あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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35 時は19XX年!核の炎が…

「なんやここぉぉぉぉぉおおおおおおおお」

 

 どうやら私はタイムスリップでもしてしまったらしい。

 荒野とボロボロの家達。

 そう、これはあれだ、夢だ。

 

「あー、リインフォースどういうこと?」

『すいません、主。ツキビトが私に侵入してしまい、ココの管理権を奪われました』

「ええよええよ。つまり夕君が悪い…って生きとったんか」

 

 つまり、結構恥ずかしい思考をしていたのか。

 思いっきり頭を抱えたい衝動を抑えて、足元で倒れている金髪の女の子に声をかける。

 

「起きてやぁ、フェイトちゃん」

「ぅ…はやて…闇の書!?」

「はい深呼吸」

「え、あ、うん」

 

 目の前でスーハーと深呼吸をするフェイトちゃんと眺める。

 あぁ、なんやろう。和む。

 

「落ち着いた?」

「うん。ここは…」

「一応、夜天の書の中になるんやけど」

「だけど?」

「ココの管理者権限が夕君に取られてるらしいんよ」

「……あぁ、ユウだもんね」

 

 そう夕君なのだ。

 どこか二人で納得しながら、周りをもう一度見る。

 

「ここが、ユウの夢…」

「なんや荒野の七人みたいやなぁ」

「え?なにそれ?」

「簡単にいえば西部劇みたいな夢やなぁ」

 

 思わず溜め息を吐く。こっちは車椅子でパジャマだというのに。

 テンガロンハットよりもナイトキャップの方が似合う格好なのに。

 

「外ではなのはちゃんとあのバカが頑張ってるから急ご」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 町の中はある程度賑わっている。

 賑わっているのだが、

 

「****!!***!********!!」

「―!!****!!――!***!!」

 

「なんか、すごいね」

「どんな夢やねん」

 

 これならまだ宇宙人がいるほうがいい。

 殴り合いをする人間とそれを見て賭け事をする大人達。

 全員が酒を持っていて、さらに共通することに下品に全員ゲラゲラ笑っている。

 もうなんていうか、最悪だ。

 

「お嬢ちゃん達、どうせなら賭けないかい?」

「おいおい、ロリコンはお帰りくださいな」

「そんな事いいながらテメェなんてこの前―」

「いいんだよ俺は。ペドフェリアを自称してる」

「誰か!こいつを捕まえて!!」

「まぁまぁ。お嬢ちゃん、ペロペロさせてください」

「コイツもだ!!」

 

 最悪だ。

 

「ねぇ」

「え?」

 

 後ろを振り向けば白髪と白い瞳、そして白い肌と一色に染められた女の子が立っていた。

 白いワンピースが風に吹かれていて、彼女も随分とここでは浮いている。

 

「夜天の主と、いつかの魔導士だね」

「…君は?」

「私なんていいよ。お兄ちゃんを迎えにきたんでしょ?」

「お兄ちゃん?」

「ユウ=エンプ…じゃなかった、ミカゲユウおにいちゃん」

 

 白い女の子はにっこり笑い、駆け出す。

 数メートル進み、ふと足を止めてコチラを振り向く。

 

「私がね!案内してあげる!」

 

 フェイトちゃんと顔を見合わせて、疑いよりも先にその女の子を追いかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、エンプティさん」

「おかえり。遅かったな。迷子にでもなってたのか?」

「ちょっとね」

「ふむ、まぁココらの情報は全て私が管理しているから何があったのかはわかるがね」

「ぶー、酷いよ。エンプティさん」

 

 緑の髪を床まで垂らした女性は近くにあったカップに口をつけ、少し飲んでからこちらに視線を向ける。

 

「おや、アレの友達か」

「えっと」

「随分と可愛らしい友人じゃないか。私があと数年若かったら攫っていたかもしれないね」

「え、あ」

「冗談はよそう。ウチの子を連れていくんだろ?」

 

 女性はフイッと扉に視線をやる。

 

「アレは随分と好かれてるようだね」

「大切な友達ですから」

「そうかい。それは嬉しいね」

 

 女性はクックッと楽しそうに笑う。

 

「私が言っちゃいけないことなんだけどね」

「?」

「あの子を頼むよ」

「ハイ」

「もちろんです」

 

 私たちはドアノブに手を添えて、捻る。

 

「わたしからもお願い。お兄ちゃんを助けてあげてね」

 

 そんな女の子の声はやけに遠く聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 扉を開けて、まず見えたのは銀色。

 

「はやて!」

「大丈夫、大丈夫や…」

 

 後ろには既に扉はなくて、あるのは剣だけ。

 そして、その剣だけではなく、雨のように剣や、槍や、斧や、殺傷能力を隠すことのない武器が降り注ぐ。

 

「夢…」

「これが、ユウの」

 

 

 

「リテイク」

 

 前の方から声が聞こえ、そしてその声は聴き馴染みのある声だった。

 

「ユウ!」

「夕君!」

 

 ただ空を見つめる彼に声を掛ける。そしてそれは聞こえていないらしい。

 武器の振る空を武器を足場に駆け上がり、そして、貫かれて落ちる。

 

「リテイク」

 

 落ちてきた夕君が立ち上り、また空を見つめる。

 何度となく繰り返されている行動のように慣れたように、彼はただ愚直に空を目指す。

 

 

 

「なんだ、もう来たのか」

「!?」

 

 後ろから声がして思わずビクッとしてしまう。

 そこに居たのはボサボサの髪をして、瓶底のような眼鏡をした、彼。

 

「出迎えご苦労、やへんの、ひはいひはい」

「びっくりしたやろぉおおお」

「ほっへあ、ほっへはひひへう」

「ちぎったる!もう餅のように伸びるこの頬をちぎったる!!」

「はやて、落ち着きなよ」

 

 フェイトちゃんに言われてようやく夕君の頬っぺを放す。本当に痛かったようで、彼は何度か頬を撫でて息を吐いた。

 

「全く、人が空気をわざわざ変えようって思ってやった行為を」

「それなら十分や」

「で、アレはなに?」

「自殺特攻パート…なんだっけか、まぁ単位が漢字三文字であることは覚えてるんだけど」

「いや、なんでそんな事してるんさ」

「あー話せば長くなる…といってもここなら外の時間を気にしなくていいわけだけど」

「で?」

「時は19XX年!核の炎が、まじごめん真面目に話すからそんな目で俺を見ないで」

 

 フェイトちゃんと目を合わせて、同時に溜め息。しかしながら、これでも夕君なのだ。

 

「真面目に話すとなると、どこから説明すればいいのか」

「あの武器の雨は、なに?」

「それからなら随分楽だ。アレは俺がいた町を襲った災厄。実際あれで町は壊滅状態に近くなったし」

「壊滅って…」

「あー、そうそう。話の流れで言うが、俺は地球出身じゃないから」

「は?つまり、宇宙人ってこと?」

「まぁ覚えておいてくれ。んでこれが終わったら自分で調べなさい。この辺鄙な世界が俺の故郷」

「ここが…」

「まぁ今は生き物もほとんどいない世界になっちゃったけどな」

 

 夕君が苦笑する。

 故郷が潰れるというのはどれほど怖いのだろうか。私には想像もつかない。

 それに夕君は親を失ったのだろう。この災厄で。

 

「で、俺の本名、というか本当の名前は御影夕じゃないんだけど、それはいいや」

「いや、アカンやろ」

「いいんだよ。言っちゃうとまた面倒なんだ。今のままでいいさ」

「それで?」

「まぁそこからの説明は大きく端折るんだけどさ」

「おい」

「仕方ないだろ。お前らが子供すぎて悪影響なんだから」

「夕君も一緒の歳やろ?」

「むしろさらに幼い時にそんなショッキングな事があったわけだけどな」

 

 夕君は溜め息を吐いて、頭を振る。

 

「さて、そろそろ頃合かな」

「え?」

「夜天の書の暴走プログラムの書き換えの話」

「そんな事してたんか!!」

「まぁ時間は掛かったけどな。はやてへの悪影響になりそうな部分は粗方消したし、管理局が目を付けそうな転生機能もはやての魔力反応がなくなると同時に誤作動を起こすようにした」

『それでも、私は…』

「安心しな、夜天の。さてはやて、ここで一つ問いかけてやろう。新しく出来た家族は大切か?」

「そんな当たり前の事聞きなや」

「ということだ。俺ははやてとその家族を来年の夏祭りに行かせないといけないんでね」

 

 夕君は面倒そうに、でも少しだけ笑ってこう続ける。

 

「なに、安心しろ。お前の元のプログラムなんて断片化されてただけだ。それならソレを紡いで直せばいい。絶望なんてするんじゃねぇよ。まだ絶望には程遠いさ」

 

 




~すべてが白い女の子
 まるで天使のように可愛らしい女の子

~何故か見覚えのある会話達
 つまり、そういうことだ

~ユウの過去
 詳しくは別枠を取る予定

~災厄
 天から武器が降ってきた日。この日にユウが願いを叶え、そしてアンヘルに憑かれた

~リテイク!
 繰り返せ

~どうしてフェイト達が夕の夢に?
 夕が夜天プログラムの書き換えで色々した結果の影響。ここでの時間は外と隔絶してる。
 諸事情の為といっそ書いても怒られないと思う。

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