先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
ミレニアムサイエンススクールの、どちらかといえば陰の濃い部分。反省室と呼ばれる、セミナーから直々に問題児と認められた生徒が閉じ込められる、名前通りの部屋である。
飛鳥は再び反省室へと舞い戻っていた。その手に人生ゲームの箱を携えて。まるで他人の家へと遊びに向かうかの様な姿勢で。
「やあ黒崎さん、こうして顔を合わせるのは初めてになるね。不思議な感覚だ」
「うわあああああああああ!先生だ、本物の先生だああああああ!!久しぶり?初めまして?どっちにしろ先生だああああああ!!!!」
とある一室のドアロックを解除し入室すると、そこには無邪気さというものを全身で表現している様な少女が一人、飛鳥の来訪に手足を振り乱していた。黒崎コユキ、セミナー襲撃事件の際に無線機越しから飛鳥を手助けしてくれた生徒である。飛鳥は手を貸してくれたお礼として、約束通りコユキが欲しがっていた人生ゲームを差し入れとして持ってきたのだ。
兎の様にぴょんぴょんと跳ねていたコユキは、飛鳥が箱を手渡すと、賞状を受け取る仕草を真似て両手を伸ばしてしっかりと手に取ると、そのままの姿勢でペコリと頭を下げた。
「先生!ありがとうございます!」
「ありがとうと言うのは、僕の方だ。これくらいのお礼で喜んでもらえるなら、お安い御用だよ」
「これくらいなんて!私からしたら、クリスマスプレゼントみたいなものですよ~!嬉しいな、嬉しいな!先生、折角だから遊んでいってください~!」
「ふふ、そう言うと思っていたから、少し時間を空けておいたんだ。それで……実を言うと僕はこのゲームのやり方を知らない。良ければ教えてもらえないかな?」
「ええ~!?知らないんですか先生。このゲームはまさに人生を象ったものですよ、人生は不確定、決まりきったものなんてない!そんなメッセージが強く込められている名作、ですっ!」
「ふ、深いな……!」
コユキは得意げに話しながら箱を開けて、中身を勢いよく床にぶちまける。そこから素早い動きで準備を整えていき、数十秒程で人生ゲームはいつでも始められる態勢を整えていた。
「ほら先生座ってください!第二、第三の人生をエミュレートする準備はだいじょーぶですか!行きますよ~!」
「お、お手柔らかに……」
「ゲーム、スタァトォォッ!」
人生ゲームとは名前の通りに、人間の人生をスゴロク形式で追いかけるというものである。飛鳥もスゴロクを触れた事はあったが、そこに複雑なルールが介入した形式は初めてだ。ゲーム開発部と出会ってから、新しい娯楽に触れる事が多くて新鮮である。
飛鳥の運はあまり良いとは言えなかった。ただサイコロを振って出た目の数を進むだけなのだが、どうにもうまくいかない。1や2が出るのは当たり前で、運良く6が出たと思えば止まったマスには『強盗に遭った!金を出せ! 所持金から半分引かれる』など凄惨な出来事にぶつかってばかりで、運も実力の内という言葉を踏まえて見ると、控えめに言って下手くそだった。
「け、結婚詐欺?また所持金が減った……」
「にははは!先生ってば、サイコロ弱すぎー!一方で私は……やったぁ!大金持ちになって大豪邸-!!」
「凄いな……確率の計算は間違いないはずなのに、僕ばかり何故こうなるんだ?」
「計算は確実な様に見えて、運っていう要素は出てくるんですよ。だから私、こういうの大好きなんです!絶対がない、って良い響きじゃないですか!?」
コユキは運を持ち合わせていると表現する他になかった。マスに止まったと思えば幸運なイベントにばかり遭遇し、ゴールする為に必要な所持金もどんどん膨れあがっていく。飛鳥とコユキの差は明確なものとなり、コユキの圧勝だ。
「やったぁぁ!私の勝ち!」
「参ったな……完全に僕の負けだ。何かコツがあるのか?」
「コツはただ一つ、運を鍛える事ですよぉ!それさえできたら、完璧!」
「う、運か。鍛えようと思ってできるものなのだろうか……」
基本的に理詰めでものを考える飛鳥にとって、運という言葉はあまり親しみがない。運が良かったなどと言う表現は好んで使いたくはないし、運頼みよりも正確に物事の運び方を予測するべきだと考えているからだ。しかし実際に不確定極まる運という力でコユキは圧勝してしまっている。何かズルをしている様子もなく、飛鳥は唸った。
「……よし、わかった。僕なりに今度は運を鍛えるとするとしよう」
「え~?ホントですか~?先生にできます~?」
「やれるだけ、やってみるよ。ここまで圧倒的な敗北をしてしまえば、否が応でもその理由を調べたいんだ。今日はここまでにしよう」
「えー!!もっとやりましょうよ~!!ああ、でも先生は忙しいのか……うーん、じゃあまた今度、今度にします!!」
そういうわけで大敗を喫し、黒星がついたままで飛鳥は反省室を出る事となった。
ちぎれんばかりに手を振るコユキに見送られながら部屋を後にすると、廊下でユウカが待ち構えている。腕を組み、眉を釣り上げている姿の威圧感に飛鳥は少しだけ肩を落としかけた。
「先生、コユキに甘すぎるんじゃありませんか?」
「手を貸してもらった礼をしただけだよ。取引の結果として、公正極まる」
「まあ、言ったところで聞かない人なのはよく知っています。それでモモイ達の手伝いもしたわけですし?」
ゲーム開発部を筆頭に三つの部活が寄り集まった連合軍がセミナーを襲撃してから数日が経過しようとしていた。無事に―――それなりの被害をミレニアムの校舎にもたらしはしたが―――ゲーム開発部は『G.Bible』起動をする為に必要な『鏡』を入手した。本来ならばその後もセミナー側から然るべき処罰が飛んできそうなものなのだが、どうやら不問に処された様で、今のところ怪しい話は飛鳥の耳には届いていない。今こうしてコユキに会えたのは、『G.Bible』の内容が明らかになるまでの時間を利用してというわけである。
唯一襲撃事件の後に残された問題があるとすれば、シャーレの先生も関わって襲撃事件が起きたという部分にある。
「ええと、それは僕が生徒からの頼みを受ける立場にあるという前提があって……早瀬さんも、何か困った事があったら言ってもらいたい」
「そうですね、校舎に空けられた穴の修繕費を払うとかはどうでしょうか?」
「ああ、うん……その、善処しようかな」
ユウカからの鋭い視線を受け、飛鳥は思わずさっと目を逸らしていた。セミナーの会計を務めているユウカを前にして金の話になってしまえば、口では負けるに決まっている。何も言い返せないのである。
親に叱られる子の様に縮み上がっている飛鳥を見かねて、ユウカはかぶりを振り、
「幸いC&Cが負担してくれましたよ。理由はちゃんと教えてはもらえませんでしたが……」
「C&Cが?一体どうして?」
「リーダーであるネル先輩の申し出なのだそうです。借りを作る形にはなりますが、セミナーとしてはありがたいところです。ね、先生」
「……本当に、申し訳ない」
「まぁ良いです。こちらとしても、もう終わったものとして処理します。ですが私としては抗議文を送っても良かったという事は、忘れないでくださいね?」
ユウカから釘を刺されるかの様にジロリと睨まれ、飛鳥は気まずそうに頬を掻く。どうやら完全にへそを曲げてしまったらしい。どうやって機嫌を取れば良いのかと嫌な汗をかき始めたところで、ユウカはため息の後に、
「それにしても、『G.Bible』ですか。私でも噂は聞いた事がありますよ。最高のゲームを作る方法が書いているとか……まさか実在していただなんて。先生もご興味があるんですか?」
話題が逸れた事に安心しつつ、飛鳥は言葉に詰まった。ユウカにならば『G.Bible』というものに対する興味がどの様なものであるのか、全てを話しても良いかと思い立ちこそした。しかしながら一度、自分自身と会話したおかげで彼の心には『自分が好ましいと思う話は他人から見ると非常につまらない、もしくは危険』という認識がようやく刻み込まれ始めている。
話すべきか、それとも当たり障りのない回答で返すべきか。飛鳥が黙り込んだ事を不審に思ったのか、ユウカが顔を覗き込んでくる。
「先生?どうかされたんですか?」
「ええと、一応確認したい。僕はもしかしたらデリカシーの無い事を言うかもしれない。良いかな?」
「?良いですけど……」
「ありがとう。僕は人を確実に喜ばせる技術とはどんなものなのか、確かめたかったんだ。どうすれば人の感情にある程度の指向性を持たせる事ができるのかとね?」
そこでユウカは思い立ったのか、指をピンと立てて、
「世界平和……その為に『G.Bible』が欲しかったんですか」
飛鳥は滅多にラジオ放送の意図を他人には明かさない。何故ならばその意味は教えるものではなく、気付かせる為にあるという前提の元で放送しているが故である。絶対に教えたくないというわけではないので、ユウカを始めとして一部の生徒には意思表示を兼ねて伝える事もあるが、あくまでも透明な数字というわけである。
「簡単に言えばそうなるかな。人の感情は心理学や精神医学で論理的に解き明かす事はできても、だからと言ってそれだけでは人の全てを理解したとは言い難いところがある。特に僕の様な人間はね。だから……誰もが楽しめるゲームを作る方法を覗けると言うのなら、是非とも確認したいんだ。そうすれば、怒りの感情を愛にエンコードする方法が見つかるかもしれない。たまに起きるキヴォトス内での暴行や犯罪を抑制できる技術も」
飛鳥の言葉に対して、ユウカは怪訝な表情を浮かべる。予想が的中した事に彼は深く頷き、
「わかっているよ。こう思っただろう?人間の感情を抑制する、聞こえは良いけれどそれは一線を越えれば、ロボトミー手術の様に倫理的な危うさを持つと。その点は僕も理解しているつもりだから安心して欲しい。僕は単に、ポジティブな観点から争いを避ける為の方法を作り上げたいんだよ。ニュアンスとしてはほら……早瀬さんが以前言っていた奴だよ。悲しみも怒りも、因数分解するって言う」
「あ、あれは喩えです喩え!やめてくださいよ、このタイミングで持ち出してくるのは!」
顔を一瞬にして赤く染め、ユウカは今にも煙を吹き出しそうな顔で悲鳴をあげた。以前一度だけ聞いたフレーズだったのだが、どうも本人からすれば触れて欲しくないらしい。
「え、駄目かな?良いと思うんだけど、因数分解。絆と定義してっていうのも……」
「良いですから!掘り出さなくて良いですから!も~!用事を思い出したので、私はこれでっ!」
「あ、あれ、早瀬さん?」
「モモイ達を扇動した件について、後でシャーレに抗議文を送らせていただきますね!!」
どうも一番気をつけるべきポイントは別にあったらしく、顔を赤くしたままでユウカはつかつかと廊下を早足で歩いて行った。呼び止めようとしても飛鳥の声が届く距離からあっという間に離れて行ってしまい、独り残されてしまった事実にしばらく開いた口が塞がらなかった。
「また、間違えてしまった。仕事上の話はうまくいくのにな……」
誤ったコミュニケーションを取ってしまったと遅く知ってしまったところでどうにかなるものではない。次に会うまでに埋め合わせを用意しておくべきなのだろうが、ユウカが何を好いているのかよく知らない。先生だと言うのに、情けない事である。
ガックリと肩を落としていたところで、懐に仕舞ってある携帯端末がぶるりと震える。モモイからだった。『G.Bible』の起動に成功したという連絡だろうかと思いつつ通話ボタンを押したところで、
『せ、先生~!!』
この始まり方はセミナー襲撃を知らされた時に限りなく近い。猛烈に嫌な予感がするものの、飛鳥はとりあえず穏やかな声色で尋ねた。
「モモイ、どうかしたのかい?『G.Bible』は?」
『ひぃぃぃぃん!良いから部室に来てよぉ!』
「起動できなかったのかい?」
『違う違う!起動はしたんだけど……んぎゃああ!!もうやだー!!!』
どうにもゲーム開発部とは、否、キヴォトスとはそう簡単に解決する事件が存在しないらしい。ユウカを怒らせてしまった事は一旦忘れ、気を取り直して飛鳥はモモイ達の様子を見るべく部室へと向かう。その足取りは、気持ちとは裏腹に恐ろしく重かった。
どんな問題が発生したのだろうか。一番予想できるのは衝撃によるデータの破損だが、それならば最悪法術で修復できるかもしれない。ヴェリタスの生徒達にも頼み込めば、なんとかなるはずである。それとも、もしや『G.Bible』などというものは元々存在しておらず、名前が似ている別物だったという可能性もある。だんだんと飛鳥は胃がチクチクと痛み始めた。
早足で部室へと辿り着き、勢いよくドアを開く。見慣れた室内には、信じがたい光景が広がっていた。
「先生、もう、無理。才羽姉妹ここに散る」
「すみません先生。本当にすみません……」
モモイとミドリは床に突っ伏したままでうわごとを呟いている。さながら殺人事件現場じみた姿に困惑しながら飛鳥がアリスとロボカイを探すと、部屋の奥で普段ゲームを遊ぶ為に使っているディスプレイの前にアリスが体育座りをしている。その隣にはロボカイもいた。
そっとモモイ達を横切ってディスプレイの元へと向かっていくと、部屋の隅にあるロッカーがガタガタと揺れる。ユズが中に閉じ籠もっているらしい。アリスの頭で見えなかった液晶画面が見えてくる。黒い背景に何行か文章が記されているが、『G.Bible』のものだろうか。
「アリス?」
飛鳥が声をかけると、アリスは不安げな表情で振り返った。口をわなわなと震わせて、
「先生……大変です。『G.Bible』が、『G.Bible』が」
「コイツはちょっとマズい事になりそうダ。ほラ、見てみロ」
ロボカイに促されて画面を覗き込む。そこには、信じがたいものがあった。
『最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです。そしてこのG.Bibleには、その真理が秘められています。最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法……それを今こそお教えしましょう』
『……ゲームを愛しなさい』
何かが始まる様で、たったそれだけ、それだけしか記されていない。一体全体どういう事なのかと飛鳥は思わずアリスへと助けを求めるが、
「これしか、出てこないんです」
電撃が走るとは、まさにこの事かもしれない。最後の最後で訪れたトラブルを前にして、さしもの飛鳥も言葉が出なかった。
これしか出てこない、そんなはずがない。最高のゲームを作る方法がまさか愛着心一つを指して終わるはずがない。
「な、何かの間違いじゃ」
「ワシらもそう思ったサ。でもナ、続きがあるんだヨ。そラ」
ロボカイが顎でしゃくると、アリスはコントローラーで画面をスクロールさせる。
『あなたがこのボタンを押したということは、ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのでは、何らかのエラーが生じたのでは……と疑っている状況なのでしょう。しかし、エラーではありません。残念ですが、これが結論です。ゲームを愛しなさい!』
「え?」
「これだけダ。ほんっっとうにこれだけしかなイ」
あまりにもそれは筋が通らない。敵をくぐり抜け、時に退けながらなんとか手に入れ、中身を見る為にネルと戦う事態にまで発展したというのに手に入れた宝箱の中身が皆無に等しいなど、理解できない。
思わず手が伸びてディスプレイを掴んでしまう。飛鳥は画面に顔を近づけ、何か隠れてはいないかと探し始めた。
「ま、まさかそんな簡潔なはずがない。こういうのは大抵、答えに辿り着くべく謎が散りばめられているんだ。縦読みの暗号だとか、特定の言葉だけを抜き取ると正しい文章になるとか、そういう……ものが」
ところがどれだけ探してもそれらしいものには見当たらない。さーっと血の気が引いていく感覚と共に、
飛鳥はその場に尻餅をついていた。
「ゲームを、愛せ?それが人の感情を動かす理由になるのか……!?」
眼前に広がる現実を受け止められず、飛鳥は画面を見つめたままでピクリとも動けない。悪い夢とは、まさにこの事である。
「そんなものはメソッドとしておかしい。人の精神や感情は、ある程度法則性や決まり切ったルーチンが根底にあるはずだ。それを愛の一言で、処理できるものなのか?」
「ごめん、ごめんねせんせぇ」
突っ伏したままでモモイがすすり泣く。それに連動してユズが入っているロッカーも揺れ動いた。
「先生に助けてもらって、ロボカイが体張ってまで手に入れたのに、こんなんじゃもうおしまいだよぉ」
「ごめんねアリスちゃん……この部活も、廃部になっちゃうかも」
「っ!?そ、そんなのは駄目です!アリスは皆とゲームできる、ここが好きなのに!」
アリスが声を荒げると、才羽姉妹は床から顔を上げる。今にも泣きそうな表情に活を入れるかの様にアリスは立ち上がり、
「アリスと、モモイとミドリとユズと、先生と、ロボカイのパーティーで今日まで戦ってきました。工場の中を怖がりながら進んだり、セミナーに戦いを挑んだり……紛れもなく冒険と呼べる経験をしました。なのに、ここで諦めるなんてアリスは嫌です!」
「でも『G.Bible』がこれじゃ、良いゲームなんて作れないよぉ……」
「それです。アリスは、どうしてもそこがモヤモヤしていました。もうモモイ達は最高のゲームを作ってくれました、アリスと飛鳥先生はそれを知っています!」
そこで飛鳥も、ディスプレイから視線をアリスへと移していた。拳を握り高らかに叫ぶ姿は勇者の様に立派で、自然と意識を傾けてしまう。
「『テイルズ・サガ・クロニクル』は面白かったです。辛くても、苦しくても、エンディングへ辿り着いたあの瞬間が忘れられません。楽しかったから、最高だと思ったからです!アリスは最高のゲームは最高のゲームでも、モモイ達が好きだと思う気持ちを込めたものが本物の最高だと断言します!」
「おうおう言ってやれアリス。どんどん言ってやレ」
ロボカイが口を尖らせてそう言うと、アリスは更に熱の帯びた言葉を続ける。芯のある力強い姿勢だ。
「だから『G.Bible』がなくても、素晴らしいゲームをまた作れるはずです!アリスも手伝います、だから、エンディングを諦めないでください!」
「アリス……」
「終わったならワシからも言わせてもらうゾ」
今度はロボカイが頭からプロペラを出してモモイとミドリのそばへと飛んでいき、首の根元で二人の頭をこつんこつんと順番に叩いた。小気味良い音に続いて「うぎゃっ」と二人の悲鳴があがり、同時に飛び上がる。
「いったぁ!何すんのさロボカイ!?」
「結構、ジーンと痛む……」
「ハァッ!この阿呆共メ!駄目駄目、駄ー目な奴らだナ!?久々に言ったわこレ!」
「だ、駄目!?何が!」
「なぁーにを勘違いしとるんだ貴様らハ。ユズもだゾ」
ガタガタとロッカーが揺れ、僅かに開いた扉からユズが顔を覗かせる。全員がいる事を確認してからロボカイは頷き、
「飛鳥の言っていた事、忘れたのカ?あの時、ワシをそっちのけで遊びながら楽しそうにしてたのは何処の連中ダ?」
「……私達だけど」
「だったら答えは出てるだロ。ここにでっかいファンもいるんだゾ」
「答え……?」
「―――『テイルズ・サガ・クロニクル』を完成させるまでの時と、一緒だね」
いつの間にかロッカーから出ていたユズが、そう呟いた。ちょこんと才羽姉妹の隣に腰掛けて、苦笑いを浮かべている。
「私がプロトタイプを作ってネットに上げた時、ものすごく叩かれた。でも……モモイとミドリが面白いって言ってくれた。だから三人で頑張って完成させたんだよね」
「……そう、だったね。言われてみれば。そうやって完成したんだった」
「じゃあ答えって言うのは……」
ロボカイは笑みを浮かべて、ほんの少し優しげな瞳でアリスと飛鳥を見つめた。
「今度はモモイとミドリの二人ガ、自分達のゲームを楽しんでくれた奴らの為に頑張る番じゃないカ?」
「……っ」
そこでおもむろに飛鳥はモモイ達の元へと膝立ちの姿勢で歩いて行く。ロボカイの言葉に突き動かされるかの様に口が動き、
「まだ約束を、覚えてくれているかな。モモイ、ミドリ」
「約束……う、うん!」
「新しいゲームを作ったら、飛鳥先生が最初のプレイヤーになってくれる!」
「僕からもお願いしたい。君達が作るゲームを、僕に遊ばせて欲しい。僕も……君達のファンだ」
モモイとミドリは顔を見合わせた。先程まで淀んでいた二人の目に、確かな闘志が宿ろうとしている。ユズは既に決心した様子で、両手をぎゅっと握りしめていた。
「よ、よし!じゃあ、部長として、部を守る長として……モモイ、ミドリ。ゲームを、作ろう!」
「うん!なんか、元気が湧いてきた!!ロボカイに言われっぱなしなの悔しいし、飛鳥先生との約束も守りたいし……アリスにかっこいいところ見せてやる!」
「で、でも月末までもう時間ない。できるかな?」
「できるかどうかじゃない、やるんだよミドリ!よぉし、気合い入ってきたぁ!やるよ、『テイルズ・サガ・クロニクル2』!!」
アリスの一声から、瞬く間に全員の雰囲気が明るく前向きなものへと変わりつつあった。勇者からの激励、否、モモイ達のゲームを愛しているアリスの気持ちがここまで導いたのだ。
「僕にも何かできる事はあるかな?プログラミングくらいはできるけど……」
となれば飛鳥も何もせずに座っている事などできない。率先してゲーム開発を手伝おうかと身を乗り出したが、これをモモイは首をぶんぶん振って、
「いや!先生は初めてのプレイヤーになるんだから、完成まで待ってて!開発側になったらネタバレになっちゃうからさ!」
「え、でも……」
「おイ、飛鳥」
まさか手伝いもせずに待つなど、と食い下がろうとする飛鳥を、ロボカイが服の端を噛んで制止した。何故、と尋ねるよりも先にロボカイは目をキラリと光らせる。
「奴らに任せロ。仕事はもう終わっタ」
「……どうして、そう言えるんだい」
「ワシらがやるべき事は手助けダ。最初から最後までやってしまったラ、意味がなイ。見守ってやレ」
そう言われて、飛鳥はモモイ達の様子を窺う。やる気満々な様子で既に生徒達は顔を付き合わせて、会議を始めていた。
「スタッフは前回と同じで行こう!アリスはアイデアとか出して!うわぁ、やばいよ~、頭の中にどんどんシナリオが浮かんでくる!」
「私も……こんなにまで頑張ろうって気持ちになるの初めてかも」
「い、いつもの震えとは違って今回は武者震いが……!」
「アリス、アイデアなら沢山あります!頑張ります!」
そこにあるのはゲームを完成させようという熱意だけでなく、ゲームを作る事への楽しさが溢れている。残された時間を前にして少女達は心の底から喜んでいるのだ。
ゲームを愛せ。それが『G.Bible』に記されていた最高のゲームを作る方法。まさにその通りなのかもしれない。アリスの言葉に飛鳥はしばらく考え込んだ。楽しいはずと本気で作ったゲーム。なんてあやふやで、確実性のない言葉だろう。
(でも、心を動かすとはそういう事なのかもしれない。感情とは、情動とは絶対的な何かで突き動かされるものではなくて……計数されるものでもないんだ)
そこでようやく、飛鳥は胸がドキドキとしている事に気付いた。ゲーム開発部がどんな新作を作り出すのか、楽しみにしている自分がいる。
(これは……本当に参ったぞ)
「おい!折角だからワシもゲームに出セ!超がつく程のイケメン戦士にしロ、ナ?」
「えー!?なんで!?」
「さっきワシが良い感じの事言ってやったのになんだその態度ハ~!」
「それではロボカイは妖精として出しましょう!首から下は……戦車です!」
「アリス!?正気かァ!?」
賑やかになりつつある様子を見つめながら、飛鳥は口の端をそっと緩めるのだった。
次回ゲーム開発部編は最終話になります。アビドス編からコンパクトにしようと頑張ったら逆にコンパクトになりすぎてしまい、我ながらちょっと悔しく思います。それでも書きたいと思っていたパートは大体書けましたので、その点だけは自己満足ですが一安心。
最終話の後にアビドス編の最後に生やした様なメモリアルロビーも投稿したいと覆います。今回はちょっと描写が足りなかったなと思うので、2~3話は書きたいと思います。
そしてゲーム開発部編の次にはエデン条約編『虚無への抗戦』……をやるつもりだったんですが、今回出番が薄かったC&Cをメインに書きたいと思い、『船とバニーとミルピコと』をというChapterを始めたいと思います。
あと情けない事に×G-Bible○G.Bibleですね!なんで間違えてたんですかねぇ!ちびちび直していきたいと思います。