あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

7 / 113
06 名状したくないナニか

無事に、且つ勝手に仲直りした仲良し三人組。

もちろん、勝手に仲直りしたので俺周辺での俺の評価は変化なし。

 

‐変わるわけがない

当然である。変わった事はスメラギ君の評価が大変な事になってる。

何が大変って。

 

「仲直りしてよかった!俺も助言した甲斐があったぜ!」

キャースメラギクンステキー

 

‐軽い気持ちで死にたくなる…

‐落ち着け!まだお前のライフはゼロじゃない

‐ピピピピピピピピ

‐もうすぐゼロだよ

 

カット。もうゼロだよ。

 

「すずか!この本面白かったぜ!」

「あ、うん」

「メイドは許せないけどな」

「え?」

え?

オイオイ。あれはメイドがヤンデレなのがいいんだろ?主が好きすぎて政略結婚を阻止する為にお嬢様を殺したのは確かに間違いかも知れないが、メイドを許せないとか…。

‐お嬢様は青年に恋してたツンデレだったしな

‐わからんでもないが、メイドは悪じゃない

‐メイドたん可愛いよメイドたん

 

「ま、俺がもっと面白くしといたから!」

 

‐ハッピーエンド至上主義か?

‐メイドは心を抑え主人に仕え、主人はお嬢様と婚約?

‐嫌な予感しかしないんだ

‐奇遇だな

‐いい予感がしないなんて中々ないよな

 

「う、うん…」

 

‐すごいよ!すずかタンが少し震えてるよ!

‐もうあれだね!本の表紙からヤられたのかな?

‐嫌だよ!想像したくないよ!

‐落ち着け俺!まだそう決まった訳じゃない!

 

月村がこちらを向く。物凄く申し訳なさそうに向く。

‐アウトだ!

‐まだ二次創作で新しい冊子ならよかった!

‐いい予感はしなかったんだから!諦めはついてるよ!

‐…………更に最悪を考えよう

‐メイドの名前をすずかタンに

‐主の名前をスメラギ君に

‐お嬢様の名前はツンデレとか

‐各々書き換えられてるとしたら

‐さすがにねぇよ

‐それだけでも労力だ

‐数ページがまるでのり付けされたようにパリパリとか

‐………いや、ないよ

‐ないよな?ないって言ってくれよ!

カット。想像するだけで怖い。

申し訳なさそうな月村に溜め息で返して、仕方ない、と視線を送る。

ついでに今返さなくていいよ!と念を送ってみる。

 

「えっと……御影君…」

「……」

 

念は通じなかったようだ。

‐申し訳なさそうでもすずかタン可愛いよ!

‐ペロペロしたいお!

‐くんかくんかしたい!

‐諸君、落ち着きたまえ…………うっ………ふぅ

カットカットカットカット。

 

「は?なんでそいつにその本を渡すんだよ!」

「…正確には返すだ」

「ウッセェ!根暗野郎は黙ってろ!」

「……御影君」

「…気にしてない。確かに返してもらった」

 

さてさて。

…………………………。

‐名状しがたい何か

‐言葉に、出来ない

‐らーらーら、ららーらー

 

適当にページを開こう。

『ライト様…』

『止めろ、止めるんだすずか。僕にはなのはが』

僕の胸にすずかがすがる。重くはない。まるで真綿が乗っているかのように軽く、そして温かい。

『存じております。しかし、それでも』

『すずか…』

『ライトさま……』

 

こう、ここまで自信に溢れた修正液での訂正だと……うん。

‐ギルティ

‐落ち着きたまえ…すべて音読してからでも罪を決めるのは遅くない

‐これを音読…?

 

途中で吹くわ。その案は止めよう。

 

 

「返せよ!根暗野郎!」

「……返せよ、って俺の所有物を返せと言われても」

「ウルセェ!左手に包帯なんてしやがって!中二病かよ!」

「…小さいころの火傷を隠して何が悪い?」

「ハぁ?どうせ何もないんだろ!?」

 

スメラギ君の腕が左手に迫り、包帯にかする。

‐クッ…左腕に封印された邪龍が!

‐俺に近づくなぁぁあああああああ!!

‐面倒だから殴り倒そうぜ

‐賛成

‐普通のガキ程度ならどうにでもなるしな

‐大人気ないな

全くだ。

 

「避けてばっかりかよ!」

 

‐問題はこいつが普通の餓鬼じゃない事だよな

‐あからさまに魔力反応あるもんな

‐当たったら死ぬんじゃね?

‐いや、さすがにそれは考えてるだろ

 

「死ねぇぇええ」

 

ええぇえぇぇぇ…。

‐だんだん魔力も濃くなってるし

‐こんなに一般人が居るなかで魔法とか使うなっての

‐もう包帯ぐらいいいんじゃね?

‐アザはあるわけだしな

‐問題はこいつが既に本の事を忘れてる事だな

‐忘れた頃に音読

‐僕の胸にすずかが…ップ

カット。

 

「取った!」

 

取られちゃったよ。

‐わざと乙

カット。

左手の甲を右手で隠しつつ、スメラギ君を睨む。相変わらず左腕には赤黒いアザが滲み出ている。

 

「うは、気持ち悪ぃ」

「気持ちのイイモノなら包帯は巻かない」

「どうせそれもインクか何かなんだろ?誰も構っちゃくれやしないぜ?」

 

何これ。すごく面倒なんですが。

周り?女子連中は気持ち悪いものを見る目で見てるし男子達は…さっきの戦闘紛いで目を輝かせてる。

月村は、口を手で覆って驚いてる。

‐だよなー

‐腕にアザがある人間なんてそんなに居ないわな

‐あぁ面倒だ。面倒だ

 

「もういい。包帯を早く返せ」

「は?何言ってんだよ」

 

いや、お前が何を言ってる。

‐せんせー馬鹿がいるよー

‐理解させてやれ。指して、言ってやれ、馬鹿って

‐せんせー、人を指しちゃいけないんだよー

‐そうだな。じゃあ中指を立てて言ってやれ

‐もしくはピースを逆にして言ってやれ

カット。カット

 

 

「もういい。保健室に行く」

「逃げんのかよ」

「……ああ」

 

もう何もかもが面倒だ。

さっさと保健室に行って帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで来るかな」

「だって、元は私のせいだし…」

「月村は悪くないだろ」

 

溜め息を吐いてから包帯を巻き直す。

何度も巻いているから片手でも慣れたモノだ。

 

「そのアザ…」

「昔の火傷だ」

「………痛いの?」

「今は痛くない」

「ホントにゴメンね」

「何がだよ…まったく」

 

見せたくなかったのは自分を理解したくなかったから。

包帯を巻き終えて、沈黙が保健室を占領する。

‐フラグだぞ!

‐選択肢だそうぜ!

‐抱きつく

‐キスする

‐ゴールイン

‐さぁ!好きなものを選びな!

カット。自責点もビックリだよ。

 

「ゴメンね」

「何がだよ…」

「本…ちゃんと弁償するから」

「必要ない」

「でも」

‐なら君のバージンを貰おうか

「なら君のオススメの本を貸してくれ」

「え?」

「それでチャラだ」

 

 

 

‐何冊か言ってないところが外道だね!

‐すずかタンから本を借りたことはなかったもんな

‐一方通行だった

‐ロリコンだった

カットカット。

 

「いいよ!次はオススメの小説を持ってくるね!どんなのがいいかなぁ」

「そうだな、愛と勇気だけが友達で餡が詰まった憎いアン畜生が主人公な児童書でも俺は構わないかな」

「……じゃあそうするね」

「嘘だ。止めてくれ。冗談だ」

「ふふふ、わかってるよ」

 

暗かった顔から一点、笑顔が戻った月村と三十分程笑い合う事になる。

 

 

 

授業を無断でサボった俺に対し、キッチリと言い訳をして抜け出した月村。

無論怒られるのは俺だけになるのだが、この時点では知るよしもない。

 




~ピピピピピ―
有名カードゲームのポイントが増減した時の音


~名状したくないナニか
過去の作者に起こった事件。いやな事件だったね…


~言葉に、出来ない
~らーらーらー、ららーら
とある歌。


~左腕に封印された邪龍
~俺に、近づくナァアアア!
邪気に染まった瞳を持ちし選ばれた者。彼らが本気を出せば地球は二秒程で滅びる。聖母による鉄拳か春巻を渡せば封印できる。


~愛と勇気だけが友達の餡が詰まった憎いアン畜生
みんなのヒーロー。バイオ兵器で世界を壊し尽くすバイ菌男と戦う戦士。仲間にカレー好きのイエロー、イケメンのホワイトがいる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。