あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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03 ジーザス…天使が悪魔に

「ココが…夕君の…」

「うん。と言っても普通のマンションだけどね」

 

 フェイトちゃんに先導されてやってきたのは本当にごく普通のマンション。

 あれだけ特殊な人間がこれほど普通の建物に住んでいるとは、なんとも。

 

「ユウの部屋は6階の端にあるんだ」

「あー、エレベーターとかは?」

「もちろんあるよ」

 

 本当に見知った道を歩くように案内をするフェイトちゃん。

 

「はやてちゃん…」

「うん、思ったより状況がまずいかも知らん」

「どうしようか」

「どうしようもないやろ」

「どうしたの?二人とも」

「なんでもないよー」

「?」

 

 本当に、唯一の救いは彼女が天然だという点だけか。それもかなりの。

 私がいるので否応なしに、エレベーターという選択肢が選ばれる訳だが、この密閉空間に耐えれるのだろうか。

 目の前で扉の開く個室が、まるで死刑判決の決まった裁判所みたいだ。

 

「よし、行こか」

「うん」

「どうしてエレベーターに乗るだけなのに、そこまで意気込んでるの?」

「そういう気分なんよ」

「そうなの?」

 

 そうなんです。

 

 

 

 

「そういえば、御影君の部屋に行ったことあるって聞いてたけど」

「ウン、アルフ…えーっと、さっきのオレンジの髪の女の人、覚えてる?」

「覚えてるよ」

「アルフさんと一緒に住んでたの?」

「母さんが…あー、えーっと」

「言いにくいことなら今度でもええよ」

「ごめん。…で、アルフと暮らしてる時はココに住んでたから」

「……え?」

「ちょっと待ってな。ということは夕君とはお隣さんで知り合ったとかそういう劇的且ものすごく惹かれるようなシチュエーションやったとか」

「お隣さんどころか、階数も違うかったよ」

「…それでも御影君と知り合えたんだ」

「私が押しかけちゃったから」

「押しかけた?」

「うん、その時に私が集めてた物をユウが持っててね」

「ほう」

「で、武器を突きつけて『出してください』って」

「……」

「……」

「え?なんでそんな目で見るの?」

「いや、なんやろ、今フェイトちゃんを見る目が物凄ー変わった気がする」

「え?え?」

「ま、まぁそれで御影君は?」

「確か、『渡してもいいが、交換条件が三つほど。夕飯を一緒に食べること、敬語じゃなくていい、あとは自己紹介をしよう』みたいな事を言われ」

「…私が夕君やったら、さっさと渡してさよならやなぁ」

「そうだね。普通はそうするよ」

「ユウはまるっきり逆だったけどね。名も知らない襲撃者二人にご飯を振舞ったり」

「え?話から察するに、自己紹介の前だよね?」

「うん。ユウの炒飯食べた後に自己紹介したから…ユウの炒飯美味しかったなぁ…」

「まぁ夕君、料理上手いしなぁ」

「そうなの?」

「何回かウチで作ってもらったけど、動きが効率的というか、慣れてるんよね」

「料理してるところまでは見てないけど、ユウの料理が美味しいのは確かだよ」

「そっか…私だけ食べてないんだ」

「だ、大丈夫だよ!ユウなら頼めば作ってくれるから」

「そうやって!大丈夫やって!」

 

 

 

 

 

 

「まぁとにかく、問題のユウが体調不良なんだけどね」

「あー、そやった。夕君の家行けるって思ってなんにも用意してない…」

「翠屋から直接来たもんね…ケーキでも買ってきたら良かった」

 

 三人で溜め息を吐いてエレベーターから降りる。

 どうしようもなく、長いエレベーターだったと思う。階を五つ上がるのにあれだけの時間が掛かるものなのか。

 

「一番端っこだっけ?」

「うん」

「ちょっとワクワクしてきたんやけど」

「なんにもないよ。寝室が本で埋められてるぐらいかなぁ」

 

 本当にこの金髪は知ってて私達を嘲笑ってるのではないか?

 いや、落ち着け、落ち着くんだ八神はやて。こんな天使のように笑顔の似合う少女がそんな事をするのだろうか?

 答えは、否だ。否だと信じている。

 

「ここやね」

「チャイム押そうか」

「というか、エアメールが辺りに散らばってるんやけど?」

「本当に申し訳ないです」

「知ってるの?」

「……母さんです」

「………」

「私を可哀想なモノを見る目で見ないで!」

「いや、苦労してんねんなぁ」

「わ、私達にとって普通の母だよ!優しいし、綺麗だし!確かにちょっとオカシイ所があるかもしれないけど…」

「まぁ、落ち着き、落ち着いてチャイムを押すんやフェイトちゃん」

「…うん」

 

 あぁ、ちょっと泣いてるフェイトちゃん可愛いわぁ。

 

 おっと、少し思考がおかしくなった。

 何度チャイムを鳴らしても出てくる気配はない。寝てしまってるのだろうか。

 

「うーん。寝てるなら迷惑になるかなぁ」

「また今度にする?」

「いや、看病をしたいっていう心優しい私の心がやなぁ」

「本心は?」

「弱ってる夕君が見たい」

「じゃぁ、入ろうか」

「え?」

「え?」

 

 ふとフェイトちゃんを見ると、ドアノブに何かを差し込んで回している。

 ガチャ、と何かが開く音がして、フェイトちゃんの手がドアノブから離れる。

 

「え…っと」

「え?」

「なんでフェイトちゃんが鍵を持ってるん?」

「え?ユウから貰ったんだけど」

「タイム」

「?」

 

 やっぱり、この子は私達を嘲笑ってるんではないのか?

 天使のように見えて、実は小悪魔的な娘なのではないか?

 いや、落ち着け。八神はやて。たかが自宅の鍵を渡されていた程度だ。そう、たかがそれだけなのだ。

 

 では、自問自答をしよう。答えは出ている。

 彼女は、天使のように笑う彼女がそんな、私達を嘲ることをするのだろうか。答えは、否だ。そう、否なのだ。

 

「勝手に入っていいって言われてたから」

「オォ、ジーザス…天使が悪魔に変わってしまった」

「え?」

「ゴメンね、フェイトちゃん。私たちの邪魔になるから…」

「え?え?なんでそんなに光の無い目をしてるの?」

「まぁ安心し。夕君には私達から伝えとくから」

「え?なんで?何が?」

「ごめんね。ごめんねフェイトちゃん。でも、フェイトちゃんが悪いんだよ?シカタナイヨネ?」

 

 

 

 

「おい、生娘共。人の部屋の前で何してやがる」

 

 スーパーにでも寄っていたのか、ビニール袋からネギを飛び出させている夕君が呆れた顔で声をかけるまで私たちはその存在に気づいていなかった。

 残念な事に、罪人の刑罰は少しばかり見送りになったことを夕君と罪人は知るよしもない。

 




~やけに長いエレベーター
 会話を詰め込んだ結果、6階に行くまでノンストップの割に長くなった。そんな裏事情、ない

~お隣さんシチュ
 お隣の人妻とか、お隣のお姉さんとか、お隣の触手さんとか。非常に魅力的だけど、作者の趣向には合わない

~シカタナイヨネ?
 だって、ヤンデレ寄りだもの

~ネギ
 893さんのユニーク武器。振ってよし、殴ってよし、刺してよしの三つ揃っている武器であり、なんと食べる事も出来る。武器の中で一番栄養価も高い

~おい、生娘共
 まだ酔っ払いです

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