先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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メモリアル 寂しさの意味

 ゲーム開発部、通称GDD(Game Development Department)……ゲームはゲームでも古き良きレトロを尊重し敢えてレトロに回帰する事を是とする、ミレニアムサイエンススクールでも一際異彩を放つ部活である。中々に奇行が目立った為に、生徒会であるセミナーから睨まれ一度は廃部の危機に陥っていたが、シャーレの先生から力を借りながらも新作ゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル2』を発売し、ミレニアムプライス特別賞を受賞する快挙を成し遂げた。

 しかし、躍進を遂げ有名人となったGDDの部員達は、

 

「コラー!! 貴様ラ、いつまでゲームやっているんダ!? 今何時だと思ってル!?」

「ま、まだ22時だよ!? あともう一時間くらいは……」

「駄目駄目、駄目ー! 早くベッドか布団か適当なところに入らんカ!」

 

 新入部員、もとい新入部員のお供であるロボカイに叱られていた。

 

「あのナ? この前のミレニアムプライスで折角頑張りが認められたというのに貴様ら何しとるんダ? もうちょっと自覚を持たんカ、自覚ヲ! 色んな奴らに見られとるんだゾ!」

「そうは言っても私達はゲーム開発部だし、ゲームを遊ぶのが使命と言っても良いはずだよ。ね? ユズ」

「い、一応、こうしてゲームをしているのは次なるゲーム開発の為に資料を集めている段階、でして」

 

 ロボカイの指摘に対してミドリとユズが切り返してくる。一理あると言えばあるのだが、彼の目はピカピカと光り、

 

「ワシが言っているのは貴様らの健康管理ダ! 自分は若いから大丈夫〜♪ なんて調子に乗っていると体調を崩ス。いっぱしのクリエイターを名乗るのなラ、自ら体調を管理する事の大切さくらいわかってるんじゃないカ?」

「むっ! 反論しづらいタイプの正論! くう〜、なんていうかユウカをガミガミ系のお母さんとするならロボカイはおじいちゃんだよ……」

「人の事をジジイ呼ばわりするナ。ワシ、起動してからの期間自体は六年くらいなんだゾ」

「そうですよモモイ。ロボカイは妖精だから年齢なんてありません!」

「そういう話はややこしいからやめてくレ、アリス」

 

 ミレニアムプライスからというもの、ロボカイはゲーム開発部に身を寄せ、書類上は部員というよりかは備品として住み着いていた。本来ならば同じ世界の人間である飛鳥がいるシャーレに行っても良いのだが、彼本人の意思でミレニアムを選んだのである。

 それはキヴォトスにやってきて初めて会った存在であるアリスが、そして彼女の友達がいるゲーム開発部を放っておけないというお節介の気持ちにあるが、なんだかんだゆったりとした雰囲気はロボカイを受け入れている。

 だが同時にゆったりとしすぎており、ロボカイが思わず口酸っぱく叱ってしまう現状である。

 

「ワシからの提案はこうダ。明日、外に出て散歩くらいはしようじゃないカ。体を動かせば取り込んだ情報をうまくアイデアに落とし込めるシ、健康にも良いはずダ」

「あっ、それなら前々からの予定があるからちょうど良いかも。ほらこれ」

「うン?」

 

 ご機嫌でモモイはロボカイに何かのポスターを見せてくる。『あの大人気ゲーム ゼルナの伝説新作発売!』と太字で書かれている。発売日の日付は、明日だ。

 

「ふふふ、前から欲しかった新作が遂に明日発売なんだよ。開店前に並んでバーっと買ってバーっと遊ぶのはもう決まってるんだ〜」

「……開店前に並ぶというと大体8〜9時くらいに行くつもりか?」

「うん、そうだよ。だから散歩の方はちゃんとできると思うんだ〜。他にも色々用事があってさ〜?」

 

 能天気に笑うモモイだが、対するロボカイの表情は能面の様に固まりつつあった。何かを察してミドリはモゾモゾと就寝の準備を始め、ユズはロッカーへと戻っていく。アリスはニッコリと笑ったままでその時を待った。

 

「あれ? ロボカイどうかした?」

「……朝早くから動く予定があるのなラ、さっさと寝ロ~!!!」

「ギャー!! ロボカイが怒ったッ!!」

 

 

「パーパパッパパッパー」

 

 勇者アリスの朝は早い。RPGで一夜が明けた時のBGMを歌いながらゲーム開発部の部室でムクリと起き上がると、窓を覆うカーテンをサッと開けて日光が室内に差し込む様にする。一日の始まりとして必ずこの行程を挟む事で、アリスはゲームの強制行動を真似ているのだ。

 

「勇者アリス、今日も一日頑張ります。妖精ロボカイ、準備は良いですか?」

「ああ良いゾ。というか早々に叩き起こしたのは貴様だろうガ……」

 

 アリスの相棒であり妖精である生首、ロボカイは訝しげな表情を浮かべながらも頭のプロペラで浮き上がる。不気味さと奇天烈さが両立した凄まじい絵面であるが、アリスにとっては妖精の特徴に半分くらいは当てはまっているという理由でその様に扱われている。傍から見れば奇怪極まるが、当のロボカイが不満を言っているわけではないので、双方合意である。

 そういうわけで、勇者と妖精のコンビは朝を迎えて早々に部室の中央で顔を突き合わせていた。

 

「さてロボカイ、まずは悲しいお知らせです。今日はモモイもミドリも、ユズもいません。我々だけです」

「アイツらちゃんと起きてゲームを買いに行った様だナ……よしよシ、そうでもないとナ。飛鳥はどうしタ?」

「忙しいみたいなので来られません。レッドウィンター学園に行っていると聞きました今日のパーティーは我々二人です」

 

 ────

『カムラッド行くぞ! 突撃! 進めー!』

『あ、あの、どうして僕も最前線に……!』

『栄誉が待ってるぞカムラッドー! 行くぞー!』

 ────

 

「勇者と妖精だけとは寂しいもんだナ~。まぁ良イ、それならワシから提案がある。貴様の勇者らしさを高める事を今日はしようじゃないカ」

「勇者らしさを、高める? 新しい武器をゲットするクエストでしょうか? それとも金策?」

 

 ロボカイの提案にアリスは興味津々で顔を寄せる。彼女の中では自分は勇者であると考えており、ご丁寧に武器まで光の剣と呼んでいる程だ。ロボカイも特にそれを否定する事もなく、アリスが何処に出しても恥ずかしくない勇者になれる様に手伝おうという姿勢を取っていた。

 目を丸くして話に耳を傾けるアリス。ロボカイはウム、と頷き、

 

「ワシはキヴォトスにやってくるまでに店で働いていタ。働く事で他人からの信頼を獲得していたんダ。勇者って言うのは少なくとも周りから人気で慕われているもんだからナ、貴様も働いてみるというのはどうダ。準備はワシの方で済ませてあるゾ」

「流石妖精です。勇者のサポートは事欠きません……アリスはどうすれば良いですか?」

「フフフ、その意気やヨシ。では良いか勇者よ、今日貴様がこなす仕事ハ……『スーパーハイエレクトロ万事屋 キヴォトス支店』ダ!」

 

 

 万事屋、というのはつまるところ何でも屋である。どんな雑用でもこなして報酬をもらう、非常にシンプルかつわかりやすい労働と言えよう。同時に最も恩を売るという点では最適解の仕事である。ロボカイが万事屋を選んだ理由はこれらに加えて、本来いるべき世界での生業を復活させたいという気持ちだからであった。

 そういうわけで、ロボカイは独りで頑張って作った『スーパーハイエレクトロ万事屋』の看板を首に接続させて、アリスと共にミレニアムの廊下を練り歩いていた。

 

「ロボカイ、それは一人で作ったのですか?」

「そうだゾ。まぁエンジニア部の連中に作業用の体を借りてだがナ。良い出来映えだとは思わんカ、うン?」

「グッドジョブです、ロボカイ。とても目立つでしょう。それで、万屋とはどんな事をすれば良いのです?」

「ワシの時は靴磨きなどやってたガ……ここにいる連中でそういうのを好む奴はそうそうおるまイ。それに貴様は力持ちだかラ、雑用なんかを手伝ってみたらどうダ」

 

 ロボカイの提案の下でアリスは看板と共にミレニアム内で雑用係を求めてはいないかと探索を開始した。ミレニアムそのものの規模は非常に大きい。校舎間の移動は場合によってはケーブルカーを経由しなければならない程である。流石に全てを見て回る事はできないので、いつもの部室を中心として動く事になったのだが、それでもかなりの範囲である。

 それならば身近である程度見知った仲の人間に当たってみるべきだという結論に落ち着き、二人は随分と世話になっているエンジニア部へと向かった。

 

「そういうわけで、アリスにお手伝いできる事は何かありますか?」

 

 エンジニア部の部長であるウタハは突然やってきたアリスに目を丸くした。当然である。どちらかと言えばモモイ達と連れ立って活動しているアリスが、今日は一人でやってきただけでなく雑用を志願してきたのだから。

 ロボカイの首からぶら下がっている看板を見て即座に理解した様で、コクリと頷いた。

 

「手伝える事……そこにある資材を倉庫まで運んでもらえると嬉しい。できたらで構わないよ」

「はい! アリス頑張ります!」

「無理はしなくても大丈夫……いや、君の膂力ならばむしろ我々がやるよりずっと早いか」

 

 ウタハの予想通り、アリスは部室の隅に積まれている、見るからに重そうな資材をヒョイと持ち上げた。宇宙戦艦の砲台、もとい光の剣を軽々と扱えるのだから大体の雑用は赤子の手を捻る様なものである。実際ロボカイはそれを見越して、アリスに万屋を勧めたのだ。

 

「さテ、アリスばかりにやらせるのもアレだからワシもやるカ……」

 

 ロボカイは首に接続していた看板を一度切り離すと、ウタハの下へと飛んでいく。

 

「この前のアレ、もう一回使わせてくれんカ?」

「良いとも。前回のフィードバックも済ませておいたから、きっと作業効率は改善されているはずだ」

 

 ウタハが持ってきたのは人間の腕そっくりのロボアームだ。ただ普通のものと比べて若干長く、ゾウの鼻を思わせる。ロボカイがアームの付け根を首に接続させると、長い腕は意思を獲得した様に滑らかに

 動きだし、肘を曲げて親指を立てるハンズアップの形を取ってみせた。

 この長い腕はロボカイがウタハに『作業用の腕を作って欲しい』と頼み込んで造られたいわばロボカイ専用のアームである。看板を作る際に練習がてら使用したのだが、今はその時よりも滑らかな挙動を見せていた。ウタハの調整はロボカイの癖や力加減と言った細かい部分まで見越しているのだ。

 

「よぉシ! 感謝するぞウタハ」

「君の体を見る代わりに体を提供する、そういう約束だ。マイスターの名に恥じない様に全力で作らせてもらったよ」

「ヌハハハ、おーいアリス。ワシも手伝うゾ~!」

 

 ロボカイが腕を振り回しながら飛んでいくと、アリスはギョッとした。無理もない事である。ロボカイの外観はまず生首があり、その下から長い腕がニョキッと伸びている。どちらかと言えば妖怪の類いである。恐らくこの場にモモイ達がいれば同様なリアクションを取ってしまう事だろう。

 

「ひぇっ、ロボカイがモンスターになりかけてます」

「モ、モンスター!? そんな事言ってくれるナ。これ結構便利だから次はもう片方の腕も作ってもらおうト……」

「く、首から腕を二本生やすのですか!? 立派なモンスターです!!」

「アホ! ちゃんと体も作ってもらうワ! ほラ、さっさと運んじゃうゾ!」

 

 非常に不気味な見た目であるがそれでもウタハが仕上げただけの事はあり、ロボカイは腕一本で資材を持ち上げてみせる。一度に持ち運べる量はアリスよりも少ないものの、十分なパワーを持っている事は明らかだ。

 二人で続々と資材を運び込んでいき、あっという間に部室の片隅は綺麗になった。一時間もかかってはいないだろう。万事屋のおかげ、そう捉えてもなんら問題はない。

 

「ふむふむ、これでクエストを一つ達成しました」

「今回はこんな感じだが、場合によってはお使いだとかをやったりするゾ。部屋の掃除とカ、犬の散歩……二本足で歩いて喋る犬は沢山見たガ、四本足の犬はこの世界にいるのカ……?」

 

 万事屋コンビがやり遂げた表情で倉庫から出てくると、部室はにわかに騒がしくなっていた。最初はウタハしかいなかったのだが、どうやら奥に引っ込んでいたらしいコトリとヒビキの二人が戻ってきた様で三人は顔を煤けさせながら何やら話し込んでいる。

 エンジニア部一同は仕事を終えたアリスとロボカイに手を振り、

 

「ご苦労様。手伝ってくれたお礼だ、ピザを頼むつもりなんだけど一緒に食べないかい?」

「オ~! 初収入だぞアリス!」

「パンパカパーン! アリスはピザを入手しました!」

 

 スーパーハイエレクトロ万事屋の初仕事は、ペパロニとチーズのシンプルなピザだった。

 

「ところでこの弾丸の代わりにチャバスコを発射する銃なんだがどう思う?」

「これを作るのに割と時間要しましたね! ええ!」

「貴様らほんっっっっとうによくわからン」

 

 

 スーパーハイエレクトロ万事屋はそれから小さな仕事を幾つか請け負った。大体がアリスの腕力でなんとかなるものばかりだったのだが、ミレニアムの生徒達は報酬をしっかりと払ってくれる者達が多く、部室に戻る頃にはアリスは両手にお菓子やら何やらを沢山抱えていた。

 

「流石に金はもらえんかったガ……万事屋としては完璧な仕事ぶりだったんじゃないカ? 偉いぞアリス」

「勇者の地道な努力、その一端を味わえたと思います。ロボカイに感謝です」

 

 お菓子をとりあえず部屋の真ん中にどっさりと置き、二人は一息つく。壁の時計を見れば、まだ夕方である。忙しなく動いていたせいなのだが、それにしても時間の流れはゆったりとしていた。

 

「……まァ、モモイ達がいなくてもなんとかはなったナ」

 

 ロボカイはポツリと呟き、

 

「アリス、寂しくはなかったカ? モモイも、ミドリも、ユズもいなかったガ」

 

 恐る恐る、そう尋ねた。アリスは首を傾げたが、にっこりと微笑む。

 

「ロボカイがいましたから、寂しくはありませんでした。勇者としてのクエストも達成できました!」

「オオ、そうカ。それなら良かっタ」

「でも、できればモモイ達とも一緒にミレニアムを回って、万事屋をしたいです」

 

 生徒達から報酬としてもらったお菓子を見つめながら、アリスはぽつりと呟いた。ロボカイはその反応に対して驚きでも同意でもなく、笑みを浮かべていた。

 

「今お前が言った事、それはやっぱり寂しいと言うものダ。でも良いゾ、そう思うのは大切ダ」

「そうなのですか? 皆と一緒にいたい、それは寂しい……?」

「お前にとってはとても良い事ダ。一緒に居ると嬉しい存在、つまりは友達が増えたって事ダ」

 

 ロボカイはお菓子の山から一つ適当なものを取ると、片腕だけで器用に包装紙を破ってアリスへと手渡す。

 

「暗闇の中で生きている奴は自分が独りだという事に気付けなイ。寂しいとさえ思えなイ。寂しいって言うのは嬉しくない感情だガ、そう思えるのはアリスが独りぼっちじゃないという事ダ」

「もちろんです。何故ならモモイ、ミドリ、ユズ、先生、そしてロボカイという仲間がいます」

「うン、そうダ。お前は一人じゃなイ。今日だってエンジニア部の連中と騒がしくピザを食べたシ、新素材開発部のインテリ共とも大騒ぎしタ。皆、お前の周りにいる。だから友達を、仲間を、大切にするんだゾ」

 

 ほんの少しだけ、その時ロボカイの声色は穏やかなものになっていた。愛しい存在に対して心の底からその幸せを祈っていた。

 彼の脳裏をよぎったのは自分と同じ顔の、ずっと駄目駄目な誰かである。

 

「……いなくなってからジャ、大切だったと気付いても遅いからナ」

「?」

「さテ、仕事も終わったところだしゲームでもやるカ? 働いた後に遊ぶのは楽しいゾ!」

「はい! それでは今日はどのゲームを……」

 

 わざと明るい声色に切り替えたロボカイに促され、アリスはゲーム機の準備を始める。いつもとは違う言動の理由を問い詰めないのは何かを察してなのか、気付いていないのか、どちらにしてもロボカイにはありがたかった。

 と、そこで部室のドアがコンコンとノックされる。

 

「おーいアリスー? ロボカイー? 帰ったよー」

「モモイです! 帰ってきたんですね」

 

 ぴょんと飛び上がって走って行くアリスからは溢れんばかりの喜びが感じられた。ロボカイはそれもまたモモイ達の存在が彼女を形作る大切な要素であると再認識し、口の端をそっと緩める。

 廃墟の暗闇はもうアリスには要らない。勇者となった彼女には同じくゲームを、アリスそのものを愛する仲間達がいるのだ……。

 

「うぇーい! ただいまアリスー!」

「お姉ちゃん、箱に気をつけてよ?」

「んぁ!? 貴様ら何だそのでっかい箱ハ!?」

「いやー、新作ゲームだけを買うつもりだったんだけど新作ゲーム機とセットで買えば割引されるって言うからついつい……」

「衝動買いをするナ~!!」

「パンパカパーン! モモイが頑張ったアリスにプレゼントを持ってきてくれました!」

 

 そうして後からユズも戻ってきた事で、ゲーム開発部はいつもの騒がしさを取り戻すのだった。

 この日から時たまアリスは『スーパーハイエレクトロ万事屋』として、ミレニアム内での小さな雑用をこなす様になっていた。これが生徒達の間では小さな勇者と呼ばれる様になるのは、もう少し先の話である。

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