先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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先生は魔法使いらしい⑵

 

「あっ」

「先生ッ!」

 

 飛鳥が気の抜けた声を上げるのと、そばに立っていたユウカが彼を突き飛ばし地面へ押し倒すのはほぼ同じタイミングであった。その瞬間に先程まで飛鳥が立っていた空間に銃弾がこれでもかというほど叩き込まれ、あたりに硝煙の匂いが立ち込める。

 一瞬の静寂、即座に便利屋達は交戦の姿勢をとり反撃の銃弾を不良生徒へと放っていた。

 

「な、なんだこいつらは!?」

「聞いた事があるぞ!便利屋68だ!キヴォトスの壊し屋だ!」

「誰が壊し屋よー!これでも食らいなさい!」

 

 想定通りと言えば想定通りだ。不良生徒と便利屋68による銃撃戦が勃発し、倉庫内の敵へとこれでもかというほどアルの指示のもとでカヨコ達が弾丸を撃ち込む。

 

「……戦闘が始まってしまった。早瀬さん、僕は毎度思うのだけれどもう少し平和的な解決というのは望めないのかな」

「ブラックマーケットまで来てそんなの無理ですって……!ほら先生、もう少し下がってください危ないですから!」

「せめてコッペパンだけでも渡せないかな……無理かな」

 

 銃撃戦の背後では飛鳥がユウカと何やら話し合っており、その内容は銃声が響き渡る中で交わすにはあまりにも呑気なものである。調子が狂うなー、と便利屋の面々は思いつつも目の前の戦闘から注意は晒さない。

 倉庫内には不良生徒が一〇名ほど、武器はアサルトライフルのみ。となれば制圧するのはそこまで苦ではない。アルがムツキへと目で合図すると、小悪魔の様な笑みが返ってきた。

 

「よぉし!じゃあ爆弾行っちゃおー!!」

 

 テキパキとムツキが取り出すのは球状の爆弾だ。ピンを引き抜き、五個ほど勢いよく倉庫内へと放り込めばしばらくして爆発と共にたちまち悲鳴があがり、攻撃の勢いが落ち込む。

 そこからは一気に突撃である。ハルカはショットガンを竹槍の如く構え、カヨコを添えて脇目も振らずに倉庫へと入っていく。

 

「すみませんすみません全員撃てとの事なのですみませんすみません、先生にも色々奢ってもらってしまって良かったのでしょうか、出来る事なら、出来る事なら今すぐにコッペパンも吐き出したいのですが消化してしまって……!!!」

 

 銃声、ハルカの啜り泣き。悲鳴、ハルカの啜り泣き。壮絶な戦い、もとい一方的な殺戮を他の者はじっと見届ける他にない。

 飛鳥が肩を叩いてくる。アルが振り返れば、額に汗を垂らしてなんとも言えない面持ちだ。

 

「そろそろ正当防衛という領域を超えていないかな……?」

「ハルカー!もう良いわよー!ハルカー!?」

「ちょっと、待ってくださいね。今ここ一帯に、爆弾を設置していますので!!」

「ムツキー!カヨコー!止めてー!!!!!」

 

 努力を欠かさない事がハルカの良いところであるが、裏を返せば必要以上にやりすぎしてしまう。アルの命令を完全に逸脱し、いつの間にか倉庫の隅という隅に手製の爆弾が仕掛けられようとしていた。

 飛鳥の方を窺えば、なんとも言えない顔を浮かべている。

 

「いつもああいう風じゃないのよ?ちょっとだけ頑張りすぎちゃうだけで」

「君が信頼されている証拠なんじゃないかと思う。浅黄さんも、鬼方さんも君の指示にすぐ対応している。統率が取れた動きで、僕には出来ない事だ」

「そ、そこまで褒められるとなんだかむず痒いわね。こんなのフツーよ、フツー!」

「だからだよ。僕には出来ない、逆に、君達にしか出来ない事がこの短い時間で詰め込まれている」

 

 そこでアルはようやく飛鳥という男を理解した。ユウカと話している時もそうだったが、彼の腰はとても低い。方向性自体はハルカのそれにとても近いだろう。

 恐らく飛鳥はこう考えているのだ。『自分は大した事ない、他の人は凄い』と。だから口を開けば褒め言葉が、というよりある種の羨望が滲み出る。

 

「アルちゃーん!ちょっと爆弾片付けるの手伝ってー!」

「呼ばれているね。良ければ僕も手伝うよ、肉体労働は難しいけど細かい作業なら出来る。早瀬さんも……」

「勿論手伝います。もしも万が一起爆したら目も当てられませんから」

 

 ムツキの呼びかけに飛鳥とユウカは倉庫へと入っていく。釈然としない気持ちのまま、アルもそれに続いた。

 ハルカは相当ハッスルしてしまった様だ。気絶している不良生徒達の周囲を始めとして数十個の爆弾が設置されていた。短時間でこれだけの作業をこなせるのは才能という他にない。

 

「先生、爆弾処理上手いね」

「今は先生だけど、本業は科学者なんだ。雑食だから幅広いジャンルに手をつけていて、爆弾はキヴォトスにやってきてから勉強したよ。以前僕がいたところのものとは、構造が違うからね」

「す、すみません先生、爆弾解除までしていただいてすいません……」

「僕もやりすぎてしまう事はあるから大丈夫。一度惑星を吹き飛ばしそうになってね」

「何、え、先生今なんてー?」

 

 飛鳥はテキパキと爆弾を解除していく。手慣れている、というよりかは本人が言う様に細かい作業が好みなのだろう。ユウカも興味深そうに手捌きを観察するほどである。

 そうしてあっという間にハルカが設置した爆弾は数を減らしていき、残りは一つとなっていた。

 

「……あれ、これどうすれば良いんだったかしら?」

 

 最後の一つを担当するのはアルだ。周りを見れば皆既に爆弾を取り外してしまっている。ワンテンポ遅れているのだ。

 さてどうしたものかとじっと回路を見つめていると、トントンと肩を叩かれる。振り返れば、また飛鳥がいた。

 

「大丈夫かい?」

「ひ、一人で出来るから大丈夫よ。アウトローなんだから爆弾の一つや二つ……なんて言って爆発したら洒落にならないのよね。ちゃんと出来るけど、一応見ていて」

 

 かちゃかちゃと爆弾を解除する音だけが聞こえる。アルも飛鳥も、特に話す事がないのだ。

 遠くではムツキ達が気絶している不良生徒をロープでぐるぐる巻きに縛っている。あとは依頼通りパンを彼女達の足元にでも置いて撤収すれば依頼は完了だ。

 

「先生、便利屋68はどうかしら」

「問題ないよ。これと言ったトラブルも特になかったし、予定外の事もこうして冷静に対処できている。これならきっと他の依頼も来る。僕も胸を張って宣伝できるよ、困ったなら便利屋68とね」

「……まさか、それの為に雇ったの?」

「純粋に能力を評価しているけれど、同時に君達の活動を応援してあげたかった。僕は『先生』だからね、頑張る生徒を応援するのも使命だ」

「あ、ありがとう……」

 

 そこでパチリと爆弾の液晶画面に映っていた残り時間がプツリと消える。安堵のため息をつきながらアルは爆弾を持ち上げて、飛鳥へと見せつけた。

 

「ふふん、アフターケアも完璧ね。それじゃあ撤収しましょうか」

「社長、ちょっと」

 

 これにて依頼も終わり、物騒なブラックマーケットからも撤退。そう思っていたところにカヨコがほんの少しだけ不安げな声色で声をかけてくる。

 アルは爆弾を抱えたままで口角を吊り上げ、出来るアウトロー的な表情を浮かべていた。

 

「どうしたのかしらカヨコ室長、爆弾だったら今ので最後でしょう」

「襲ってきた連中の数、確か一〇何くらいだったよね?一人いないんだよ。逃げたみたい」

「ふん、好きにさせなさい。どうせ一人じゃ大した事なんて出来ないでしょうし……」

 

「おのれ、シャーレめ!」

 

 もしかして今自分はとてつもないフラグを口にしてしまったのではないだろうか、そうアルが不吉な予感を覚えた直後に事は起こった。

 いつの間にやら倉庫の入り口に不良生徒が一人、物騒極まりない筒状の物を構えて立ち塞がっている。カヨコの言う逃げた一人だ。ただでは終われないと言わんばかりにお礼参りに来たようで、隠し球か何からしいロケットランチャーまで持ってきたのだ。

 不良生徒は迷いなくランチャーをシャーレ一同へと向け、引き金を絞る。ハッとしてアルは爆弾をカヨコに手渡し、足元に置いてあったライフルを拾い上げてスコープを覗き込む。戦いに慣れている彼女らしい迅速な動きだ。

 狙うは一点、迷いなく彼女が撃った弾丸は不良生徒へと直撃し、短い悲鳴と共に仰向けに倒れ込む……直前にロケット弾が発射された。

 

「あっ」

 

 というのは誰の声であったか確認する暇はない。放たれた弾頭はひゅるひゅると音を立てながら倉庫の天井へと直撃し、凄まじい爆音を立てた。

 弾は外れた、外れたのだがその先がよろしくない。順調に終わりそうだった依頼がこの瞬間に破綻したかもしれない、とアルはロケット弾が直撃しミシミシと天井が軋むのを聞きながら軽く絶望していた。

 

「……社長、これ倉庫崩れない?」

「ま、まさかあれくらいで壊れないでしょう、多分」

「早瀬さん、どう思う?」

「崩れるんじゃないでしょうか、この音は」

 

 ぐらぐら、みしみし。

 どうやら当たりどころが悪かったらしい。頭上から埃まで落ちてくる始末で、間違いなく倉庫は倒壊寸前だ。

 

「全員撤収ー!撤収よー!!そこで伸びてる連中は放っておきなさい!!死にはしないから!!!」

「アルちゃん……たまには平和に終わってもよかったと思うんだよね私」

「私に言わないでよ!カッコよく先生守ったじゃないのよもー!!」

「ひぃぃぃぃぃ!ごめんなさいごめんなさい、きっと罰が当たりましたコッペパンの呪いですぅぅぅぅ!!!」

 

 今にも崩れ落ちそうな倉庫を脱出するべく、六人は慌てて入口へと走って行く。銃弾を喰らっても死には至らない生徒ならば建物の倒壊くらいは耐えられるが、飛鳥は恐らく普通に絶命しかねない。一刻も早くこの場を脱出しなければならない。

 

「あっ、つまづいた」

 

 脱出しなければならないのに飛鳥という男は持ち前の運動神経の低さを発揮し、美しいフォームで地面に倒れ込んでいた。予想だにしないドジッ子ムーブ、美少女であれば許されたかもしれないが今回は問題である。

 

「ほえぇ!?皆先行ってて!」

 

 ドジッ子な先生を見捨てるわけにはいかない。何故ならばこの場において最弱の生命体が飛鳥だからだ。アルは慌てて踵を返して飛鳥へと駆け寄ると、両腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。大人というにはかなり体重は軽く、思わずアルは仰け反る。

 

「先生、速く逃げるわよ!」

「すまない、あそこでつまづくとは僕も想定していなくて。急ごう」

「アル様~~~!上です~~~!!!」

 

 ハルカの絶叫、そしてこれまでよりも激しく倉庫が軋み、飛鳥とアルの頭上から巨大な瓦礫が落ちてくる。予想よりも崩れるのが早く、既に入口付近まで辿り着いていたカヨコ達とユウカはまだしも、残りの二人は逃げ遅れたばかりに直撃コースだった。

 咄嗟にアルが取った行動は飛鳥を突き飛ばすというものだった。瓦礫程度ならば落ちてきたところでさしたダメージにはならない、飛鳥が押しつぶされるよりかは遙かによい結果だからだ。

 ところが、それよりも早くアルを守る様に飛鳥は動いていた。瓦礫に対して腕を振り上げ、

 

「……よし」

 

 ぽつりとそう呟いた飛鳥の手には一冊の本が握られていた。先程まで影も形も無かったはずのソレがひとりでに開き、パラパラとページがめくれていく。

 本から光が漏れ出す。それはやがて飛鳥の掌へと伝わり、金色の立方体を虚空より産み出す。立方体は弾丸の様に放出されると落ちてくる瓦礫と衝突した。

 衝突、続く爆発。倉庫を一瞬にして埃と煙が埋め尽くしていく。

 

「陸八魔さん、大丈夫かい」

「先生……?」

 

 砕け散った瓦礫が雨となって降り注いでいる。だがアルと、アルの前に立つ飛鳥には一つ足りとてそれらは届かない。透明な壁が張り巡らされているかの様に、破片は二人を避けていくのだ。

 不可解な現象と言う他にない。加えて今の状況を作り上げているのがあの飛鳥、アルは困惑以外の感情が出てこなかった。

 

「――――隠していたんだけどね、僕は魔法使いなんだ」

 

 ほんの少し冗談めかした口調で飛鳥が囁く。危険が取り除かれたと判断してからぱたり、と片手に握られていた本が今度はひとりでに閉じ、次の瞬間、最初からそこには何も無かったかの様に飛鳥の手から消えてしまう。

 

「何、今の……先生って戦えるの?」

「戦えるかどうかと聞かれたらノーだ。僕自身は戦闘能力を持ち合わせていない。何より、あの本はそう気軽に使って良い物では無いからね。さぁ行こう陸八魔さん」

 

 飛鳥が振り返り、手を差し伸べてくる。これまでと変わらない声色と表情だが、一瞬だけ垣間見えた謎の力を見た後では別物に見えてしまう。アルは手を握り返し立ち上がったものの、内心では謎の本とそこから発せられた力にただ首を傾げた。

 ともかく崩れかけている倉庫から逃げなくてはならない。再びアルは飛鳥を連れて煙が立込める中で入口らしき光へと駆けていく。

 

「あ、見えた!先生ご無事ですか!?」

「アル、大丈夫?」

「ほらハルカちゃん!アルちゃん生きてるよ!」

「ア、アル様!ハッ、こうしてはいられません……!!!」

 

 入口で待っていたユウカ達へとアルは手を振り返しながら辿り着き、緊張がほぐれたばかりに大きくため息をついた。

 倉庫はまだ煙が立ち込め、中はハッキリと見えない。先程落ちてきた瓦礫は粉々になった様で朧気であるが床に散らばっている。

 

「アルちゃん怪我ない?天井が落ちてきた時はどうしようかと焦ったよ~……!」

「どうも、僕らのすぐ横に落ちたみたいなんだ。運が良かった」

 

 ムツキがアルに抱きつきぐりぐりと頬をすりつけてくる横で、飛鳥は素知らぬ顔でこう言い出した。彼が持つ何かしらの力に対しては誰にも話していないし、知られたくないという事なのだとすぐにアルは理解した。

 

「ええと、このあたりで良いかな。コッペパンを置いて、依頼は完了だ。陸八魔さん、トラブルこそあったけれど無事に終えられてよかったよ」

「……先生、それなんですがちょっとまずい状況になりそうです」

 

 全員倉庫から無事脱出、あとは予定通り撤収。仕事を終えた穏やかな雰囲気で〆ようかというところで、ユウカはこめかみを押さえ苦々しい表情を浮かべる。再び嫌な予感がアルの脳裏をよぎっていた。

 銃撃戦、爆発、崩落。一日に味わうスリリングな体験はもうこれだけで十分のはずだ。これ以上何が来ると言うのか。いくらアウトローと言えど常に闘争を求めている飢えた獣などではない。

 

「今の崩落、恐らくマーケットガードも気付いたと思います。呑気にしている場合じゃないです、今すぐにここから逃げないと!」

「こ、ここから更に全力ダッシュでって事!?勘弁してよぉ……」

「泣き言言ってる場合じゃないよ社長、良いから……あれ、ハルカは?」

 

 とにかく現場から離れなくてはならないので、全員揃って動く必要がある。そんなタイミングでカヨコはいつの間にか一人いなくなっている事に気付いていた。

 アルはこの時点である種の諦念を抱き、ムツキは腕を組んでうんうんと頷き、よく分かっていない飛鳥とユウカは顔を見合わせる。

 

「……ぁぁぁぁぁ」

「待って何か聞こえてきた」

「……様ぁぁぁぁ」

「ああ、これさ。もしかして」

「……ル様ぁぁぁぁ」

 

 ごごごごご、と地鳴りの様な音が聞こえてくる。マーケットガードはもう到着したのかと思えばそうではなく、市場を突っ切りながら凄まじい速度で突撃してくる人影が一人。

 勿論、ハルカである。数分だけ姿を消していたと思えば、彼女は何かを手で押しながらめいっぱい声をあげている。

 

「アル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!大丈夫ですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?車椅子を持ってきたので、これで事務所まで運んでいきますぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「ハルカ!?えええ!?」

 

 ハルカはきっとアルが煙の中から出てきた瞬間を目にし、自身の大切な人を助けねばと感じたのだろう。その際に取った選択肢はアルが休める様にと近くから車椅子を回収し、そして高速で戻ってくるというものだったのだ。

 健気ではある。アルを車椅子に座らせて自分が押して帰る、その気持ちだ。大切に想う人への心遣いが光っている。

 問題はあまりにも気持ちが大きく前に出すぎているが故に、前をよく見ていないという点だった。

 

「待っていてください、今、助けますッッ!」

「ハ、ハルカ前見て前!止まりなさいって!?」

「え!?あ、はいごめんなさい、止まりますごめんなさぁい!」

 

 ムツキは即座に横へ跳ね、カヨコは無言で道を譲り、ユウカは反応が遅れ、アルは逃げるタイミングを逃し、そして飛鳥はそんなアルの前に颯爽と躍り出た。

 

「伊草さん、止まって……」

「ごめんなさい止まりますごめんなさい、あ、間に合わない」

 

 アルと飛鳥の両方から呼びかけられたとあってはハルカも両足を踏ん張り、急ブレーキをかけようと試みた。その細い体躯からは想像出来ない膂力によって脅威の加速を果たしていた車椅子はなんとか減速していき、そして……めぎゃり、と何かにめり込んだ。

 

「あ、わわ」

「え!?」

「なっ」

「嘘ぉ!?」

「あちゃあ……」

 

 車椅子は停止した。ただしそれはしっかりと止められたわけではなく、何かに衝突したが為である。

 足、それはアルでもムツキでもカヨコでもユウカでもなく――――最後までハルカに呼びかけていた飛鳥の足だった。足場の部分は思い切り彼の足へと叩き付けられてしまったのである。

 

「ゴッ!!!!!」   

 

 およそ人から発せられるはずのない悲鳴が飛鳥の口から漏れ出て、そして彼はそのままの姿勢で倒れ込む。間違いなく死んだと、その場の誰もが絶望するレベルの悲鳴だ。

 それでも生きているか確認しなければならない。アルはゾッとしながら覗き込んでみるが、

 

「HAHAHAHAHAHAHA、あれ、痛くない。そうか、天国だ」

「先生!?先生!?まだ生きてる、生きてるから!」

「あ、あわわわわわわわわわ!ごめんなさいすみませんごめんなさいすみません!!」

「ひぇぇぇ、先生の目が凄い方向に向いちゃってる。やばー……」

「これすぐに手当てしないとまずいんじゃないの……!?」

「あ、マーケットガードが来てる!こうなったら先生をこの車椅子に座らせて運ぶしかない。便利屋68、行くわよ!!」

 

 「HAHAHAHAHA」と笑うだけの肉人形と化した飛鳥をなんとかして車椅子に腰掛けさせ、ついでに車椅子を押す役割は示し合わせるよりも先にアルで決定した。あとは騒ぎを聞きつけて急行してきたマーケットガードから逃げるのみである。

 車椅子のハンドルを握りしめるアルの頬からは涙が一筋流れた。ああ、やはり便利屋68はこういう目に遭うものなのだ、と。ただ今回は少し違う。飛鳥からの言葉がほんの少しだけ背中を押す。

 

「そ、そうよ。便利屋68はいつもとんでもない事態になるけど、いつだってそこから対応してみせる!なせばなる!」

 

 飛鳥が放った謎の力について、本人の口から聞き出したい。

 何より依頼の報酬である、何でも望む物についてもしっかりいただかなくてはならない。

 故にアルは戦うのだ。後方にマーケットガード、前方にはならず者達。そんな状況を自らの手で切り開くのだ。

 

「飛鳥先生、後でちゃんと追加の報酬をお願いするわ!カヨコは前方でたむろしている連中を薙ぎ払って、ムツキは後方のマーケットガードを爆薬で牽制して、ハルカは私の護衛。早瀬ユウカは……先生の意識が飛ばないようにとにかく頑張りなさい。皆、進めぇぇぇぇッ!!

『応!』

 

 

 この後、便利屋68はブラックマーケット中枢部を貫通、甚大な被害を与えその悪名をキヴォトス中に知れ渡らせた。その指揮を執ったとされる先生、飛鳥=R=クロイツについても同様に、凶暴な生徒達を操って非合法なマーケットに対して攻撃を行ったという理由から、善良な生徒には『勇気ある人』、悪しき生徒に

は『異常者』と称される事となった。

 トリニティのティーパーティー、正義実現委員会。

 ゲヘナの万魔殿、風紀委員会。

 二つの強大な組織のリーダー達はこの事態に震撼し、畏怖や敬意やその他諸々の感情を込めて飛鳥をこう呼ぶ様になった。

 

―――――『あの男』と。




全く本筋に関係無く、この話を書きたいと思ったのは便利屋68がとても印象に残るキャラクター達だからです。今のところブルーアーカイブで刺激的絶命拳とエキサイティング骨折が似合うキャラはアルちゃんがダントツです。
飛鳥は今回ちょっとだけ魔法を使いましたが、どうしてちょっとだけなのかについては次回からのアビドス高等学校編では時系列を少し前に戻して、飛鳥がどうして先生になったのか、どうして魔法をあまり使わないのかについて説明していく予定です。
今回は短編としての部分を載せつつ、飛鳥ってどんなキャラなのかなっていうのをギルティギアを知らない人にも伝えられたら……なんて思っていました、多分伝わってないです。ギルティギア、ギルティギアをよろしくお願いします。
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