あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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15 殺す為の一手

 やっぱり、ワタシの宿主は馬鹿だ。

 

 彼女を瀕死にした犯人が目の前に居たのに。

 容易く、本当に、まるで本を請求するように許してしまった。

 

 意味が分からない。

 いや、意味はわかる。

 彼は彼を恨んでなんかなかった。

 彼をずっと見ていたが、普通は恨んでもいい筈なのに。

 彼は恨まなかった。

 

 いや、恨んでいた、が正しいんだろう。

 

 恨んでいて、いつの間にか、犯人がすり替わったのだ。

 ソレは彼らしく、彼だからこそ、自身に厳しすぎる彼だから。

 

 ワタシは一緒に抱えよう。

 彼がワタシを殺すというのなら。

 ワタシが彼を殺してあげよう。

 

◆◆

 

 やった!!やった!!

 コレでライト君の罪が嘘だって思ってくれる!!

 

「なんや、なのはちゃん…アースラになんか呼んで」

「というか、ソッチの関係者じゃない私達まで来てイイわけ?」

「リンディさんには許可をもらってるから大丈夫だよ!!」

 

 大丈夫。コレでみんなもわかってくれる!!

 全部嘘だと言う事が。

 アイツは言ったんだ、ライト君に向かって「ようやく気づいたな!!」とか「騙してた事」とか!!

 私が何を言った所でソレはアイツにとって都合がよくなるだけだ。なら、アイツが自白すればいい!!

 アハハ!!最高だ!!最高の気分だ!!

 

 ブリッジに入ると重苦しい空気が漂っていた。

 どうしたの?もしかして、もう終わってしまったの?

 

 ライト君の圧勝で、もう終わっちゃったのかな?

 でも、あんなヤツ死んで当然だよね?だって皆を騙して、ライト君を悪者にして。最低だ。

 

「……あ、あぁなのはか…」

「ん?どうしたの、クロノ君」

「……君は見ないほうがいいかもしれないな」

「え?」

 

 思わずその言葉に画面を見てしまう。

 頭から血を流して、肩で息をしているライト君。そしてそれに相対している無傷と言っていい化け物。

 

「夕……君?」

 

 沈黙したブリッジに響くはやてちゃんの声。

 ソレはまるで信じたくないモノを見るように。当然だよね。あんな化け物がクラスに居たんだよ?悪者なんだよ?

 

「……なんや、触手なんてエロい能力あったんかぁ」

「え?」

 

 次に響いたのは、なんでもない、まるで落胆というよりも驚きの方が強い反応。

 でも画面に映ってるのは、赤黒いソレ。正直、この世界のモノとは思いたくない。

 

「で、クロリン?なんでユウちゃんとライトが闘ってるの?」

「詳しいことは知らないが……殺し合い、だそうだ」

「ふーん……」

「話を聞いてれば、ミカゲから言ったらしいが」

「ゆぅ君が……?」

 

 そうだ!!アイツがバレた事に対してライト君を殺そうとしてるんだ!!

 

「……うーん…アレ?」

「どうかしたの?すずか」

「ううん。……なんでだろ、ゆぅ君が笑ってるみたいにみえて」

「アレが?」

「うん、アレが」

「……あぁ、なんだ惚気か」

「惚気じゃないよ!?」

 

 顔を真っ赤にして両手を上げるすずかちゃんと、溜め息を吐いて肩を竦めているアリサちゃん。

 

―うぉぉぉおおおおおお!!

―まだまだ甘いな!!ライトォ!!

 

 画面の中で戦う二人。

 触手の化け物と戦うライト君。

 なんでだろうか、ライト君の顔に笑みが見えるのは。

 いや、ありえない。有り得るわけがない。

 

 あんなヤツと笑い合うだなんて。そんな事。

 

「あぁ、そっか……」

 

 私は一人、踵を返す。

 そうだ、きっとそうなんだ。

 

 彼は私の助けを求めているに違いない。そうじゃなければ、あんなヤツに負けるわけがない。

 きっと、負けているフリをしているのだ。

 私と二人で、アイツを退治したいんだ。

 

 きっとそうに決まってる。

 

 あんなヤツに負けるワケがないんだ。

 

「待っててね、ライト君……」

 

 

 

 

 

 

 

 何もない、荒野。

 遠くの方で金属の弾ける音と、魔力弾による爆発が聞こえる。

 

「レイジング・ハート」

 

 私はバリアジャケットを着込む。

 魔法の杖を構え、アイツに向ける。

 

 魔力を収縮して、地面に魔法陣が描かれる。

 何重にも、沢山、沢山沢山タク山タクサんタくサンタクサンタさンタクサン!!

 ガシャンガシャンとリロードが開始され、空になった薬莢が宙に捨てられて、弾倉が空になってもリロードを続ける。

 

「全力、全開……!!」

 

 コレが、彼を助ける為の砲撃になる事は確かだ。

 これだけの魔力を込めれば、アイツはきっと!!

 

「フフフ、アハハハ……アハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 私はトリガーを引く。

 桜色の光が一度消え、目の前を覆い尽くす。

 狙いはアイツ、あの化け物!!

 

 アァ!!褒めて!!褒めてよ!!ライト君!!

 

「ァア、まったく……ヤリすぎ、だろう。まったく」

 

 桜色の壁の中から赤黒い手がニョキりと出てきて、私の顔を掴んだ。

 そのまま私の体は浮いて、後頭部から衝撃が走った。

 

「え……?」

 

 ありえない、ありえない、ありえない!!

 

「少し、眠ってもらうぞ、眠り姫」

 

 そう言って、彼はもう一度私の頭を地面へと打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「あぁ、まったく……少しは加減をして欲しい」

 

 触手を服の様にして桜色の光の中を突破したが。いやはや、どれだけ圧縮すれば解析不能な程の魔力の塊になるんだか。

‐さぁ準備を開始しよう

‐悪夢を見せてやろう

 あぁ、当然だ。

‐感応系術式展開

‐心的外傷を作成

‐なんだろうか、ライトでも目の前で惨殺させようか

‐それともライトに殺されとくか?

‐いや、ソレも意味がなさそうだ

‐ならライトを殺す方向で設定しよう

‐術式行使

 

「なのはぁぁぁァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!」

「む、」

 

 ライトがコチラに接近して、俺の腕を飛ばす。

 右腕、というのが幸いしたか。

 

「お前は、お前は!!」

「まぁ落ち着け。そいつはまだ生きてるさ」

「え?」

 

 アイツが抱く『眠り姫』を見つめる。

‐さて、予定通り邪魔をしに来てくれた

‐当然コイツだけだろう

‐まったく、世話を焼かせる

 これでいい。全て順調だ。

 地面に落ちている右腕を拾って、肩に付ける。グジュリと触手が蠢き、接合が完了する。

 

「安っぽいフィギュアか、俺は」

「おい、なのはが生きてるってのは!?」

「本当だ。アースラに戻ればたぶん助かるさ」

「本当か!?」

「お前次第だよ」

「……」

 

 相変わらず警戒を解かないコイツに思わず肩を竦める。右腕が落ちそうになった。

 

「邪魔が入ったら終わる、と言ったろ?」

「……そうだったな」

 

 ようやく警戒を解くライト。剣を消して、高町さんを抱く力を少し強くする。

 

「はぁ……これでいい。あとは勝手にしてくれ」

「おい、どうしたんだよ…お前も戻るんだろ?」

「当然だ。が、少し状況が悪い」

「え?」

 

 俺の左手が異様に輝く。

 恐らく、使いすぎ、というか治療にアンヘルを使うという荒療治をしたからだろう。

‐さぁ計画を始めよう

‐これでいい

‐さぁ終わろう

‐殺す為の、一手だ

 

 

 

◆◆

 

「おい!!何してるんだよ!!」

 

 アイツの手から触手が溢れ出す。

 地面を覆い尽くして、ソレでも尚、アイツの左手から溢れ出す。

 

「逃げろ!!できるだけ遠くに!!」

「お前は!!お前はどうするんだよ!!」

「俺は……俺の事はいい!!さっさとしろ!!」

 

 オレはユウの言葉に従い、宙に浮く。

 どうやら触手は空まで伸びて来ない様だ。

 なのはを抱えて、オレは触手の塊を見つめる。

 

―ライト君!!

「リンディさん!!アイツは!?」

―わからないわ……反応はあるんだけど

 

 クソッ……。

 アイツの姿が触手に飲み込まれる。

 まるでちょっとした蕾の様に、触手の塊が揺れる。

 

「今攻撃をしたら…」

―馬鹿なことはやめるんだ!アレはそんな代物じゃない!!

「でも!!そうじゃないとユウが!!」

―魔力反応…変化してます!!

 

 蕾が、徐々に開いていく。

 朱色の光を漏らして、完全に開く。

 赤黒い触手の中、朱色の淡いベールに包まれた存在。

 

「女……の子?」

 

 思わず呟いてしまう。

 それは確かに、女の子だった。

 髪は黒く、肌は白く、周りの光景には似つかわしくない、少女。

 女の子は、ムクリと起き上がり、両手を見つめる。

 ありえない物を見るかの様に。

 

「どう……して……」

 

 彼女は声を出して、自分の喉を抑えた。

 まるで声が出ることが不思議な様に。

 

 そして空を見上げて、涙を流した。

 まるで空が憎いかのように。

 

「こんなの……ワタシを殺すって言ったじゃない!!殺してくれるって言ったじゃない!!嘘吐き!!嘘吐き!!嘘吐き!!」

 

 彼女は叫ぶ。

 ここにはいない誰かに向けて叫んでいる。ソレがオレには分からない。わからないが、彼女は叫び続ける。

 

「お兄ちゃんの!!バカァァァァァァァアアアアア!!」

 

 

 

 




~なのはェ…
 ニコポナデポ汚染はこんな感じ。自分の都合のイイ事だけを信じて、彼に都合の悪い事は信じない

~激昂の英雄『星6』
 攻撃力2500、守備力500。効果:このカードは通常召喚できない。場に存在する『高町なのは(笑)』が相手に破壊、もしくは除外された時に手札から特殊召喚出来る。召喚が成功した時相手のモンスターカードを一枚破壊出来る。

~黒髪白肌の触手から生まれた少女
 髪が黒いのはユウの体を使っているから。夕の事をお兄ちゃんと呼ぶ存在は彼女だけです

~褒めて!!褒めてよ!!ライト君!!
 褒めて!!褒めてよ!!サトシ君!!
 どちらかと言えば、アカサカァ!と叫んでほしいものです

~アトガキ
 殺す事を深く考えました。考えて、一度原点に戻ってみたら、アンヘルを殺す事は出来ませんでした。
 だって、彼女は生き物ではないのですから。壊す事は出来ても、殺す事は出来ません。
 なら殺す為にはどうすればいいのか。生きればいい。生きていれば殺す事は容易いのです。
 生きる、というのは死と同義なので、生を代わる、というのは殺すと同義になるんじゃないかなぁ
 と思った結果です。行き着いた先は本当に、馬鹿みたいな屁理屈です。
 次回、エピローグ。



 なんて事はありません。今からが本番です。
 やったぁ!!戦闘回なんてもう書きません!!これから先は会話文とシリアスで行きますよ!!

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