色々とヤバいホロライブオルタナティブ 作:hiiragi@Lend
「貴女にお話があります。いいですか?」
見た目中年の医者らしき男が、ベットに横たわる私に向かって言った。
なんだか頭がクラクラする。
ピッピッピ、という心臓の鼓動の如き機械音が、空っぽの頭の中を縦横無尽に飛び回る。
「どうか、落ち着いて。2082年の9月15日、貴女は14歳の時に不慮の事故に巻き込まれ、それから長い間、脳死状態にありました」
視界が鮮明になるにつれ、段々と記憶が戻ってきた。
けれど、やっぱりわからない。
なんで、病院なんかにいるのだろう。
確かホログラの収録が終わって、事務所のソファに寝転がった所までは覚えている。
そして多分、そのまま寝て、気づけばこんな所にいた。
2082年って……不慮の事故って、何?
またあの事務所、爆発したのか?
それに、14歳だって?
私は、大空スバルは、17歳で──
「ご家族の意向もあり延命治療を取り止め、心肺停止を確認しました。その後、ご家族との涙の別れを済ませ、遺体安置室へ運び込もうとした──その最中、貴女は突如として意識を取り戻したのです! ムクリと!」
……。
やたらと熱く語るな、この先生。
いやまぁ、脳ミソも心臓も死んだ後で生き返ったって言うならそれは確かにすごいことなんだけれど、奇跡以外の何物でもないのだけれど。
そもそも死に至るまでの覚えが無いからイマイチ反応に困る。
「……あれ、反応が薄いですね。本来ならここでナースを呼ぶ流れだったのですが、うむ、仕方がない。本来の流れに添いましょう」
「あ……あの……」
「ええ、ええ。喋らなくとも結構です。『長い間』というのが『どのくらいの長さか?』、それを聞きたいのでしょう?」
「いや、そんなことは」
「3年です」
「!?」
うわ! なにその、すげぇ微妙にツッコミづらい数字!
なんとなく9年とかそれぐらいかと思ってたのに、3て!
しかも結局17歳で感覚的に何も変わらない辺りが、もう凄く微妙!
どういう反応すればいいんだよ!?
「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!」
「まずい! あまりのツッコミづらさに患者の心拍数が! ナース! ナース! お茶の間にちょっとした笑顔を届けられるような良い塩梅のボケ、持ってきて!」
男に呼ばれ、カーテン仕切りの奥から看護婦さんが小走りで出てきた。
そして、ベット脇に就き、その顔を私の耳元に近づける。
「…………」
看護婦さんは無言のまま──いや、これは、ただの無言じゃない!
コイツ、間を貯めてやがる!
一体、何を、どんなボケを挟む気なんだ!
「……」
「……あの、えっと、看護婦さ」
「ゲッツ(吐息多め)」
「ぐはァッ!?」
吐血した。
あまりのしょうもなさに対してツッコミを入れようとしたところ、何故か喉に激痛が走ったのだ。
私の強靭な喉にどうして今更このような負荷が……いや。理由は明白。彼らの話を信じるなら、私は3年間、何も喋って来なかったのだ。そこから急に大声を張りあげようものなら、こうなっても仕方が無い。
まさか自分が、ツッコミ役という性のために血を吐くことになろうとは。
「焦らないで。急に大声をあげようとするから、そうなるのです」
「……」
男に諭された。いや、誰のせいだと思ってんだよ。
「どうぞ、水です。嚥下機能が衰えているでしょうから多少トロミをつけてあります。飲み易いですよ」
「……ずみ゛まぜん。いだだぎまず」
上半身を起こし、看護婦さんから渡された水を飲む。
その水はなんだかとても甘く、乾燥していた唇や舌が確かな潤いを帯びていくのを感じた。
すごくおいしい。感動で涙が出そうな程に、それは、とても待ちわびていた感覚に思えて。
「ふむ、それにしても。凄まじい回復能力ですねぇ」
男が何やら、そんなことを呟いた。
「『大空スバル』さん。記憶の継続性を確認する為に聞きますが、これは貴女の名前で間違いありませんか?」
「……そう、ですけど……あの、ちょっと聞いていいですか」
「いいですとも。色々と、混乱されているでしょうから」
「私は確か、さっきまで事務所にいたと思うんですけど、どうしてこんな所にいるんですか……?」
「……」
男が、今度は無言になる。
間を貯めている、という訳ではないのだろう。男の表情が一瞬、驚愕に染まっていた。
しかしそこは医者。すぐに微笑みを取り戻す。
悪い言い方をするなら、それは、営業スマイルとでも言うのだろう。
「なにか、事務所というのは所属事務所とか、そういう類のものですか?」
「そんな感じの……えっと、ホロライブっていう……」
「ほろ、らいぶ?」
男は看護婦さんの方を見やる。
「ナース。君、ほろらいぶって何か知ってる? 私はアイドルとかそういうのには、どうも疎くてね」
「うーん……すみません。私もそういうのには、ちょっと……検索かけてみますね」
看護婦さんは、スカートのポケットからスマホのような端末を取り出し、それを忙しなく操作し始めた。
ここで私は、驚く。
看護婦さんが端末に電源を入れると、画面の内容が宙に浮かび上がったのだ。
「えーと」
看護婦さんは特に指でスクロールするでもなく、その画面を見つめたままだ。
しかし、端末と同じ大きさのその画面は、目まぐるしく表示する内容を変え、様々な資料が浮かび上がる。
なんだかよくわからない。
なんだかよくわからないけど──
「すげぇ、かっけぇ……」
思わず、口に出てしまった。
昔から私は、ゲームとかに出てくる、未来感あふれるカッコイイ機械が好きでたまらないのだ。
ロボとか、いいよねぇ。
「あれは、『シグジー』ですよ」
男が言う。
「し、しぐじ?」
「『シグナル ジャスト』の略です。貴女の所持物品にもあったようですが、覚えありませんか?」
「え?」
私が、持ってた? あの超カッコイイスーパーハイテク端末を?
スマホなら持っていたけれど、あれは流石に持ってなかったような……。
「ふむ。貴女の持ち物は全てお預かりしていますが──そうですね。シグジー、お渡しましょう」
「あ……はい」
私が応えると、男は、ベットの頭側の脇に設置されている床頭台から、透明のカバーがついた薄い端末を取り出した。
「──あ」
覚えのある姿に、目が留まる。
いや、端末自体はやっぱり覚えがない物だったのだけれど、しかし。
透明なカバーと端末の間に挿入されていた、それは──写真。
よく知っている顔が写った写真だ。
その人物は
「おかゆ」
おかゆ。
同じくホロライブに所属している彼女の名は、猫又おかゆ。
猫耳が生え、紫髪を肩まで伸ばしている、少女。
おにぎり屋のおばあちゃんに飼われている、猫人間。
おかゆはその写真の中で、身に覚えのない制服を着ていて、同じ制服を着た私とツーショット写真を撮っていた。
黒いブレザーに、キュロットスカートだった。
因みに私とおかゆは、同じ学校に通っていた事などない。
あんな写真も撮った覚えは、無い。
「この獣人の子に覚えが?」
男が私の反応を見て察したのか、尋ねてくる。
獣人って、また、やたらファンタジーっぽい単語だなぁ。異世界系のアニメとかでよくある、種族設定だ。
……ん……異世界?
「えと、はい──親友です、けど、こんな写真は撮った覚えないっすね……」
応えてから、まさか、と思う。
まさか。
まさか自分が、そんなラノベの主人公みたいな展開に陥るなんてこと──
「なるほど」
険しい顔した男の手からシグジーなる端末を渡される。
なんとなく、スマホの要領で端末端のボタンを押すと電源が入り、先程見たように、画面が浮かび上がる。
ログイン画面らしきそれには、文章が表示されていた。
『本人ID読み取り不可の為、ロックします』
それ以上、先に進めることは無かった。
「……ナース。検索結果は出たかな」
「ヒットしないですね。となると先生、やっぱり
「ああ、そうだな。ご家族にもこの件は伏せたまま、彼女の身柄は行政に任せる──スバルさん」
家族に伏せるとか、身柄とか、そんな単語に不穏な空気を感じつつ、私は端末から目を離し、男の方に向き直った。
「その端末を、返していただけますか? それは
「あ、はい……え?」
「すみません、スバルさん。混乱に混乱を招くようですが、どうやら死人の魂を雑に扱う輩がこの病院内にいたようです。再生ではなく、再現だったのです──貴女も、薄々気づいているでしょう?」
「…………」
気づいていない、と言えばそれは嘘になる。
思えばあの事務所では、非日常が日常みたいな所があるし。
よく爆発するし、窓割れるし、宇宙にワープしてたりするし、オセロの駒になったりするし。
だから、
「どうか、落ち着いて聞いてください」
こんなことも、
「大空スバルさん──貴女はどうやら、
こういうことも、あるよな…………。
「いや……ないだろ!!」
あらすじで、『卒業した方々は出てこない』と書いたな。
アレは嘘だ。