あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

104 / 113
そろそろ英雄様を覚醒させようと思う。
ということだ。許せ、いや許してひやしんす

13/02/06
脱字修正


13 愛の告白は勘弁な

 沢山の人を見てきた。ソレと同時に沢山の人を見捨てた。

 

 ワタシという存在が永遠という生を得てから、全てを受動してきた。受動せざるを得なかった、と言う方が正しい。

 

 ワタシという存在を知らずに見捨てた人も存在を知っていて見捨てた人も、全て覚えている。

 もちろん、その人が殺した全ても。正しく、正確に、確かに。

 

 だからワタシは今の宿主に願ってしまった。

 どうせ叶えられないと思って。

 

 この呪われた運命を終わらせてほしいと。

 永遠とも言えるワタシを殺してほしいと。

 

 所詮は、出来ない事。

 ワタシを殺すなんて事は出来ない。

 殺した所で、ワタシが暴発して全てを飲み込む。

 

 そんな事を知っている頭のイイ宿主。

 知っている筈の馬鹿な宿主。

 底抜けのお人好しな宿主。

 優しすぎるから、背負いすぎて壊れてしまったご主人様。

 

 彼は、ワタシを殺すつもりだ。

 

 

◆◆

 

「―――ッ……ハァ……ハァ……」

 

 目が覚めた。窓から見える景色はまだ暗い。

 時計を確認しても、午前二時を過ぎた所だ。

 

「……クソッ」

 

 背中を這う嫌な汗と、舌が口に張り付き、身体が水を求めている。

 どうしても寝付きが悪い。いや、寝れない。寝たとしてもすぐに起きてしまう。

 

「……オレが、殺した…」

 

 わかっている、ようやく自覚出来てしまった事実を口から出す。

 唾も出ない口の中の何かを必死に喉の奥に押し込む。

 部屋から出て、キッチンに向かう。

 

 冷たい床にペタリ、ペタリと足が着き、ギシギシと床板が鳴る。

 ボロい、という訳じゃないけど、それでも暗い廊下にはよく響く。

 

 キッチンに到着して、グラスの中に水を注ぐ。そのまま何も考えずに喉の中に水を通す。

 グラスを置いて、ようやく息を吐く。どうにか落ち着いた……と思う。

 

「光……大丈夫?」

「……大丈夫だよ、母さん」

「そう……最近寝れてないようだけど…悩み事があるなら、」

「大丈夫……大丈夫だから、気にしないで」

「……もう遅いわ。すぐに寝るのよ?」

「うん……」

 

 この世界の母に心配させてしまった。

 思えば、この世界に来て一番迷惑を掛けてるんじゃないか?でも、それでもオレの母ではなく、光の母だ。

 それはオレの母という事であり……。

 

「ダメだ。なんでだよ……」

 

 オレはオレで、オレは光で、光はオレで。それが現実だと、今更に理解した。

 ここがオレにとっての現実で。光にとっての現実でもある。

 そんな現実で、オレは沢山の罪人を殺した。無差別に、無作法に、無感情で。ただ武器を射出させた。

 その中に、アイツの…憎たらしいアイツの親が入っていた……らしい。

 はやて達から聞いた話で。オレしか無い力だから、事実だろう。

 唐突の事で、頭が白黒していた。理解したくないと拒んだ頭の中で、オレはどうしていいかわからなかった。

 当然の行動も、当然だと想っていた行動も、オレには分からない。わからない。

 だからこそ、だから、はやて達の言う通りにすぐに謝ろうとした。

 

 お前の母を殺したのは、オレだ。

 

 そうアイツに言うだけだった。

 ニコポやナデポを使ってしまえば、ただ言うだけの行為な筈なのに、オレは戸惑って逃げ出した。

 その日から、夢の中でアイツがオレをずっと責めてくる。

 

 お前が殺したんだ!

 お前の両親を殺してやろうか!?

 お前が!!お前が!!

 

 ヘラリとしたいつもの笑いじゃなくて、まるで憎しみに顔を支配されたようなアイツが容易く想像出来て、オレは何度も起きてしまう。

 

 もしも……もしも、自分の両親が殺されたら?その犯人が目の前に居たら?

 はやての質問が頭の中に蘇る。

 当然、その場で殴り殺してしまうだろう。絶対に。

 

 それだけの罪を、オレは犯した。

 オレが、オレが、オレが……。

 

 なら、オレは殺されるべきなんだろう。

 ソレで許されるかはわからない。ソレでも、オレは、

 

 

 アイツに謝ろう。

 許されるなんて思ってない。アイツがオレを殺すんだったら、ソレも受け入れてやる。

 ニコポもナデポも、使わない。それこそ、オレが許せない。許されても、許せない。

 

 

 

 

 オレは、決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母さんが起きる前に学校へ向かう。

 少しだけ寒い道路、そんな中、独りだけ歩く。

 ジャリジャリと靴とアスファルトが何度も鳴る。

 いつもなら、隣になのはが居る筈なのに、今日はいない。

 なのはの隣には、今日から誰もいない。

 

 ゾクリとした。

 オレのいない世界に、オレという存在がいなくても回る世界に。

 思わずその場に座り込んで、出てくる涙を必死で拭う。

 

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 でも、オレはアイツに殺されなくちゃいけない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない!!

 

 決意が揺らぐ。

 グラグラと意識が揺れる。

 どうしようも無い現実がどうにかした理想をガラガラと壊していく。

 前まで生きていた理想の世界が、今から生きる現実の世界に。

 誰が、誰が原因だ?

 アイツが、アイツに殺されなければ。

 

「違う!!」

 

 ブロック塀を殴る。

 右手に痛みがじんわりと響き、喉が裂けるように痛い。

 

 違う、違う違う。オレが、オレが一番悪いんだ。

 オレが、オレが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく着いた学校には、アイツとすずかが居た。

 これだけ早く来たのに、すずか達はそれよりも早い。

 

「ん、スメラギか。珍しいな」

「おはよう、ライト君」

「あ、…あぁ」

 

 まるで当然の様に挨拶をして、それを返すオレ。

 そんな資格、オレには無い。目の前にいるコイツに挨拶をする資格すら、オレには。

 

「ちょっといいか…」

「別に構わんよ」

「一緒に来てほしい」

「……ここじゃダメか?」

「人のいない所の方がいい」

 

 オレが死ねる場所なら。コイツが殺せる場所なら。

 どこでもいい。

 

「……愛の告白なら勘弁してくれよ?」

「そんなのじゃねぇ…そんなんじゃ…」

「ふむ……」

「ゆぅ君、いってらっしゃい」

「あぁ……ふむ、このままだと再来年辺りに薄い本が厚くなるかもしれんな」

 

 訳の分からない事を言ってる後ろの人間をどうにか連れ出して、オレは屋上に向かう。

 

 

 

「で、また屋上か」

「また?」

「いや、こっちの話だ。で、本当に愛の告白は勘弁してほしいんだが」

「罪の告白なら…いいか?」

「教会にでも行ってこい。残念ながら贖罪は請け負ってない」

「お前じゃねぇと!!意味がねぇんだよ!!」

 

 思わず叫んでしまった。

 そんな叫びに少しびっくりしたのか、きょとんとしたアイツの顔が見える。

 

「そんな泣きそうな顔をするなよ。聞いてやる。聞くだけだぞ?」

「それでもいい。それでも……それだけでも」

「では聞こうか。迷える子羊よ。汝の罪を告白しなさい……なんてな」

「……オレは、」

 

 息が詰まる。

 舌が乾いて、うまく言葉が出ない。

 何度も空気を飲み込んで、必死に声を出す。

 目の前でずっと待っているコイツに罰せられる為に。

 

「お前の……お前の住んでいた、住んでた世界を攻撃したのは、オレだ……!!」

 

 言った!

 言えた。これでいい。全てが終わる。これでオレは許される。

 頭を下げて、どうしても言いたかったソレの後は言葉が、罪が、謝罪が、溢れて口から出る。

 

「謝って許される事じゃないのはわかってる!!それでも、謝らないといけないと思って!!オレの行動が、お前の人生を狂わせたんだと思う……!!」

「……」

「ソレに、ソレにあそこには、お前以外にも」

「……はぁ」

 

 小さな衝撃が頭を襲う。

 ソレはまるで誰かが叩いた様な、小さな衝撃。

 思わず頭を上げると、どうしようもなく複雑そうな顔をしたアイツが目に入る。

 

「まぁ、落ち着けよ」

「でも!!」

「落ち着け。少しは被害者側の要求も聞いたらどうだ?」

「ッ、」

 

 オレは息を飲み込む。

 どうしようもない、罪。コイツが許してくれるかは分からない。わからなくても、それを受け入れないといけない。

 

「落ち着いたか?」

「…あぁ」

「ならいい。話は終わりか?」

「……あ、あぁ」

「ふむ、なら教室に戻ろう。夏とはいえ朝はまだ寒い」

「え?ちょ、ちょっと待てよ!!」

「ん?どうした?罪の次は愛の告白か?コレも聞くだけには構わんが」

「違ェよ!!どうしてそうなるんだよ!!他にあるだろ!!、こう…お前を殺すだとか!!」

「ないな」

「ねぇのかよ!!あるだろ!!」

「……何か勘違いをしてるようだな」

「勘違い?」

 

 オレがコイツの住んでいた世界を攻撃した以外に勘違いする内容なんてないだろ。事実なんだから。

 

「お前が俺に謝るべきは、本を台無しにしたアレだろ、普通に考えて。まずそこからだ」

「……ごめんなさい」

「うむ。別の本を進呈しろ。それで許す。さて、話は終わったな」

「終わってねぇって!!」

「なんだ、また何かしてたのか?流石にそこまでお前の贖罪に付き合う気は無いぞ?」

「もう罪なんて……」

「あるのか」

「ねぇよ!!」

 

 たぶん。

 今思い出すと、罪ばかりを積み重ねている。ような気がする。

 

「オレはお前の故郷を潰したんだぞ!?」

「あーうん、スゴイネー」

「真面目に聞けよ!!」

「ムキになるなよ。ソレに俺に謝るなよ」

「……なんでだよ」

「殺した人間に謝るならわかるさ。生きてる俺に謝っても、ソレはお前の自己満足だろ?」

「……でも」

「だから、俺はお前を許すことも、お前に罰を与える資格なんて持ってない」

「それじゃぁ!!オレはどうしたらいいんだよ!!」

「抱えて、悩んでろ、ずっと」

 

 アイツはそう言う。

 まるで、ずっと自分がしているように、当然の事の様に。ソレがどれだけ難しいか知っている様に。

 どれだけ、苦しいか知ってるみたいに。

 

「……ふむ、もうそろそろか」

「何がだ……」

「いや、こっちの話だ」

 

 アイツはニヤリと笑って、口を開く。

 

「まぁお前の気が済む、と言ってはオカシイが俺の気が済む、と言ってもおかしいな……」

「なんだよ…」

「一度お前と全力で戦いたいと思っていたんだが……ァーいや、違うな」

「ホントにどうしたんだよ」

「そうだな、こうだな。

 

 勝てば正しいんだ!!全て!!」

「おい、どうしたんだよ」

「まぁ気にするな……気付いたお前にはチャンスをやろう!!俺に勝てば俺が全てを告白してやる!!騙していた事も!!全て!!」

「……」

 

 途端に演説を始める目の前の奇人を見てしまう。

 どうしてこうなった…。

 

「……ふむ、まぁこんなモノか」

「何がだよ」

「そういえば、お前に言わなくてはいけない事があった」

「なんだよ…」

「俺の母を瀕死に追いやったのはお前だ」

「知ってるよ!!」

「知ってたのか……まぁいい。ソレに関しては償ってもらおう」

「……あぁ、殺せよ」

「ただ殺すだけではツマらん。お前と殺し合いをしたい」

「は?お前に得がないだろ」

「お前に勝てば管理局を潰すのに必要な力量がわかるだろう?」

 

 ニヤリとふてぶてしく笑ったコイツの考えは、やはりオレにはわからなかった。

 

 




~勝てば正しいんだ!!
 勝てば官軍。まぁ屋上の扉の向こうになのはさんが居たと思えばいいよ。

~夕への贖罪
 文中で言ったように、あの世界に剣を射出した事に関して、夕は彼を許したり、罰したり出来ません。そんな権利、彼にはありません。責めることもしません

~光が夕の大切な人を瀕死にした事に関して
 以前のルートで説明した通り、彼の中では既に小さい事になってます。理由は、夕君だから

~光の母
 一般人。別に何事もない人生を歩んできた主婦。子供がアクティブなので翠屋との親交が増えてあたふたしてる人物

~光
 容易く殺されて許してもらう、なんて決意を固めたつもりになった少年。死にたくない、でも死なないといけない。そんな事を思える程度に彼は成長した。
 ようやく現実を見れる様になった彼には、もう一度、頑張ってもらいます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。