あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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26 発育不足さね、6年後出直しな!

「―あぁ、そうそう。御影君なんですが、すこし事情で休むそうです」

「へ?」

 

 思わず間抜けた声が出てしまった。

 周りを目だけで見て、誰も私に気づいてないことを安堵してからまた視線を移動させる。

 空席のソコ。

 

「先生、事情って…病気とかですか?」

「いえ、御影君の家庭事情だそうです」

「そう…ですか」

 

 すずかが心配そうに顔を歪める。

 少しだけ、情報を整理しよう。

 

 まず、ユウは病気じゃない。

 休む理由は【家庭事情】だ。

 一見問題なんてないんだけど、少しだけ疑問が残る。

 

 

 

 私はあの部屋で彼の家族を見ただろうか?

 私はあの部屋で彼以外の誰かを見ただろうか?

 答えは、否だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん?」

「あ、うん。どうかした?なのは」

「ううん。なんかボーッとしてたから」

「…ゴメンネ」

「大丈夫だよ!」

 

 なのはの頭を撫でながら、ユウがどうして休んだのか考える。

 どう考えても『面倒だから』かまた誰かの為に無理をしてるしか思いつかない。二択にしては、随分と差がある。

 

「よし…行こう」

「え?」

 

 少しポカンとするなのはを撫でて、私は決意する。

 どうせ考えててもこれ以上ナニかが出てくるわけがない。それに出てきたとしても答えはでないのだ。

 それなら本人に直接聞くほうがいい。本当に家庭事情ならそれはそれで、愚痴を聞く程度なら私にもできるはずだ。

 

「大丈夫…だよね?」

 

 一度不安になると次から次に不安要素が溢れ出てくる。

 誰か、ほかの人を連れて行こうにも何故か嫌われてるユウだし、あと魔法関係だったら困る。

 つまり、一人で行かなくてはならない。アリシアは…だめだ、今日はお仕事だ。

 私も仕事らしい仕事があるが、呼ばれたら行くしかないのだけど、ユウが心配だ。

 

 

 

 ユウ、だから心配なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、フェイトちゃん」

「いえ、大丈夫です」

 

 時間と場所が変わり、今の私はアースラにいる。どうやら、守護騎士が頻繁に出ているらしい。

 呼ばれたことに異議はない。仕事だと割り切ってるから。

 お見舞いに行けなかったことに、申し訳なさ半分と安堵半分なのは心の内にしまっておこう。

 

「なのはは?」

「今ライト君と別行動中」

「そう、ですか」

「安心しなよ、私がいるよ!」

「そうだね、アルフ」

 

 動物形態のアルフの頭を撫でて、転移台に乗る。

 深呼吸をして、徐々に一般の日常から魔導士の日常へとシフトする。

 

「――行けます」

「おっけー!じゃぁよろしくね!」

「行くよ、アルフ」

「はいよ!」

 

 

 

 光に包まれて、視界が変わる。

 荒れ果てた、大地。

 所々に亀裂が入り、植物すらも生えていない。

 

「酷い臭いだ」

「臭い……?」

「あんまり表現したくない臭いだね。地面に染み込んでるよ…」

 

 アルフからひたすらに嫌悪の感情が流れてくる。

 私には何も臭わないが、狼素体のアルフだから感じるのだろう。

 

「さっさと仕事を終わらせよ、フェイト」

「うん、行こうか」

 

 任務はこの世界を見て廻る事と、守護騎士を発見したら捕縛すること。

 はやく廻って、アルフを休ませたい。

 もしくは、守護騎士の誰かを捕まえればいいのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グーテンタッグ、お嬢ちゃん。久しいねぇ」

「セネター…」

「おぉ、覚えてもらえてたか。いやぁ恋だね、それは。是非ともオレッチと今夜どうだい?」

「あなたに、聞きたいことがありました」

「んー、ベッドの上のことなら今日辺りに教えれるんだけど?」

「フェイト、ダメだこいつ早く何とかしないと」

「黙りなペット。残念ながら獣姦に興味はねぇんだよ。犬耳と犬尻尾生やして美女になってから出直しな」

「うっさいね、セクハラ男。ぶちのめすよ?」

「残念ながら美少女と美女以外に殴られる趣味は持ち合わせてねぇんです」

 

 ここは、あれだろうか。美少女と美女には殴られる趣味を持ってるのかと問いただすべきなのだろうか。

 いや、完全に話がのまれてる。落ち着け、落ち着いて対処すれば私にだって色々聞けるはずだ。

 

「セネター」

「告白だな、あれだ、会った時から一目惚れでしたってヤツだ。心の裸より全裸を所望するがね」

「どうして、私を助けたの?」

「美少女を助けることに意味を求めるのか?」

「私があそこで倒れてたら、リンカーコアから魔力も得れた。あなた達守護騎士の主も喜んだ筈だ」

「……」

「私の名前を叫んでまで助けた。私の名前をどこで知った?結果的に私には借りが一つ出来た」

「その借りでエッチなことは、できますか?」

「答えて、セネター」

 

 少しだけ顔を下に向けるセネター。

 セネターに対する私の疑問はここまでだ。

 

「それらに答える義務がオレッチにあるのかぃ?」

「それなら、無理に聞くしかないね」

「やる気だねぇ。ヤル気ならバッチコイなんだけど」

「アンタはどこかでセクハラしないと生きてけないのかい?」

「失礼な狼だ。オレッチがセクハラをしてる訳じゃない。セクハラがオレッチから溢れ出てるのさ!」

「より最悪だね!アンタ!」

 

 非常に面倒そうに頭を振るセネター。

 下げていた顔を上げて、もう一度溜め息を吐かれる。

 

「まぁ、別にフェイトが夜の相手をしてくれるっていうのなら、オレッチは捕まっても構わないんだけどねぇ」

「夜の…相手?」

「フェイト、ダメだよ」

 

 夜の相手とは、何なのだろうか。

 お話とか?会話相手が欲しいのだろうか。確かに捕まっている間というのは非常に暇なのだけど。

 

「私が、相手になれば捕まってくれるんですね」

「……あー、ちゃんと理解してんのかい?」

「お話相手ぐらいなら、あとは本を読んだり、出来ます」

「根本から!違う!!」

 

 四つん這いになり地面に拳を叩きつけるセネター。

 私の隣ではそのセネターを見て腹を抱えて爆笑しているアルフ。

 そしてキョトンとしている私。

 なんだろう、すっごく混沌としている。

 

「残念だったねぇ!」

「ちくしょぉおおおおお!!誤算すぎるぜぇ!!お嬢ちゃん!まさかこんな秘策があるなんてなぁ!!」

「え、えっと…マイッタカー」

「あぁ!オレッチの負けだ!それじゃぁな!!」

 

 踵を返して歩きだそうとするセネター。

 咄嗟にアルフに念話を飛ばす。アルフも分かっていたようで、セネターに手を向ける。

 セネターの手と足が橙色のリングで縛られる。

 

「おいおい、ここは逃がしてくれるところだろう、お嬢ちゃん」

「逃しません」

「というか、どうして普通に逃げる気なんだか」

「流れ的にはそういうノリだったのさ!」

 

 ケタケタ笑い出すセネター。

 実際、彼を捕縛できたのでよしとしよう。

 

―エイミィさん、セネターを捕縛しました

―ご苦労さま、フェイトちゃん。スグに転送するね

―お願いします

 

 通信も終わり、あとは転送されるのを待つだけだ。

 待つ、だけなのだけど。

 

「いやぁ、まったく。可愛い女の子を口説いてる時ぐらい出てこなくていいのにねぇ」

「え?」

「フェイト!!」

 

 地面から這い出てきた、異形。

 ワーム、というべき生物なのか。足がなく、全身が土で汚れていて、先端に大きな口がある。口の中には無数の小さな牙があり、それが何重にもある。

 どうしてここまで詳しく見えているのだろうか。私の目の前にその口があるからだろう。

 咄嗟にバルディッシュに命令を送る。

 

 

 

 しかし、いつもの声は聞こえない。

 なぜ?なぜ?なぜ?

 

「あー、もう」

 

 次に聞こえたのは面倒そうなセネターの声。私の襟首を掴み跳んでいる。

 

「しまったなぁ、バルディッシュの制止はもう少し考えたほうが良かったか」

「え?」

「ミッド式…というかミッド式のデバイスにベルカのシステムを導入すると一定周波数の魔力で制止させることが可能なのだよ、お嬢ちゃん」

 

 私を地面におろして、左肩をグルリと回す。

 一定周波数の魔力?デバイスの制止?この技術は最近できたものじゃ?

 

「天才すべてが表に出ると思うんじゃないよ。過去にそういう技術はあったさ。今に伝わってないだけで、オレッチ達は常にそういった偏屈共と戦わないといけなかったし」

「フェイト!大丈夫かい!?」

「あ、うん」

「ま、お嬢ちゃんはそこで寝ときな。あとはオレッチがやるから」

 

 セネターがテクテクと歩き出す。

 チラリと見えたその顔は口角が釣り上がり、まるで今からすることが楽しそうに。

 

「クヒッ…さぁ出ておいでミミズくぅん。出ないと、臓物引きずり出すぞー」

 

 本当に楽しそうに左手を地面に押し当てて、歌いだす。

 

「あー……ブラープマール」

 

 そう、小さく聞こえたセネターの声。

 地面から生えてきたのは赤黒い棒。細い棒がいくつも地面から生える。

 

 ソレ等が伸びていくと、地面が不自然に盛り上がり、先ほどのワームが串刺しにされていた。

 

「祈ることはしねぇぜ?我らが主の為に、食われちまいな」

 

 そう淡々と呟くセネターは先程までの軽い雰囲気など一切なく、冷たい印象しかない。

 まるで作業のようにリンカーコアを取り出して、左手で握るセネターはこちらに笑顔で振り返り、頭を下げる。

 

「オレッチを捕まえようとするなら美女を連れてこりゃァ一発さ。お嬢ちゃんはまだまだ発育不足さね、6年後に出直しな!」

「……は?」

 

 ケタケタまた笑い出すセネターとイライラする私。

 どこまでもイライラさせることに定評があるらしい。

 次はバインドもする暇なく、セネターは彼方へと走り去ってしまった。

 

「……………………」

「あー、フェイト?」

「ナニカナ、アルフ」

「いや、なんでもないよ。うん、なんでもない」

「アハハハ、ソウカー、ハツイクブソクカー、ソウカー」

 

 アースラに戻ろうとするには、もう少し時間がかかりそうだ。

 

 

 

 




~依存
 フェイトたんが微妙にユウに依存してます。趣味がモロバレだよ!やったね作者!

~夜の相手
 ベッドの上でプロレスをして、そのあと甘々話す相手の事。言いようによってはフェイトも間違えてはない

~セクハラセネター
 ユウってバレないから、自分の評価が落ないよ!つまりセクハラし放題だよ!

~ワームたん
 全長4M、太さ直径75CM程のミミズのような生物。長いもので最大10M程度。内部は段々になっており、その段と段の間に牙が無数にある。主食は土と鉱物だが、好物は魔力。
 咄嗟に牙さえなけりゃぁエロいのにとか考えたヤツ、ちょっと職員室な

~美女持参
 成長したフェイトさんとかなら釣れそう

~ハツイクブソク
 将来がアレだから大丈夫だよ!!

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