先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
ロボカイの助力もありユウカとアスナのコンビを撃破する事に成功したゲーム開発部一同。しかし、運悪くアリスが発射したレールガンは壁一枚を挟んで隣にいたミレニアム最強の生徒、ネルまで巻き込んでしまっていた。
怒り心頭と言った様子のネルはアスナを抱えたまま、目を鋭く細めアリスを睨みつける。
「そこのチビか?あたしにアスナ叩きつけてきやがったのは。見ねぇ顔だな、この時期に新入生かよ」
「リーダーリーダー!あの子だよ、もうすっごいの撃ってきてびっくり!初めてかも〜!」
「おうそいつは良かったな。でよアスナ、いつまであたしにお姫様抱っこされてるつもりなんだてめぇは」
「あはは、ごめんごめん!」
抱きかかえられた状態からぴょんと飛び降り、アスナは体についた埃を手で払いニコニコと笑う。アリスのレールガンが直撃したにも関わらず、まだ動けるらしい。ケロッとした顔で自分より背の低いネルにはしゃぐ姿は交戦していたモモイ達も唾を飲む他にない。
「あれー、そういえばリーダーはなんでここにいるの?お仕事じゃなかったっけ」
「とんぼ返りしてきたんだよ。そこのモヤシに会う為にな。おら先生!こっち来い!」
ネルが苛立ちながら叫ぶと、背を向けている壁の穴から飛鳥が顔を出し、足をプルプルと震わせながら入ってくる。先程まではすぐ近くにいた事に喜んでいたゲーム開発部の面々も状況を確かに理解して、顔色を青くしていた。飛鳥はネルと対決して、そして負けたに違いない。
「そ、そんな!無敵の先生が負けただなんて」
「勝ち負けどころじゃねぇよ。勝手に先生がへばりやがったんだ」
「情けない事に美甘さんの言う通りだよ。見て欲しい、僕の足を」
言われた通りに飛鳥の両足に注目すれば、小刻みに揺れている。恐怖や緊張によるものではなく、どちらかといえば動かしすぎて痙攣しているそれに近いだろう。ぷっとアスナは噴き出して、小動物を愛でるかの様な勢いで飛鳥へと抱きついた。
「あははっ!先生ってば可愛い~!ぎゅってしちゃう!」
「え、ちょっと、息苦しい」
突然たぐり寄せられたおかげで飛鳥の姿勢は崩れてしまい、足を引きずりながらアスナの胸元に顔を押しつける形となってしまう。手をふらふらと動かして抜け出そうとしているが、まるで上手くいっていない。それどころか息ができないのか、少しずつ緩慢になっている始末だ。
そこでネルがさっと助けに入り、飛鳥をアスナから引きはがし、
「もう良いだろ離してやれよ。アカネとカリンは?」
「二人共戦ってるんじゃないかなー?で、私はもう無理かも!立ってるのがやっとって感じ?先生と一緒ー!リーダーも参戦するの?」
『えっ!?』
それは非常にまずい展開である。セミナー襲撃作戦はネルが参加していない事を大前提としていると言うのに、ここぞという状況下でやってくるなどまったく想定していない最悪の状況なのだ。
こういう場合での頼みの綱である飛鳥は見るからに顔色が悪く、頼れそうにない。望み薄という言葉が最適だろう。
「あたしはモヤシ先生に用があってここにいる。関係ねぇっちゃねぇが……C&Cの顔に泥塗りやがった野郎だけはこの手でとっちめておきてぇな?」
ネルの視線が改めてアリスへと向けられる。これはロボカイにとっては危機であり、好機でもあった。ゲーム開発部全員ならば頭を抱えるしかなかったが、狙いがアリスのみだというのならば現状を打開する秘策を彼は既に考えついていたのだ。それも、女子に効果覿面のものである。
「おイ、モモイ、ミドリ、ユズ。あのヤバそうな奴の面倒はワシとアリスで見よう」
「へぇ!?何言い出すのさロボカイ!?あのネル先輩だよ!」
「皆で戦うべきなんじゃ……!」
「良いカ?ワシが奴らの気を惹く。後ろに隠れてロ?ワシが行けと言ったラ、その間にエレベーターへ走って上へ行ケ。まず『鏡』を入手、話はそれからダ。いけるかアリス」
「はい!勇者アリスは妖精ロボカイのサポートがあれば魔王とだって戦えます!」
絶望的とさえ言えてしまうシチュエーションだというのに、ロボカイだけでなくアリスまで自信に満ちている笑みを見せる。これにはモモイ達まで謎の確信を抱き始めていた。もしかしたら本当になんとかなるかもしれない、そんな気持ちに駆られるパワーが今の二人にはあった。勇者のカリスマ、そう呼べるものだろう。
となればロボカイの言葉に従う他にない。一同は意を決してネルに向かい合う。
「作戦会議は終わりか?待ってた甲斐があると嬉しいんだが」
「貴様の相手はワシとここにいるアリスダ。予言してやろウ、これから貴様はワシの言葉に釘付けにされル」
「あぁ?どうしようってんだよポンコツが」
「ふっふっふっ。ただのロボだと思うなヨ、なんとワシには……」
ロボカイは両目を光らせながらアリスとネルの間に飛んでいき、それから口を大きく開けて、よく通る様に声をあげた。
「ワシには、透視機能があルッッ!」
「透視機能だ……?」
「そうだとモ。ワシの目から見れバ、貴様らの何もかもがお見通しダ。意味はわかるカ?ヌフフフ、ヌハハハハハ……平たい胸の奴メ!」
「……~~~~ッ!?」
ネルが意味を理解し顔を真っ赤にして、隣でアスナが驚きに口を開けたその瞬間、それをロボカイは見逃さない。隙をついて新たなボディに備え付けられたもう一つの武装を敵めがけて発射する。
「今ダッ!閃光弾発射ッ!!」
瞬く間に室内を光が埋め尽くしていく。ロボカイの作戦、それは言葉で注意を引きつけ動揺を誘ったところに目くらましを撃ち込むというシンプル極まるものだ。しかしロボカイが取ったのは透視機能という女性であれば取り乱さずにはいられない、有り体に言えば卑怯極まる選択ではあった。しかし無事に作戦は成功し、ネルとアスナは見事に閃光で視界を覆われ、動きが鈍る。
「チャンス到来!行ケッ!『鏡』を取りに行くんダ―――!!」
「行けるかぁっ!」
襲いかかるはモモイの全力右ストレート。キヴォトスの頂点を狙えるかもしれない拳がロボカイの後頭部を思い切り殴り飛ばした。大切な『G.Bible』が入っているはずの頭部が凄まじい勢いで壁に叩きつけられた後に地面を転がり、目のランプがチカチカと点滅する。
「ヌオッ!?モモイ!何をすル!」
「今の話聞いて前進めるわけないじゃん!?透視機能って何!初めて聞いたんだけど!」
「わ、私達のプライバシーもしかして筒抜けって事ぉ!?」
「ろ、ロボカイさん、盗撮魔だったんですね……!」
「ちょっ、待テ!今のはワシの作戦デ!」
「作戦とか知るかぁ!聞き捨てならないとはこの事だよぉ!」
「違、違ウ!よく聞ケ、透視機能は使えんのダ!注意を惹く為の嘘デ……アッ!ネタばらしをしてしまっただろうガ!?どうしてくれるんダ!」
「事前に言えそういうのは〜〜〜!!!」
グダグダここに極まれりである。怒り心頭のモモイ達に囲まれてロボカイが「ギエ~!」と悲鳴をあげる様をアリスはどうしたものかと見つめ、閃光弾の効果が薄れつつあるネルとアスナは少しずつ戻っていく視界に映っているのが醜い仲間割れである事に眉をひそめ、飛鳥は疲れ切ったコンディションに閃光弾が直撃したおかげで耳と目を攻撃され、床に伸びていた。
「……おい、どういう状況なんだよこりゃ」
「なんか面白い展開になってる~!あ、それより先生ヤバいかも?先生、起きて~!」
「ア〜〜!!あいつらが復活したゾ!?ワシの作戦ガー!」
「ひえー!?ロボカイのせいだよー!!」
そして、ロボカイの奮戦も虚しく普通に足止めは上手くいかず、事態は一転どころかむしろ悪化の道を辿っていた。ふざけた戦法に少なからず反応してしまった事を屈辱に感じてか、ネルは怒りに顔を赤く染め上げた。
「おい!まさかとは思うけど今ので本気でなんとかなると思ってたんじゃねぇだろうな!?」
「リーダー、顔赤いから強がっても意味ないよ。閃光弾思い切り食らっちゃったじゃん?」
「うっせぇ!あーちくしょう調子狂いやがる!先生と言いこいつらと言い!もう手加減しねぇからな!行くぞ!!」
「ヒエ〜!もうお手上げダ〜!」
怒髪天のネルがサブマシンガンを構える。ただでさえ強いと言われている人物が激怒状態で向かってくれば、どうなるかなど考えるまでもない。先程まで言い争っていたロボカイとモモイ達は身を寄せ合って顔を青くしてしまう。
銃口から火が噴こうかという、その時、ネルとアスナを包む様に突然半透明な立方体が出現する。それはさながら敵を封じ込める檻だ。
「そこから出る事はできない。時間が来るまで、動かないほうがいい」
何事かと思えば、先程まで昏倒していた飛鳥が一冊の本を片手に立っていた。アスナに介抱されていたおかげで意識を取り戻し、そのまま援護するべく動いてくれたのである。
「み、皆……大丈夫かい?」
「先生〜!ありがとう〜!!」
「もう少し作戦について話し合うべきという話は置いておくとして、今のうちに最上階へ行くんだ。進行に遅れが出ている」
「よ、よぉし!」
飛鳥が作ってくれた時間を無駄にはできない。足早にゲーム開発部の生徒達は閉じ込められて身動きのできないネル達の真横を通り抜け、最上階へと続くエレベーターへとひた走る。アリスとロボカイを除いて。
二人がついてきていない事に気付いたのはユズだった。振り返るや否や、ギョッとして、
「あ、あれ?どうして残ってるの?」
「アリス!ロボカイ!?」
てっきり全員で動くと思っていただけに、動こうとしないアリスとロボカイに才羽姉妹も動揺を隠せない。
先程まで破廉恥極まる作戦を披露しただけでなく少女達から責められていた事などなかったかの様にロボカイは微笑んだ。
「言ったはずダ。奴はワシらで相手をする、とナ。それニ……」
「勇者は仲間を……魔法使い飛鳥先生を見捨てません。モモイ達は『鏡』をお願いします!」
最初から二人の目的はネルという強敵をいかに撃退するかという点に注がれていた。時間を稼いだところで、どの道ネルそのものをどうにかしたわけではない。追いかけてくるのは間違いない。それならばこの場で対処するのが最善と言えよう。
「……よし、わかった!すぐに戻ってくるからねアリス!」
「無理しちゃダメだからね!」
「急がなくちゃ……!」
仲間達は『鏡』を目指し、エレベーターへと走っていく。その間、立方体に囚われたままのネルは怒りを通り越して爆発とでも言うべきレベルの表情で佇んでいる。
しばらくして、飛鳥がため息をつくのに合わせて立方体が解ける。檻から解き放たれたネルはまず銃を砕けんばかりに握り締め、彼を怒鳴りつけていた。
「できんじゃねぇかこういう事ォ!さっきやれよ!?」
「これは本当に仕方なくだから……やりたくてやっているわけではないのだから……」
「ほんっっっとにめんどくせぇ奴!まぁ良い。アスナ、まだやれる事あんだろ。アカネ拾ってすぐ上に行け、あたしはこのチビをやる」
「了解!また後で遊ぼうね、先生!」
モモイ達を追ってアスナもエレベーターへと走っていく。本来ならばそれも止めるべきだとはわかっているのだが、一番の危険はネルである。運良くアリスに集中しているだけ、良い状況と捉えるべきなのだろうが、その全身から放つ威圧感にはアリスとロボカイもぐっと身構える。
飛鳥は法術の使用可能時間が切れてしまったからか、大人しく部屋の隅へと移動して何事もない様にとしゃがみ込んでいた。
「覚悟しやがれよチビ。あたしはフラストレーションがたまりにたまってんだから、な!」
「来るぞアリス!」
ネルの突撃が来る、とすぐに理解してロボカイはアリスから離れていた。戦闘の際に余波を受けない様に俯瞰の視点へと移りサポートに徹する為だ。
アリスもレールガンの砲身を盾にして攻撃に備える。直後に弾丸をばら撒きながらネルの飛び蹴りが砲身へと叩きつけられた。小柄な体からは想像もつかない瞬発力と力強さに、アリスの表情が険しくなる。巨大なレールガンを携行できる彼女の筋力であっても思わず揺るぎかけたのだ。
「ハッ!腰が入ってるじゃねぇか。大体今ので殆どの奴が吹っ飛ぶんだぜ!」
「くっ……」
「そのデッケェ奴でアスナを撃ったんだろうが、この距離で撃とうものならてめぇも巻き込んじまうな?おらどうする!」
ネルの判断は正しい。彼女が敢えて近接戦闘を選んだ理由はアリスとの距離を一気に詰めて、レールガンによる攻撃をそもそも行えなくする為だ。威力が高ければ高い程相手にダメージを与えられるが、裏を返せば下手な距離で撃てば自身も傷つく諸刃の剣と言える。ネルは敵の得物から最適な戦法を選んでいたのだ。
素早く現状を判断し、アリスは攻撃の間隙を突いてレールガンの持ち方を変え、棍棒の様に振り回した。これは流石に予測していなかったのかネルは一度後方へ飛び、体勢を立て直す。
「それ振り回せんのかよ。やるじゃねぇか」
「アリスは勇者なので、光の剣だけでなく斧や棍棒も問題なく振り回せます!」
「勇者だぁ?さっきも言ってたが、よくわかんねえ奴だ。けどまあ、スピードならまだあたしの方が上だぜ!」
再びネルが突撃の構えを取る。それを頭上から観察していたロボカイは見逃さない。
「そこダ!煙幕弾!」
最初にモモイ達を援護する際に放った攻撃を、今度はアリスとネルの間に撃ち込む。途端にスモークが噴き出し、二人は互いに相手の姿が見えなくなっていく。ただ一人、その模様を上空から見ていたロボカイを除いて。
「十二時の方向!そのまま突っ込メ!」
「ふっ!チャージッッ!」
ネルを真似て、レールガンを担ぎながらアリスは床を蹴って煙幕へと突撃する。力強く横薙ぎに振るわれた攻撃に対して、強い打撲音が聞こえた。確かな手応えを感じながらもアリスは油断せずに一度飛び退く。
「ハハハッ、やるじゃねぇかチビ。良い一撃だったぜ今のは。でもな……もっと強いのかましてやるぜ!」
煙幕を突き抜けて、ネルはあっという間にアリスへと肉薄する。これにはロボカイもギョッとせざるを得ない。敵が攻撃してきた向きを確認し、そこに目掛けて突っ込んできたのだ。強引と言わざるを得ないが、優れた身体能力が見せる技術と言う他にないだろう。
咄嗟にレールガンを盾にするアリスだが、一度目よりも強烈な蹴りに体幹が揺らいだ。アッとロボカイは声をあげ、次に何ができるかを必死に考える。
(ワ、ワシに体さえあれバ……!)
と、そこでロボカイは防戦一方のアリスを救うべくヴェリタスの部室へと通信を繋いだ。
「ハレ!コタマ!ドローンをこっちに回せるか!」
『今、セキュリティドローンの権限をこっちで取った』
「なら今すぐワシがいるところに回セ!全部ナ!」
『了解!』
まだネルはアリスに注意が向いている。煙幕を撃たれたにも関わらずロボカイに銃を向けていないのは運が良かったと言う他にないだろう。ならばその認識を利用して、少しでもアリスを援護するしかない。
ネルの猛攻は止まない。絶え間なく撃ち込まれる弾丸と格闘にアリスの守りにも陰りが見えてきている。急げ急げ、とロボカイがうわごとの様に呟いていた、その時である。
『ロボカイお待たせ!ドローン到着!』
「全部波の様に動かしてくレ!」
一斉に室内へとロボカイの首と接続している様な円盤状のドローンがなだれ込んでくる。ハレの手際の良さに心から感謝しつつ、ロボカイはドローンの中に紛れ込み、大波の様な陣形となってアリスを助けるべく突撃した。
「あぁ!?なんだこりゃ!」
「ロボカイ……!」
流石のネルも突如現れたドローンの大波には気を取られる。それでもアリスから注意を逸らしはせず、適切な距離を保ったまま室内を軽快に駆け回り始めた。サブマシンガンの掃射がドローン軍団を撃ち落としていくが、その中に潜んでいるロボカイまでは届かない。しかしながらもしも一瞬でも姿を見せようものなら狙い撃たれておしまいだろう。
ロボカイの意図を読み取ったのか、アリスも意を決してネルへと突撃する。レールガンを振り回し彼女に無理矢理回避の道を選ばせ、地上と空中両方に意識を分散させる。
(チャンスは一度きリ……頼むぞアリス!)
閃光弾第二射の準備を整える。一斉にドローン軍団をネルへと突撃させ、そこから不意打ち気味に至近距離で目を潰す程の光をお見舞いし、アリスがそこをレールガンで撃ち抜こうという作戦だ。ネルが変則的な動きに対応し始めるより先に仕掛けるしかない。
ネルの意識がアリスとロボカイの間で微妙に揺れ動き始め、ロボカイは意を決して突撃を試みる。ドローンを盾に急降下していきながら、ネルが迎撃の態勢を取るのに合わせて速度を上げていく。
「ええーイ!食らエッ!至近距離閃光弾だァッ!」
ドローンの波が一斉に真っ二つに別れ、ネルの目の前にロボカイが躍り出ると共に閃光が炸裂する。完全なる不意打ちにネルの対応が遅れ、ハッキリと隙が生まれる。攻撃を差し込むには完璧という他にないだろう。
今しかない、とロボカイが後方に飛ぶのに合わせてアリスがレールガンの銃口をネルへと合わせる。
「魔力充填、妖精パワー一〇〇パーセント!バランス崩壊!光よぉ───!!」
最大火力のレールガンが放たれる。アスナに撃ったものよりも力強く、直撃しようものならば幾らネルと言えど負傷は免れないと確信できる威力だ。土煙を巻き上げながら放たれた攻撃がネルを襲い、轟音と共に壁に大穴が開いた。
瓦礫がそこら中に散らばり、砂埃で視界がぼんやりと薄れていく。確実に仕留めた、もしくは再起不能まで追い込めたはずである。ギリギリの戦いであったが、勝利と言っても差し支えないだろう。
「ヌハハハ!やったぞアリス!ワシと貴様の協力プレイで大勝利ダ!」
「かなりの経験値が見込めます!レベル99くらいになりたいです!」
足止めどころか撃破にまで至るとは思っておらず、アリスは満面の笑みでガッツポーズを取り、ロボカイはその周囲をぐるぐると旋回する。まさにRPGでたとえるところの勝利ポーズに近かった。実際それ程はしゃいでも、ネルを知る者であれば何も言わないだろう。事実、レールガンの攻撃を見ればまさかネルが無事だとは思えない。
が、
「……は、はっはっは。そこのポンコツ生首、中々おもしれぇ事かましてきやがるじゃねぇか」
「エッ」
「ええ……!?」
壁の大穴から少し横にズレた地点、瓦礫を押しのけながらネルがニヤニヤと笑いながら現れる。擦り傷は負っているが、健在だ。
レールガンはネルを捉えていなかった。むしろ、直撃の前に視界を封じられていたにも関わらず回避してみせたのだ。
「嘘だロ!?今のを避けるのカ!?」
「作戦としちゃ悪くねぇよ。実際、もしも当たっちまってたらどうなってたかわからねぇ。でもな……当たらなきゃ大したこたぁねぇんだよ」
「な、なんて奴ダ……!?普通避けたくても避けられないものではないのカ!?」
「魔王、いえ、もっと上の存在です……強すぎます!」
「はっ、そう言われるのには結構慣れてんだ。わりぃなぁ?で、だ。見たところてめぇらの作戦はもう品切れだろ、どうすんだ」
まるでダメージを受けていない。一体どうすれば攻撃を与えられるというのか。ロボカイとアリスは勝利の歓喜に震えていた先程とは一転し、絶望に満ちた顔色で互いに顔を見合わせてしまう。まさかこれ以上ない程に完璧な連携を破られるなど、想像もしていなかったのだ。
ネルが凶暴な笑みを浮かべながらサブマシンガンを構えて一歩進めば、二人は一歩退く。完全に戦いの主導権は彼女の掌にあり、逆転など見込めそうにない。
『こちらハレ、ロボカイ?大丈夫?』
絶体絶命の危機にハレからの通信が飛んでくる。何かここぞというタイミングで助けを寄越してもらえないかと一縷の望みを託し、ロボカイは必死に返信する。
「大丈夫じゃなイ!ワシ達は一番の大ピンチダ!モモイ達の方はどうなってル……!?」
『それについてなんだけど、今モモイから無事に『鏡』を手に入れたって言う連絡が来てる』
「オオ!?それ早く言エ!それでどうなるんダ?」
『それが……』
ハレが言葉を濁し、何があったのかとロボカイが問いかけようとしたところで、何やらドタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。嫌な予感に彼が眉を吊り上げていると、案の定モモイを先頭としてゲーム開発部の面々が凄まじい勢いで室内へと飛び込んできた。頼もしい援軍、とは言い難い様子である。全員が汗だくで、今にも死にそうな顔色なのだから。
「おわぁ!アリス!?無事!?戻ってきたよ!」
「げっ、ネル先輩まだいる……!?」
「あ、あの、『鏡』はなんとか手に入れたんですけど、後ろから追っ手がバンバンやってきている現状で、あぅ、どうすれば……」
『鏡』は手に入れた。ただそれは誰にも気付かれずにだとか、敵を全員倒したとかではない様で、半ば強盗じみた方法で持ってきたであろう事が息を切らすモモイ達から容易に想像できた。つまるところ、目的は達成したがこの場から撤退する方法はないのだ。
前方にはネルがおり、そして何よりまだ敵がモモイ達を追いかけている始末。どう打開するべきか……その答えをロボカイは知っている。むしろ『鏡』を持っているだけでなく全員揃っているのは絶好のタイミングであると言えるだろう。
「オイ!へばってないで貴様の出番だゾ、飛鳥ッ!」
「……待っていた甲斐はあったかな、うん」
「あっ!?てめ、待ちやがれ!」
モモイ達が駆け込んできた時点でこうなると予測済みだった飛鳥は既に本を開いていた。法術、すなわち魔法には空間転移という並外れたものがある。本来ならば限られた者にしか行使できない力だが、『あの男』と呼ばれる存在であれば話は別だ。ロボカイは飛鳥ならばできると踏み、事実彼はその魔法を発動する準備を終えていた。
「皆、お疲れ様。そして美甘さん、ちゃんと戦ってあげられなくて本当に申し訳ない」
「この、モヤシ野――――」
強敵、美甘ネルの撃破は叶わなかった。しかし最終目標である『鏡』の奪取は無事に成功した。つまり――――反セミナー連合軍とセミナーの戦いは、無事連合軍に軍配が上がったのである。