先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
「まあ……それでは、たった一週間で彼女達は新作ゲームを作ったのですか?」
「そうなるかな。うん、ものすごく無茶をしているというのを遅れて実感しているよ」
「それでもゲーム開発部は新作をちゃんと発表しましたし、かなり話題になっている様ですよ。最初は……前回の印象を引きずったコメントが見られましたが」
コンソールを操作しながら、飛鳥は同じく作業に集中しているヒマリに苦笑いを浮かべる。セミナー襲撃事件から始まって短期間でのゲーム開発までの内容を話すだけでも、あまりにも無茶であると再認識できてしまう。よくもゴーサインを出したものである。
ゲーム開発部が廃部を免れる為に大切な賞『ミレニアムプライス』を決める放送が現在進行形で行われている。そんな時に飛鳥は一人、特異現象捜査部の部室へとやってきていた。ヒマリからの要請に応じて、デカグラマトンに関する情報をまとめる手伝いをしつつ、現在の依頼が一段落した事を伝える為に。
『ミレニアムサイエンススクールが主催するミレニアムプライス!出展された作品の中で、最も評価されるものは一体なんでしょうか!』
一番大きなディスプレイにはエンジニア部のコトリが映っている。ミレニアム全体の部活が出展し合う形式であるからか、エンジニア部もしっかりと参加している様だ。しかも、どういうわけか司会進行まで務めている。
『ではでは!結果発表の前に各部活の部長にインタビューをしてみたいと思います!こちらは数式部の部長さんです!』
『新しい数式をこの場で発表できて嬉しく思います。これも手伝ってくれたシャーレの飛鳥先生のおかげです!』
『新素材部です!飛鳥先生見てますか!ありがとうございました!』
映像越しに手を振っている生徒達に飛鳥は苦笑する。初日に押し寄せてきた生徒達全員の相談を請け負った甲斐はあった様だ。まさかアドバイスをしただけで結果が実を結ぶとは思っておらず、流石はミレニアムの生徒である。
映像内にモモイ達の姿はない。部室に篭って全員で結果を見守っているのだろう。
「先生はどう思われますか?彼女達はミレニアムプライスで表彰されると?」
「僕が今言える事はただ一つ、ゲーム開発部は廃部になんかならない」
「それはどうして?」
「最初の頃に、ゲームが完成したら遊ばせてもらえると約束したんだ。それでできあがったものを数日前に誰よりも早く触れたんだけど……」
そこで飛鳥は言葉に詰まった。いつもならばスルスルと出てくる批評の言葉が、今ばかりはどういうわけか出てこない。ただ自分の感想を述べるだけのはずなのである。
「うん、そうだな。僕はゲームなんてこの前初めて遊んだ人間だから、上手く言えないという事を大前提に置いておくとして」
うんうんと唸りながら、ようやく飛鳥はヒマリへと微笑みかけた。
「とても、面白かったんだよ。ワクワクもしたし、続きがどうなるのかが気になったり……そう、面白かったんだ。僕という人間はいつも周りが好きだと思うものが好きになれなかった人間なのに、シンプルに楽しいと思えたんだ」
「……つまり、先生はゲームが面白かったと思うから間違いなくミレニアムプライスに選ばれると、そう思っているんですね?」
「そう、なるかな」
言葉にしてみると、飛鳥は何故こんな断言ができてしまうのか不思議でならなかった。かつての自分ならば絶対にこんな曖昧な表現を取るはずはなかっただろう。
飛鳥がなんとも言えない表情を浮かべていると、ヒマリはクスクスと笑い、
「良いと思いますよ。楽しいだとか、面白いだとか、そういった感情は必ずしもハッキリと言語化しなくても良いのではないでしょうか」
「そ、そうかな。それなら嬉しい」
少し頬を赤く染めながらも、飛鳥はコンソールの操作を止めない。ディスプレイには先日接敵したデカグラマトンの預言者、ケセドに関する情報が羅列されてはアーカイブ化されていく。
しばらく無言が続く。聞こえてくるのはミレニアムプライスの実況放送の声のみだ。
「……飛鳥先生?」
「何かな」
「本来ならば、今日はゲーム開発部の部室にいるべきです。何故、私の元へ?」
「それについて、そろそろ切り出そうと思っていた。後から知らされて驚いたよ、君が『ヴェリタス』の元部長で、『鏡』を開発した張本人だとね」
そこで、コンソールを叩いていたヒマリの指が止まった。飛鳥も手を止めて、彼女へと足を向ける様に椅子を回転させる。ヒマリの目は、以前法術について話していた時と同じで、冷静極まるものへと転じていた。
「『鏡』は今頃セミナーに戻されている。君がそうする様に部員へ伝えたと聞いたよ。用済みだと言わんばかりに」
「と、いうと?」
「加えてセミナーからC&Cに依頼されていた、『鏡』の護衛も生徒会長である調月さんから取り下げられたらしいじゃないか。僕は探偵じゃないけれど、これには少し引っかかった。明星さんが調月さんの命令でこの特異現象捜査部にやってきたという話も踏まえて」
つい先程まで談笑していたはずの二人の間を、あっという間に冷たい空気感が支配し始めていた。空気が凝結し、ディスプレイから聞こえてくる声が心なしか小さくなっていく。
「あの日、僕を待ち受けていたのは本来いるはずがない美甘さんだった。調月さんの指示で僕と戦う為にやってきたと言っていたんだ。さっきの話と照らし合わせれば『鏡』を巡った諸々には誰かの作為的なものを感じずにはいられない。明星さん、教えてほしい。君は何を知っているんだい?」
「なるほど。つまり先生は私とリオが結託して裏で動いていた……そう言いたいのですね?」
「有り体に言えばそうなるね。疑う様な物言いになってしまって、申し訳ない」
「いえ、構いません。むしろ私としてはご名答、と言っておきましょう」
ヒマリは柔らかな笑みを浮かべて返してくる。これに飛鳥は表情こそ変えなかったが、少し驚いていた。隠し事がバレた反応としては随分と明るすぎる。どちらかと言えば、バレて欲しかったと言わんばかりだ。
飛鳥が思っている以上にヒマリは様々な考えを内に秘めている。その全てを見る事は、よほどのコミュニケーション能力がなければ叶わない事だろう。
「私は『鏡』を敢えてセミナーに取り上げられる様に仕組みました。『G.Bible』の為に生徒達が、そして貴方が動かざるを得なくするべく」
「君と調月さんは僕の持っている力を確かめたかったんだね?」
「同時に彼女が、アリスが何者なのかを知りたかったのです」
予想はできていた。恐らくヒマリと、セミナーの会長であるリオはアリスという少女の身分が突如現れた事を確認した上でその正体を探っていたのだ。でなければ、わざわざゲーム開発部が必要とするものを餌になどしない。
「結果はどうかな?僕とアリスは君達からはどう見えたのかな」
「そうですね……私から見て、お二人共善良な人です。悪しきものとは思えません」
「トゲのある言い方だ。調月さんは、君とは反対の意見なのかな?」
ヒマリは口を尖らせ、
「ええ、彼女は下水道のヘドロじみた精神性ですから。顔も合わせず、言葉も交わしていないのに貴方の事を大変危険視されていましたよ。もちろん、アリスの事も」
「質問。一体何故、アリスを悪しきものとして見るのかな。君達は知っているのかい?彼女が、何者なのか」
飛鳥は言わずとも、ヒマリとこの場にいないリオはアリスが何処からやってきたのかを理解していると気付いていた。だからこそ敢えて核心を突くべく問いかけたが、ヒマリはかぶりを振った。
「……それはきっとリオからお話をすると思います。あのビッグシスターの事です、貴方を味方に引き込もうと考えるでしょうから」
「随分と、調月さんの事が好きではないんだね」
どちらかと言えば穏やかな性格であるヒマリがリオについて話している間は異様に口が悪く、声色も低い。ここまでハッキリと嫌悪の感情を出す相手など飛鳥には想像もつかなくて、つい言葉に詰まっていた。ヒマリも少し熱くなっていると自覚したのか、コホンと咳払いをし、
「できれば、アリスについての諸々は彼女の杞憂であってほしいというのが私の意見です。先生についても同様に。……何もお話しせずに事を進めてしまった事について、リオに代わってお詫びします。」
「僕は構わないよ。信頼を得られたのならば、むしろありがたい。アリスに関しては、次の機会に話そう。今は……結果発表だ」
そこで話を打ち切って、飛鳥はディスプレイを指差す。いつの間にやら結果発表の場は最も重要な、上位七位の発表にまで移行していた。 凍りついていた空気が溶け始め、再び部室内はゆったりとした雰囲気へと変わっていく。飛鳥はヒマリと共に固唾を飲んでその時を待った。
『さて!三桁にも及ぶ作品の中からミレニアムプライスに選ばれた、栄えある上位七つですが……』
順番に部活の名前が読み上げられていく。七位、六位、五位、四位、三位、二位……何処にもゲーム開発部の名はない。ヒマリが不安げに眉をひそめる一方で、飛鳥はじっと視線をディスプレイからは逸らさない。
『第一位は……新素材開発部です!』
最後の部活名が読み上げられた。飛鳥はハッと息を呑み、思わずヒマリへと視線を向ける。全く同じ感情だったのか彼女も似た様な表情を浮かべてしまっていた。
残念、というにはあまりにも心が痛む。単なる結果ではない、廃部をかけた戦いと言っても過言ではなかったのだ。今頃モモイ達がどんな反応でいるのやら、想像するだけで飛鳥は胸がチクチクと痛んでしまった。
何より、確かに面白いと感じたゲームが評価されなかったという部分が口惜しいとさえ思えた。評価されて然るべきだとほんの少し熱がこもりかける程度に、飛鳥はゲーム開発部の新作を気に入っていたのだ。
「先生として、完璧とは言い難い仕事だった」
「先生……」
『えー、ここまでは上位七つをご紹介しましたが……実は今回のミレニアムプライス、なんと前年度と異なり新たな賞が作られました。その名も『ミレニアムプライス特別賞』となります!』
呆然と俯いていた飛鳥はサッと顔を上げた。思わぬ言葉に期待が膨らみ、胸がバクバクと早鐘を鳴らす。
司会者であるコトリと入れ替わる形で審査員の名札をつけたロボットが壇上に現れ、マイクを片手に話し始めた。
『今回、特別賞を作った事には理由があります。ミレニアムプライスとは技術の発展を尊び、進歩を助ける発明に対して賞を贈るものなのですが……今年度はとある部活の出展したものが、ミレニアムプライスの理念と異なるものであると理解した上で、大きな評価をせざるを得ないと我々審査員は判断したのです』
一拍置いて、審査員は高らかにその名を叫んだ。
『久方ぶりに思い出しました。ゲームの楽しさを!別世界を旅する体験を!ゲーム開発部による『テイルズ・サガ・クロニクル2』!こちらに特別賞を贈呈したいと思います!』
会場を歓声が埋め尽くしていく。それは立派な人気の証拠であり、モモイ達が振り絞った努力のハッキリとした証明と言えた。
良い意味で呆気に取られた後、飛鳥は拳を握って頷いていた。
(偶発的に起こるものではない、誰かが誰かを想って成す……奇跡。ゲームを楽しいと心の底から想っていた彼女達の気持ちが、この結果を導いたんだ)
「先生、ここは良いですから彼女達の元へ行った方がよろしいかと。手助けをしていたのは貴方なのですから」
「そ、そうだった。お祝いの言葉を言ってくるよ、失礼する」
慌てて椅子から立ち、飛鳥は喜びに沸いているであろうモモイ達に会いに行くべく部室を飛び出した。足が絡まり転びそうになりながらも、可能な限り早足で。
部室がある階の踊り場まで来たところで、飛鳥は同じ目的地へと急ぐ生徒と出くわした。ユウカだ。興奮で少し顔を赤くし、携帯端末を片手に急いでいた。
「やあ早瀬さん、あの、えっと」
先日の一件を思い出し、どう声をかけたものかとあたふたしてしまう。お詫びの品も用意していないというのにこんなタイミングで会ってしまうなど予想外だったのだ。
ユウカは飛鳥の顔を見るなりギョッとし、すぐに彼の手を掴んだ。
「何してるんですか先生!ほら行きますよ!」
「え!?あうっ、ちょっと……」
ユウカに腕が外れんばかりに強く引っ張られ、飛鳥はつんのめりながら走り出す。まだ怒っているに違いない、そうでなければこんな事をされるはずがないのだ。
「早瀬さん、この前は申し訳なかった。僕としては心からの評価だったつもりだけど、まさかあんな事になるとは予想できなくて……」
「今その話は良いですから!モモイ達の面倒を見ていたのは先生なんですよ、おめでとうと言ってあげてください!」
「あ、あれ……嬉しいのかい、モモイ達が賞をもらった事。てっきり君はあの部活に無くなって欲しいのかと。モモイに聞いたよ、ガラクタとかなんとか言ったらしいじゃないか」
「え」
ユウカはぴたっと足を止め、恐る恐る飛鳥へと振り返る。怒りからなのか顔が前回と同じ様に赤くなっており、また何かミスをしてしまったのかと飛鳥は内心ハラハラし始めた。
「……ええと、それはですね。言葉の綾と言いますか、モモイ達が結果を出せていない事に対してつい言葉が強くなってしまったわけで。わ、私もちゃんとプレイしましたよ!『テイルズ・サガ・クロニクル2』、面白かったです。童心に帰れましたから!」
カッと目を見開いてせきを切った様にユウカはまくし立て、飛鳥は気圧されるあまり身をのけぞらせた。
「よ、よくわからないんだけどごめん。言葉の綾だと言うのなら、僕もそれ以上は追求しないよ」
「ハッ!?いや、その、つまりは私としても結果を出してくれるのなら全然良いんです。頑張ってくれたのなら、こちらとしても喜ばしいので!それよりも部室に急ぎましょうか!」
気を取り直したユウカに再び手を取られて部室へと向かっていく。今頃モモイ達は喜びのあまり大騒ぎしている事だろう。まずはおめでとうと言って、次にプレゼントを渡すべきか、それとも何処かへ食事に連れて行くか。
そんな風に大人としてを意識しながら部室に到着し、飛鳥はさっとドアを開けた。
「皆、放送を見ていたけれど……うん?」
飛鳥の予想は発狂寸前のどんちゃん騒ぎだったのだが、室内は静かを通り越して無である。
才羽姉妹は突っ伏したまま動かず、ユズが入っているロッカーからはもぞもぞと身じろぎの音が聞こえ、アリスはロボカイと共にディスプレイの前で体育座りだ。一週間前にも同じ光景を見たはずなのだが、デジャヴか何かなのか。
「あ、せ、せんせぇ……ごめんなさいぃ」
「ちょっとモモイ、ミドリ?ユズ?アリスちゃん?一体全体、どうしたのよこれは!」
「あひぃ!?も、もうユウカが来た!待って、まだ荷物をまとめてないんだよ!?」
床から顔だけを動かしてモモイが訴えてくる。これには飛鳥もユウカと共に首を傾げてしまった。
「何の事を話しているんだい……?」
「ううぅ、ミレニアムプライスで一位を取れなかったんだからもう廃部は決定。元気が出ないのにユウカだなんて泣きっ面に蜂過ぎるっ!鬼!悪魔!セミナー会計!」
「きゅ、急に罵倒されてる……!?貴女達、ちゃんと放送最後まで見なかったの?」
「お姉ちゃんがディスプレイを破壊したんです。一位、取れなかったし」
話が食い違っている理由は明確だった。モモイ達は順位が明かされるのを見守り、そして自分達が表彰されなかったと早とちりしてそこから先を見届けていなかったのだ。それに気付くと飛鳥は思わずクスリと笑ってしまい、
「ちょっと待ってて。今見せてあげるから」
『本』を取り出し、飛鳥は室内にいる全員が見られる様にと空中へ映像を投射させた。流れている映像はミレニアムプライス授賞式会場のものである。
『えー、今回特別賞を受賞したゲーム開発部なのですが、残念ながらこの場におりません。きっと次の新作に備えているのでしょう』
「あれ!?えっ、えっー!」
「特別賞ォ!?」
「へぇ!?」
モモイとミドリがロケット噴射で打ち上げられたかの様に跳ね、ユズがロッカーの扉を半ば吹き飛ばす様に開けて飛び出してきた。本当に早とちりの結果、大事な瞬間を見逃してしまっていたらしい。苦笑しながら飛鳥は映像を拡大させる。
「アリスもご覧。皆のゲームが評価されている……大成功だよ」
「ほ、本当ですか?アリス達の、皆のゲームが?」
「オ~!本当だ本当ダ!見てみろアリス、凄いゾ!」
「もうっ、私も先生も急いで来たって言うのに。おっちょこちょいなんだから貴女達は……でも皆、おめでとう!」
「ひえぇっ、ユウカからこんな事言われるなんて明日は雪かも……!」
静まりかえっていた部室に明かりが灯る様に、喜びや興奮の声が沸き始める。特に会場内にいる生徒達が『テイルズ・サガ・クロニクル2』の感想を口々に言い出すところでモモイは小刻みにジャンプしてはしゃいで、ユズは頬を赤くしてニマニマ笑った。
夢ではない。アリスの激励を受け、自分達が好きだと感じたものを大切に最後まで諦めなかった結果が特別賞という形で現れている。全員がパァッと顔を輝かせて、じっと映像を無言で見つめた。だが、それにも法術が利用できる間だけである。
「どうかな?今からでも現地に行けば、君達のファンに会えると思うんだけど……」
「行く!行く行く!こうしちゃいられない、皆準備して行くよ~!」
「あ、あわわわ、どうしよう……人前に出るなんて緊張してきた」
「行きたい気持ちと、恥ずかしくて行きたい気持ちで苦しい……怖いぃ」
一転して部員達がドタバタし始める中で、飛鳥はアリスの元へと歩み寄る。目をキラキラとさせながらロボカイと何やら話していたところで彼女は飛鳥へと笑みを浮かべ、
「アリスはとても嬉しいです!モモイ達の部活は無くならない、これからも皆でゲームを遊べる……夢の様です!」
「なんとかハッピーエンドを迎えられたみたいで一安心だ。ロボカイ、君にもお礼を言っておかないと」
「ン?ワシ?」
「見守る事でしか辿り着けないエンディングがあった。適切な距離感というものを君に教えてもらったよ」
「そんなに褒めても何も出ないゾ~ヌハハハハッ!」
「アリスもロボカイも急いだ急いだ!会場で皆をびっくりさせてやろうよ~!」
「本当に騒がしい奴ダ。よシ、ワシらも行くとするかアリス。飛鳥もだゾ」
「もちろん。一番最初に遊ばせてもらったプレイヤーとして、ついていくよ」
「ハッピーエンドのその瞬間を目指して……勇者アリス!走ります!」
モモイが大慌てで部室を飛び出していき、ミドリとユズも軽やかな足取りで続く。やれやれだとロボカイはかぶりを振りながらも、ニコニコと楽しげだ。アリスはいつものマントをしっかり装備して、胸を張って立ち上がるとモモイを追いかけていった。
忙しなく始まったゲーム開発部の物語は、忙しなく終わりを迎えようとしている。多くの壁が立ち塞がったものの、勇者アリスを先頭に戦い続けた果ては完璧なエンディングと言えよう。けれど、見方を変えればそれはエンディングというよりはオープニングとも受け取れる。アリス達の新しい冒険は、今日この日から始まると言っても良いのだから……。
―――Chapter2,fin
※
「にっはっは……飛鳥先生、次はいつ来るんだろ」
ゴロリとベッドに寝転がって、コユキは笑い声を漏らしながら呟く。これまでずっと独りでいた彼女の頭の中は今や飛鳥の存在でいっぱいである。次回までに飛鳥は人生ゲームが上手くなっているかもしれない、そうなったらきっと前よりも楽しい思い出になるに違いない。年齢は上であるが、思わぬ形で大親友ができる予感にコユキは頬を緩めるばかりだ。
もしも反省室から出られたら、その時は飛鳥と共に遊びに行きたい。ゲームセンター、喫茶店、四つ葉のクローバー探し……こんなにも誰かと何かをする事に意欲が湧くのはコユキにとっては生まれて初めてであった。
「へぇ、飛鳥君、随分キヴォトスに慣れてきているんだね。安心したよ」
「には!?」
声。それも外からではなく、部屋の中からである。コユキは驚いてベッドから跳ね起きてしまう。
学習机に誰かが腰掛けている。サングラスをかけた大人が、楽しげな様子でコユキの事を見つめていた。
「だ、誰です……!?どうやってここに!?」
「僕は魔法使いだからね。壁なんてすり抜けられちゃうんだ。僕はハッピーケイオス、飛鳥君の友達」
「友達?飛鳥先生の!?」
コユキは突然現れた不審者に対する警戒心がたった一言で緩んでしまっていた。対人経験に乏しい彼女からすれば、怪しいにも程があるその男の言葉にも飛鳥の名前が関わるだけで途端信用に値するものと見なせてしまったのだ。
ベッドから降りて興味津々なコユキにハッピーケイオスは口元を綻ばせて、
「僕、飛鳥君にプレゼントをしてあげたいと思っているんだよね。先生頑張ってますね賞をさ?コユキ君はどうかな、飛鳥君に何か贈り物をしたくない?」
「贈り物……」
部屋の隅に置いてある人生ゲームの箱に目をやる。飛鳥が持ってきてくれた差し入れである。
楽しくて仕方が無かった飛鳥との一時を思い出し、コユキは迷い無くケイオスへと頷いていた。
「したいです!贈り物!飛鳥先生に!」
「そっかそっか……じゃあ、僕と一緒にプレゼントを探しに行こう。お菓子やジュースも奢っちゃうよ」
「ホントですか!わーい!行きます行きます!あ、でも……どうやってここから出るんです?」
「ふふふふ、言ったよね?僕は……魔法使いなんだ」
サングラスの奥で、ケイオスの目がキラリと光る。その妖しさに、コユキは終ぞ気付く事は無かった。
そういわけでChapter2もなんとか終わりました、応援ありがとうございます。これからも頑張りたいと思います。