先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
申し訳ない……ゲーム開発部編は当初の予定通り対策委員改編よりも短めに終わりそうです。あと4〜5話かな?
なんとファンアートをいただきました!挿絵といい、こんなにいただいていいのでしょうか…!?
「こんにちは飛鳥先生、お元気そうで何よりです」
「そういう生塩さんこそ……と言っても、最後に会ったのは数日前だ。互いに気を遣うものではなかったかな」
「まあ挨拶の様なものですよ。ユウカちゃんは応接室にいますので、ご案内しますね」
飛鳥の来訪に対して、ノアは初めて会った時と変わらぬ笑顔を浮かべる。事前の連絡内容を彼女が知らないはずはない。となれば、ノアにとっては今回の出来事は平常運転でなんら問題がないと判断しているのだろう。
「飛鳥先生、ゲーム開発部の様子はどうでしょう?」
「一生懸命に頑張っている、その点だけは間違いないと思う。ただ少し……問題が起ころうとしているかな」
案内に従って応接室へと向かう道中で、ノアからの問いかけに飛鳥はそう返す。返答に対して笑みは崩れず、むしろ納得する様な首肯があった。
「ユウカちゃんがそれを聞いたらものすごくびっくりすると思いますよ」
「……一応、会う前に聞いておきたいんだけど僕からの連絡を受けた後の早瀬さんはどんな様子だったかな」
「様子ですか?そうですねぇ、心の底から驚いていましたよ。でもしょうがないと思います。『セミナーが襲撃されるからその前に話し合いたい』なんて連絡、普通来ませんから。ふふふ、先生も変な事を考えるんですね」
何処か他人事の様な言葉だが、やはりノアにとって飛鳥が突然知らせたセミナー襲撃は深刻な事態として捉えられていないらしい。ユウカがどうであるか、問題はそこである。
応接室に到着し、ノアがドアを開けて飛鳥に手招きする。言われるがままに室内へと入れば、ユウカがどっしりと待ち構えている。
「やあ早瀬さん、こんにちは」
「こんにちは先生。お話ししていただけますか?ゲーム開発部がセミナーに襲撃を仕掛けようとしている事について」
※
『こんにちは先生。お話ししていただけますか?ゲーム開発部がセミナーに襲撃を仕掛けようとしている事について』
「ひいいい!ユウカ怖ーい!今までよく怒られていたけど、これは過去最高だね……」
飛鳥とユウカの会話を聞く者達がミレニアムの一角、ヴェリタスの部室に集っている。ゲーム開発部、ハッカー集団ヴェリタス、そしてエンジニア部。合わせて十人はいる生徒達はヴェリタスの一員である音瀬コタマが操作するコンピューター前に立ち、聞こえてくる音声に耳を傾けていた。
「ふふふ……まさか飛鳥先生への盗聴を合法的に行えるだなんて思ってもみませんでした。不肖音瀬コタマ、全力で盗聴させていただきます!」
「うーん、合法かと言われると全然そうじゃないんだけど……普通に怒られると思うんだけど、まあ状況が状況だから良いとしよっか!ね!」
「貴様ラ、立派な犯罪者だナ?」
何故、ゲーム開発部の生徒達を筆頭とした軍団が飛鳥とユウカの会話を盗聴しているのか。
そもそも何故飛鳥が単身ユウカの元へと向かったのか。セミナー襲撃とはどの様な経緯で立ち上がったのか、それは数時間前に遡る。
※
「ねーねーロボカイ、あのさ、一回だけロボカイで『BOOM』が遊べるか試してみて良い?すぐ終わるからさ」
「なんだその、BOOMっテ」
「超伝説的ゲームだよ。コンピューターを弄る人間ならば一度はBOOMをどんなに小さな液晶画面であってもプレイ可能にしようと努力するんだ。ねね、ロボカイの目、それ多分プロジェクター機能あったりするでしょ?おねがーい」
「つまリ?ワシの体を使っテ、遊びたいト?嫌だネー!エンジニア部の部長といい、ワシの事をなんだと思っとるんダァ!?」
「ぶ〜!ケチ〜!」
「はぁ……はぁ……あの、皆、遅れてごめん」
ロボカイがヴェリタスのメンバーであるマキに絡まれ、どうやって追い返してやろうかと考えていたところで、モモイからの連絡を受けて飛鳥が息を切らしてヴェリタスの部室へとやってきた。どうやら体力が貧しい様で、入ってくるなりひいひいと息をあげてその場に崩れ落ちかける程である。
「飛鳥先生、おかえり!」
「うん。ただいま。それ、で、説明してもらえないかな。なんでセミナーに襲撃を……?」
のんびりと手を振るモモイに対して呻きながら飛鳥は問い詰めてくる。まさか『G.Bible』の解析から生徒会へと襲撃する事が決まるなど、寝耳に水という他にないだろう。
対するモモイはと言えば決意に満ちた表情を浮かべ、
「まずはロボカイに転送されたデータなんだけど、本物の『G.Bible』で間違いなし!ここまでは良かったんだけど……」
「『G.Bible』にはロックがかけられていたんです。パスワードを入力しなきゃいけないんですけど、ヴェリタスの皆が頑張ってもうまくいかなくて……」
モモイとミドリが説明を終えたところで、ビシッと手を挙げる生徒が一人。ヴェリタスのメンバーであるコタマだ。コタマは手を挙げた姿勢のままで疲れ果てた様子の飛鳥へと走っていくと、彼の手を掴んで上下に激しく振った。
「初めまして飛鳥先生!ミレニアムサイエンススクールの三年生、ヴェリタスの音瀬コタマです!先生にお会いできて光栄です。毎週のラジオを楽しみにしております!」
「あ、ええと、うん……?ラジオを聴いてくれているのは嬉しいけれど、ちょっと急かな」
「こ、これは失礼。『G.Bible』の説明ですね、失礼しました。えー、パスワードなのですが、恐らく突破は不可能と思われます。なので……あるアイテムが必要になるのです」
「アイテム……?」
ロボカイはじっと飛鳥の様子を見つめる。コタマから告げられる諸々を聞かされたら、きっと彼は相当な衝撃を受け言葉に詰まる事であろう。
「正式名称を省いて、『鏡』と呼びましょう。これを使えば『G.Bible』をサッと引き抜いてパスワードを突破できるのです」
「なるほど。で、その『鏡』は?」
「……そこが問題でして。『鏡』は本来我々の所有物だったのですが、セミナーに取り上げられてしまったのです」
「話が、読めてきた。つまり『鏡』を手に入れる為にセミナーを襲撃して、持ち出そうというわけだね?」
飛鳥の顔色がサーッと青ざめていく。少し目を離していた間に話が大事になってしまっているとは『あの男』も想像がつかなかった様だ。しかしすぐに調子を取り戻して、かぶりを振った。
「まず、僕から言える事は……駄目だ。それを認めるわけにはいかない」
飛鳥はハッキリと室内によく通る声で言った。室内にいるロボカイを除いた全員が拒否される事は予想外だったのか、目を剥いて驚く。ロボカイはぼんやりと、
(こいつラ……なんでイケると思ってるんダ?)
飛鳥は生徒達を制する様に手を出して、
「まず一つ。それは立派な犯罪行為なので、先生である僕は認めるわけにはいかない。たとえキヴォトス内で暴力行為がある程度許容されるとしても」
「ほーラ見てみロ。ワシと同じ事言ったゾ!」
飛鳥がやってくるより前、ロボカイはモモイ達の決断に対して同様にNOと突きつけていた。どの様な理由であっても所属する学園に攻撃を仕掛けるなど、はいそうですかと頷けるものではない。飛鳥が帰ってくるまで待つ事、とその場で制止をかけた次第である。
「う、うぐ!ものすごく冷静な返答が来たぁっ!で、でもだよ先生?あの、私達はどうしても『鏡』が必要なわけでね……!?」
「だとしても僕からその許可を出す事はできない。僕の仕事は君達を助ける事であるけれど、だからといって犯罪の助長をするのはその限りじゃないんだ」
飛鳥のやんわりと戒める様に語りかける。怒っているわけではなく諌められては感情的に言い返したところでは意味がない。だからといって引き下がるはずもなく、モモイとマキがギュッと拳を握った。
「で、でもだよ先生!部を存続させるにはなんとしても『G.Bible』が必要なの!先生だって興味持っていたじゃん!?」
「確かに興味はあったとも。でもそれは君達にこれ以上危険な事をさせてまで知りたい事ではない」
「あ、あの先生。私達ヴェリタスとしても『鏡』は取り返したいんだよねー……今野暮用で部長が抜けてる状態だから、帰って来るまでには戻したいっていうか」
「ふむ……でも、だからと言って襲撃については僕としては駄目だとしか言えないよ」
飛鳥は譲らない。頑固の様に見えるが、むしろ言っている事はモモイ達の身を案じての発言である。ロボカイとしても、幾ら目的の為とはいえ危険な事はするべきではないという気持ちである。
と、そこで先程まで押し黙っていたアリスが立ち上がった。技術的な話題はあまり口出しするべきではないと思い口を挟むまいとしていたのだが、
「飛鳥先生。アリス達パーティーは絶対に『G.Bible』を手に入れないといけません!」
「……どうして?」
「だって『G.Bible』はロボカイが体を張って、皆の為に手に入れてくれました。妖精ロボカイが、パーティーの仲間が頑張ってくれた事をアリスは諦める事なんてできません!」
思わぬ発言である。これにはモモイ達だけでなく、ロボカイさえもアリスに注目していた。飛鳥は口元に手をやり、興味深そうな様子で反論に対してしばらく口を閉じた。
「お、おイアリス。別にワシがやりたくてやった事なんだかラ、そこまでしなくてモ……」
「アリスは勇者です。勇者は最後まで諦めたりはしません。だから……『G.Bible』も諦めたく、ないです」
アリスはそこでぎゅっと飛鳥を正面から見つめ返した。ここまでハッキリと感情を露わにし、意思表明するなど初めての事である。ロボカイは驚きと喜びが同時に湧き上がってくる感覚に、これが親の気持ちなのだなと実感していた。
だが飛鳥はどんな反応を見せるのか、アリスの決意を秘めた言葉に対する返答を皆じっと待ち構える。
「なるほど、アリス。君の言いたい事はわかった。モモイや小塗さんの言いたい事もね」
「じゃ、じゃあ……!」
「ふむ……僕にチャンスをくれないだろうか。先生として、武力の行使以外でなんとかして事態を解決したい。『鏡』はセミナーが取り上げた、そう言っていたね?それなら、一時的にでも貸与してもらえないか掛け合ってみよう」
「ホント!?やった!先生大好き〜!」
「ま、待ったお姉ちゃん。先生、もしも『鏡』を貸してもらえなかったら……その時はどうするんですか?」
「うん、それに関しては……僕は君達には協力できない。でも謎の協力者が手伝う……そういう事にしておいてもらえるかな?」
先程までの頑固な姿勢はどこへ行ったのか。飛鳥は示し合わせる様にクスリと笑うのだった。
※
時は戻り現在。もしも飛鳥の取引がうまくいかなった場合を考えて、モモイ達はヴェリタスだけでなくエンジニア部にまで協力を取り付けてその時を待ちかねていた。
飛鳥の同意を得た上で彼にコタマ特製の盗聴器も取り付けて、『鏡』を奪取するべく同時進行作戦を予定しているのだ。
『先生、どうしてセミナー襲撃の件を私達に教えてくれたんですか?貴方はどちらの味方なんですか?』
『僕は生徒の味方、それは揺るがない。だからゲーム開発部の味方でもあるし、君達セミナーの味方でもあるんだ。公平な立場に立っている、と捉えて欲しい』
『公平、ですか』
『彼女達の要求はただ一つ。セミナーが管理している『鏡』を貸してもらいたいんだ。それさえ呑んでもらえれば、こちらも手を引こう』
「流石飛鳥先生、一気に本題へと切り込んだ!」
「でも相手はあの冷酷な算術使いユウカだよ?ちゃんと聞いてくれるかな……」
飛鳥からの要求に果たしてユウカは頷くのか、それとも拒絶するのか。一同はじっと盗聴器から聞こえてくる音声に耳を傾ける。
『……先生、残念ですが、それは無理な相談です。何故ならば先生がおっしゃっている『鏡』とはハッキングツール。つまりはミレニアムにとって、いえ、キヴォトスにとって有害なものであると我々で判断してヴェリタスから取り上げたのですから』
『ふむ……という事は、これまでに『鏡』を用いて何かしらの犯罪が行われたと?』
『どちらかと言えば未遂ですね。ヴェリタスに所属する音瀬コタマ……彼女は『鏡』を使ってある重要人物の携帯端末に対してハッキングを仕掛けようとしたんです。ミレニアムの風評を著しく損う、危険な行為です』
『重要人物?それは一体』
『飛鳥=R=クロイツ。シャーレの先生です』
そこで、ヴェリタスの部員であるマキとハレ以外の全員が音声よりもコタマに視線を向けていた。どちらかと言えばかなり刺々しいタイプの視線を。『鏡』を取り上げられた理由がまさか身近にあるなど想像もできなかったのだ。更に飛鳥のプライバシー侵害を目的としているとあっては、言葉もない。
「いえ、なんていうかこう、不純な意図はありませんでした」
「いやいやいや……!」
「まず手段が不純過ぎル……ストーカーか貴様」
「え、ええと音声に集中しましょうか!」
『それは、驚きだな。昔はよく他人に追いかけられていたものだけど、ハッキングをされかけたのは初めてだよ』
『加えてヴェリタスの部員には他にも問題を起こす部員がいます。例えば小塗マキは公共物へのハッキングや、街の至る所に落書きを残したりと……警察に補導された事もあります』
「ら、落書きじゃないよ!あれはアートだってば!もー!」
「ヴェリタス問題起こしすぎじゃん!も〜!何やってんのさー!」
『極め付けにゲーム開発部。あの部活はロクな活動もせずに違法賭博の場を勝手に設けるわ、レトロゲームを探してという名目で古代史研究会に襲撃を仕掛けるわ……本当なら、既に廃部になっていてもおかしくはないんです』
「モモ!?そっちも酷くない!?何してんのさー!」
「い、いやいや!これはゲームという文化に真摯な姿勢を取った結果というかなんというか……」
「要するに貴様らどっちとも迷惑かけっぱなしのダメダメ連中って事じゃないカ……?」
ユウカの口から隠されていた秘密が暴かれ、モモイとマキはそこでぴたりと口を閉じてその場で色が抜けた様に黙り込んでしまった。
『以上の理由から、セミナーとして『鏡』を貸与するなど不可能だと言っておきます。大体先生も彼女達に甘すぎるんです。いくら先生が信頼を得る事を第一にしていると言っても、問題児達の味方までしていたら大変です!』
『そうだね、大変だ。僕もそれ自体は否定しようとは思わない』
『じゃあどうして?』
『……ゲームを、一緒に遊んだからかな』
そんな言葉を、飛鳥はポツリと呟く。これには真っ白に燃え尽きていたモモイとマキも耳を傾け、続きを聞こうとする。
思えば、ゲーム開発部に協力している間飛鳥は何かを話す事はあまりなかった。一貫してモモイ達を手伝い続けていて、襲撃をするかしないかについて話した時と同様に能動的に話す事など、滅多にしていなかった記憶がある。
『君の言う通り、彼女達は問題児だ。セミナーを襲撃するなんて思いついて本当に実行しようとしているのだから』
『……』
『個人的な話なんだけど、モモイ達が作ったゲームを遊ばせてもらった。初めてのゲームは衝撃的な体験だったよ。こう、電撃が走ったみたいな感じの。多分これからもあの経験は忘れられない』
『テイルズサガクロニクル、ですか?』
『僕とアリスが遊んでいる間、モモイとミドリは心から楽しそうにしていた。新しいゲームを開発するという話をしていた時にも、完成したら遊ばせてくれるなんて約束もした……二人の目は、輝いていた』
テイルズサガクロニクル、悶絶する事は必至の立派なクソゲーであった事には間違いない。ロボカイの中でその評価は永遠に覆らないのも確かである。アリスの精神にまで影響を与えた点も含めれば、恨み節の一つや二つモモイとミドリに言ってやりたい程である。
けれど最終的には皆が楽しんでいた。ロボカイからすれば全てを肯定する事はできないが、途中から参戦したユズを交えてゲームを遊んでいた姿は賑やかだった。
『問題児でも、僕やモモイとミドリ、花岡さん、それにアリスとロボカイの皆で楽しんでいたものが無くなる事だけは避けたい。音瀬さんや小塗さんに関しても、僕の目で見なきゃわからない事だってあるかもしれない。何かを大切に思っていたり、何ものにも代え難いものを持っていたりするかもしれない。そういう点で僕は、先生は、彼女達の頼みを可能な限り引き受けたいと思ってる』
『……なんていうか、先生は変な人です』
『僕は普通の男だよ。有り体に言えば……誰かの夢を尊重したいだけのね』
「ふン──わかってるじゃないカ、あいつメ」
ロボカイはポツリと呟く。何処かのタイミングで助言してやろうと思っていた事を、飛鳥はちゃんと理解している。先生として、大人としての在り方を彼は既に身につけている様だ。
『さて。早瀬さん、脅す様な言い方になってしまって申し訳ないんだけど……交渉が決裂したとあっては彼女達も動き出してしまう。偉そうな事を言っておきながら、この結果を避けられなくてすまない』
『いいえ。むしろ、先生がそこまで言うのならこちらも本気でモモイ達を迎え撃ちましょう。何が何でも『鏡』が欲しいって言うのなら、セミナーは何が何でもそれを拒否するだけです』
飛鳥からセミナーへの要請は却下されてしまった。となれば、残っている方法は一つしかない。
既にゲーム開発部、ヴェリタス、エンジニア部の面々は戦いに備えての準備を終えていた。飛鳥の言葉は彼女達の何かを、確かに後押ししたのだ。
そしてアリスも、レールガンを背中に担ぎ、マントを翻して立つ。心なしかその面持ちは凛々しい。
「勇者アリス!準備万端です!魔法使い飛鳥のバフを受けて、HPとMPは共に満タン!」
「うおっしゃあああ!行くぞセミナー!待ってろ『鏡』ぃー!」
今ここに、問題児連合軍とセミナーによる戦いの火蓋が、切って落とされた──!