あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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2013/02/20


21 許された言葉はイエスかハイ

「ごめんなさい!!」

「悪かった…!!」

 

 目の前で栗色の頭が下げられる。その隣で銀色の頭も下がっている。

 なんとなく内容も分かることなのだけど、こちらとしては溜め息しか出てこない。

 

「一体、何を謝られてるのかさっぱりな訳だ」

「その…迷惑、と言いますか…我が身を振り返って散々な事をしていたと思いまして…」

「で?」

「許してもらえるとは思ってないの。コレが自己満足だって事もわかってるの」

「ん、ならいいさ」

「でも、ソレでも謝ら…え?」

 

 どうしてか、許した筈なのにキョトンとした顔をしている高町さんを見て、もう一度溜め息を吐く。

 俺の隣に座っているすずかは苦笑してるし、はやて達も先ほどまでのトゲトゲした空気を一変させて溜め息を吐いている。

 

「前から思ってたんだけど、アンタって本っ当にバカよね」

「バニングスさん。ソレは本人を目の前に言う事か?」

「本人の目の前だから言うのよ」

「自覚している事を言われても、改善出来ない訳だが」

「ど、どうして許してくれるの?」

「どうしても何も、なんで許さない、って結論に至るんだ?」

「だって、私は…御影君を疑って、ライト君が絶対正しいって思ってて」

「今は?」

「……自分で考えて、御影君には謝らないと、って思って」

「ん、ならいいさ。俺はアナタを許しましょう」

「オレも…悪かった」

「ほら、高町さん。コイツが全部悪いんだとさ」

「ち、違うよ!!私が、私が自分で考えるのをやめてたから…全部ライト君に任せていたから」

「はいはーい、二人とも、それ以上は無限ループになるからやめや」

 

 はやてが二人の謝り合い、というべきか、誤り合いを止めて溜め息を吐く。

‐どうしようもないな

‐まぁ皆で止めれば大丈夫だろ

 皆?と自分の思考に疑問を感じて思わず苦笑してしまう。

 

「と、いう事だ。バニングスさん頼んだ」

「なんで私になるのか聞いていいかしら?」

「適材適所って言葉があってだな」

「臨機応変、という言葉もあるのよ?」

「じゃぁ一番接触率の高いフェイトに任せよう」

「フェイト、頑張りなさい」

「ふぇ!?なんで私に話が飛んできてるの!?」

「まぁフェイトだからだろうね。頑張ってね!!」

「アリシア!?」

「とまぁ、こんな感じに高町さんとライトが間違ってたら俺達がフォローするし。迷ってる事があれば相談すればいいさ」

「みんな……ありがとう!!」

 

 花が咲いたように彼女が笑い、思わず「ほぅ…」と納得というか可愛く思ってしまう。

 背中から鋭い痛みさえなければきっと気の利いたジョークでも出たと思うが、残念な事に出たのは痛みからくる涙だけだった。

 

「あ、あの?すずかさん?」

「んー?」

「抓るのはやめてください。背中のお肉が引きちぎれてしまいます」

「……じゅるり」

「誰か、誰か助けて!!今すぐにこの子をどうにかして!?」

「仲がイイ事で」

「バーニング!!止めろよ!!」

「言ったわね、言いやがったわね、その言葉で私を呼びやがりましたわね」

ひゅいまへんひゅいまへん(すいませんすいません)ほっへほ(ほっぺを)ほっへほひっはらないへ(ほっぺをひっぱらないで)!!」

「おぉ…伸びる伸びる」

「何それ楽しそう。私も参加する!!」

「ア、アリシアだめダヨー」

フェイホ(フェイト)まへはんは(さんか)ひゅんあー!!」

「ぷっ……あはははははははははは!!御影君、酷い顔してるふふふふふふ」

 

 ようやく笑い出した高町さんの御蔭で俺の頬はどうやらまだ顔に付いているようだ。

‐吹っ切れたな

‐うんうん、これで懸念は軽くなる

 

「御影君、ありがとう」

「はてさて、いつかも言っただろう?俺は何もしてないよ。高町さんが勝手に助かっただけさ」

「うん、だから、私も勝手に言う事にするんだ。ありがとうって」

「……そうかい」

 

 どことなくバツが悪くなり顔を背けてしまった。

‐まったく、真っ直ぐなのは元々かよ

‐苦手な人間な事は変わらないな

‐ヤメテ!!そんな目で俺を見ないで!!

 カット。

 

「あぁ、そうだ。ライト」

「あん?」

「少しだけ話がある」

「なんだよ…」

「……まぁ別に聞かれても構わないか」

「なんだよ、勿体ぶって」

「神様への願いは幾つ残ってる?」

「……ッ…そういう事かよ」

「そういう事だ」

「なんの話?」

「男同士の秘密の話。背景にはバラの花でも飾ってくれ」

「ならフェイト、私と話しましょ!百合の花を咲き誇らせましょう!!」

「アリシア、ごめん。さっぱり分からないんだけど」

 

 女性グループが話し込んでるのを確認して、ライトがこっちに顔を寄せてくる。

 

「なんで知ってるんだよ」

「スマン、お前が壊滅的に察しが悪い事を思い出した」

「ウッセェよ!!」

「耳元で叫ぶな…」

 

 溜め息を吐いてライトを押しのける。

‐もう少しだった、あぁもう少しだったのに!!

‐ショタでもイケメンだからな!!

‐ホモォ

 カットカットカット。

 

「まぁ男同士で秘密の話をするから少しここから出るわ」

「夕君、絶対安静ってシャマルに言われてなかった?」

「治った」

「嘘やろ!!ちょい待たんかい!!」

「ほれ、急げや急げ」

 

 ライトの腕を掴んで医務室からダッシュで逃げる事になるとは思わなんだ。

 はやてこそ絶対安静の言葉の意味を調べればいいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、えっと、どういう事だ?」

「……いいか、三度目だ。こうして態々アースラから離れて監視の目を掻い潜ったからもう回りくどくなく言ってやる。俺も転生者だ」

「……なんだって!?」

「遅ぇよ!!もう察しが悪いとかそういうことじゃねぇぞ!!」

「なんだよ、それならそうと言ってくれれば」

「あのな…言ったところで何か変わるか?お前が」

「……スマン」

「いや、イイ。それこそ過ぎた事だ」

 

 思わず溜め息を吐いてしまう。こういう時に煙管がほしいと思ってしまうのは俺の中の彼女が色濃く遺っているからなのだろうか。

‐どうでもいいさ

‐いやどうでもいいんじゃないか?

 はてさて、どうでもいいのだろうか。

 

「ってか、なんでまたこの荒野なんだよ」

「それは、アレか、アースラから出た理由を言及してるのか、それともココである理由の説明を求めてるのか?」

「……」

「アースラから出た理由は俺達の『願う』力が大きすぎるから。誰かに聞かれるのはよくない。二つ目、墓ぐらい立ててやろうと思ってな」

「……そうか」

「そうさ」

 

 ようやく合点がいったのか、ライトは荒野に視線を向けて息をゆっくり吸い込んで目を閉じる。

 そんな様子を少しだけ苦笑して俺もソレに習う。

 

「……」

「……」

「……許してくれるのか?」

「……さてね、死者の言葉なんて死んでから聞けばいいさ。それまでは醜く、死から逃げて、捕まったら死者共に自慢してやるさ」

「…強いな、お前は」

「弱いからこそ、強く振舞ってるんだよ」

 

‐エリマキトカゲのようにな!!

 カット。アンヘルまで用いて襟を作る気にはならない。

 

「さて……そろそろか」

「何がだよ」

「ん?俺の計画はまだ終わってないんだよな…残念な事ながら」

「は?」

 

 俺の足元に魔法陣が描かれ、魔力光が俺を縛る。

‐簡易バインド

‐術式解析

‐解析完了

‐解除なんてしないけどな

 

「ユウ・エンプティだな?」

 

 そう声を出したのは、管理局員らしい男。

 当然の事ながらさっぱり知らない人物。知りたくもない。

 

「さてね、どうだろう」

「本部まで来てもらおう」

「お、おい!!待てよ!!コイツが何をしたって言うんだ!?」

「彼は何もしていないかもしれない。が、彼は何かをするかもしれない」

「ッ!?」

「敢えて理由を言うとすれば、革命家エンプティ。彼女の息子だからだよ」

 

 本当に、何をしたんだか…結局最後まで自分の事を語らないし。公的な書類を漁ったところで一切彼女の記録は残っていなかった。

 エンプティ(からっぽ)、とはよくいったものだ。

 

「管理局員共の話に付き合うつもりはねぇよ。さっさと連れてってくれ」

「待てよ!!お前は、お前はソレでいいのかよ!!」

「いいも何も、仕方ねぇだろ」

「……わかった、オイ!」

 

 男は別の管理局員に声を掛けて転移魔法を起動させるように言う。

 ライトはコチラを向いて泣きそうな顔をしている。こちらとしては、悪い気しかしない訳だが。

 

「さぁ行こうか」

「あぁ、じゃぁな。ライト」

「待てよ、待ってくれよ!!」

 

 そして俺は転移陣の上に乗った。

 下から光が溢れて来て俺を本局に転移していく。

 

「ユウ、ユゥウウウウウ!!」

 

 そんなアイツの絶叫がフェードアウトして、俺は管理局に捕まる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年後。

 俺は管理局本部の暗い部屋で一生を迎える事となる。

 

 

 

 

 

 

 なんて安っぽい小説の終わりならば、どれほどよかったのだろうか。俺としては、それでも良かったのだけれど。俺の立ち位置は残念な事にアンヘルがいるべき場所なのだ。

 数年どころか、数時間程、俺は暗いどころか、普通に居心地のいい空間のソファで本を読んでいた。

 本は日記。届けてくれた人はヤケに護衛を付けた年老いた女性。名前は生憎聞けなかった。いや、聞かなくてもよかったと言うべきか。

 

 日記の内容は管理局のあり方について長々と書かれている。そして、自分を犠牲にして管理局を正しく導こうとした女性の日記だった。

 どうしようもなくお人好しだ。まったく、まるで死にかけの子供を貯金を叩いて買う程、お人好しだ。

 

 迎えがそろそろ来る頃だろうと、本を閉じて伸びをする。

 この部屋に一つしかない扉が開いて、黒髪を振り乱した彼女が息を荒げてコチラを睨んでいる。

 

「随分お急ぎじゃないか、プレシア。まるで罪人の処刑を止めたみたいに」

「みたい、じゃなくて、そうしたのよ!!」

「それはご苦労さま」

「いい加減にしなさい!!」

「ソレは無理な相談かもしれない」

「ほんと……本当に…」

 

 ツカツカとこっちに歩いてきた彼女は荒かった息をようやく落ち着けて、溜め息を吐いた。

 

「どこまでがアナタの計画なのよ…」

「実際は捕まったアンヘルの身辺調査が始まって、親を発見。そして連絡される、みたいな予定だったんだけどな……いやはや、どうして上手くいかないもんだ」

「なんで、私に押し付けようとするのよ」

「言ったろ?肢体(シタイ)はやるって」

 

 思わずニヤリと笑ってしまう。

 結果的に言えば、死体でもなくなってしまったんだが。それはもうどうしようもない。

 

「本当に…もう心配させないで」

 

 膝を折り曲げた彼女が俺を抱きしめる。

 大事そうに。先程まで自分が想像していたであろう予想を現実から引き離すために。

‐おほぉおおおおお!!

‐おっぱいが!!おっぱいが当たってるよォオオ!!

‐うひょぉおお

 カット。コレがなければ最高にいい場面だと言うのに。

 

「まぁ、死体ではないから受け取らなくてもいいさ」

「そうね……そういえばこれで計画は終わったのでしょう?」

「あぁ、これで終わり。本当に終わりさ」

「じゃぁ約束してた、私の願いを聞いてくれるわね?」

「……いや、まて、まだ計画は終わってない」

「逃げることは許さない、と言ったはずよ?」

「……無理なものは無理って言うからな」

「大丈夫よ。正式にアナタを私の家族に加えるだけだから」

「……ちょっと、待ってくれ。えっと、は?え?うん、えっと、つまり、ん?」

「どれだけ混乱してるのよ」

「いや、まぁ、だって、俺、化け物だし」

「科学者だし、ロストロギア持ってるし、ソレがどうしたのよ。知ったことじゃないわ。アナタに許された言葉はイエスかハイよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、そろそろ起きないと遅刻するよ」

「……ん、あぁ」

 

 金髪の妹が起こしに来てあくびをして眠気を飛ばす。

 そういえば昨日は論文を書いている途中で寝てしまったのだったか。

 メガネを探し当てて、着用する。

 

「おはよう、ユウ」

「あぁ、おはよう、フェイト。今ならキス付きでも構わんぞ」

「ハイハイ、またすずかに怒られるよ?」

「すまん、言わないでくれ。本気で殴られる」

「だったら早く起きる!」

 

 慌ただしく俺を起こしたフェイトをジッと見ながら思わず苦笑してしまう。

‐夢の内容はなんだったか

‐とても懐かしい夢だったかもしれない

‐はてさて、

 

「どうしたの?」

 

 フェイトがコチラを訝しげに見つめている。

‐もう少しかがんでくれればいい感じにおっぱいが見えるんだが

‐いや、アレだ、俺の視線を下げれば

 カット。

 

「懐かしい夢を見た…と思う」

「懐かしい?」

「ふぇいとぉ……にぃさん起こす前に私を起こすとかなかったのぉ…」

「あ、ゴメンネ。アリシア」

「おはよう、アリシア」

「おはよぉ、兄さん」

「論文の進み具合は?」

「おぉぉ……二日、二日待ってくだされぇ」

「一日な」

「おぉぉぉ、おにぃ」

「おにぃ、と呼ばれてもいいかもしれんな」

 

 なんて冗談を言いながら、俺のいつもの朝は変わらずに迎える。

 もう少しで、アンヘルの素体を作る事が出来るので、彼女を救うのも一年以内に出来る事だ。

 

「次の計画は漏れなく行くぞ、アンヘル。次はちゃんと俺が殺してやるよ」

 

 俺はニヤリと左手に収まる赤い石に笑った。

 

 




~ユウの計画
 自分はアンヘルの本体へ侵入及び自壊。アンヘルは夕の身体を使ってコチラの世界へ。引取り先はテスタロッサ家を予定していて、あの夜の集会の時から決めていた事。ちなみに無断。

~プレシア様のお願い
 おい、息子にならんか?

~日記
 どこかの底抜けのお人好しの革命家日記。捕まった時にその場にいた元上司に渡した

~元上司
 三人並ぶと老人会だそうで

~後日談
 普通に学校に登校していたユウに対して英雄は「はぴょ!?」というオカシナ声を上げて驚いたそうな

~アンヘル
 『FATE』を使い蘇らせると大切な家族に危険が及ぶ可能性があるので、自立型の生体デバイスとしての復活を予定。殺す事は可能なのだけど、殺す事をするのは一体いつの事になるのやら


~あとがき
 どうも、布です。
 長い間お付き合い頂き、誠にありがとうございました。
 本当に、これで『あぁ神様、お願いします』は完結でございます。今は無き『にじふぁん』からお付き合い頂いた方にも、こちらからお付き合いいただいている方にも、感謝するしかありません。

 ありがとうございます。
 あなたがたの御蔭で、こんな長く書ける事になりました。
 感謝のしようがありません。

 日本語がややオカシナ気がしますが、きっと気のせいでございます。
 前回とは違い、コレは大円団という形にての完結でございます。オカシナところもあるでしょうが、上手く噛み合った結果だと思って頂ければ幸いでございます。
 以前の話の完結から、二ヶ月もかかってしましましたが。本当に、なんとか完結させれました。書かせていただいている事に感謝するしかないですね。

 よろしければ、終わった小説ですけど、絵とか描いてくれてもいいのよ?
 なんて戯言をココに書いておけば奇特な変態さんがアンヘルとかすずか様とか描いてくれると愚考した次第であります。
 色々と書かないといけない事もあると思うのですが。筆を投げる体力で限界のようです。
 何かあれば、感想や、自サイトにでも書き込んで頂ければ幸いでございます。
 尚、誘導のようですが、どうしても正規√からのStS編が読みたいという変態共はスミカ様に罵られながら、自サイトの拍手ボタンを押せばいいと思います。
 この変態共が…!!

 それでは、これにて閉幕いたします。
 8ヶ月程度ですが、お付き合い頂き、誠にありがとうございました。
 本当に、ありがとうございました。

2013/02/19 猫毛布

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