先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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ーGrandpa Frederick Bー

 会議室に足を踏み入れたフレデリックとジャック・オー。そこには広大な空間が広がっていた。会議室と言っても便宜上そう呼んでいるだけであり、ちょっとした広間だ。法術を用いたコンピューターがずらりと並び、オペレーター達が忙しなくコンソールと向かい合い、何か言い合っている。

 それらの指揮を行っているのが、名は体を表すの如くライオンの様に猛々しい出で立ちのレオ・ホワイトファングである。

 

「情報収集が済み次第、俺のところに持ってこい。とにかく今何が起きているのか、それが把握したい。合衆国とツェップにも協力を仰げ!」

 

 レオはフレデリックとジャック・オーの来訪に気付くと、襟元を正し、

 

「フレデリック=バルサラ、ジャック・オー。本来ならば民間人にこんな協力要請をするわけでははないと承知しているつもりなんだが……すまんな」

「湿っぽい事を言うな。こっちもこっちで首を突っ込まざるを得ない。カイは?」

「野暮用だ。シンと一緒に席を外している。今の内にここにいる連中と顔を合わせておけ。特に、そこの二人とかな」

 

 そう言ってレオが顎でしゃくった先、コンソールに向かっているイリュリアの人間とは異なる二人組を見つけるや否やフレデリックは「おいおい」と声をあげていた。男女二人揃って、長い金髪である。少なくとも表の世界で生きていたタイプではない。加えて、見覚えのある顔だった。最後に会ったのは随分昔の事である。

 

「おい、死んだはずの奴がなんでここにいる?」

「それは、一度死んで蘇ったからだ。フレデリック=バルサラ。積もる話は色々あるが……今の私はれっきとした公務員であり、滅私奉公の精神でここに勤めているに過ぎない。自己紹介を忘れていたな。勤務歴一年、ザトー=ONEと……」

「ミリア=レイジよ。久しぶり、とだけ言っておきます。同僚が言う様に積もる話はあるけれど、優先すべき事項は今この世界で起きている異常事態についてよ」

 

 ザトー、ミリア。いずれもフレデリックとは浅からぬ因縁を持つ者達である。刃を交える事も何度かあった。

 

「……ふん。しばらく見ていないと思っていたが、就職活動なんてしていやがったのか」

「彼ら二人の能力については私が保証する。ホワイトハウスの一件でも、二人は力になってくれた」

 

 凜とした声に室内にいる全員が一斉に振り返る。靴音を鳴らしながら、二人の男が会議室へと現れる。カイ=キスク、そしてその息子であるシン=キスクだ。相も変わらずカイは高潔さが顔に出ている。

 コンソールと向き合っていた部下達が一斉に立ち上がり、カイへと全身を向ける。その一糸乱れぬ動きはそれだけ彼への忠誠心を意味している。ザトーとミリアだけは、ワンテンポ遅れていた。

 

「フレデリック=バルサラ、改めて協力に感謝します」

「堅苦しい挨拶はそこまでにしろ。話を本題に移せ」

「……レオ、お願いします」

「おう」

 

 レオが部下に何かを命じると、室内中央に法術で作り出されたホログラム映像が浮かび上がっていく。次々に表示されるのは何人かの人物で、フレデリックもよく知る人間が混じっていた。飛鳥、そしてラムレザルである。

 カイはフレデリックへと歩み寄ると、ホログラムを見上げて呟く。

 

「現時点で判明している失踪者は二名。飛鳥=R=クロイツ、そしてラムレザル=ヴァレンタインだ」

「現時点? 他にも誰か消えたのか?」

「ハッキリとしていない。今各国と情報を共有して、行方不明者が出ていないかを確認している」

「ああ、第一連王。追加で行方不明者が一名います。彼です」

 

 ザトーが挙手し、続いてコンソールを操作してホログラムに新たな映像を映し出した。カイに似ている、ロボットの生首が飛鳥とラムレザルに続いて登場する。突然絵面が珍妙なものとなり、フレデリックとカイは眉をひそめた。

 

「なんだこれは」

「終戦管理局が以前第一連王を模して作り上げた機械人形です。とあるパン屋で働いていたのですが、今日行方不明になりました」

「……まだ、残っていたのか。あの偽物」

 

 カイが呆れた様に呟くのを尻目に、フレデリックはホログラムの飛鳥を凝視する。

 

「俺とジャック・オーで月面に行ったが、飛鳥の野郎は忽然と消えていた。奴が作った分身との交信中に何か異変があった事しかわかっていねぇ」

「オヤジ! ラムもなんだ」

 

 慌ただしい足音と共にカイを追いかけてきたシンが声をうわずらせながらホログラムのラムレザルを指差した。シンはラムレザルと共に任務に当たっていた際、突然消えてしまったと聞いている。

 

「なんか変な感じがするって、そう言ってたんだよ。ラムがそんな事言うの珍しいから俺も気にしてたんだけど……目を離したら、消えてた」

「フレデリック。月面から帰還した後にもらった連絡についてだが……飛鳥さんとラムレザルは異なる次元の世界に連れて行かれたと?」

 

 フレデリックの一声に全員の視線が集まった。レオは信じられんとかぶりを振り、ザトーとミリアの二人組は興味深そうに口元に手を当て、シンは目を丸くした。

 

「……ワームホールを見たとも聞いている。それは真実なのか?」

「突然現れて、突然消えやがった。一体どういう理由で現れたのかはわからないが、少なくとも常識じゃ考えられねぇ現象だ」

「飛鳥君はこの世界で最強の魔法使いよ。『始まりの書』なんていうものまで有しているそんな彼が、一切の痕跡も残さず失踪するだなんてあり得ない。加えて全く同じ能力を持つ、もう一人の飛鳥君も察知できなかった……バックヤードとも違う、私達が関知していない領域からの干渉があったとしか考えられない」

 

 フレデリックの説明にジャック・オーが補足すると、にわかに職員達がざわつき始める。その反応は正しい。これまでにイリュリアの人間達は多くの戦いをくぐり抜けてきたが、異なる世界からの攻撃と言われても実感が湧かないだろう。だが、誰一人として否定の意見を述べる事はしなかった。それ以外に敵の候補がいるかと問われれば、答えられないからだ。

 カイはフレデリック達の説明を受け止め、頷く。すぐに事態を把握し、これからどうするべきかを彼は即座に考え始めている。

 

「異世界、か。それはまたスケールが大きくなった。もういい加減に平和な世がやってくる頃ではないか、などと心の隅で思っていたのだが……問題は、我々が攻撃に対して何の対策も講じられないという点だな」

「敵が何者なのか、どうやって飛鳥とラムレザル、そしてそこの生首を連れ去ったのか……そして、その異世界が何処に存在するのか? まるでわかっていない。俺達は完全にお手上げ状態だ。現時点では打つ手無しとしか言えん」

 

 カイとレオの意見にフレデリックも重く頷くしかない。異世界からの攻撃とは言ったものの、具体的にそれがどういうものかと問われても誰も答えられはしない。

 話がよくわかっていないシンも含めて、全員がしばらく口を開けずに静寂が会議室を埋め尽くしていく。と、耳障りな音を立てながら扉が開かれ、甲冑を纏った騎士達が入ってきた。慌ただしい様子からただならぬ雰囲気を感じさせる。先頭の騎士が敬礼と共に、

 

「か、カイ様!」

「どうしましたか?」

「カイ様にお話があると……ある方が」

「どなたですか?」

「その、前聖王アリエルス様です」

 

 その名を聞き、フレデリック達全員が目を鋭く尖らせた。アリエルス、その名を聞いて表情が険しくならない者はイリュリアどころか、世界中を探しても見つからない事だろう。

 かつて、人類を絶滅に追いやろうとした存在、『慈悲なき啓示』。その正体こそイリュリア連合国の長、つまりカイやレオよりもずっと上の位に立っていた聖王アリエルスである。フレデリックやカイとも熾烈な戦いを繰り広げた後に身柄を拘束され、イリュリア城の地下深くに幽閉状態にあるアリエルスが、不透明極まるこの状況何らかの動きを見せる、それがどれだけの意味を持つのか。

 フレデリックの脳裏には地下牢のアリエルスから放たれた言葉がよぎる。

 

『未来が襲ってきます』

 

 それを皮切りにかつてない強敵、ハッピーケイオスが姿を現しホワイトハウスを占拠するという大事件が起きた。もしも今回も同様のパターンであるとすれば、ヘビーとしか言いようのない事態がフレデリック達を待ち受けている事だろう。

 

「話とは一体なんだ?」

 

 フレデリックの問いかけに対して騎士は、

 

「答えを知っている、と」

 

 カイと目線が合う。決意を済ませた表情で彼は頷いた。

 

「わかりました。アリエルスと話します。彼女をここへ」

「……良いのか?」

「ハッピーケイオスが彼女の体を抜け出してから、まるで憑きものが落ちた様になっている。我々が戦っていたあのアリエルスとは、まるで別人だ。害はないと言って良い」

 

 カイがそう断言するのならば、止める理由はない。いざとなればこの場にいる全員で抑え込んでしまえば良い。フレデリックは了承すると共にポキポキと鳴らした。何が起きても、すぐに殴り飛ばせる様に。

 

 

 フレデリックの覚えている限り、アリエルスとは残虐であり、他者の命を奪う事に何の躊躇いも見せない、有り体に言えば悪魔とでも呼ぶべき性格であった。しかし騎士達に連れられて会議の場へとやってきた彼女は、まるで小動物の様におとなしい。カイが言う様に、憑きものが落ちている。

 

「……まずは、私を信じてくれた事に感謝します。カイ=キスク」

「貴女がこのタイミングで口を開いた。それが何を意味するかを判断したまでです。心の底から信用しているわけではない。何故ならば」

「私は人類に反逆しようとした存在だから、ですね?」

 

 アリエルスのまっすぐなな瞳がカイを射貫く。言葉の内容とは裏腹に真摯な姿勢であるが、それが演技なのか本性なのか、見分ける術はない。

 

「よくわかってるじゃねぇか。なんならここにいる連中の中にはテメェを殺しても殺し足りねぇ奴が山ほどいる」

「償いきれない咎を背負っている事はよく理解しています。その上で、私は貴方達にどうしても伝えなければならない。今この世界に起きている事の、正体を」

 

 フレデリック、カイ、ジャック・オー、レオ、シン、そしてザトーとミリア。全員の視線を受けながらアリエルスは、ぽつりとその名を口にした。

 

「第一の男、ハッピーケイオス。彼こそが、異世界から攻撃している敵です」

「馬鹿を言え。奴は」

「イノと共に消滅した。しかしそれは正確ではありません。消滅した、その先が問題なのです」

「その先?」

「まずは、イノという存在について。改めて説明します。設備をお借りしても?」

 

 カイが手近な職員に視線で促す。すぐにコンソールが一つ空き、アリエルスはそこに腰掛けて素早くタイピングを行い、中央のホログラムをたちまちに変化させる。飛鳥、ラムレザル、そして機械の生首と入れ替わる様にして、一人の女性が現れた。

 

「イノ……時を自由に行き来する力を持つ、謎多き存在。その正体は、聖戦時に人類が願った明日への希望がバックヤード内で形を持ってしまったものです。これは魔器と呼ばれ、聖戦の最中にも類似する例が幾つか確認されていました。そしてバックヤードは内側で生まれたこれを深刻なエラーと判断し、神にも等しい力を持った存在として現世に切り離した」

「それがイノか」

「けれど、あまりにも危険極まるイノは第一の男によってその力を半分に分けられた。片方はイノとなり現実世界に落ち、もう片方はバックヤードで保管される事になりました」

「そこだ。そこで気になっていた事がある」

 

 フレデリックが割って入り、声を上げる。アリエルスは答えを知っているかの様にコンソールへと新たな情報を打ち込み、ホログラムに別の人物が加わる。青い肌、白い髪、二本の角……ハッピーケイオスである。

 

「何故ケイオスは、いや第一の男はイノの半身と一つになっていた? 自分の意思でそうしたとは思えん」

「私です。私が、彼にイノの半身を埋め込んだのです」

 

 アリエルスは毅然とした声で、フレデリックに回答する。

 

「人類、人間の定義に迷ったかつての私を、第一の男は止めようとした。まだ人の身でなかったロボットの私では彼を傷つけられなかった。だから……バックヤードで管理していたイノの半身を埋め込む事を選んだのです。明確な攻撃手段ではないが故に、それは通用してしまった」

「人類の希望が作り出した存在、その半分を人間に埋め込むだなんて……」

「当然、耐えられるはずがない。自我の消滅さえあり得た。だのに彼は、意識と肉体の変質のみに留まったのです。そうして生まれたのがハッピーケイオス。人類が人類である為に、人間性を撹拌し続ける使命を己に定めた者」

「ハッ。要するにテメェのおかげであの有様ってワケか。ジョークにもなりはしない」

「……何も、私から返せる言葉はありません。ですが何もしないままでいれば、償う事さえできない。だからこうして、少しでも力になりたく」

 

 フレデリックの冷ややかな視線にアリエルスは、ただ深々と頭を下げる。人類を滅ぼす、そう宣言していた姿は一体何処へ消え失せてしまったのかと疑問に思う程の変貌だ。

 話を仕切り直すべく、カイが咳払いし、

 

「イノとその半身についてはわかりました。その後についてを」

「―――イノと、イノの半身であるケイオスは『始まりの書』を巡った戦いの果てに一つとなり、『神』となりました。この世界の理さえも己の思うがままに歪められる、創世の祖へと。ですがそれは、一歩間違えれば『パラドックス』へと閉じ込められる危険性を秘めていた」

「……なんかその、俺全然わかんなくなってきたんだけど。オヤジ、説明して、オヤジ」

 

 耐えきれなくなったシンが、さっと手をあげた。教師に助けを求めるかの様な、悲痛な表情にフレデリックは嘆息する。外見は二〇代であるが、故あってシンの実年齢は一桁である。ここまでの説明はさぞかし意味不明だった事だろう。

 

「イノはとんでもねぇパワーを持っていた。だが、とんでもねぇパワーは爆弾と同じだ。使い方を間違えれば自分ごと吹き飛びかねない。そしてイノは……『パラドックス』という空間へと吹き飛んじまった」

「何処にあるんだよ、その、ぱらどっくすって」

「わかりません。『在る』事はわかっていても、『何処に在る』かまでは探し当てられない。時間と時間の間に存在する、クレバスの様な空間なのです」

「つまり、すっげぇ遠いんだな! わかったぜ!」

 

 わかっている様な、わかっていない様な、しかし異様に自信満々なシンの様子に誰もが「駄目だなこれは」という表情を浮かべていた。

 

「……まぁ、そういう事で。恐らく、いえ、間違いなく神となったイノはそこへ消えたと思われます。脱出不可能の、時の牢獄へ」

「だが貴女は、ケイオスが今回の事態を引き起こしていると言った」

「これはあくまで憶測に憶測を重ねたものです。しかし方法は不明ですが、ケイオスはパラドックスを抜け出したのでしょう。そうして辿り着いた先が、異なる世界だった。ただわからない事があります」

「何故、飛鳥やラムレザルをさらったのか」

「かつて私が―――『慈悲無き啓示』が『バプテスマ13』事件の際に多くのギアを消滅させた理由は、ジャスティスに連なる者を探す為でした。ですが今回は特定の人物を狙い澄まして連れて行った。一体、何を目的として?」

 

 フレデリックが月面でカイに彼の配偶者であるディズィーと、ラムレザルの妹であるエルフェルトの無事を確認した理由はここにある。かつての事件から敵の狙いを推察し、法則性があるのではないかと考えての行動だった。しかし二人には何の被害もなかっただけでなく、一切関わりのない生首ロボットまで連れ去られている状況だ。

 

「ちょ~っと待った。ここで俺に発言の許可をもらいたい」

 

 レオが割って入った。黙りこくって何やら思案していた様だが、不満げな表情のままで、

 

「ケイオスが犯人。それは良い、だがどうやって飛鳥やラムレザルをさらった? 別の世界をまたがるなんて可能なのか」

「それは―――」

 

「そっからは、俺が解説しちゃおっかな」

 

 声。それも頭上から。誰もが天井に視線を向けたその時、男が一人何処からともなく文字通り降りてきた。長い金髪を揺らしながら、静かに。

 敵襲かとにわかに待機している騎士達がざわめく。フレデリックとカイがそれを手で制している間に、男はゆっくりと床に降り立つと、満面の笑みと共にフレデリックへとピースサインを突きつけた。

 

「あ、どうもこんにちは。男、アクセル=ロウ。なーんか嫌な予感がしたもんで、来ちゃいました」

「アクセル……!」

 

 アクセル=ロウ。時間旅行者にして、イノと深い因縁を持つ男。長い戦いを終え、奇跡的に離ればなれになっていた愛する女性との再会を果たした男。もしもこの事態に現れたら、絶対に殴ってでも追い返すとフレデリックが考えていた男だ。

 アクセルはフレデリックが拳を強く握りしめているのを見るや否や、びしりと両手で指差してくる。

 

「いやぁ、わかるよ旦那、言いたい事は。アンタはダンディな人だから『お前の出る幕なんざねぇ、帰れ』とか俺に言うつもりなんだろ? でもさ……その、彼女にどやされちゃったんだよね。『行ってこい』ってさ」

「……本気か?」

「本気よ、本気。本気と書いてマジって読むくらいには。それに俺には、今とんでもなくヤバい事が起きてるのもわかるんだ。力になれるってんなら、やらなきゃ男が廃るってもんでしょ?」

 

 口調こそおちゃらけているが、アクセルの目はじっとフレデリックを見つめている。いわゆる男の目という奴である。駄目だと言ったところで、引き下がる様には見えない。フレデリック自身が常にそうしてきたのだから。

 であれば、追い返す事などできない。フレデリックはカイへと振り返ると、

 

「コイツも仲間に加えてやれ。時間を跳ぶって話ならアクセルの方がわかっている」

「んじゃそういう事で、皆さんよろしく! よろしく! お菓子持ってくるべきだった? あはは、空気暗っ……風邪引くわこんなん」

「なぁ、アクセルだったな? 俺の質問に対して答えると言ったが……?」

 

 話を強引に打ち切られていたレオが眉をひそめながら声をかける。アクセルは「それね」と言ったかと思えば、次の瞬間姿を消していた。最初からそこにいなかった様に。

 

「ここよ、ここ。アンタの後ろ」

 

 再びアクセルの声が聞こえた時、彼はレオの後ろに立っていた。凄まじいスピードで動いた、瞬間移動、そんなレベルではない。時間を止めていたかの様な移動にレオは唾を飲み、

 

「お前まさか」

「そっ。俺もイノと同じで時間を自由に操れる。ややっこしくなるし俺もよくわかってないから説明は割愛すんだけど。で、だ……多分なんだが、ケイオスと同じ事を俺はできると思う」

「同じ事って、まさか」

「他の世界から他人を引っ張ってくるって奴。俺の存在は時間軸みたいなもの……つまり、本来できるはずのない無理を通せちゃう」

「……」

「でも、そんな事をノーリスクではできない。もしもそれをやれば俺は消滅しちゃうんだな、これが」

 

 アクセルはそこまで口にしたところで、アリエルスへと顔を向けた。先程の半身を巡っての説明を聞いていたのだろう。ニヤリと笑い、

 

「消滅するって言うのは、あくまで俺が生身の人間であるから。でももしも、そんな簡単には死なないし、時間と時間の狭間に閉じ込められてもなんとかできちゃう様な奴だったとしたら?」

「ケイオスは自分の体が不死身である事を利用して、別に世界にいながらこちら側の人間を連れてきているという事か?」

「旦那、正解。もちろん仮説にしか過ぎない。ホントのところどうやってるのかハッキリはしてない。けどやれるってんなら、これなんじゃないかな」

 

 これには誰かが唸り声をあげた。あまりにもスケールが大きすぎて、とてもではないが一息では飲み込めない。困惑の表情を見せる者もいた。当然である。別世界からの攻撃は、こちら側にいたはずの存在が紆余曲折あって向こう側に渡った状態で行われているなど、理解できるものではない。実際レオもこめかみを押さえて、やれやれとかぶりを振っていた。

 アリエルスは一人椅子に腰掛けたままで、考えに耽り始めている。フレデリックはそばまで歩いて行き、

 

「何を考えている」

「……アクセルが言う様な方法でケイオスがこちらに干渉しているのだとしたら、少なくとも一方通行ではないはずです。私達から別世界ヘコンタクトする方法が確かにある」

「こっちから向こうに乗り込もうって算段か。上等じゃねぇか」

「よっしゃあ! そうと聞いたら乗り込もうぜオヤジ! 俺はいつでも準備万端だぁ!」

 

 パラドックスの辺りまではなんとか食いつこうと努力していたものの、アクセルが登場した辺りで完全に口を閉じていたシンがフレデリックの暴力的な発言に対して食いついてくる。口を出せる分野に話題がシフトしていると確信したのだろう。

 

「あのなシン。俺達はまずケイオスの野郎が何処の世界にいるのかさえよくわかっていない。だのにどうやって殴り込む? テメェは地図も持たないままで、余所の国まで向かっていけるのか?」

「おう! まっすぐ歩いて行けばいつか辿り着けるぜ! 地球は丸い?らしいからな!」

「……テメェに喩え話をした俺が馬鹿だった」

「? ともかく、その時が来たら一番槍……一番旗は俺に任せてくれよな!」

「あ? なんでだ」

「オヤジ、もうそんなに戦えないんだろ! 俺、代わりに頑張るからよ!」

「……?」

 

 そこでフレデリックはシンが大きな勘違いをしているのだと気付き、とりあえず拳を固めて彼の頭に軽く拳骨を叩き込んでいた。ポグ、と良い音が響き渡った。

 

「んぎゃ!? 何すんだよ、オヤジ!」

「どんな解釈したのか知らねぇが、少なくとも俺はガキのテメェよりは強い。大体な? 俺が弱くなったからってテメェが強くなったワケじゃねぇだろうが。人の事をジジィみたいに扱うな」

「……ふふ、Grandpa Frederick (フレデリックおじいちゃん)ってところかしらね」

「ジャック・オー! 無駄口を叩いてる暇があるなら、これからの事でも考えておけ!」

 

 何が起きているのか、それが判明した事によりフレデリック達の道筋は僅かに照らされつつあった。だが明らかになっていない事は数え切れない。

 ケイオスはどの世界ヘと飛ばされたのか。何故飛鳥達を連れて行ったのか。そもそもどうやって別世界ヘと飛べば良いのか……問題は山積みである。それでもフレデリックは不安に思いはしない、たとえどんな障害が目の前に立ち塞がろうが、仲間達と共に殴り飛ばしてみせると確信しているからだ。

 

(飛鳥……お前は何処で何をしている?)




とりあえずこれでChapter2.5も終わり、次回からはバニー編になります。これからも応援よろしくお願いします。
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