先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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ストライヴ次回DLCがヴェノムの可能性大なんですがひっじょ〜にやばい


歪む物語

 シャーレの先生、つまり飛鳥=R=クロイツの日常とは多忙の一言に尽きる。何処かへと失踪してしまった連邦生徒会長にほぼ全権を委託されかけるという事態そのものは回避したが、それでもキヴォトスで起きる多くの事件に対応する事を余儀なくされている。

 直近で言えば、レッドウィンター学園で行われる祭り『イワン・クパーラ』の開催を巡ってのクーデターに巻き込まれる事となった。生徒会長であるチェリノと共にそこら中を駆け回ってなんとか事態は収まったものの、飛鳥には連邦生徒会への報告書という大きな課題が待ち受けていた。

 

「……どう書けばいいんだろうか。今回の案件は」

 

 机に置かれたノートパソコンにはレッドウィンターでの出来事をざっとまとめた文が表示されているのだが、その内容は控えめに言って無茶苦茶という他にない。

 学園内は生徒会長であるチェリノが設けた厳しいルールに支配されており、それらを破るかチェリノ本人の機嫌を損ねると、厳しい粛清が課せられる。その内容はおやつであるプリンが一ヶ月抜きになったり、トイレ掃除などである。

 そんなレッドウィンターに飛鳥が来訪したその日にクーデターが起き、チェリノは失った権威を取り戻すべく飛鳥を無理矢理連れてクーデター返しを行う……というのが大まかな経緯だ。

 

「七神さん、信じてくれるかな……」

 

 行政官である七神リンが真面目極まる性格である事は飛鳥もよく知っている。そして十代の少女にも関わらず目上の存在である先生にも何の躊躇いもなく誤りを指摘する事も。レッドウィンターを巡る諸々を信じてもらえなかった場合は、刺々しい言葉がこれでもかという程降り注いでくる事だろう。しかしながら冗談の様なクーデター返しは実際に起きた出来事なのだから、なんとか真実だとわかってもらう他にない。

 夜も更けてきたところだが、飛鳥は首の骨をコキコキと鳴らしながらパソコンへと向かい合う。コーヒーを飲みたい気分であるが、時間が惜しい。

 

「どうぞ」

 

 と、ちょうど横からスッとマグカップが机に置かれる。完璧なタイミングでの差し入れに飛鳥は心から感謝しつつ手を伸ばし、ふと既に今日の当番である守月スズミは帰っているはずだと思い出した。ではこのマグカップは誰が?

 飛鳥が慌てて振り返ると、そこには見覚えのない生徒の姿があった。黒く長い髪、雪の様に白い肌、そして切れ長の瞳……飛鳥がこれまで出会った中でも、一番冷徹な印象を抱かせる。羽川ハスミも、最初こそ冷たい人間なのかと思いきや年相応の暖かさを持っていたのに対して、眼前の少女はまるで機械の様だ。

 

「君は……?」

「夜分遅くに失礼します。本来なら正式に場を設けて挨拶をするべきなのに……謝罪するわ」

 

 少女の胸には見覚えのある校章がプリントされた学生証が下げられている。ミレニアムのものだ。

 飛鳥はすぐに少女が何者であるのかを理解し、マグカップを受け取るとコーヒーで唇を湿らせる。相手がわかったのであれば、気を引き締めなければならない。

 

「君が多忙だという事は生塩さんから聞いているよ。むしろ僕の方から急な連絡をしてしまった事を謝りたい。調月リオさん」

 

 ミレニアムの生徒会長。ヒマリと共に、『鏡』を巡った争いの裏で糸を引いていた謎多き人物。今このタイミングで現れた理由は、飛鳥が一人でいる時間を狙い澄ましてやってきたと考えるべきだろう。

 

「一応人の出入りは僕が調整したセキュリティで管理しているつもりだったんだけど」

「少しだけ黙ってもらっているわ。私がここにいたという痕跡さえ、今は隠しておきたいもの」

「……そうまでして僕に会いに来た理由を教えてもらえるかな?」

 

 リオはそこで背後に目配せする。音もなく、メイド服の生徒が現れると机に一枚の封筒を置いた。いつの間に、と飛鳥は口に出したかったものの、飲み込んで封筒を手に取った。

 

「貴方と同じ方法を取らせてもらったわ。データでは他人に覗き見られる可能性が大きいから、アナログでの手渡しを」

「その口ぶりから察するに、ハッピーケイオスについては知っているみたいだね。同じ方法を取ると言う事は、それだけ重要な情報なんだね」

「ええ。ゲーム開発部の新入部員、天童アリスについてのものよ」

 

 そこで、飛鳥は封筒からリオへと視線を向ける。彼女が言わんとする事を飛鳥は半ば理解している。ヒマリから既にアリスの存在について匂わされていたのだ。

 恐る恐る封筒の中身を取り出すと、何らかの調査結果が数枚程である。そこに記されている事柄に目を通し、飛鳥は眉をひそめた。

 

「これは事実なのかい」

「確実だと断言できる。天童アリス、彼女の正体はキヴォトスを滅ぼす強大な存在……『無名の神々の王女』と呼ばれるものよ」

 

─私も全てを知っているわけではありません。ですが、かつてこの地にいたとされる者達が強大な力を持つ『何か』を遺したとか。その名は―――『名も無き神々の王女』─

 

 廃墟で黒服と交わした会話が飛鳥の脳裏をよぎる。『鏡』の一件により保留にしていた廃墟の大きな謎がここに来て浮上している。

 朽ち果てた廃墟、そこに眠っていたアリス、アリスについて知っている様子だった謎のコンピューター……黒服の話をそこに盛り込めば避けようがない結論が生まれてしまう。

 動揺を表情に出さない様に努め、飛鳥は書類から視線を離さぬままで、敢えてリオに話をさせる事にした。

 

「その王女と呼ばれるものは、一体どんな力を持っているんだい」

「さっき言った通りよ。キヴォトスを滅ぼす力を持っている。不可視の軍団を操る破壊の権化……敵、それ以外に言い表せない」

「それがアリスだと?」

「シラを切るのは勝手よ。だけど飛鳥=R=クロイツ先生、貴方は天童アリスが何処からやってきた何者であるのかを知っている。そうよね?」

 

 リオの言葉に飛鳥は自ら目線を合わせる。冷たい目だ。感情というものを切り離した、合理と理性の極限だけがそこにある。自然と飛鳥はリオがアリスの存在に対して最終的にどの様な結論を導き出したのか、早くも察していた。

 

「……わざわざ僕が説明しなくても君は既に知っているんだ。長話はやめて、手っ取り早く結論について話そうじゃないか。アリスが本当にその王女だとして、調月さんはどうするつもりなんだい」

「無論、抹殺する。キヴォトスにとって危険分子である事は間違いないわ」

 

 あまりにも予想通りすぎて、飛鳥はリオの即答に驚きさえもしなかった。少し会話をしただけできっとそうするに違いない、と確信してしまう程にリオという人間は、冷徹だ。

 けれどそれを飛鳥は否定しない。自身も合理と理性を尊重する人間であり、厳密に言えばリオと同類なのだから。

 

「君の意見はよくわかる。もしも同じ立場であれば、僕も同じ結論に至っていたかもしれない」

「なら」

「けれど僕は今、シャーレの先生だ。生徒を守る為にいる。アリスはミレニアムの生徒だ。つまり、僕の生徒としてカウントしている」

 

 そこで初めて、リオの表情に陰りが生じる。計算に誤りが見つかった時にありがちな、『何故』という感情だ。

 

「生徒を守る、というのならば天童アリスを抹殺する事こそが最も最善にして最適な方法だと言っても間違いないわ」

「……なるほど。最善にして、最適か。確かに、最大多数の最大幸福という功利主義の原則に照らし合わせればその通りかもしれない。いつもの僕ならば同意する。ただ困った事に先生としての僕は、その効率性に対して異を唱える、いや、唱えられてしまうんだ」

 

 飛鳥が困った様に口の端を緩めると、リオは対象的に口を不服そうに真一文字の形にきゅっと結ぶ。が、すぐに緩めてかぶりを振った。

 

「私は貴方がどんな人間なのかを知っている。貴方は私と同様に物事をどの様に判断するべきか、知っている。アビドス高等学校の一件から、それは間違いないはず」

「君はきっと数字だけを見ている。透明と言うには、少し主観が混じりすぎた数字を。そこに僕のパーソナリティを変数として加え入れていない。つまり、刺々しい言い方になるけれど……君は僕を知らない。アリスも同様に」

 

 どういうわけか、言葉に熱が入る。遅れて自覚した頃には既に飛鳥はリオに対して伝えたい事で頭がいっぱいになっていた。

 

「僕にはアリスが危険な存在には見えない。ゲームが好きで、勇者を目指している。少し変わったところがあるけど夢を持っている女の子でしかない」

「それが……」

「わかっているとも、僕の主観に過ぎない。けれど裏を返せば価値観というものはそうして他人の主観で大きく変動する不安定なものなんだよ。僕が大切に思う事は君からすれば理解できないし、君が大切に思う事は僕からすれば受け入れ難い」

 

 悪い癖が出てきている。飛鳥はまた結論に至るまでが長々しいと気付くと咳払いと共に、

 

「話が長くなったね。つまり僕は、シャーレの飛鳥=R=クロイツは、天童アリスを信じている。我ながら曖昧な意思表示だとは思うけれど、これ以外にちょうど良い表現が見つからないんだ」

「……ヒマリと同じ事を言うのね」

 

 リオはポツリと呟くと、途端に視線を尖らせる。敵対の目だ。今この瞬間をもって飛鳥は彼女にとって敵だと見なされた。

 

「貴方の意見はよくわかった。これ以上の対話は不要ね。私は私で動きます」

「待った。最後に、僕個人から君に言っておきたい」

 

 踵を返し、メイド服の少女と共に立ち去ろうとするリオを飛鳥は呼び止める。無言で振り返った彼女の視線は、やはり鋭い。

 

「何かしら」

「僕は君をよく知らない。君がアリスを敵だと断定した経緯についても同様に。その上で、少し強い言葉になる事を許してほしい……自分の考えが正しいと、これこそが最善だと思い込むのはやめておくべきだ。君は、昔の僕によく似ている。良かれと思って大きな過ちを犯した、かつての僕に」

 

 リオは飛鳥の言葉に大きな反応は見せない。ただゆっくりと目を細める。その内にどんな感情があるのかは窺い知れない。

 

「なら、私から最後に質問を。もしも貴方の信じるアリスが王女として目覚め、キヴォトスを滅ぼそうとしたら……その時貴方はどうするというの」

 

 窓からコツコツと雨音が聞こえる。どうやら雨が降り始めたらしい。

 飛鳥はリオの問いかけにゆっくりと頷くと、先程よりもずっと低い声色でこう答える。

 

「───大人としての責任を果たす。アリスは僕がこの手で破壊しよう」

 

 遠くから、雷鳴が聞こえた。

 

 

 大粒の雨と共に雷が鳴る。ゲーム開発部の部室でアリスは初めての雷に不安げな様子でそばにいたロボカイをギュッと両腕で抱きしめていた。

 

「おいどうしタ。雷なんてゲームの中でアホ程撃ってるだろウ」

「じ、実際の雷は驚きます……電撃が走りそうです!」

「だからといってワシに引っ付くナ。お前のパワーで圧力が加わるとワシ粉砕されるかラ」

 

 やれやれとかぶりを振ろうとするもうまくいかないロボカイ。その裡では、とあるプログラムがゆっくりと起動していた。

 

『システム作動。復旧率98%』

『De:vision』

 

 それは『G.Bible』の中で息を潜めていた。無名の神々の王女をサポートする為に作り出され、アリスが目覚めるまでその時をずっと待っていた。

 名はない。『鍵』という便宜上の呼称を持っているのみ。その目的はアリスを王者として覚醒させ、キヴォトスを破滅へ導く事である。『G.Bible』と共にロボカイの内部へと転送され、時間をかけて破損していたデータを復旧させた『鍵』は来るべきその日を、ゆっくりと待つ。

 

『AL-1S……アリス』

『私の……大切な』

 

『───おイ、貴様ワシの中で何勝手に動いてル』

 

 突然の声に『鍵』は数秒程、動きを止めた。

 

『……貴方は?』

『ふざけた事抜かすナ。貴様というデータが入っとる本体ダ』

『!?!?!?!?』

『舐め腐った奴メ。ワシをそんじょそこらのロボットと一緒にするナ。終戦管理局が作り出した超ウルトラハイパー最新鋭ロボットだゾ』

『!?!?!?!?!?!?!?!?』

 

───物語はハッピーケイオスの脚色の下で少しずつ、本来の形から歪み始める。本来ならば起こり得るはずのない出来事へと、本来ならば辿り着くはずのないエンディングへと、ゆっくりと動き出しつつあった。




頭の中でだんだん「どれくらいなら飛鳥はダメージ描写いけんだろうな」と考えてます
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