あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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引き続き、ライト視点


24 運が悪い、いや、良かったのか?

「ここも、ハズレか」

 

 剣を地面に刺して一息吐く。

 今壊した結界で四つ目。渡った世界もそれと同じ数になる。

 

―エイミィさん、転移は出来る?

―もう終わったの?すぐに準備するね

 

 これで四度目のやり取り。いい加減に疲れてくる。

 結界なんて『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』で強制的に破壊できるけど、それでもこの短い時間でいくつもの世界を渡るのは疲れる。

 

「なのは達も一緒か」

 

 早く来ないかなぁ、なんて想像して、ため息を吐く。

 こんな事件さっさと終わらせてオレはアイツからはやてやすずかを解放してやらなきゃならないんだから。

 

―転移準備できたよ

―了解

 

 足元に円形の光が出現してオレを包み込む。眩しさで目を瞑って、次開いた時には場所が変わっていた。

 何もない荒野。草一つないとはこの事か。

 周りを見渡せど、常に同じ風景。そんな風景の中、一つだけポツンと黒い影が見えた。

 

―犯人発見しました

―…エ…ライ……

 

「ん?」

 

 念話の調子が急に悪くなった。どういう事だ?

 まぁいい。犯人を倒してから連絡をつければいいか。

 オレは黒い影に向けて歩き、ぼんやりとしか見えていなかった黒い影が人型であることを確認。

 今のオレと同い年程度の子供が空を見上げている。

 

「……お前が、犯人か?」

「……」

 

 影はくるりとコチラを向き、ため息を吐く。その顔は見覚えがあって、オレが今一番殴りたい人物であった。

 

「なんだ、スメラギか……」

「なんだってなんだよ!!」

「いや、人生中々考え通りにいかないモノだな」

「いきなりどういう事だ?」

「まぁ気にするな。で、なんでこんな場所に?」

「今ちょっとした事件が発生しててな」

「あぁ、そうか。お前も管理局員だったな…運が悪い、いや、良かったのか?」

「ハァ?相変わらず意味分かんねぇな…」

 

 相変わらずバグはよく分からない事を言って溜め息を吐いている。

 

「で?お前はなんでこんな場所にいるんだよ」

 

 オレがそう聞くと、御影はキョトンとした顔をして、クスクスと笑う。

 

「まぁ、気にするな」

 

 相変わらずな声のトーンでそう言われて少し違和感を感じた。

 

「この辺りにある結界が、な」

「なるほど、出られなくなったのか。バカだな」

「ぐぅの音も出ないよ」

 

 まったく、こんなバカにはやては泣かされたのか。いや、今はソレはいい。先に事件を解決しないといけない。

 オレはこいつに背を向けて結界に向く。

 

「何をする気だ?先に言うが、結構強度が強い結界だぞ?」

「フンッ、お前はオレの力を知らないのか?」

 

 『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を展開して、空に幾つもの剣、斧、槍、杖、様々な武器が結界に向く。

 実際結界を破壊するだけだからこんなにいらないが、オレの力を見せてコイツにオレには勝てないってことを教える為にワザと多く出す。

 

「行け」

 

 腕を軽く振り下ろせば空に滞空していた武器たちが全て結界にブチ当たる。

 ドドドドドド、と何かに武器達が当たる音が数秒間響き、バリンッ、と何かが壊れるような音が鳴り、朱色の結界の破片が散った。

 

「な?」

「…………」

 

 どうやら驚きで声も出ないようだ。

 まぁオレが最強だから仕方ないか。

 

「……あぁ、そうか、いや、違うな」

「ァ?どうしたんだよ」

「その能力を持ってるのは他にいるのか?」

「ハァ!?いるわけねぇだろ!!コレは()()()()の能力だ!!」

「そうか、そうなのか……いや、そうだろうな。そんな能力、他にいる筈がないし、アル筈がない」

「ハァ?何言ってんだよ」

「気付いていて、否定して、結局信じれなくて、道化もいいところだな…まったく、死にたくなる」

 

 ブツブツと何かを言い始めた御影を放置してオレは念話を開く。

 

―エイミィさん、次に

―ライト君!!

―おぉ、なのは。お疲れ

―ライトくん、その子が犯人だよ!!

―え?

 

 エイミィさんの声が頭に響き、考えが停止する。

 誰が?コイツが?犯人?何の?今回の事件の?

 

「残念だよ、残念だ、いや、残心を断つ為とはいえ、残念だ」

「ホントに、お前が」

「いやはや、ホコリが出てくればホコリもないヤツだったか。ホコリなのに」

「言えよ!!お前が犯人なのか!?」

「いいえ、私は犯人ではありません。はい、俺が犯人です。まぁ問答はどうでもいいよ」

「答えろよ!!」

「うっせぇよ。子供みてぇに叫んでんじゃねぇ。それとも何か?ガキみたいに挨拶の練習でもするか?おはよう、こんにちは、こんばんは、さようなら」

「ふざけんな!!」

「そうだな。そうか、なら巫山戯るのはヤメにしよう」

 

 アイツがそういった途端にオレの視界は朱色に染められた。

 朱、朱、朱、朱、朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱朱。

 アイツの周辺に不規則に並ぶ朱い珠。

 数えるのも疲れそうな珠。

 

「じゃぁな。さようなら」

 

 その珠が全てオレに向かって直進する。一つ目が体に当たると同時に全ての珠が当たる。咄嗟に魔法防壁を張らなければ直撃を喰らっていた。

 一息吐く間もなく、オレの目の前には御影が迫っていた。

 

「うわぁ!」

「チッ」

 

 防壁に当たりガチン、と何かが音を立てた。同時に御影の姿が消えて、遠くに立っていた。

 まったく分からない、一瞬であそこまで移動できるなんて、どういう事だ?士郎さんや恭也さんの神速とは違うのか。

 

「チッ、ナイフでは無理か」

 

 アイツがそう言うように、オレの足元には銀色の刃が落ちていて、アイツの右手には先の折れたナイフが握られていた。

 御影はそのナイフを捨てて、新しく腰にあったナイフを取り出す。

 

「そんなモノ、オレには通用しないぜ!!」

「だろうな。が、これならどうだ!?」

 

 腕を振り上げアイツがナイフを投擲する。直線に進むソレをオレは避ける事もせずに、防壁に当たるのを確認した。

 つまり、アイツはオレに攻撃を与えることができない。そうさ、オレに傷一つ付けれないんだ。

 

「ハッ!!効かねぇ!!」

「ふむ、コレはマズイな…ナイフも魔法も効かないとなると、攻撃の手段がない」

「大人しくオレに倒されて!捕まれ!!」

「この年で前科持ちは勘弁願いたいね!!」

 

 またアイツが腕を振るう。

 一閃、二閃、三閃。ナイフの数は増えてもオレには効かない!!

 ジワリと痛みが走る。バラバラとナイフが地面に落ちた筈だ。

 

「慢心は大敵。覚えておけよ、雑魚」

「ガァ、ぐ」

 

 腹部に刺さった赤黒いナイフを抜いて地面に捨てる。

 雑魚?オレが、雑魚だと?

 

「誰が雑魚だとぉおおおおおおお!!」

「はぁ、何度も言ってやらなければならんのか。これだから自覚のない雑魚は困る。いや、魚だからこそ耳を持ち合わせてないのか。コレは失礼した。次からは水を震わせて会話することにしよう」

「クソガァ!!殺す!お前は殺してやる!!」

「あぁ、是非そうしてくれ」

 

 『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を開き、数多の武器を召喚する。

 全力で、コイツを叩き潰す。絶対にコイツは許さない。

 

「ハァ……雑魚め」

「散れぇェェエエエ!!雑種がァアアアアアア!!」

 

 腕を振るい剣を射出する。

 全てをアイツに向けて、あいつを殺す為だけに。

 

 数秒間打ち続けた武器の風をやめて、荒くなった息を整える。

 目の前の土煙で見えないが、アイツはこれで死んだだろう。当然だ。あんな人間、死んで当然なんだ。

 

「ハーッハッハッハッハッ!!これで事件解決だぜ!!」

「まったくだ。これ程簡単に解決できるなら去年に解決していたな」

 

 ゾクリと背筋が凍る。

 土埃が晴れて、武器の山を背凭れにアイツが立っている。無傷で、立っている!!

 なんでだ!!アレだけ攻撃したのに!!避けれる訳がない!!ありえない!ありえない!!

 

「どうして、なんでなんだよ!!」

「ふぅ、愚問他答。答える意味も見当たらんな」

「アレだけ攻撃したのに、アレだけ、あんなに」

「簡単な事だ。危険なモノを避ければいい。次に飛来する剣を認識して回避行動をとっていればそれほど難しいことでもないさ」

「ふざけるなァ!!」

「至って真面目なんだがね……まぁいいか」

 

 アイツは武器の山から剣を取る。

 左手で取ったソレは、黒色の剣で禍々しく赤い線が脈打っている。

 

「……皮肉だな」

「クソッ!!お前はオレに近づけねぇんだぞ!!」

「いや、まぁ、皮肉と言ったのはお前では無くて俺にだよ」

 

 するりと剣を構えたアイツ。赤い線が徐々に力強くなっていく。

 

「妃を殺し娘を攫った不届き者もいないし、俺は王ですらない。お前の担い手は既に死んでいる。俺は既に抜かれた身を収める術を知っている。俺はお前を知っている。俺がお前に合わせよう。俺たちの敵を断て。お前は斬る為にあるのだから」

「何を言ってんだよ」

「オマジナイさ。本当は対する為に神話を読んでたが、まさか自分が使うとはな」

 

 アイツが笑い、それと同じように赤い光が剣から漏れ出す。

 まるでアイツに同調するように。まるでアイツが担い手だと言うように。

 

「な、なんなんだよ!お前は!!」

「そうか、お前に自己紹介するのは初めてか。ハジメマシテ、さようなら。今しがた『小人の遺産』を手にした化け物です」

 

 アイツはそう言ってケタケタと狂ったように嗤う。

 嗤い、そして迫ってきた。

 一歩、二歩、アイツの足が動くのがわかる。三歩目、アイツの頭が視界の下に映る。

 腹に圧迫感を感じる、それもすぐに無くなり同時に下半身の感触がなくなる。

 赤い禍々しい光がオレの視界を包み込み、オレの意識がゆっくりと遠くなる。

 ドサリ、と音がなり、その音と一緒にオレの横に土が見える。どうして土が横に見える?どうして?

 

「クク、ハハッ!!クキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!」

 

 わからない、わからない。わからない。わからない。

 

 わからない。

 

 わからない

 

 わから

 

 …

 




~ユウの移動
 直線距離に限った跳躍。バカみたいに魔力を脚に込めて移動している。空間認識をしてなければ転んで顔が磨り減っちゃう危険な技

~『小人の遺産(ダーインスレイブ)
 言わずと知れた魔剣。出典は北欧神話の『エッダ』。ダーインという小人に作られた剣。詳しくはwikiとかで頼みます

~剣軍回避
 文中で言っていた通り。次、そして次のモノを認識して回避可能。普通の人間は武器の位置を全て認識すること自体不可能

~ユウが魔剣使用
 色々言われると思ったので先に。
 ユウが所有する解析魔法は対象を緻密に深く解析してしまいます。本ならばその本の材質、インクから年代を選定、本が辿った経緯を解析、そこから内容といった感じに解析して、本の内容の理解に関してはユウ個人の技能です。
 今回使用した魔剣の解析についてですが、剣の材質、摩耗、使われ方からナニかを選定。古い逸品であるので、神話や古典知識を総動員してその解析を簡易化。
 武器の選定後、一番同調する魔力を精製して流せば簡易的な担い手に成れる…筈、と勝手な解釈をしてます。
 武器の本質理解と同調で担い手になってると思っていただければ幸いです
 四次バーサーカーみたいな事してますが、やってる事は贋物者に近いです。別物ですが

~対剣軍の事前準備
 襲われた過去の時に目の前の剣を解析。年代とかは不明ながらある程度の知識を認識。地球に行き、神話や伝承などで知識を集めてた。わざわざ『神話とかをよく読んでる』と書いてたのはこの為

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