先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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これでようやく短編集も終わりです。
次回からChapter4 vol.2が始まります。
なんかね更新するたびに評価いただいちゃってとっても嬉しい! 感想くれてもいいのよ! 感想も来ると頑張れるのよ!!


The girl in the dream

「だはぁ、もうダメ! アクセル=ロウもうヘットヘト! 休憩! 休憩を願いまーす!!」

 

 イリュリア城会議室に悲痛な叫びがこだまする。

 その場に居合わせているのはフレデリック、カイ、レオ……現時点でこの世界の誰よりも事態に精通する者達である。

 だがアクセルに目を向ける者は少なく、叫びの主であるアクセルは肩をすくめ、床にごろんと転がり込んだ。

 

「旦那ァ〜! もー無理! いくら俺でもこりゃキツい!」

「テメェが一番ケイオスに近い力を扱える。それならわざわざ志願した奴を使い潰さねえ理由はあるか?」

「かーっ! 久々に会ったらこれだよ旦那は!」

 

 アクセルとフレデリックの漫才をよそに、会議室に備えられた情報機器からは世界地図が立体映像として映し出され、いくつかの部分がハイライトで強調されている。内一つは、月を指し示している。

 人が消える。跡形もなく、前触れもなく。

 そんな異常事態が起きた地点をつい先程まで、アクセルは単身で調査していたのである。

 

「それで、月まで確認してどうでしたか? アクセルさん」

 

 アクセルを労う様に穏やかな声でカイが投げかけると、彼は寝転がった姿勢から立ち上がりビシッと姿勢を正す。ふざけた調子だが、彼なりにイリュリア第一連王などという立場の人間に対しての礼節らしい。

 

「はっ! ぶっちゃけ何が何だかぜーんぜんわかんなかったであります! いや、わからない事がわかったって感じ!?」

「……本当に信頼できるんだろうな? この伊達男」

 

 流石に苦言を呈するレオに対し、カイは手でそれを制し、

 

「わからない事がわかった、とは?」

「言葉通り、言ったまんま。ラムレザルちゃんとか、えーっと飛鳥さん?君?が消えた場所見ても、上手く言えないんだけどこう……『何かがあった』事はわかるわけ。チーズにでっかい穴空いてるけど、どうやってその穴開けたのお!?みたいな」

「つまりこうですか? 間違いなく何者かが干渉したまでは理解できるものの、貴方の目から見てそれが何処からのものなのかがハッキリと判断できない、と」

「あ〜! そうそうそんな感じ〜! 流石連王様、話が早くてしかもわかりやす〜い!!」

  

 これにフレデリック達は顔を見合わせる。アクセルの参戦により状況把握はスムーズに行われるものかと思いきや、更に複雑になりつつあるのを感じる。 

 飛鳥、ラムレザル、そしてロボカイ……こうした人物達の失踪にハッピーケイオスが関わっていると判断したまでは良い。方法に関しても、アクセルが提示した『存在を引き換えに別時空へと連れていく』と仮定すれば、断定こそできないものの納得もできる。

 だが問題は、彼らが何処へ行ってしまったのかというただ一点にある。居場所もわからず、手掛かりも掴めない。まさに暗中模索という奴である。

 

「……現場を見れば何か見つかるかとは思ったが、それもなしか。月からこれといって新しい情報もねぇ。今は、相手がどう動くのかを見定める以外になさそうだな」

「完全に後手に回っている状況、か。今までは幸運だったのかもしれないな……少なからず手掛かりがあって、奇跡的に拾い上げられていた。まったく異なる世界となれば、先駆けとなりうるモノもない」

 

 これまでフレデリック達は幾度となく世界の危機に立ち向かい、そして打破してきた。だが今回ばかりは苦戦は必至だ。最もこうした事象に精通しているであろう飛鳥=R=クロイツと、彼の持つ『始まりの書』が丸ごと消えてしまっているのだ。

 本人を丸々コピーしたもう一人の飛鳥でさえも、情報ゼロの状態から答えを導き出せるものではない。

 と、そこで口元に手をやり考え込んでいたフレデリックが何かに思い当たった様子でアクセルへと振り返る。

 

「アクセル、お前が感じた痕跡はどんなもんだった。わかりやすく言ってみろ。真っ白のキャンバスに黒点が一つか? それとも、正真正銘の無か?」

 

 問いかけに対して、アクセルは首を傾げ、それからうんうんと唸ってから言葉を絞り出す。

 

「……黒点、かな?」

「前にお前が言った様にケイオスのやり方が、自分を消し飛ばすギリギリまでやりながら飛鳥達を転移させるものだと言うのなら……少なくとも一方通行じゃねぇはずだ。恐らく相互転移を行っている」

「……で?」

「もし、次転移が起きたらすぐに現場に行って確かめろ。どれほどの時間経過によるかわからねぇが、転移先の残留物が残っている可能性はある」

「―――え?」

「俺達が行けと言ったらテメェは秒で飛んで行きゃいい、わかったか?」

「あ、あーっす! 了解しやした!」

 

 まったくよくわかっていない顔でアクセルは情けない敬礼で返す。レオの言う様に信用して良いものか疑問に思うが、この男こそ下手すれば世界を、否、宇宙を左右させられる力を有しているというからなんとも不思議な話である。

 だから手掛かりさえ、ほんのわずかでもきっかけさえあれば、アクセルの力でこの異常事態は解決できる。

 故にフレデリックは口ではアクセルを粗雑に扱いながらも、彼を心から信頼していた。その時が来れば、コイツは成し遂げる、と。

 

「……で、旦那。ちょっとだけ休ませてくんない? 俺ヘトヘトなの、ホントに」

「勝手に寝ろ。用があれば叩き起こしてやる」

「あーい! アクセル=ロウ休憩取ってきまーす!!」

 

 子供の様にはしゃぎながらアクセルは会議室の出入り口へとドタドタ走っていき、ゆっくりと振り返る。

 

「もちろん旦那達もたまには休んだ方が良いと思います! 根詰めても良い事ないから! そんじゃ!」

 

 そうしてアクセルは会議室を飛び出していき、残った男三人はまた顔を見合わせ、やれやれと肩をすくめるのだった。

 

 

「で、休憩なんて言ってもやる事なんて少ないしなぁ」

 

 用意された部屋はどうにも落ち着かない。流石はイリュリア城、『狭い部屋ですが』などとカイは謙遜していたが、街で同じクオリティに部屋に泊まろうとすれば軽く五桁は飛ぶだろう。ベッドも椅子も、何から何まで金ピカの装飾が施されている始末だ。

 とりあえずベッドに腰かけ、アクセルはため息をつく。外はすっかり陽が沈み、そのうえで明かりもつけていないものだから室内は薄暗い。だが一人で考え込む時間にはもってこいと言えた。

 

「困ったなぁ。お助けに来たのに、全然手助けになってない」

 

 『彼女』に背中を押されやってきたは良いものの、アクセルは果たしてフレデリック達の助けになっているとは言えない。本来ならばとっくのとうに飛鳥達の所在を確かめるくらいの気持ちでいたが、どうにも難航している。

 事の始まりは、直感だった。かつてハッピーケイオスが現れた時にもアクセルの持つ特殊な力は未来で起きる出来事を彼自身に伝え、事態解決の糸口となった。

 今回も同様に、『何かが来る』と訴えかけられるままにイリュリアへとやってきた。だが前回の様にケイオスの行動に対応できているとは言い難い。

 

「だ~! ダメダメ、落ち込んでも良い事ない! こんなのめぐみに見られたら怒られちまう!」

 

 そうだ、寝よう。一度気持ちをリフレッシュさせて、それから改めていつものアクセル=ロウとしてできる事を尽くすべきだ。

 アクセルはくよくよ悩む事は苦手だ。湿っぽい気持ち自体あまり好きではないし、可能ならば常に笑顔でいたいと常に願っている。自分だけではなく、他人にもだ。

 そういうわけで気味が悪いくらい柔らかいベッドに体を預け、アクセルは瞼を閉じた。

 

 

―――ここに客人がやってくるのは、初めての事か。

 

「え?」

 

 何かの聞き違いかと思ったが、それは確かに少女の声だった。か細く、今にも消え入りそうな、アクセル=ロウという男が決して聞き逃すわけにはいかない声だった。

 閉じたばかりの瞼を開けると、アクセルは何処かの広間にいた。何処かの広間の、長大なテーブルの前に。

 イリュリア城の一室かと考えたが、どうもそうは見えない。それどころか視線を横にずらせば、そこには庭園が広がっているではないか。それも、イリュリア城下とは別のものが。

 

「何処、ここ」

「何処かと問われれば、それは難しい質問だ。私さえこの曖昧な空間が具体的にどの様に構成されているのかを知りえない」

 

 またか細い声。テーブルの奥に目をやると、大きな椅子には不釣り合いな小柄の少女がちょこんと腰かけている。まだ十代と言ったところだろうが、その眼差しには似つかわしくない冷めた色がある。

 

「座りたまえ。立ったまま話すわけにもいくまい」

 

 アクセルは周囲をぐるりと見まわした後、少女に促されるまま手近な椅子に腰かける。

 テーブルを挟み、二人は見つめ合う。どうやって話を切り出そうか、普通ならば悩みそうなものである。が、アクセルという男は一味違う。

 

「もしかしてなんだけどさ、ここ夢の中?」

「―――驚いたな。わかるのか」

 

 アクセルの問いかけに少女は感心の声をあげた。

 

「俺、人とちょっと違うからさ。夢の中に入った事もあるんだよ。なんかここ、凄いそれっぽくて。で……これは俺の夢? それとも君の夢?」

「どちらとも言える。何しろ、客が来るのは初めてだ。恐らくは君の夢と私の夢が交わっているのだろう」

「なるほどねぇ。となると、ホントに偶然なわけか。あ、俺アクセル。アクセル=ロウ」

「私は―――百合園セイア。一つ教えて欲しい、アクセル=ロウ。君は『どちら側』の人間なのか?」

 

 どちら側の人間。そんな表現滅多に聞くものではない。アクセルは何かを感じ取り、もしやと眉をひそめた。

 

「どっちかっていうのはわからない。けど、飛鳥=R=クロイツの事なら知ってる」

「……ああ、つまり『外』から来たわけか」

 

 セイアが手を振るえば、虚空に映像が浮かぶ。法術、ではない。明晰夢と呼ばれる特殊な時間帯では、人は夢の内容を自覚しその内容を自らの意思で変えられる事がある。夢の主たるセイアは随分とこの空間に慣れている様だった。

 ノイズが混じっていた映像に白髪の青年が浮かび上がる。それは、紛れもなく飛鳥=R=クロイツのものだった。

 

「あっ!!」

「彼がこの世界にやってきてから、物語は大きくその枠組みを外れている。イレギュラーに次ぐイレギュラー……番狂わせという奴だ。あの存在も併せて」

 

 次にセイアが映し出した映像は、青肌の怪人……ハッピーケイオス。これにアクセルは身を乗り出し、反射的に映像を指差してしまう。

 

「アイツは……」

「彼もまた、『外』よりやってきた者。君もそうなのだろう、アクセル」

 

 外。それは恐らく、アクセルやフレデリック達がいる、更に言えば飛鳥達もいた元の世界を指しているのだろう。では『内』とは何を指しているのか。

 映像から視線を外し、アクセルは疑問を投げかけるべきセイアを凝視する。

 

「セイアちゃん、俺達が外から来たっていうなら、君がいるのは何処なんだい?」

「キヴォトス―――いくつも学園が折り重なり、そして絶え間ない争いが繰り返される地」

「キヴォ、トス」

「だが、その争いは近い内に終わりを迎えるかもしれない。最悪の形で、誰も想像していなかった末路で」

 

 セイアがまた手を振り、映像が切り替わる。そこに映し出された光景に、アクセルは驚愕した。

 

「なん、だよこれは」

 

 

―――街が燃えている。否、何もかもが燃えている。

 

『エデン条約の調印式が行われていた会場が、爆発しました!?多数の怪我人が出ている模様!』

『た、たった今情報提供がありました……! え? 爆発の原因は、飛鳥=R=クロイツ?』

 

―――少女が叫んでいる。

 

「違う! 私達は、私は……こんな自由を求めていたわけじゃない!」

 

―――少女達が泣いている。その内の一人に、アクセルは見覚えがある。

 

「アズサ。今なら間に合う。まだ、私は誰も殺していない。今なら止められる」

「ラム……!!」

 

―――少女が笑っている。

 

「ほらね、レイヴン。やっぱり私は魔女なんだよ。その方がずっといいんだよ」

 

―――少女が、呻いている。

 

「いやだ。起きてよ先生、起きて……飛鳥先生ッッ!!!」

 

 すべて、幻というにはあまりにも克明だった。

 すべて、嘘というにはあまりにも残酷だった。

 

「すべて、いずれこのキヴォトスで起きる。人が殺し、殺され……やがて物語は混沌の坩堝へと落ちていく」

「と、止められないのかよ!? 君がこれを見てるってんなら、なんとかできるだろ!?」

 

 アクセルは叫んだ。今目の前に広がっている事が真実であるのだとしたら、絶対に防がなければならない。それがいかなる地であろうとも、アクセル=ロウという男は決して看過できないのだから。

 だがセイアは、冷めた目のままでかぶりを振った。双眸から放つあまりにも暗い輝きに、アクセルは言葉を失う。

 

「止められない。何故なら、これから起きる事はすべて人が人であるからこそ起きてしまう。他者を憎み、羨む性……それが何重にも積み重なって起きる、不可避のストーリー。確定した未来だよ」

「だからってよ……!」

「それにだ、アクセル。私の夢に混ざり込んだだけの君には、どうやっても物語に関わる資格などない。傍観者なのだよ、君は」

「ッ……!」

 

 歯を割れんばかりに食いしばり、アクセルは宙に浮く映像を見つめた。

 不可避、確定した未来。なんとも強いニュアンスの言葉だ。

 だが、アクセルは負のイメージを振り切る様に、頭をぶんぶんと左右に振った。

 

「……いいや、変わるさ。明日なんていっくらでも変わる。なんなら一秒先だって、十秒先だって変わる。大体だぜ、セイアちゃんは俺がここに来るって知らなかったろ!?」

「それは―――」

 

 そこで、唐突にアクセルは視界がぐにゃりと歪んだ。動揺するセイアの表情さえあっという間に溶けていき、あっという間に彼の周囲をモザイクが包み込んでいく。

 それが時間切れだと理解するのは一瞬で、アクセルはためらう事なくモザイクの向こう側へと叫んでいた。

 

「セイアちゃん! また来る! また来るから……それまでにあの未来を止めてくれよ!」

「ア―――ウ―――それは―――」

「なぁに言ってるかわかんねぇよ! とにかく、また来る! 待ってろよ!!」

 

 そうして、両手を振り回して叫び続ける内にアクセルの視界は一瞬にしてモザイクに飲み込まれていった。

 セイアの声は聞こえない。庭園も掻き消えた。気付けば周囲は泥の様に薄暗く、光も閉ざされる。次第にアクセルは意識さえも遠のいていくのを感じた。

 

「あーもう! 何がどうなってんだよぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

―――なんだ、今度はアンタも来たワケ。

―――さっさと帰んな。

 

 

 

 

 

 

「―――うわあッ!!」

 

 突如視界に光が走る。意識が覚醒すると同時にアクセルはガバッと身を起こし、今度は自分の体がイリュリア城の一室、ベッドの上にあると理解する。

 先程の庭園……百合園セイア……キヴォトス……未来で起きる惨劇。

 アクセルの脳内で幾つもの謎がひしめく。だが、それよりももっと大切な事がある。

 

「セイア、ちゃん」

 

 あの少女の冷めた目。まだ年端もいかないというのにあんなにも暗く、疲れ果て、怖れに染まったものをアクセルは未だかつて見た事がない。

 セイアの事情などまるで知らない。彼女が何処の誰なのか、まともに話せてもいない。けれどあんな目をされては、アクセル=ロウという男は戦うしかない。

 拳をギュッと握りしめ、部屋を飛び出す。腕時計を確認すれば休憩を取ってまだ一〇分も経っていない様だ。

 

「旦那……やっと見えてきたぜ、俺達の目指す場所が!」

 

 キヴォトス。そこが別世界の何処にあるのかなど知る由もない。だがアクセルは走る。セイアに会う為に、彼女の苦しみに少しでも手を差し伸べるが為に。

 

 

 

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