも、

 

「天童アリス、一年生。間違いなくミレニアムの生徒ね、それに学生証もあるし。うーん……ちょっと話し方が気になるけど、問題はないかしら」

(やっタ!誤魔化せタ!)

 

 モモイの知り合いはどうやら相当なやり手らしい。偽造された身分は問題なくユウカの目をくぐり抜けたのだ。後はアリスがボロを出し過ぎない様に最後までやりきれば……。

 

「あっ!『イノセンス・ギア』!」

 

 またフラグを建ててしまっていたのだとロボカイが気付くのは、モモイとミドリが安堵していた直後にアリスが叫んだ瞬間であった。ユウカが問題なし、と判断したと同時に彼女は喜ばしげの天を衝く様に拳を掲げていたのだ。

 

「え、何、急に」

「はい!格闘ゲームの『イノセンス・ギア』です!バランスが凄まじく気を緩めると一〇秒で試合が決します。いつもアリスは勇者でレベル99なのですが、イノセンス・ギアを遊んでいる時は主人公の『レイニー・グッドガイ』になります!火力が異常なので強攻撃が一回ヒットすれば確殺なので、勝利を確信した時は『あ!イノセンス・ギア』と呪文を唱えます!」

「ちょ、アリス……!」

「勇者?グッドガイ?」

「はうっ……」

 

 完全に言語学習の際に遊んでいたゲームのせいである。よくわからない言葉を叫んだだけでなく、アリスは興奮のあまりおかしな事を口走っていた。

 ユウカの目が急激に細められていく。ナイフの様な鋭さは警戒心がむき出しになっている証拠だ。ロボカイは声を出せるのならば悲鳴をあげそうだった。

 

「……モモイ、ミドリ」

「ひゃい!」

「な、なんでしょう……」

 

 怪しすぎる、そんな言葉がユウカの口から放たれるのだろうと全員が思っていた。だが彼女の口から漏れ出たのは、呆れの感情が交ざったため息だ。

 

「凄い子ね、アリスちゃん。何の話をしているのか全然わからなかった……人並みにゲームは知ってるつもりだったんだけど」

「そ、それで?」

「わかったわ、紛れもなく貴方達の仲間として認める。アリスちゃんを部員として承認するわよ」

「ほ、本当!?」

「ええ、ちょっとさっきの話がまだ飲み込めてないけど……ゲームの話なのよね?多分」

 

 どうやらアリスの怪しい言動はユウカにとっては『わかりづらいゲームの話』として解釈されたらしい。詰め込み教育が逆に功を奏した結果と言えるだろうが、ギリギリのラインである。

 こめかみを押さえてユウカはかぶりを振るが、対照的に才羽姉妹は溢れんばかりの笑みを浮かべながらアリスへと駆け寄って、きゃいきゃいとはしゃぎ始めた。

 

「わぁい!部員が揃ったし、ひとまず廃部はナシだね!」

「アリスちゃん、これからよろしく!」

「はい!今から次のゲームが楽しみです!」

「……あ、そうだ。私はこれで一度戻るけど、今月以内に何かしらゲームを作って発表してね?でないと廃部だから」

「はーい!え?何?」

 

 これにて一件落着、万事解決。アリスが大好きなRPGであれば勝利のファンファーレが奏でられるだろうタイミングで、ユウカはぽつりと言い放った。これには時が止まった様にはしゃいでいた三人も動きを止めてしまう。

 

「色々ルールが変わったの。規定人数が満たされていても、結果を出せない部活は廃部って。頑張ってね」

「ちょっ、ええ!?ま、待ってユウカー!」

 

 バタン、と返事もせずにユウカは部室から出て行った。代わる形で飛鳥が恐る恐る入ってくる。会話はしっかり聞かれた様で、何度か納得した顔で頷く。

 

「やはり、こうなるんだね。モモイ、ミドリ、ゲーム開発を始めるとしようか」

「あ、あう、あう……楽しいゲームライフが……!」

「私達の、部活が……!」

「アリスの、ゲーム……!」

 

 ゲーム開発部はまだまだハッピーエンドには辿り着けない。むしろこれから始まったと考えるべきだ。

 ロボカイは衝撃のあまり表情が固まっているモモイ達を見ながら、ため息をつくのだった。

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