先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
あと絵は描けないのでイメージでしかお伝えできないのですが飛鳥の服装はスーツで、ネクタイは赤ですね
GGSTの服装から上着を抜いて黒い服部分だけみたいなイメージです。
右目のベイブレードがなんであるか知らないので文中だとベイブレードには触れていません
「本当にこの人が先生なんですか?」
「ん……自分でそう言ってた。それに見た感じ大人っぽいし」
「ヘイローもありませんしね」
「このまま死んじゃったり……しないわよね、流石に」
朧気な視界に人の姿がうっすらと浮ぶ。全員、少女の様だ。興味深そうに覗き込んでくる様子から飛鳥は自分が寝かせられている事に気付き、小さく呻いた。
「あっ、目を覚ましたみたいです。あの、聞こえますか?」
ゆっくりと視界が晴れていき、眼鏡をかけた生徒が聞こえやすい様に言葉を切りながら話しかけてくる。
確か覚えている限りではアビドスの生徒、シロコに学校へ案内してもらう事になり、まさかの全力疾走となった。そこから先があまり鮮明に思い出せないのは、恐らく途中で限界を迎えて倒れでもしたのだろう。
「……ここは、何処ですか?」
「アビドス高等学校です。飛鳥=R=クロイツ先生」
「途中で倒れたから私が頑張っておんぶしながら連れて帰った。……死んだかと思うくらいの崩れ落ち方だった」
「先生、お水を持ってきました。どうぞ飲んでください!」
未だ意識が不鮮明のまま体を起こした飛鳥に、おっとりとした口調の生徒が水の入ったペットボトルを手渡してくれる。指が震えるものだから手伝ってもらいながらキャップを開け、彼は一気に水を喉へと流し込んだ。
頭にかかっていた靄が取り除かれていくのに合わせて、ようやく飛鳥は自分を取り囲む少女達の顔をハッキリと認識する事に成功した。皆、不安げな顔で飛鳥を見つめている。
「ここがアビドス高等学校。なら皆さんが僕に依頼を寄越してきた生徒……で合っていますか?」
まだ体調が万全なものとなったわけではないが、それでも目的地に到着した以上は形式に沿って状況整理をしなければならない。掠れた声ながらも飛鳥が問いかけると、眼鏡をかけた生徒が前に出た。
「一年生の奥空アヤネと言います。依頼は私がお送りしました。まさかこんなに早くとは思っていませんでしたが、こんな片田舎まで足を運んでいただきありがとうございます」
「僕は『先生』……です。なら生徒からの依頼に応えるのは当然の事ですし、そんなに改まる必要もありません。僕は飛鳥=R=クロイツ、連邦捜査部シャーレから出向してきました。皆さん、よろしくお願いします」
自然と飛鳥の口調は堅苦しい敬語へと変化する。それなりに発表の場などに出る機会が多かった為か、他人に対してそつなく姿勢を整えられる様になっていた。
かしこまった態度にアヤネがぺこりと頭を下げている傍らには自転車の少女、シロコが気まずそうに口をきゅっと結んでいる。
「砂狼さん、助けてくれてありがとう。君に会っていなければ今頃砂に埋もれていたかも……」
「ん……私としてはごめんなさい。あんなに早く先生が力尽きるとは思っていなかった」
「シロコちゃん、運動神経良いですもんね〜。前もちょっとそこまで走ってくると言って四〇キロくらい叩き出しちゃったり。あ、私は十六夜ノノミって言います!」
水を手渡してくれた生徒、ノノミは軽く会釈し、隣にいたツインテールの生徒の肩を掴むと一気に飛鳥の前に引っ張ってくる。
ツインテールの生徒は飛鳥と目が合っても、すぐに目を逸らしてしまう。初対面の相手にしては若干の刺々しさを感じる態度だが、あまりそれを気にするほど飛鳥は神経質ではない。
「ほらセリカちゃん自己紹介!もう皆しちゃいましたよ?」
「う……一年生の、黒見セリカ、です」
「はーい、後は三年生の先輩がいるんですけど、隣の教室で寝ています。セリカちゃん、ホシノ先輩を起こしてきて」
「わ、わかりました」
セリカは飛鳥に背を向けて足早に部屋から出ていく。そこで飛鳥は室内をぐるっと見回した。
生徒達が使用する銃、何冊ものファイル……何かしらのオフィスらしい。
「ん……ここはアビドス廃校対策委員会の本部。前は生徒会室だった」
「対策委員会と言うのは皆さんの事で合っていますか?十六夜さんはさっき先輩が一人いると言っていましたが、他の生徒は?」
そう問いかけると、本部内に残るアヤネとシロコ、そしてノノミは顔を見合わせる。芳しくない反応に飛鳥はセリカの後を追う様に本部の外へ足を伸ばす。廊下を歩く生徒は一人もおらず、それどころか校舎内も不気味なまでの静寂に包まれていた。
アビドスに関する事前の調査内容を思い出し、飛鳥はすぐに納得した。この学校には恐らく対策委員会の生徒達以外は誰もいないのだ。教師も、生徒も。
「――――無神経な事を言ってすみません」
「い、いえ!別に良いんです。むしろ説明する手間が省けたので……」
「……確かに、アビドスじゃ自然災害に見舞われて、人口は激減したと聞いています。けれどそれで生徒がいなくなったとしても学校自体は存続できるはず。何故、廃校の危機に?」
また、三人は顔を見合わせる。どうやら飛鳥の知らない事情が彼女達には秘められている様だ。
疑問について、飛鳥はアビドスについて調べる際にも感じていた。
確かに砂嵐の被害は甚大だった。街の規模を縮小してしまうほどなのだから。
けれど、それが廃校の決定的な原因にはならないはずだ。
「……なんて言えば良いのか、その」
アヤネは口をもごもごとさせて答えあぐねている。シロコやノノミも同様だ。
彼女達は相当なピンチに陥っていて、その上で飛鳥を頼っている。そうした状況下においてなお打ち明けづらい理由とは一体何だというのか。
詳しく聞き出そうと飛鳥が口を開こうとした時、廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえてくる。すぐに本部の扉が勢いよく開かれ、血相を変えたセリカが飛び込んできた。脇には小柄な少女が一人抱きかかえられていて、あくびをしている。
「ヘルメット団……校舎の外にいる!襲撃よ!」
「なんかもう、結構な団体さんで来てるよぉ。ん?誰、その人」
直後、耳を塞ぎたくなるほどの爆発音が校舎をビリビリと許す。襲撃、その言葉にアビドスの生徒達は足早に窓へと駆け寄る。飛鳥もそれに続き、窓越しに校庭を見下ろした。
続々と校門からヘルメットを被った生徒達が銃器を構えて校庭へと進入してきている。少なくとも遊びに来ているわけではないだろう。
「あれが依頼に書いてあった暴力組織、という奴だね」
「ん……アビドスを占拠しようとしてる。このままだとどの道廃校は避けられない」
「なので、対策委員会である私達で追い払っちゃうんです!」
対策委員会の面々は足早に銃器を担ぎ、迎え撃つべく準備を始める。アヤネだけは支援する役割なのか、専用のものらしい端末を机の上に置き、何やら打ち込んでいる。
これがキヴォトスの日常だ。誰もが当たり前の様に武器を持ち、当たり前の様に銃撃戦を繰り広げる。この学園都市において紛争とは、喧嘩と同義なのだ。
「先生はここにいてくださいね。危ないですから!」
「ヘルメット団の連中、思いっきり吹っ飛ばしてやるわ。ほらホシノ先輩、起きて起きて!」
「うへ~……寝起きで戦闘とか、おじさんの年じゃキツいよぉ~」
「ん……そんなに離れてない、ほぼ同年代」
あっという間に少女達は本部から出て行き、しばらくして校庭からは生徒同士が撃ち合う戦いの音が聞こえてきた。
行為そのものを異常、などと言うつもりは無い。飛鳥の世界でも子供が兵士として戦う事はあった、何より『聖戦』にしても成人にもなっていない者達が明日の為に剣を握ったのだ。
だが大人として指を咥えて見ているわけにはいかない。飛鳥はすぐに頭脳以外に良いところがない自分なりに出来る事は無いかと考え、咄嗟に掌を開いて法術を行使しようと試みていた。それが当たり前だったとはいえ、二度目の失念に呟きが漏れる。
「……僕に、何が」
法力とは、簡潔に言うならば飛鳥がいた世界においてインフラを支える新たなるエネルギーである。
2000年代に入り、人類の文明には大きな変化が訪れた。あらゆる電産機器に異常が発生し、既存の電子機器を使用する事が公的に禁止されたのである。その原因が未知の生命体が実体を得ようと試みていた為という事実が明らかになり、危険な科学技術は破棄される事となったのだ。
その代わりに文明を担ったものが『第一の男』と呼ばれる賢者が提唱し実現させた『法力』とそれを用いる『法術』。
それまでの化石燃料とは異なり環境に全くと言っていいほど影響を与えない、法力はまさに新時代のエネルギーだったのだ。
(この世界に法力は存在しない。けれど並行世界であるという点を活かせば、僕がいる世界と何かしらのバイパスを繋ぐ事自体は出来るんじゃないか?)
飛鳥は考える。今いるキヴォトスと、元の世界。この二つの世界になんとかして繋がりを設ければ、擬似的にこちらの意思で法力を抽出して使用できるのではないか、と。
問題はその繋がりをどうやって作ると言うのか。並行世界間でのエネルギー循環法など、流石に飛鳥であっても難しい。だが一冊の本が持つ、絶対的な力であれば不可能も可能に変えられるだろう。
掌を胸に押し当てる。決して何処にも持っていけず、自らの裡に留めるしかなかった禁断の書。今ここでそれを使えば、校舎の外にいる敵を撃退するなど造作も無い。だが本を出現させようとする直前で、飛鳥は手を止めた。
(けれど、そうする事によってキヴォトスに、この世界にどんな影響が与えられるのか僕には判断する材料がない。バックヤードの存在も把握出来ていないままで法力をここへと流せば、それはつまるところ現在の法則に対する侵食を意味している)
法術とはバックヤードと呼ばれる異空間へアクセスし、現実の法則を書き換える事によって新たな現象を無から引き起こす……いわば現実へのハッキングなのだ。
法力を引き出し、そして法術を発動する。理論上は可能であるが、ただでさえ強引に法力を持ってくるというのにその上で現実の法則へと手を入れて何の影響も起きないと今の飛鳥には断定できない。
(『始まりの書』は不可能を可能にする。森羅万象の在り方さえ歪められるのだから。でもこの世界はどうだろう、もしも……もしも全知全能の力を以てこの世界にアクセスして、何かしらの害を与えでもすれば)
―――――キヴォトスは崩壊する?
数分ほどの思考の後、飛鳥は迷いなく『本』を体に仕舞いなおし、
「――――奥空さん、僕にも何か手伝える事はありませんか?」
「あ、はい。でしたら皆のサポートをお願いします」
「なら、僕はある程度だけれど作戦を指示します。既に経験はありますから」
「本当ですか!?でしたらドローンを飛ばすのでそこから指示を!よかった……これで補給に専念できます」
飛鳥=R=クロイツは科学者だ。確かではない問いかけにチャレンジする事はあっても、未知の領域そのものに足を踏み入れてやぶ蛇となる事は避けたい。何よりも──自分一人で考え込んだ末に、『魔王』と呼ばれる事になったのだから。
アヤネの隣にパイプ椅子を置いて、飛鳥は端末を覗き込む。既にドローンは動き出している様で、校舎全体を俯瞰的な視点から見下ろせる様になっていた。
校舎へと攻め込むべく侵攻する集団――――セリカは『ヘルメット団』と呼んでいた――――は二十人ほどで、人数で見れば対抗するシロコ達対策委員会は四人であり形勢は不利だ。
ところがヘルメット団は自分達より遙かに少ない敵に対して踏み込むどころか、わずかに後退している。その要因は対策委員会側の、見慣れない生徒だ。
「奥空さん、彼女は?」
「あ、ホシノ先輩です。さっき紹介しようと思っていた三年生ですね」
「……なるほど」
ホシノは防弾シールドを広げて相手の銃撃を一身に受けながら、じりじりと前進を続けていく。そうする事で彼女は味方の三人から相手のマークをそらしているのだ。
最年長という事もあってかホシノの動きに迷いは無い。飛鳥はホシノとシロコ達の距離を確認した上で生徒へと通信を飛ばす。
「皆さん、飛鳥です。奥空さんのドローンで上から見ているんですが敵の動きには少し粗が見えます。ホシノさんが注意を惹いている間に、一気に距離を詰めましょう」
『え!?で、でも無茶苦茶相手撃ってきてるし……』
「十六夜さんの武器はガトリングガンですね?隙を見て敵全体に掃射して怯ませるんです」
『なるほど~!』
「奥空さん、十六夜さんが攻撃すると同時に弾薬の補給ボックスを投下します。そこからはホシノさんを先頭に敵陣へと踏み込みましょう』
すらすらと言葉が出てくる。頭脳だけ、何かを考える事だけならば常人よりかは少し上なのだ。であればそれなりにやるべき事へ全力を投じなければならない、
『ん……やれるだけやってみよう』
『このままだとちょっとジリ貧ですしね~』
『うへー、誰だか知らないけど皆やる気っぽいから頑張ってみようかなー」
『あ~!わかったわかった!やるわよ!』
生徒達は飛鳥からの提案を少しだけ迷った後に承諾する。そしてすぐに即席の作戦は開始された。
『うへ~……弾の勢いが凄いよぉ~……あっ、止まった。リロードしてるんだ』
『じゃあ、いきまーす!!』
ノノミがかけ声と共にガトリング号を薙ぎ払うようにして掃射。ヘルメット団は突然の切り返しに戸惑い、被弾を恐れて咄嗟に近くの遮蔽物に隠れるが、何人かはその前に撃ち抜かれて力なく地面に倒れ伏した。
この機を逃す手はない。シロコ、セリカ、そしてノノミは一斉に動き出し勢いを失ったヘルメット団へと迫る。直後にアヤネが派遣したドローンから投下された補給品も到着し、弾丸と投擲物もすかさず補充された。
『突撃……ボコボコ弾が当たる。爽快』
飛鳥の作戦は一応の成功を収めた。ホシノを戦闘として対策委員会は敵陣へと突入し、ヘルメット団をテキパキと片付けていく。
シャーレの先生としての初仕事はちょっとした暴動の鎮圧だった。その際に他者へ指示を行う経験はしたものの、二度目で上手く行くとは思いもしていなかった。飛鳥はため息と共にパイプ椅子の背もたれへと寄りかかる。
「流石です飛鳥『先生』!こんなに上手く勝てたのは初めてです!」
「……君達はいつもこの調子、なんだね」
「え、ええ。ヘルメット団は学校を占拠しようと以前から」
「その度に戦うんだね」
「はい。たった五人ですが、でも私達が戦わないと……」
「理解したよ。さっき君は、僕に廃校が迫る理由について詳しく話してくれなかった。その理由は――――ずっと五人で戦ってきたからなんだ」
「それは、ええと」
セリカは何故飛鳥にあそこまで警戒心の様なものを覗かせたのか。
何故アビドスの現状について細かい情報が欠落しているのか。
飛鳥は天井からアヤネへと視線を戻して、
「キヴォトスには大人があまりいない。生徒は自分で自分を守るしかない。なるほど、この世界には疑問と矛盾があまりにも多すぎる」
何故、自分が『先生』なのか。役割を課せられた理由の意味がわかりかねていたが、今の戦いを経て飛鳥はようやくハッキリと理解した。
『そして僕は僕の為に存在してない。存在するのは―――コップの中が水だけになる事を何かが許さなかった時』
『彼』の言葉を鵜呑みにするわけではない。飛鳥はまるで違う存在であるし、行動原理も思考も全く違う別人の話なのだから。
それでも、存在する事に意志が関わっているというアプローチは嫌いではない。この世の構造が何か大いなるものによって成り立っている事はバックヤードの存在からも推察できる。
もしも何かが『外的要因』を求めたとすれば……飛鳥=R=クロイツという男が先生になる事を課したのだとすれば。
たとえ法力が存在しなくとも、一人の人間として看過できないものがある。
「奥空さん、皆が帰ってきたら僕にアビドスが抱えている全てを話して欲しい」
「え?」
「大人は信用出来ない気持ちはわかる。けれど信じて欲しい。僕は……『先生』だからね」
飛鳥は頭が良いのでささっといけるシーンはどんどん行きたいですね