先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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まだ書けていないだけで実はこうなんですみたいな考え沢山あるのでエデン条約編までで各生徒との関係性(このキャラと飛鳥ってどういう感じになっているんですか)についてご質問がある方はお気軽にお声掛けください。


会合

『本日の放送を開始します。D.U付近で発生した暴行事件の件数は……』

 

 キヴォトス全土に向けて流される怪電波。内容は一週間区切りで様々な学区内で起きた事件数やそれによって発生した被害を淡々と語る、不可思議極まるものだ。

 キヴォトスに生きる者達の中でその意図を読み取った者は数少ない。よもや放送の意味が『世界平和』の実現など誰が想像できようか。

 

「クックック……果たしてこの放送に意味があるのやら。彼は科学の信徒かと思っていましたが、どうやらロマンチストな様です」

 

 携帯端末から流れる飛鳥=R=クロイツの声に耳を傾けながら、『黒服』と呼ばれる男は口の端を緩めた。

 アビドス学区を巡る争いの中でただ一人『ゲマトリア』に属する者としてシャーレの先生と対峙し、そして彼の思想の一端を読み取っていたが故に黒服は微笑む。よもや、よもや、と。

 

「混沌たる街に響くは教導の福音か、それとも破滅を引き起こす角笛か。かの者が目指す先は果たして我々と同じものなのか?」

 

 ギィギィと木が軋む。黒服へと歩み寄る人影が一つ。

 人形だった。デッサンに用いられる様な木製の人形がタキシードを纏い、あたかも生きているかの様に振舞っている。思わず頭部と両腕にソレを操る糸があるのではないかと、恐らく対峙した者は考える事だろう。

 名は『マエストロ』と言う。この人形もまた黒服と同じ組織に属する、探究者である。

 

「ええ、過程は異なるかもしれません。しかし飛鳥=R=クロイツの本質は私達『ゲマトリア』に酷似しています。ただ彼には先生としての役割がある……そうでなければ、きっと今この場で共に肩を並べていた事でしょう」

「何がそこまでそなたを高揚させるのだ、黒服。あれほど時間をかけてまで手中に収めようとしていた小鳥遊ホシノ―――暁のホルスを手放すだけの価値が飛鳥=R=クロイツにあると?」

 

 マエストロは当惑する。表情筋など人形には存在しない為、感情を表すかの様にギシギシと体が呻いた。

 黒服は端末から流れる音声を指先一つでかき消すと、肩をすくめて応える。何と言ったら良いものか、そう黒服本人も困惑している様子だった。

 

「クックック……貴方も会えばわかりますよ。あんなに矛盾した存在はそうそういません。合理的に、理性的に思考しながら不要な思想を貫いている」

「相反する二つの心……探究者であり指導者、か」

「私と相対していた飛鳥先生の目は間違いなく、伝え聞いている在り方でした。ところが、己の夢を語り始めた途端にそこには別の人間がいた。一〇〇年の時を生きた魔法使いと年端もいかぬ哲学者……この二つの人格が奇跡的な配合で混ぜ合わされている」

 

 その象徴が、いわゆる怪電波と称されるものだった。0と1を根底に生きる人間が他者の善性を刺激するべく放送を行う……実験と言えば聞こえは良いが、それはいわゆる『祈り』とでも言うべき行動だ。方法的序説に逆らっているともいえる。

 

「しかしそうした矛盾は何もおかしい事ではありません。むしろ、我々好みと言えばその通りです」

 

 会合への参加者は二人だけではなかった。絵画を両手で遺影の如く構える男が一人、会話に加わる。彼は首から上が存在しておらず、代わりと言っては何だが絵画には背中を向けた何者かが描かれている。驚くべき事に、穏やかで理性的な声はその何者かから聞こえてくる。

 名は、絵画が『ゴルコンダ』。首無しの男が『デカルコマニー』と言った。

 

「興味深い存在だと思いますよ、飛鳥=R=クロイツは。先生としての『記号』、探究者としての『記号』。およそ単一の存在では成立しえない複雑怪奇な構図をあの枯れ木の様な肉体に秘めている。数字を介して人間を計り、数字を介して善性を計る。大抵はどちらか一方に偏るものです」

 

 奇怪な三人組である。漆黒に身を包んだ男、木製の人形、そして首無しの男。

 キヴォトスの外からやってきた部外者―――それが『ゲマトリア』である。故に彼らはキヴォトスの理から逸脱し、そしその思想と目的は学園都市群にとって害をなす。

 

「ゴルコンダ、私はかの者と近い内に会わねばならない。我が目を、我が喉をもって飛鳥=R=クロイツがもたらすものは福音であるのか黙示録であるかを知る必要がある」

「そういうこった!!!!」

 

 叫びはゴルコンダ……を持つ首無しの男、デカルコマニーから発せられた。発声器官など何処にも見当たらない身から発声するなど常軌を逸しているが、黒服もマエストロも別段驚きはしない。

 ゴルコンダだけはデカルコマニーを諫める様に一層穏やかな声色で、

 

「私も同席してよろしいでしょうか。彼が本当に『ゲマトリア』にとって利益をもたらす存在となるのかを、同じく自らの感覚で知りたいのです」

「では、語らいの場を用意せねばなるまい。意見を交わし、是非を問う……ああ、さぞ高尚なるひと時となるだろう」

 

「おっと、もしかして僕抜きで話を進めてる?」

 

 四人目。これに対して黒服は待っていたと言わんばかりに目を細め、マエストロは非難の意思を込めて軋み、ゴルコンダは無言を貫く。

 青い肌、灰色の髪、そして冒涜的とさえ思える着崩れたスーツ。異質極まる外見を更に強調しているのは腰から下げられた二丁の拳銃。

 名を、ハッピーケイオス。

 

「ケイオス。会合を開くと言ったのは貴方のはずでしょう。『大人』として、集合時刻は守るべきかと思いますが?」

「時間にルーズなつもりはないよ。むしろタイミングとしてはバッチリなんじゃないかな。マエストロ君とゴルコンダ君は僕がいると露骨に口数減るからさ。特にマエストロ君、何か悪い事したかな? 僕は人に好かれる方じゃないのは承知だけど」

 

 ギィ、ギィ。それは先程までマエストロの体が鳴らしていたどの音とも異なり、明らかな敵意を持っている事が誰にでも理解できた。

 

「貴下は私の『作品』にあの様な手を加えた。看過すると思うか?」

「僕からすれば作品って言い方も少し変な感じがするけどね。まぁでもマエストロ君のおかげで『あの子』をもう一回作る事ができたから感謝してるよ。君としても興味深いじゃないかな、僕の頭から引きずり出した情報を元に作り出すレプリカっていうのは」

「……お二人共、積もる話がある事は承知していますがここは会合の場です。本題に移るべきではないでしょうか」

 

 一触即発の空気をゴルコンダの言葉が緩め、マエストロの敵意がゆっくりと収まっていく。ケイオスは肩をすくめながら円卓を囲む異形の者達を眺め、

 

「よし、皆揃ったみたいだから話を始めよっか」

「マダムはやはり不参加、ですか?」

 

 本来、ゲマトリアにはもう一人メンバーがいる。マダムと呼ばれるその人物はこうした集まりには決して欠席しないタイプなのだが……どういうわけかその席には今、外様であるケイオスが座っている次第だ。

 故にマエストロとゴルコンダは彼を好まない。自分達と同じキヴォトスの外にいる存在ながら、ケイオスの在り方はあまりにも他者に対する過干渉を前提に置いているのだから。

 

「彼女は忙しいんだ。近い内にトリニティに攻め込むだろうしね? 僕はそんな彼女の気持ちを汲んで今ここにいる。さて、それじゃあ話のテーマはなんだったかな? ああそう、飛鳥君に会いに行こうだったね?」

 

 ぱちっ、とケイオスが指を弾く。いつの間にか、メンバー達の目の前には乳酸菌飲料が注がれたグラスが出現している。

 

「こうして皆で集まったからには生産的な話をしようじゃないか。時間は有限だ」

「……飛鳥=R=クロイツと会わねばならない。その為には席を設けねばならない」

「僕に良いアイディアがある。『スランピア』を使おうよ」

 

 ギィィ、とマエストロが激昂寸前の音を立てる。これには黒服とゴルコンダも流石に反応せざるを得なかった。

 

「あそこは我が『芸術』を育む場だ。貴下の一存で扱って良いものではない」

「僕が思うにあそこ程良い場所はない。君の言う『芸術』を飛鳥君にアピールする絶好の機会だしね」

「―――一理はある、か」

「信じてよ、僕と君達の相性そのものは悪くてもお互いに利益を生み出せるはずなんだから。それに……気付いていると思うけどスランピアには良くないモノが住み着いてる。今の内に追い出しておくべきだよ」

「打ち捨てられた遊園地には『鬼』が住み着いている、ですか」

 

 ケイオスの言葉に関心を示したのはゴルコンダだった。背中を向けたままの男はそこでようやく前のめりに近い声色へと転じている。

 

「そう、鬼。もしも僕が知る通りの人物だとすれば、ちょっとややこしい。シナリオを変えていかなきゃいけない。だから炙り出しを兼ねて、飛鳥君にマエストロ君の芸術を見せようじゃないか」

「……」

「誘導は僕がやる。ゴルコンダ君と一緒にお茶の準備をしておいてよ。ね?」

 

 ケイオスは飛鳥と既知の仲だと言う。そして嘘ではない事もゲマトリア達は知っている。

 イレギュラーであるシャーレの先生と関わりを持ち、異質な知識を持つこの歩く怪異と呼べるこの人物が何を考えているのか、残りの三人は理解しきれていない。

 まさか、世界を混沌に陥れようなどとは。

 

「さて、それじゃあお茶会に備えて準備開始だ。また後で会おうね皆」

 

 

 スランピア、それはかつて一大テーマパークであった。今やかつての輝きは失われ、誰も後を継がないが故に朽ち果てた楽園だけが残されている。

―――こんな噂話がある。時々、電気も通っていないはずの遊具が突然息を吹き返す事があると。そして興味本位で近付いた生徒が行方不明になっていると。

 誰も真相を確かめない。あくまで噂話という部分もあるのだが、何かが本能的な恐怖を突き動かすのだそうだ。

 そんなスランピアには最近新たな都市伝説が生まれていた。一体誰が言い出したのかわからないが、その内容から瞬く間にSNSを中心に広がり出している。

 

―――『スランピアには鬼が住み着いている。その鬼は刀を持っていて、斬り殺す相手を探している』

 




めんどくさいんだなこいつらの会話……
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