あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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10 お、おからね!

―料理は任せたぞ

 

 声の主はそう言う。

 誰かは呆れた声で非難する。

 

―知ってるか?生野菜はおいしい。しかし、調理された方がおいしい

 

 そして声の主は近くにあった本を読み始めた。

 誰かは溜息を吐いてキッチンで包丁を握った。

 

―美味しければ、お前に魔法を教えよう

―あぁ、そうだ。遅くなったが、私は魔法使いなんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、副委員長だァァァァアアアアアア!!」

「キャァァァァァアアアアアアア」

「……お前らは喜んでるのか、それとも人を鬼か何かだと思ってるのか?」

「冬休みの宿題教えてください!!」

「オイ」

 

 久しく訪れた学校で俺を迎えたのは相変わらずな生徒だった。

‐もう本当に、相変わらずだ

‐もう慣れた

‐なれていた

 

「おはよう、ゆぅ君」

「ん、おはよう。すずか」

「タイム!!」

「つ、つまりどういうことだってばよ!!」

「落ち着け、落ち着いて数を数えるのよ!」

「0、1、10、11、101、110、111」

「モブ郎が壊れたぞ!」

「シツレイナ、オレハ、コワレ、ガガガ」

「モブロォオオオウウウウ」

「で、冬休みの宿題の答えいうぞー」

「やったね!」

「モブ郎?誰それ?」

「お前らなんかひどくね?」

 

 サクサクいこう。

‐宿題に目を通すまではしたし

‐あとは頭の中で出来るだろ

‐さて、まずはドリルの一番裏を見るだろ?

 カット。それは最終手段だ。

 

「でさ、副委員長なんか感じ変わった?」

「変わらん、そこ間違えてるぞ」

「んー、あれだ、メガネが無い!」

「副委員長が副委員長たらしめる重要なモノが!!」

「あれ?前は寝起きでしてなかったんじゃなかったの?」

「踏み潰して壊れた」

「副委員長が、天然…だと!?」

「今までも散々ツンデレだと思っていた副委員長が、ツンデレに天然という追加属性が」

「そこ、答え違うぞ」

 

 誰がツンデレか。

‐最初の一言を二度言って、からね!で終わると

‐お、おからね!

‐なんか違う。

 

「でも、不便じゃない?」

「見える分には大丈夫だ」

「黒板とか見えなくないの?」

「え?副委員長って黒板見てたの?」

「眺める分には楽しい」

「つまり、見てなかったんだね…」

「すずか、ノートは取ってるんだから気にしちゃいかんよ」

「じゃあ、ノート見せて?」

「はいよ」

 

 机の中に入っているノートを渡す。

‐ノートは取ってる

‐もちろん中身も書いている

‐まぁ授業内容を書いてるとはいってないけどな!!

‐授業内容だと思った!残念、仮定夜天プログラムでした!!

 

「なに、これ」

「蜘蛛の糸さ。束ねれば飛行機も抑えれるスグレモノさ」

「……あれ?これってエネルギーが足りなくない?」

「……本当に、末恐ろしい」

 

 ノートを取り上げて、そのまま頭を軽く叩く。

‐コレを見ただけでそこまで理解出来るって

‐あれ?年齢ってなんだっけ?

‐体は子供、頭脳は大人

‐頭を抑えて軽く頬膨らませてるすずかタンかわゆす

 

 

 

 

 

 

「ゆぅ君一緒にご飯食べよ?」

「ソイツも一緒かよ」

「安心しろ、スメラギ君。俺はちょっと用事がある」

「用事?」

「一応、休んでた身だからな。教科担当教師から色々と呼び出しがある」

 

 尤も、休んでた理由は家庭事情なので課題を出されて終わりだと思うが。

‐課題なんて余裕すぎる

‐すずかタンとお弁当を一緒は惹かれるがね

‐スメラギが居るからどうも

‐まぁ気にはせんがね

 

「なら仕方ない、かな」

「それなら仕方ないな!!」

「なんでアンタはそんなにテンションがあがるのよ…」

 

 こっちに向かって笑うスメラギ君に苦笑しながら踵を返す。

‐ホドホドにな

‐ホドは消失しました

‐栄光を掴む者などいないのさ

 カット。

 

 

 

 

 

◆◆

 

「アイツも大変ね」

「御影君、家庭事情で休んでたのにね…」

「オレは休んでても何もなかったがな」

「ほら、ゆぅ君は普段の成績は普通だから」

 

 自分で言っていて苦笑してしまう。

 授業中に彼の姿を眺めていて初めて気付いた。彼は常にノートに向かっている。

 何を書いてるかは朝に知ったのだけど、頭に残っている式はまだ解けていない。

 かなり、というか本当に恐ろしい程頭の回る彼が補修?滑稽だ。

 

「で、アリシアは何してるの?」

「んー、ユウちゃんから珍しく課題が出てねー。その解法中」

「アンタもまたオカシナ事を…」

「ふふふー、私はお仕事ですから」

「アリシア、あーん」

「あー……ん」

 

 何枚かの紙を睨みながらフェイトちゃんに餌付けされてるアリシアちゃん。

 出てきた課題に眉間を寄せてる顔とそんな彼女にご飯をあげてご満悦な顔、両方が見れる。

 

「課題って?」

「なんかユーノんと一緒にいった遺跡で魔法が使えなかったんだって。『限定的なモノだから』って現象の内容を書かれたレポート渡されたけど……無理だァああああああああ」

「アリシア、卵焼きだよ」

「あー……しょっぱい…」

「ゴメン、ちょっと塩が多かったかな?」

「天然な妹がかわいいよぉおお、解けないィィイィイイ!!ユウちゃんのバカァアアアアア!!卵焼き美味しいぃぃいいい!!」

「なんか、珍しく騒がしいわね」

「魔法が使えない……?いや、でもアレは三期の話だから違うか…」

「ライト君どうかしたの?」

「大丈夫、何でもないぜ、なのは」

 

 何かブツブツと呟いていたライト君もなのはちゃんの一言ですぐに笑顔に戻る。

 相変わらずずっと笑顔な人だ。

 

「そういえば、御影君の腕って大丈夫なの?」

「腕?アイツの腕って痣だらけのアレか?」

「うん。今はどうかわからないんだけど、痣の原因がアレだったら、よくないんじゃないかな?」

「クロっちは大丈夫だとか言ってたけど?」

「クロ…?」

「クロノだね」

「あー、あの頭の硬そうな子供ね」

「アリサ、子供って言っても私たちより年上だからね?」

「見た目の問題よ、フェイト」

 

 キリッ、っとつきそうな程凛々しく言い切った親友に思わず苦笑してしまう。

 

「というか、アイツの腕ってそんなに深刻なモノを抱えてたのか?」

「えーっとなんて言えばいいんだろ」

「時の庭園で、アンヘルと戦ってたでしょ?」

「……あぁ、あのバグか」

「バグ?」

「いや、こっちの話だ。で、アレがどうかしたのか?」

「アレがユ」

「それと同じ物がユウちゃんについてるのよ」

 

 フェイトちゃんの言葉を遮ってアリシアちゃんが呆れた様に声を出した。

 ついでに溜め息もついでに出たらしい。

 

「ソレって…大丈夫なのか?」

「どうだろう、ユウだからなぁ」

「御影君ってそんなに無理してるの?そんな風に見えないけど」

「ユウちゃんだからねぇ…」

 

 そして二人して溜め息を吐く。やっぱり、私は彼をあまり知らないようだ。

 

「例えば、どんな事してたの?」

「あー……喩えるなら眠り姫を助けるとか?」

「なんだ、それ?」

「喩えだから仕方ない」

「そ、それはつまり」

 

 キ、キスをしたということなのだろうか!?

 そうなのか?そうなのだろうか?まずは眠り姫を思い出すべきだ。

 やっぱりキスしてるよ!!え?えっと、眠り姫を助けたということは、つまりそう言うことで、ゆぅ君には既に好きな人がいて、でもはやてちゃんに告白紛いの事をしてるらしいし、でもでもはやてちゃんはこのことを知らなくて、いや知ってて言わなかったのか?それはそれで困るのだけど、つまり、えっと。

 

「落ち着きなさい、すずか」

「……ハイ、ごめんなさい」

「えっと、ちなみに眠り姫の起こし方は正規の方法じゃないよ?」

「そ、そうなんだ」

「おやおやぁ、どんな事を想像したのかにゃぁ?」

「な、何も想像なんてしてないよ!?ホントだよ!?」

「フフー、怒らないからお姉さんに言ってみようかー」

 

 楽しんでる、絶対に楽しんでる。

 ニヤニヤというのか、ニンマリというのか、とにかく笑う顔を隠す事もなくアリシアちゃんが迫る。おそらく顔が赤くなってる私には対応が出来ない。

 

「アリシア、すずかが困ってるよ?」

「フフー、私としてはこの質問をフェイトにもしたいんだけどね」

「?。とにかく、困らせるようならお弁当もう作らないよ?」

「それだけは勘弁して!私の楽しみが、なくなる!!」

「なんかアンタら姉妹の力関係を垣間見た気がする…」

 

 フェイトちゃんに感謝を伝えて、ようやく息を吐く。

 

「話は戻るが、アイツに関しては大丈夫だろ。クロノが大丈夫って言ってたんだろ?」

「うん」

「クロノが嘘を吐くなんてことないし。危険ならオレが守るし」

「……どうして危険だなんて言うの?」

「いや、化け物が暴走したら危険だろ?」

「そう……そっか、そうだよね」

 

 それが当然の意見だ。

 何度も自分に言い聞かせただろう。今更何を思うんだ。

 

「どうしたの?すずかちゃん」

「ううん。大丈夫、何でもないよ。なんでも」

「?」

 

 駄目だ、ゆぅ君みたいに切り替えられない。うまく笑いを貼り付けれてる気がしない。

 

 大丈夫、大丈夫だ。ここにいる人は知らない。知らない筈だ。

 親友であるアリサちゃんにも言える訳がない。いつかは言おうと思うけど、まだ勇気がない。

 

 だから、誰も、私を知らない筈なんだ。

 




~モブ郎
 以前紹介したBにあたる人物。実際は違う名前なのだが、私達の目にはフィルターが掛かってだな

~0、1、10、11、100…
 まるで壊れたコンピュータのようだ

~メガネ
 瓶底というトレードマーク。とあるツッコミ要員はメガネが本体だとか

~とあるツッコミ要員
 道場主の弟。ちなみに万事屋にて働いている

~蜘蛛の糸
 直径1cm程度の蜘蛛の糸で巣を張れば、理論上飛行機を受け止めることも容易い程に強靭

~栄光を掴む者
 俺は悪くない、『師匠』がやれっていうから、俺は悪くない の師匠

~しょっぱい卵焼き
 おっぱい卵焼きって書いてて急いで直したことは秘密。塩の量はあってたけどアリシアにより塩分が追加された

~テスタロッサ姉妹の力関係
普段は「A>F」、偶に「A<F」。実際は「A=F」


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