あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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諸注意

「声に出る文」
‐思考文
地の文

ちなみに一人称視点です。
2012/06/19
― → ‐
へ変更


無印期
01 口からでた虚


――母さんッ!

 

――いいね!お前は私達の代わりに生きてくれ!

 

――母さん!

 

――母さん!

 

 

 

 

目が醒める。

‐あの夢だ。

‐未だに引きずってるのか?

‐トラウマだから仕方ないだろう

‐ここは…学校か。

 

カット。

そう学校だ。小学校。

気分は最低だが、頭は相変わらず最高の状態で動いている。

 

眼鏡を外して目頭を軽くマッサージする。

重さが取れた辺りで眼鏡を戻し前を向く。

 

小学生にしてはレベルの高い黒板の内容。

それにスラスラと内容を継ぎ足す教師。

授業中に寝たか。しかも夢の内容があれか。

 

「死にたくなるな」

 

ボソリと呟いた言葉。誰にも聞こえる訳がない言葉。

枕にしていた左手が少し痺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「よお!なのは!」

 

昼休みになり、わざわざ隣の隣の更に階段を跨いで隣の教室からやって来たのは銀髪のやたらと目立つ男。

‐騒がしい男。他人をまるで既に自分の物の様に扱う。

‐主観だけで言うなよ。

‐客観でもその通りだ。

‐Q.ならばどうする?

 

アンサー。図書館に逃げよう。

‐否、戦略的撤退

‐否、図書館に前進

 

カット。

ただの敗走でしかない。

 

「御影君」

「………なに?」

 

甘んじて敗走の味を楽しんでいたが、声を掛けられて振り返る。

‐笑顔でも添えてな

カット。

そこに居たのは紫色の髪の女の子、月村だった。

‐すずかタン!

‐春だ!屋上で弁当だ!

‐幼女が相手なんて…うっ………ふぅ

 

カット、カット。

 

「カット」

「え?」

「…いや…で、何か用?」

「借りてた本を返そうと思ったんだけど」

「あー……俺の机の中にでもぶちこんどいてくれ。出来るな?プッシーキャット」

「ふふ、了解しましたわ、御主人様」

 

そう言ってお互いに軽く笑う。

演技掛かった軽口ももうすぐ二桁目になろうとしている。

最初こそは見事にスベっていたが、四回を越えた辺りから彼女も乗り気だ。

 

‐すずかタン可愛いよすずかタン

‐成長すれば美人なんだ今から唾付けとこう

‐馬鹿!幼女最強だろ!

‐光源氏計画を始めよう

‐‐‐‐それだ!

 

「カット」

「お前!俺のすずかになんの用だ!」

 

手前のモノじゃないよ。俺のモノでもない。モノですらない。

‐死にな餓鬼

‐今すぐ消えろよ餓鬼

‐おいおい餓鬼で思考を回すなよ

‐ショタが可愛いのは認める

‐‐‐え?

 

四番、カット。

 

「……別に」

「ハッ!根暗野郎め!さっさと消えな!」

「……あぁ」

 

面倒事になる前に退散しよう。

月村を向けば申し訳なさそうな顔をしている。

‐ほら!笑顔だ!今すぐにニッコリ笑え!

 

カット。キャラじゃないのさ残念。

 

 

 

 

 

 

図書館で昼休みを過ごし、授業開始ギリギリに教室に戻って席に座る。

机を探れば可愛い猫の贈り物がある筈だ。

‐持ち主は俺だから送り物という表現は微妙

‐微妙なのは今さらだ

‐なんせプッシーキャットとか言うもの

‐小説の引用だろ?もちろんすずかタンも

‐その内官能小説をこっそり

 

カット。カット、カット。

落ち着け思考。貸すにしても俺が持ってる事が問題になる。

 

‐否、文章を読む為

‐否、思考を巡らす為

‐否、すずかタンが真っ赤になりながら読む為

‐応、すずかタン可愛すぎる

‐すずかタン蕩れ~

‐つまり、帰宅途中に官能小説を買うという事で可決か?

 

‐‐‐‐応

否。カットカットカットカットカットカット。

第一、貸した後の言葉遊びに困る。今の関係を…

 

「……ん?」

 

本がない。

月村の方を向けば本当に申し訳なさそうにしている。

 

‐事件か!?

‐事件だ!

‐被害者は!?

‐レインボーブリッジ封鎖出来ません!

‐犯人はヤスだ!

‐ギルティ!ギルティ!

 

カット。封鎖するな。

ともかく、教師がいるから月村も動けない。

‐あれだな。コレをネタにすずかタンを…

‐鬼畜乙

‐ねぇわ、それは絶対ないわ

‐……ごめんなさい

 

月村に事情を聞かない事にはなんとも言えないさ。

勉強に集中しよう。

 

‐じゃ、じゃあ、あれだ!こうすずかタンの家に行こう

‐なぜ?

‐家族の人に向かって言ってやるんだ

‐何を?

‐『娘さんが本を無くしたので娘さんを貰いますね^^』

 

 

カット!

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

「……事情を知らんから謝られてもわからんのだが…」

「なによアンタ!すずかがこうやって謝ってるんだから許しなさいよ!」

 

‐リアルツンデレとは

‐ぬかしおるわ

‐しかも話を聴きませんのよ、皆様

‐ギルティ

‐ギルティ

‐脱がせ

ギルティ。

 

「あー、バニングスさん?でよかったか?」

「アンタ!クラス全員の名前ぐらい覚えなさいよ!」

「……これは失礼致しました。貴女の様に常に学年一位で高尚な頭脳は持ち合わせておりませんので。ワタクシめが覚えている名前は比較的近くにいる人間だけ故に許して下さいませ」

 

‐もっと煽ろうぜ!

‐話がややこしくなるだろ

‐ツンデレが出てきたからすずかタンがオロオロしてるぞ!

‐煽れ!今すぐ煽れ!

‐いっそ扇ごうぜ!スカートが捲れる程に!

カット。

 

「ふんっ、まぁいいわ。それですずかを許すの?許さないの?」

「内容にも寄るけど…そうだな、実は親の仇とかだったら許せないかな」

「は?」

「あぁ、例えばの話でリアリティーのない戯れ言。嘘。口から出た虚ろ」

「アンタってヤツは……!」

「アリサちゃんいいよ、大丈夫だから」

「でも!こいつは根暗で今みたいに人をバカに」

「うん、大丈夫。だから、ね?」

「……すずかがそう言うならいいわ」

 

アデゥツンデレ。

‐ツンデレ面倒

‐ツンだけだからな

‐フッ、ツンデレなど煩悩を捨てれば

‐煩悩の塊から煩悩を捨てたら何になるんだ?

‐“  の塊”

‐まさに器だな

‐どうせその器に煩悩がインするんだろ

 

「で、謝られる要因は…まぁ分かるけど」

 

‐実はあなたの事が嫌いなの。もう近寄らないで

‐月村の手にはバラバラにされた本が…!

…………。

‐ごめん、俺

‐泣くなよ俺

 

「実は、あの本なんだけどね」

「……だよな。そっちだよな」

「え?他にも何かあった?」

「いや…ない。あるわけがない。で、本がどうかした?」

「皇君が…持って行っちゃった」

 

スメラギ君?スメラギ?あぁあの餓鬼か。

歪んでる恋愛小説をアイツが……?表紙と題名は普通な小説だからか。

 

‐お、すずか!その本おもしろそうだな!

‐え、うん。ちょっとクセが強いけど面白かったよ?

‐じゃあ貸してくれ!

‐え?でもこれは‐

‐ありがとよ!さぁ飯にしようぜ!

 

だろうなぁ。許すも何も、悪くさえもない。

 

「……いいさ。数日したらアイツから返しにくるだろ」

「だと…いいんだけど」

「……どうにかなるさ。どうにもならないバニングスをどうにかしてくれ」

「え?」

 

ずっとこっちを睨んでるんだ。いつかアレは視線で人を殺せるね。

‐ついでに隣の高町なのはも中々の睨みだ

‐周りの女子もな

‐男子は男子ですずかタンと話しててにらんでるし

‐女子達はあれか、あのイケメン餓鬼がいいのか

至極どうでもいい理由で殺されそうだ。

‐至極どうでもいい理由で地獄にいい訳か

 

カット。

月村が苦笑しながら、小さく“ごめんね”と呟いた。

 




~プッシーキャット
文中では可愛い猫。読んでいた小説から引用した言葉。

~ご主人様
同小説からの引用。

~題名と表紙は普通な歪んだ恋愛小説
上記二つの言葉が出てくる件の小説。ちょっと気取った貴族の青年とそれに仕える少しだけヤンデレなメイドさんの恋愛を綴った小説。結果的にヤンデレメイドさんが青年に恋人を殺させて一緒に逃げるように仕向けた為に『歪んだ恋愛小説』と主人公は言った。ちなみに架空の作品。

~カット
分割思考を打ち切る単語。

~蕩れ
どこかのツンデレを越えたツンドラ少女曰く、萌えの上位互換。

~レインボーブリッジ封鎖
~犯人は~
事件といえば。

光源氏計画
自分好みの女性がいないなら、育てればいいじゃない。



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