先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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Talk About You

「ご主人様! リーダーから連絡、ほい!」

 

 お姫様抱っこのままで意識が飛びかけている飛鳥に、そう言ってアスナは無線機を手渡してくる。まったく速度を落とす事なくワカモを追いかける片手間での動きはハチャメチャと表現するしかない。あまりのスピードに顔面蒼白になりながらも飛鳥は無線機を受け取り、リーダー、つまりネルからの声に耳を傾けた。

 

「美甘さんかい」

『おい、今何処にいる?』

「狐坂さんを追っている。サオリさん達から話は聞いたかい?」

『ああ聞いてる。船を沈める気っていうのはどういう事だ? まさかとは思うけどよ、船ごとどっかに突っ込むとかじゃねぇだろうな』

「いや、その可能性が高い。今の彼女は自暴自棄になってしまっている……説得は成功したけれど、狐坂さんを傷つける事になってしまった」

『逆ギレじゃなくてヤケで自爆狙いかよ。今アスナと一緒なんだろ? それなら操舵室に急げ。こっちはこっちで今カジノを抑えた』

「カジノって、あの?」

『おう。ワカモの野郎が指示飛ばすのをやめちまったおかげでどいつもこいつもあたふたしやがって……今あたしらの方で取り返したとこだ』

 

 陽動という事だったのだが、そこから形勢を覆すとは流石である。ネルの声に混じって怒号やら何やらが聞こえてくるあたり激戦となっていた事がわかる。飛鳥は安堵のため息をつきつつも、最大の問題であるワカモへと意識を戻す。たとえシージャック犯を抑えたところで彼女の暴走に巻き込まれてしまえばひとたまりもない。

 

「美甘さん達も手が空き次第、操舵室へ向かってほしい。もう時間がない! メインデッキに救命ボートがある。最悪のケースになった場合はそれを使ってくれ!」

『……おい、こういう場合はてめぇみたいな奴から脱出するもんだぜ?』

「狐坂さんが自暴自棄になったのは僕のせいだ。だから最後まで、話してみる」

『はぁ~……うし、わかった。何かあったらアスナを頼れよ! あ、あとレッドウィンターのバカ女もいたぞ。『ケイオスが逃げた! 目の前でパッと消えた!』だのうるせぇ! 面倒だからそっちに行かせるぞ!』

 

 無線を切り、飛鳥はアスナへと真剣な面持ちで、

 

「一之瀬さん。最初から最後まで君達に頼りきりですまないと思ってる」

「全然いいって! むしろご主人様に頼ってもらえると嬉しいし……私もなんかすっごい元気出るし!」

 

 アスナの態度はこれまでと変わらない。明るく微笑んでくれる。一体何がそんなに楽しいのか、飛鳥は不思議で仕方がない。船が沈むか沈まないかという絶体絶命の状況だというのに、ここに来てアスナという少女に対する疑問が膨らみつつあった。

 

「一之瀬さんは、どうしてそんなに僕に優しいんだい?」

「どうして? うーん、わかんない! でもご主人様見てると、なんか頑張っちゃうんだよね~!」

 

 それは嘘や照れ隠しではないのだろう。アスナは心から、理由がわからずとも飛鳥を好いてくれている。手を貸してくれている。

 誰かを好きになる流れがそう難しい話ではない事くらいは、飛鳥も知っている。一目惚れがそうである様に。

 感情とは、かくも言葉にしがたいものなのだろうか。やはり難しいな、と飛鳥は口中でぼやきながら、

 

「ありがとう。君は凄い子だ」

「今褒めてくれた!? よぉし、じゃあ張り切っちゃうね!!」

 

 アスナは一気に加速する。先にワカモを追いかけていたサオリ達四人の姿は既に後方へと流れてしまっている。操舵室に向かう先頭はバニーガールにお姫様抱っこされている青年という珍妙な絵面なのだが、事態が事態である。見栄えについてどうこう言っている場合ではない。

 ネルが無線で話していた様に、ワカモが何もかもを投げ出してしまった影響なのか船内を凄まじい勢いで進んでいるというのにヘルメットの生徒達に止められる事は一度もなく、二人は着実に操舵室めがけて突き進んでいく。

 

「ん? あ、ご主人様。船の速度が上がってきてるかも」

「わかるのかい……!?」

「なんとなく。急がなきゃ!」

 

 そうして、ゴールデンフリース号の中枢と言ってもよい操舵室へと飛鳥とアスナは辿り着いた。電子制御らしい分厚い扉の前にはヘルメットの生徒が何人も倒れ伏し、痛みに呻いている。何があったのかと飛鳥が駆け寄ると、うわ言の様に「リーダー……」と呟いていた。

 どうやらワカモは自分の部下でさえも容赦なく叩きのめしたらしい。今の彼女には敵味方の区別はないのだ。

 となれば、操舵室に踏み込むしかない。飛鳥は意を決して、アスナと共に扉に手をかける。電子ロックは既に解除されており、扉は音を立てながらゆっくりと開いた。

 

「しくしく、しくしく、しくしく」

 

 ワカモのすすり泣く声が聞こえる。飛鳥は足を速めて室内へと飛び込む。本来は戦闘要員であるアスナが先陣を切るべきなのだが、焦りによってそんな事は奇麗に頭から抜け落ちてしまっていた。それ程までに今の飛鳥は一人の少女に対して罪悪感を抱いているのだ。

 操舵室、と言っても昔ながらの舵輪で動かすわけではない。大体がデジタルによって管理されており、裏を返せば操縦方法さえ理解できていれば船の行き先を決める難易度は低い。たとえワカモ一人でも、速度を上げてただ前進させる程度は可能なのだ。

 

「しくしく、しくしく、しくしく」

 

 チカチカと点滅するパネルにもたれかかり、ワカモは飛鳥に背を向けている。あの狐の仮面は粉々に砕け散り、床にばらまかれている。彼女の精神が酷い状態である事は明らかである。

 ゆっくりと歩み寄り、飛鳥は声をかけた。

 

「狐坂さん」

「何故、何故来てしまったのです。お逃げくださいと、そう言いましたのに」

 

 操舵室から見える前方の景色には、次の停泊先らしき港が見える。ゴールデンフリース号はそこを目掛けて速度を上げていた。ワカモは船体を港に突撃させようというのだ。

 

「君を止めに来た。こんな事はやめるんだ」

「いいえ、私にはもうこれしかないのです。愛しい貴方に拒まれてしまった私は、最早この世にいる意味がありません。この船もです」

「狐坂さん……!」

 

 ワカモが、ゆっくりと振り返る。可愛らしい顔立ちは涙でぐしゃぐしゃになり、美しい肌はほんのりと赤く染まっている。

 仮面を失い、得物であるライフルもなく、飛鳥の目の前には失恋により心を痛めた少女がぽつんと残されていた。

 

「あなた様のせいではありません。あなた様に迷惑をかけてしまった私が、ただ自分を罰するだけの事」

「それは違うよ狐坂さん。君は」

「何も違いません! 何もかも、あなた様がおっしゃった通りです。私は自分勝手に思い込み、自分一人でその気になって……! この船はそんな私の愚かさの結晶。今ここで、何もかも沈めてしまいたいのです!!」

 

 ワカモは顔を手で覆い、さめざめと泣き始める。その姿があまりにも痛々しく、飛鳥の胸はズキリと痛んだ。

 今ならばアスナ一人でもワカモを取り押さえる事はできる。そこから船を停めれば、まだギリギリ大惨事は避けられるだろう。

 けれど飛鳥は、どういうわけかアスナが動き出すよりも先に手で制していた。『待ってほしい』と。

 

「ご主人様……?」

「僕に、任せてほしい」

 

 時間はもう残されてはいない。このままでは船が港へと激突する。シャーレの先生であれば、一刻も早く何もかもを抑えてしまうべきだろう。

 だというのに飛鳥はワカモへと近付くと、しゃがみこんで背中にゆっくりと手を添えた。びくりと震え、彼女は顔をあげる。

 

「先、生」

「僕は確かに君を叱った。でも……君が僕を好きだと言ってくれた事までは否定しない」

「で、ですが」

「さっきの話には続きがあるんだ。僕はこう言ったね。『君は僕の事をまるで知らない』、と」

「はい。だから私はあなた様に嫌われて……」

「そうじゃない。嫌いじゃなくて、知らないんだ」

「はい……?」

 

 一体何を言っているのか、とワカモは不思議そうに目を丸くした。ようやく話を聞いてくれる姿勢になった事で、飛鳥は更に続ける。

 

「僕は君の事を知らない。君がどんな人間で、何が好きで、何が嫌いなのかを知らない。でもそれは当然の事だ。だって僕達は互いについて、ちゃんと話していないんだから」

 

 コユキも、ワカモも、良かれと思って大掛かりな騒動を起こしてしまった。本当にそれが正しいのかどうかを確かめる前にである。

 だがそれは、裏を返せば少しでもお互いを知っていれば避けられる、シンプルな問題なのだ。故に飛鳥はワカモに訴えかける。

 

「船を停めるんだ。それから……君の話をしよう。僕の話も」

「……っ、先生」

 

 ワカモの手が飛鳥の頬へと伸びる。指先が触れ、愛おしそうに撫でてくる。彼女の目は潤み、唇は何か言おうとしてモゴモゴと動く。

 

「本当に、良いのですか? 私はまた間違いを起こしてしまうかもしれません。あなた様に叱られてしまうかもしれません」

「その時はまた叱る。何度でも叱る。大人として、先生として……君と向き合う」

 

 それが決め手だった。ワカモはハッとして立ち上がると、素早くパネルを操作していく。やがて、警告音に続いて船全体が軋む音がしたかと思えば、ゆったりと減速を開始した。飛鳥の説得を聞き入れて、ワカモは加速を止めてくれたのだ。

 港まではまだ距離がある。今からの減速であれば激突は避けられるだろう。飛鳥は安堵のため息をつきながら、ワカモへと微笑みかけていた。

 

「狐坂さん、ありがとう」

「……いいえ。それは私が言うべき言葉です。こんな私を、許してくださるあなた様に」

 

 ドタバタと足音が聞こえてくる。振り返ると、遅れて到着したサオリ達が操舵室に踏み込むなり銃口をワカモへと一斉に構えていた。

 

「飛鳥=R=クロイツ、今すぐ彼女から離れ―――どういう状況だ?」

 

 てっきり飛鳥がワカモに襲われるものと勘違いしたのだろう。サオリは眉をひそめ、困惑のあまりライフルを下ろしていた。一部始終を見届けていたアスナはピースサインを構え、

 

「凄いよ! ご主人様ってば、ワカモちゃんを説得したんだから! カッコイイ!」

「説得……? それなら」

「うん。なんとか、事態を収める事ができた。占拠されていたカジノも美甘さん達がなんとか取り戻してくれた。だから……シージャックはこれで一件落着かな」

 

 ちらりとワカモの様子を窺うと、あまり他の人間に顔を見られたくないのか、飛鳥の背中に隠れながらコクリと頷いてくれた。ギラギラとした敵意は消え失せ、あっという間に可憐な少女である。

 ゴールデンフリース号の暴走、そしてシージャック、狐坂ワカモを中心とした事件は飛鳥の説得によってなんとか沈静化した。あとは彼女の部下達に降伏を促し、コユキをミレニアムへ連れ帰り、そしてケイオスを捕らえるのみだ。

 まだ気は抜けないものの、大惨事を回避できた事に安心しつつ飛鳥は無線機でネルへと連絡しようとし―――まるで、この瞬間を待っていたかの様に操舵室中のパネルが一斉に動き出した。

 

「な……ッ!?」

 

 ごぅん、と船全体が力強く揺れ動く。暴れ回るかの様な振動に足元がふらつき、飛鳥達は咄嗟にしゃがみこんでいた。

 

「これって!?」

「船が動き出している。狐坂ワカモ、何をした!?」

 

 違う。ワカモではない。彼女にはもうそんな事をする理由がない。何者かが船を操り、再び加速しようとしているのだ。

 転びそうになりながら主要なパネルへと走り、そこで飛鳥は画面に表示されている忌々しい文字列に顔をしかめていた。

 

『LOVE YOU!』

 

「ケイオスか―――!!」

 

 

「飛鳥君に友達? それって凄い、青い薔薇くらいの奇跡だ。理解者? それとも物好き? どっちにしても……やっぱり凄い」

「物好き、か。それはどちらかといえばあの方に当てはまる言葉だ。私の様な存在に手を差し伸べ、あるべき形を教えてくれたのだからな」

 

 男が二人。どちらも異形。

 青肌の怪人、黒衣の怪人、両者共に一歩も動かずじっと互いを凝視する。西部劇さながらのシチュエーションは隔離された空間であり、生徒がやってくる様子は一切見られない。

 ハッピーケイオスは笑う。飛鳥=R=クロイツに友人がいたとは、と。

 レイヴンも笑う。それは見当違いだ、と。

 どちらも動こうとしない。紙一重の間合いが男達の間に産まれている。

 

「飛鳥君が物好き、か。それは言えてるかもね。彼のラジオを聞いた事は?」

「以前の世界でも、この世界でも」

「アレはエンタメとして最低レベルだ。脚本どころか演出まで壊滅的。いやあなんというか、彼らしいよ」

「……それは、少し同意する」

「あはは、やっぱり? でもまぁ飛鳥君らしいと思うんだ。人間的な情を持ちながら、根本では自分を含めて命を数で計算しようとするあたりね。だからこそあそこまで無機質でいられる。俯瞰した視点からの『世界平和』を計画できる」

 

 饒舌に話しながら、ケイオスはベルトから拳銃を引き抜く。これにレイヴンも両手の爪を妖しく光らせ応えた。

 

「でもね、それじゃあ面白くない。飛鳥君の在り方はキヴォトスじゃ意味がない。彼には少し成長してもらわないといけない。だから、邪魔しないでもらえるかな」

「……一人の成長の為に世界を巻き込む、か。やはり貴様は癌だ。何処にいても、何をしても、厄介事ばかり起こす」

 

 そこからは速かった。レイヴンが駆け、ケイオスは攻撃の予兆を感じ取って拳銃の引き金を引く。しかし放たれた弾丸は黒衣を掠めもしない。

 ギョッとしたケイオス目掛けて、高速で刺突の連打が放たれる。人体など軽々と突き崩し抉り飛ばしてしまう猛攻が直撃し、青い肌をおびただしい量の血液が伝う。

 

「あー。良いね、凄い。殺意とか敵意とかそういうの超えてる。何処を傷つけられたら人が苦しむのかっていうのを理解してる攻撃だ」

「やはりか……」

 

 だが、間違いなく致死量の流血にも関わらずケイオスに動揺はない。アビドス学区にて空崎ヒナの銃撃により肉体を抉り飛ばされながらも健在だった様に、今回も彼は肉体の損傷こそあれど生命活動が停止する様子は一切見られない。

 それに対してレイヴンが驚く様子もない。むしろわかっていたかの様に続けて刺突を繰り出し、次々とケイオスの肉体に幾つもの穴を空けていく。この程度で死ぬとは考えていないからこその壮絶な連撃に、瞬く間にレッドカーペットは鮮血で鮮やかに彩られていく。

 

「―――消えろ!!」

 

 強烈な蹴りが穴だらけのケイオスへと叩き込まれる。常人ならばそのままバラバラの肉片と化してしまいそうなそれを受け、壁へと吹き飛んだ挙句めり込みながらも、しかし彼は笑みを浮かべていた。

 効いている。確かにダメージを与え、肉体も損壊している。だが致死ではない。たとえ心臓を潰そうが脳幹を粉砕しようが、ケイオスは決して倒れないだろう。無論、レイヴンも承知の上である。

 すかさずレイヴンの指が躍る。オーケストラを奏でるが如き動きに続き、壁にめり込み身動きが取れないケイオスへと極めつけと言わんばかりに無数の針が突き刺さっていく。

 

「お、おお……?」

「不死身をまともに相手する必要はない。重要なのは、身動きができなくなればそれで良いという事だ。事が終わるまで、貴様にはここで釘付けになってもらおう」

 

 瞬く間にケイオスは全身を針で埋め尽くされた奇妙なオブジェへと変身していた。どれだけ不死身であったとしても、身じろぎ一つ取れない程に損傷をすれば再生までは時間を要する。ならば再生を阻害してしまえば良い、それがレイヴンの導き出した不死身に対する答えだ。

 ぴたりとケイオスは動きを止めた。ブラフかどうか、とレイヴンが目を細めた、その直後に突然ハリネズミ状態のケイオスの腕が跳ね上がり、いつの間にか―――どうやって引き抜いたのかもわからない―――拳銃から弾丸が吐き出されていた。 

 弾丸はレイヴンの顔面を捕らえ、果実が弾ける水気のある音と共に肉片がカーペットに散らばる。間違いなく死んだといえるが、ケイオスはそんな事などお構いなしに発砲する。何発も弾丸が撃ち込まれ、レイヴンの頭蓋は完全に吹き飛んだ―――が、瞬く間にぐちゃぐちゃと音を立てながら、彼の失われた頭部は再生を遂げた。顎が、口が、鼻が、目が。人体において最も大切な脳幹が、何事もなかったかの様に元の形を取り戻していったのだ。

 

「あ―――あの、さ」

 

 針で顔面を埋め尽くされているはずのケイオスから、ゆっくりと声が漏れる。やがてゆっくりと針が抜け落ち、音を立てて床に散らばり、無数の穴など何処かへと消え失せた無傷の肉体で彼は壁から抜け出てくる。同じく無傷であるレイヴンは仏頂面で舌打ちをした。

 

「あのさ、これってものすごく不毛だよ多分。僕が不死身なだけならまだ面白いけれど、君まで不死身だったらこれ絵面がどうしようもない。ゾンビとゾンビの殴り合いなんて、卵を投げつけられちゃう」

「それでいい。私は貴様に面白いなどという感情を抱かせたくはないからな。ここでひたすらに殺し合うとしよう。それが嫌ならもう一度壁に縫い付けてやる」

「極端だな……コミックだったら『いつまでやんだよこのバトル』、『尺稼ぎ?』とか言われるよ。脚本を書く僕ばかりが損をする」

「私の役目はここで貴様を動けなくする事だ。何をどう言われようが、知った事ではない」

 

 異常である。レイヴンとケイオスの足元には血の海と肉片が広がり、さながら猟奇殺人現場だ。原因である二人は互いに肉体を再生させて五体満足でいる事も併せて、いかにこの状況が超常的であるかを物語っている。

 ケイオスは銃口でこめかみを搔きながら、興味深そうにレイヴンを観察する。自分と同じ不死身、それがどういった仕組みによって成立しているのかを考えているのだ。

 

「……ふぅん、面白いよね君。その不死身性、恐らくバックヤード経由のものなんだろうけど」

「そういう貴様は、イノの半身だろう。よくもまぁ、ヒトとしてのカタチを留めていられる」

「あ、なんだ知ってるんだ。そうだよ、僕の内側には色んなものがひしめいてる。困っちゃうくらいにね」

 

 元の世界において、レイヴンとケイオスは直に顔を合わせた事は一度もない。ただ互いに存在をうっすらと認識している程度である。異なる世界において対峙する事になろうとは、どちらも予期していなかっただろう。

 

「えーっと、レイヴンだっけ。君とジャック・オーには感謝しているよ。君達のおかげで僕の名前ができたからね。いやあ、ツボに入ったよ。最高のネーミング。でも僕に対する名前としては、完璧だとは思わない?」

「よく回る舌だ。そっちも縫い付けておくか?」

「ちょっと待ってよ。僕は君の手伝いをしてあげてるんだよ? 君が睨みつけている以上はここから動けないし、そもそも動くつもりもない。だからおしゃべりでもしようよ」

 

 レイヴンは眉をひそめた。ケイオスは自分の足で飛鳥の前に現れた。であれば何かしらの妨害を目的としていたはずだ。だが動くつもりはない、とは何を意味しているのか。

 力尽くで吐かせるか、と針を構えれば、ケイオスはニヤリと微笑む。

 

「君と飛鳥君の読みは間違ってない。僕は絶対に邪魔をする、だから止めようって。でも大事な事を飛鳥君は忘れちゃってる。それはね……別に僕がその場にいて直接手を下さなくても、事件は起きるってところ」

「……?」

「聞こえてこない? ほら、チックタック、チック―――タック」

 

 ごうん、と音を立てて船が左右に揺れ動く。何かが動き出していた。レイヴンはケイオスに視線を走らせる。何かをした素振りはない。では一体この駆動音は一体何か。

 嫌な想像がよぎり、しかしそれ以外に考えられず、苦虫を噛み潰した様に彼は顔をしかめる。

 

「貴様―――」

「飛鳥君の法術をハッキングした時に、まぁちょっとだけ仕掛けをしたんだよ。時限爆弾をね? 僕は脚本家だからさ、つまらない展開はご法度。何事もド派手に行かなきゃね?」

 

 ケイオスは、クレバスの様に深く昏い笑みを浮かべてそう言い放った。




このタイトルを使いたかった……そして次回で遂にこの大きな事件にもケリがつきます!
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