先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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なんだか色んな方に読んでもらえて嬉しいです。頑張ります。
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飛鳥も使えます。無茶苦茶難しいです。


先生は魔法使いらしい⑴

「ねーねー、先生のラジオってなんで数字をずっと言うだけなの?先生が世間話したりとかする内容だったら私も聞きたいのに〜!あ、ゲームもしたいなゲーム。私達ゲストに呼んだりして、『飛鳥=R=クロイツの!キヴォトス!ディドゥーン!!』って」

「あのラジオは脚色もしないし、わざと制作の意図を隠しているんだ。そういう実験だからね。生徒皆があのラジオに込められている意味を理解して何かをする時が来れば、僕の実験は成功なんだ」

「ふーん……『飛鳥=R=クロイツのキヴォトス・ディドゥーン!』は?」

「……僕には向かないと思うな、そういうのは」

 

 ブラックマーケットは常に活気に満ち、同時に敵意も満ちている。道を歩く者の大半は携えている銃器を撃ちたくてウズウズしている様子で、目を合わせようものなら即座に戦闘態勢へと移行しかねない。

 それだけの危険地帯である以上、自然とマーケット内にも治安維持を目的とした組織が存在している。それでも無法地帯である事は払拭できない辺りが、ブラックマーケットの危険度を物語っていた。

 そしてアルを先頭に便利屋68とシャーレの二人が、そんな市場内を練り歩く。一触即発の地雷地帯だが、それでも目的地へ辿り着く為にはここを通らざるを得ない。

 

「はあ……」

「陸八魔さん、コッペパンの件なら気にしないで欲しい。どの道こちらは見失ってしまったわけだし、不可抗力だ」

 

 本来ならば肩で風を切りマーケット内を練り歩いているところなのだが、アルの様子は落ち込みきっている。がっくりと肩を落とし今にも泣き出しそうな悲痛な表情の理由は、一個のパンによるものである。

 飛鳥がドローンに配達を任せたコッペパンは今頃アルの胃の中で完全に消化された頃だろう。補填したところで、『シャーレの先生から物を盗んだ』という事実は揺るがない。

 何より、

 

「……空から食べ物、降らせたかったぁ」

「ああ、どっちかというとそっちなんだショックなのは」

「いや!違うのよ!?もちろん、先生のコッペパン食べちゃった事は悪いと思っているけれど……もしも食べ物を空から降らせるなんて本当に出来たら、良かったなって……」

「僕もそんな現象を引き起こせるというのなら是非研究してみたかったよ。早瀬さんのミレニアムなら協力してくれただろうし」

「……私が協力する事前提なんですね」

「興味、ないかな?空から食べ物が降る現象」

「まず起こり得ないというところからお話ししないといけないので、激論を避けるべくここはノーコメントで」

 

 ユウカは先程から周囲を細かく観察していた。彼女からしてみれば、飛鳥を今すぐにでもブラックマーケットから連れて帰りたい気持ちが強いのだ。

 ところが飛鳥と来たら市場に足を踏み入れてからというもの常に怪しい露天に惹きつけられて足を止めてしまうのだ。

 

「先生、先程からずっと言いたかったんですが周りをキョロキョロ見ないでください。私達は依頼の為にここへ来ているわけで、観光目的じゃないんですよ」

「うん、けれどもう少しだけこの最新型のデバイスというものを見せて欲しい。もしかしたらドローンを改良するチャンスかも……」

「ダメです。行きますよ」

「……じゃあ、配達の帰りになら寄ってもいいかな。目星はつけておいたからそこまで時間はかからない、二〇分もあれば全部買えると思うんだ」

「無駄遣いしちゃダメです!ただでさえ便利屋の子達に奢った分だけで先生の財布はごっそりと削れているんですからね?」

「でも、いや、けれど……一個だけなら買ってもいいんじゃないかな?シールド発生装置というのだけはとても気になるんだ」

 

 というのは露天の前で繰り広げられたやり取りである。おもちゃをねだる子供とそれを叱る母親そのものだ。

 最終的に飛鳥はユウカに服の裾を引っ張られて無理矢理連れていかれるというあられもない姿を晒す羽目になったが、それでも「気になる……あのアイテム」とあまり反省していない様だった。

 

「か、カッコ良い……!カヨコ、このコート見て。凄いアウトローっぽいんじゃないかしら?」

「社長、先生と同じ目に遭いたい?」

 

 

 目的地まで残り数十メートル。何度かカヨコの目が気に入らないという理由で喧嘩をふっかけてくる不良生徒には出会したものの、その度に撃退しながら一同は順調に進む。

 

「……そういえば先生。依頼の内容とか色々聞いてきたけど、一つだけ忘れていた事があった。どうして私達に、アルに護衛を依頼したわけ?ブラックマーケットに行くっていうのなら、それこそ風紀委員にでも頼めばいいのに」

 

 カヨコが不意にそんな事を尋ねた。飛鳥がそれに答えようと口を開くが、その前にふふんとアルが鼻を鳴らす。いつの間にか気を取り直したのか大袈裟に胸を張って、

 

「カヨコ、それは勿論私がキヴォトスいちのアウトローだからに決まっているわよ。ね、先生?」

「うん、それに関しては……僕から見て君達便利屋68は非常に興味深い組織だからなんだ」

「そうよね、興味深いから……え、興味深いってどういう意味で?」

「便利屋68は簡単に言うなら行き当たりばったりの極致なんだ。全く予想の出来ない行動を取るし、そこから僕では想定しきれない結末を作り出す。そういう点が、ブラックマーケットという危険地帯で良好な方向に作用するんじゃないかと思ってね」

「……えと、つまり?」

「君達は大変な事態を呼び寄せるだろうし、同時に大変な事態でも即座に対応できるだろうという事さ。完璧な作戦は行き当たりばったりに劣る……僕はどちらかといえば、劣る側なんだ」

 

 飛鳥は申し訳なさげに目を伏せるが、アル達は対照的に揃って顔を突き合わせた。

 

「ねえカヨコ、今のって褒め言葉なの?大丈夫?」

「多分褒め言葉だと思う、多分。でなきゃ雇ってもらえていないから、多分」

「行き当たりばったりと言われたらまぁその通りだよね……」

「わ、私はアル様の行き当たりばったりはこの世でいちばんの行き当たりばったりだと信じています!」

「……じゃあ褒め言葉ね!そういう事にしておきましょうか!」

 

 正直なところアルは飛鳥という男の事がよくわからなくなってきていた。以前は面と向かって話しはしたものの、ちゃんと互いの事を知り合っていない。今こうして同行しながら、どうにも天然気質なのではないかという疑惑を覚えている。

 ただ、強いて言うならば便利屋に高評価を与えてくれる点は非常に素晴らしい。あそこまで真面目に接してくれるだけでなく、褒めてもくれるのだ。

 大人とはこういうものなのだろうか、とぼんやり考えながら歩いていたアルは、目的地である倉庫に気付いた。

 

「あそこだね。出来れば何も無い事を祈りたいけれど……」

 

 倉庫前にはアサルトライフルを携行した生徒が二人、門番の様に立ち塞がっている。その時点で怪しさ満点だが、飛鳥は何の躊躇いもなく手を振りながら、

 

「こんにちは、シャーレの飛鳥です。依頼通りコッペパンを持ってきました」

「……ッ!」

 

 飛鳥が話しかけるなり門番はそそくさと倉庫の中に引き下がっていく。一体どうしたのだろうか、と全員で顔を見合わせていると、鉄製の壁の向こうから何やら声が聞こえてくる。

 

『先生が来た!先生が来たぞー!!』

『ふんじばってやれー!!』

 

 少なくとも配達に対する反応ではない。どちらかといえば罠にハマった獲物へのものだろう。

 となれば何が起きるかなど明白である。アル達は一斉に武装を構え、迎撃の構えを取った。ユウカもすぐに嫌な予感を覚えてそそくさと準備を始めるが、ただ一人飛鳥だけはボーッとその場に立ち尽くしている。

 

「あの、コッペパンを届けにきました。ここを開けてくれませんか」

 

 その声かけに応える様に扉が重苦しい音を立てながら開く。そこにはずらりとライフルの銃口が並べられ、その全てが飛鳥の鼻先へと突きつけられていた。

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