あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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ユウの本質がチラリズム。


26 私に、数秒間を、命をください

「おいおい、この程度も避けれないのか!!」

「クソがァッ!!」

 

 迫るナイフを避けて地面を転がる。転がった先に更に銀色の鋒が迫る。

 来る事は予想していたので、防壁を張り対応する。

 

「随分と動きが良くなってきたじゃねぇか!!」

「ッ!?」

 

 肉薄するように御影が接近する。背後に腕を回して剣を取る。

 ガチリッと鈍い金属音がして御影の持つナイフがガリガリと剣を滑る。

 

「いい調子じゃねぇか!!英雄様よォ!!」

「ツァッ!!」

「だが、まだ甘い!!」

 

 剣を持つ手が捕まれ引かれる。同時に腕にナイフが走り鋭い痛みが右手を襲う。

 痛みで剣を離してしまい、その剣を掴む御影の姿を見たところでオレの意識は闇に落ちていく。

 

「この程度で俺を殺すだって?」

「……」

「巫山戯るなよ、英雄。俺を殺したいなら学べ。学んで、学んで、俺を殺してみせろ」

 

 ボンヤリとした意識の中、アイツの声が聞こえた。

 死と蘇生の感触を同時に味わいながら、オレはゆっくりと意識を落とした。

 

 

 

◆◆

 

「アリシアちゃん!?まだなの!?」

「落ち着いて!なのは」

「だって、ライト君が!!もう何時間も経ってるんだよ!?」

「ライトがそんなに弱いの!?」

「だって、だって!!御影君は化け物なんだよ!?」

「ッ、それでも、ユウはユウだよ…」

 

 少しだけ狂乱しているなのはをどうにか座らせて、退室する。

 逃げてしまった。私は個人が言われた訳ではないのに。アリシアを置き去りにして。

 

「はぁ、どない?」

「…相変わらず、かな」

「そうか……まぁしゃぁない言うたらそれでオシマイなんやけど」

「はやては……なのはを」

「変わらんよ。なのはちゃんの状態も理解できるし、何より言ってることは正しいし」

「そう…だよね」

 

 少しだけ安心した。

 今のなのははオカシイ。ライトがなのはを庇った時と一緒だ。どこか自分が無くて、まるで柱が無くなってしまったみたいだ。

 それでも、なのははなのはなのだ。

 

「はやては…落ち着いてるね」

「落ち着いてる様に見える?」

「うん……いつも通りに見える」

「そっか、ならまだええ方やね」

 

 はやてにグッと手を掴まれる。小刻みに手が揺れて、はやてが震えてる事を理解した。

 

「私も不安や…不安やけど、まぁ取り繕ってる」

「強いね…はやては」

「私よりもアリシアちゃんのが強いよ……してる事は好きな人を捕まえるっていう矛盾行為やし」

「好きな人?」

「…え?アリシアちゃんて夕君の事が好きなんやないの?」

「いや、そういう話は全くされないかな…ユウの事を言っても恨み言ばっかりだし」

「例えば?」

「うーん……『あのクソ眼鏡めぇ、こんな課題を二日で纏めろとか鬼か?悪魔か?浄化されろ』とか言ってたかな」

「…夕君何を出してんや」

「えっと、確か、『固定術式ミッド、ベルカ応用』だった筈…」

「お、おぉ……ソレって必須なんか?」

「いや、必須どころか必須項目から遠く離れた項目だから」

「そうか、よかった……」

 

 安心したように息を吐いたはやて。

 そしてもう一度息を吐いたはやては笑う。

 

「ごめんな」

「え?」

「うん、フェイトちゃんを使ったわ」

「?」

「いや、まぁ気づいてないならそのままでおって」

 

 はやては手を離してプラプラと手を揺らしている。

 少しだけ暖かくなった手を何度か握ったり開いたりを繰り返して、意味を理解する。

 理解したところで、私もどうやらはやてを使っていたらしい。お互い様か。

 こうやって考えると、ユウはすんなりと私の緊張とか、嫌な事を払拭していた。例え自分が危険でも……。

 

「すごいなぁ」

 

 思わず漏れた言葉にはやてはキョトンとしてクスクスと笑う。

 どうやら同じ事を考えてたみたいだ。

 

「まぁ件の人でも助けに行こか」

「捕まえて、色々と謝らせないとね」

「うーん、まずは何から謝らせよか」

 

 クスクスと笑って、アリシアが作業している部屋に入る。

 そこには相変わらずカリカリしているなのはと何故か笑ってるアリシアがいる。

 まぁアリシアに関してはいつもの事なので、置いておこう。

 

「ん?ん~……なるほど、なるほどぉ?」

「アリシア?」

「あ、フェイト、他にもちゃんとみんないるね」

 

 アリシアは立ち上がって肩をトントンと叩いて周りを見直す。

 

「アリシアちゃん!!早く結界を解いて!!」

「まぁ落ち着きなさいな。今からその説明をするんだから」

「だって!!」

「黙りなさい。私が今から喋るのよ。口を閉じて、座って、動かずに聞いてなさい」

「……」

 

 凄い…あのなのはを座らせた…。

 アリシアは溜め息を吐いて、大きなディスプレイに映像を出す。

 映し出されたのは朱い文字の羅列。それが流れて、そしてグニャリと変形する。

 

「まぁ、見て分かるように文章を作ったから解り易いんだけど、こんな感じに一定周期で結界の形式が変わってるわ」

「……解けるのか?」

「理論上、無理ね」

「アリシアちゃん!?」

「理論の話よ。一定期間が短かすぎるのよ……」

「それじゃぁ」

「まぁ重ねて言うけど、理論上、アレを破るんだったら術者の魔力が尽きるまで放置するしかない」

「……」

 

 なのはが愕然として、下を向く。そんな姿にアリシアは溜め息を吐いて言葉を続ける。

 

「私達の目的はなによ。この結界を壊すこと?この結界を流用すること?この結界を解析すること?違うわ。私達はあのバカとユウちゃんの場所に行くことが目的、違う?」

「出来るの!?」

「ふふーふ。私は不可能を可能には出来ないけれど、可能を手繰り寄せることは出来るみたいよ。

 先に言うけど一発勝負。更には人数制限あり、加えて危険性を伴う。それでもする?」

「やる…私は、やるよ!!」

 

 なのはが声を出すと同時にはやてちゃんも立ち上がる。

 

「私も行く。行って確かめなあかん事があるんや」

「……私も」

「いや、フェイトは元々行かせるつもりだから大丈夫よ」

「……」

 

 いやらしく嗤うアリシアとクスクスと笑いの漏れる艦内。

 アリシアはそんな空気を作って無理やりみんなの緊張を和らげる。

 

「さて、リンディ艦長。時空管理局技術部魔法技術、及び魔法式解析室アリシア・テスタロッサからの報告、及び提案は以上です」

「……承認しました。本当にその方法しかないのね?」

「ユウちゃんならもう少しいい方法でも思いつくんだろうけど、私にはみんなを危険に晒してしまう方法しか思いつきません。これ以上時間をかけてしまう意味もありません」

「そう……」

「リンディさん!」

「……分かりました。何かあれば私が責任を取ります」

 

 リンディさんの声になのはが喜び、アリシアは少しだけ辛い顔をする。

 

「アリシア…」

「うん。大丈夫。万全にするわ……絶対に、ユウちゃんをアッと言わせてやる」

「うん、そうだね。大丈夫だよ」

 

 

 

 

「さて、説明するわ。

 先も言ったけど、危険アリ、時間ナシ、機会ナシの最悪な状況よ。結界へ一時的干渉は可能ということはわかった。時間にして九秒間。予め開く場所は指定しておくから、そこへ転移させる。

 以上」

「それだけ?」

「あんまり実感わかないかもしれないけど、転移に掛かる時間は最低八秒程度。少しでも遅れたら結界が発動して座標不定になるわ。良ければ転移されないでしょうけど、悪ければ結界に両断される」

「……」

「わざわざ新たに決意なんて求めない。みんなに求めるのは少しの勇気だけ。

 私に、数秒間を、命をください」

 

 アリシアは私達に頭を下げる。

 私達の答えは決まっている。既に決意しているのだ。

 

「大丈夫だよ、アリシア」

「そうやね、帰ってきたら命の代わりに美味しい物でも奢ってもらおか」

「翠屋で新しいケーキ出すんだ」

「じゃぁ、ソレにしよか。頼むで、アリシアちゃん」

 

 全員がポンとアリシアの頭を叩いて歩き出す。

 なるべくアリシアの方を振り向かない。叩いてる時に肩を震わせていたのだから、振り向けるハズなんてない。

 

 

 

 

 

 

 

―準備はどう?

―声震えとるでぇ

―うっさい、バカはやて!!結界に両断される計算式立てるわよ

―ごめんなさいそれだけは勘弁して

―私は大丈夫

―なのはは?

―私も、大丈夫だよ

―……こんな作戦しか思いつかない私を

―ストーっプ

―それは言わないで

―私らなら大丈夫やって

―…心配してるのは翠屋の新作ケーキよ

―アリシア照れてる

―フェイト、帰ってきたら説教が待ってるわよ

―…ぐすん

―じゃぁ、秒読みを開始するわ

―はいな

―向こうに着いたら、たぶん戦闘の真っ最中かどちらかが倒れてるかだから、気を付けて

―ライト君が負ける筈ないよ!!

―うん、でも万が一もあるから

―じゃぁ、5、

―4

―3

―2

ー1ッ!

 

 私達の視界が光に包まれる。

 しっかりと握った手だけが今の状態を教えてくれる。

 

 光が止んだソコは、沢山の武器が刺さった荒野だった。武器に統一制は無くて、刺さってるものもあれば、乱雑に置かれてるだけのモノもあった。

 

「無事…みたいやね」

「…念話も届かないね」

「これ、ライト君の能力だ!!」

 

 なのはが武器を手に取って確認する。どうやら成功したらしい。

 あとはライト達を見つけてしまえばいいのだけど。

 

「あ、あれ…」

「え?」

 

 黒い影が二つポツンと立っている。

 一つは長い何かを持ち、そしてもう一つはフラフラと動いている。

 長い何かを持った影はその長い何かを振りかぶり、

 

「ダメッ!!」

「なのは!?」

 

 なのはは飛び出し、桜色の軌跡が影に向かう。私とはやては少しだけ遅れてソレを追う形になった。

 

 影を視認出来る場所に来た時に、私達を待っていたのは剣を持った赤いユウと更に赤く染まって、泣いているなのはに抱きしめられているライトだった。

 

「ライト……」

「夕君がやったんか…?」

「……」

 

 ユウは答えずに剣に付いた血を振るい落とす。まるでそれが答えの様に。

 

「ライト君…ライトくん…らいとくんぅ……」

「なのは…」

「夕君!!答えてや!!ホンマに…夕君が、」

「……そうだとしたら?お前はどうするんだ?」

 

 はやてと私の息が詰まる。どうしようもない感覚が私達を支配して動けなくなる。

 そんな中、泣いていた声が止み、なのはがふらふらと立ち上がる。

 

「お前が、お前が……!!」

「……そうだ、俺がソイツを殺した。だからどうする?」

 

 レイジングハートが杖の状態になる。

 先端がユウを向き、空になった薬莢が幾つも宙を舞う。

 

「お前が、お前なんか……死んじゃえ、死ねばいいんだ!!お前なんか!!殺してやる…!!私が、殺してやる!!

 

 

 

シネェェェェェェェェェエエエエエエエエエェェェェエエエエエエエエ!!」

 

 なのはの激昂とともに桜色の奔流がユウを飲み込んだ。




~シネェェェェェェェェェエエエエエエエ
 一般的に心から依存している人間を殺されて目の前にその犯人がいるときの反応。
 正直、ニコポナデポが汚染型と決めた時からコレを書きたくて仕方なかった。
 

~転移時間について
 結構適当に設定したものです。実際はそれほどかからないかもしれないし、逆もありえます

~転移前の時間って…
 英雄様は化け物に殺され続けてます。ありとあらゆる攻め方で殺され続けてます。

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