あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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29 ふむ、僥倖

 暗い。暗い。暗い。

 どっぷりと何かに浸かったように息苦しい。

 

 オレは、何をしていた?

 

 細切れになった感覚を一つ、また一つと紡いでいく。

 何を間違えていて、何が合っていたのか。

 ソレはオレが決める事なのか?

 

 違う。オレは尽く否定された。行動全てを否定されて、殺され続けた。

 撲殺され、刺殺され、窒息し、ぐちゃぐちゃに潰された。その度にオレは無理やり立ち上がらされ、繰り返して殺される。

 

 殺されて、わかった事が幾つかある。

 今まで分かっていた、と勝手に思っていたこの力の本質をオレはしっかりと分かっていなかった。

 故に殺された。

 今まで正しいと思っていた行動の全てが、オレの戦い方が、勝ちを基本と考えていた。

 故に殺された。

 アイツは何度もオレを治療して、何度もオレを殺して、何度もオレを戻した。

 何故?

 

 頭の中が必死で答えを導く。それでもわからない。

 あの星の住人だったから、オレを殺し続けた?

 なら、オレを殺し終わって放置してればよかった筈だ。

 オレを殺したりなかった?

 なら、何故蘇らす度にオレを励ますように挑発した?

 わからない。わからない。わからない。

 

 わからなければ、直接聞けばいい。

 アイツから教わる事はまだ沢山ありそうだ。アイツは教えてくれるだろうか?

 いや、無理だ。オレは復讐の対象だ。なら、何度も殺してくれて構わない。

 このままじゃ、オレはみんなを守ることができない。救うことが出来ない。

 だから、オレはアイツに頭を下げてでも、教わらないといけない。

 

『俺を、殺しにこい』

 

 どうしてアイツがあんな事を言ったのかはわからない。

 わからない事だらけだ。転生して、何でも知ってると勘違いしていた。

 誰もオレを否定しないから、オレは勘違いしていた。全て、オレの思い通りだと。

 

 じんわりと身体が温かくなる。

 これは蘇生のソレだ。何度も味わった感覚でオレの意識は浮上していく。

 

 誰かに抱かれてる感覚。微妙な浮遊感。身体だけ、浮いている。

 ヤケに重い瞼を開けると、そこには涙をいっぱい溜めた明るい栗色の少女。白いリボンで髪を二つに結わえている少女。

 

「なの……は?」

 

 声が上手く出ない。喉をやられたのか、はたまた叫びすぎたか。

 オレの声を聞くとなのはは溜めた涙をボロボロと流しだしてオレの胸に顔をうずめた。

 

 ここは、どこだ?景色は変わっていないから、医務室ではない。

 

「ライトくん!!よかった!!よかったぁ…よかったよぉ……」

「なの、は…ゲホゲホ」

 

 喉に溜まっていたらしい血を吐き捨てる。前に倒された時を思い出して、腹部に大きく穴を開けられたと記憶にあった。

 何度か呼吸を確かめて、異常がない事を確かめる。

 

「なのは、どうなってるんだ?」

「ライトくんがアイツに倒されてアイツがアンヘルでアイツが全部悪くて」

「悪い、えっと、どういうことだ?」

「だから!!アイツが全部悪いんだ!!」

 

 混乱しているなのはを何とかなだめて、念話を行使する。

 誰かに繋がるかもしれない。

 

―アーアー、アースラ?こちらスメラギ

―起きたのね!!

―アリシア?なんでアースラに?無限書庫は

―そんな事どうでもいいから!!早くフェイト達のところに行って!!

―…危険なんだな、わかった

 

 アリシアが珍しく叫んでいた。つまり、結構危険なのだろう。正直な話、俺よりも強いアイツがいる場所でフェイトが危険になる意味が分からない。

 オレを倒す事によりアイツの復讐は完了した筈だ。尤も、まだ殺されるかもしれないけれど。それでも、アイツの行動を思い出す限り、フェイトに手を出すということは無いはずだ。

 ソレを踏まえて、アイツよりも弱いオレが行った所で、数が増える程度にしかならない。いや、行かないよりはマシか。

 

 立ち上がって、土埃を払う所で気がついた。

 体を朱い光が覆っている。相変わらず、優しい光でオレを包み込んでるソレ。

 つまり、こんなオレでも、アイツに頼られているらしい。それは、嬉しい事だ。

 

―アリシア、現状の説明をしてくれ

―……本当にライトなの?

―んぁ?冗談を言う暇があるならゆっくり行くことにするぜ?

―あぁ、ライトね。少しオカシイけど

 

 何故か聞こえた溜め息と一緒に言われる情報。

 アイツがアンヘルに飲み込まれたと。

 アイツを助ける事は現時点で不可能だろ。

 今アンヘルは石化状態だけど、何故か反応が消えないと。

 

 アイツが、飲み込まれた?ついさっきまで元気にオレを殺していた奴が?

 ありえない。ありえない…オレはアイツと戦う為に、アイツを倒すために、アイツから教わる為に蘇らされてるというのに。

 どうして、どうして?

 

「ライト君、ダメだよ、殺されちゃう」

 

 なのはに服の端を掴まれる。グッと、皺になる程に。

 色々と、考えた。もちろん、今まで考えれなかった事まで、考えれる様になった。忘れていた否定される事を教えられてから、今までの事も考えた。

 だからこそ、オレはいつもの様に笑わなければいけない。笑っていた自分をこれ以上壊すことを、オレは許されていない。

 

「なのは、オレは死なないよ。死ねない」

「え……」

「オレは、アイツを止めてやらないといけないんだ」

 

 もしも、アイツが本当に暴走しているなら、それはオレの責任かもしれない。いや、オレの責任なのだろう。

 ならば、清算しなくてはならない。アイツを止めることで清算出来るかはわからないけれど。

 

「なのはは…少し待っててくれ。すぐに戻るよ……すぐに」

 

 そう、元に戻る。たぶん、なのはを原作のようにはもう出来ないかもしれない。でも、幼い今なら、まだ間に合うかもしれない。

 アイツなら協力してくれる筈だ。実際三人程原作と違うキャラがいる訳だし。アイツならできそうだ。

 そうしたら、またいつもの様に、アイツも混ぜて、笑える筈だ。

 

「じゃぁ、行くわ」

「待って、待ってよぉ…置いてかないで…ヤだよぉ……嫌だよぉ…」

 

 力強く握られた服に更に力が入る。

 まるでオレを責める様に。オレの罪を見せつけるように。

 どうしようもない感情がオレの中でグルグルと回転して、オレを締め付ける。

 

「なのは」

「え…」

「ごめんな」

 

 頭の中で何度も言った言葉が口から一つだけ漏れた。

 首元に手刀を打ち込んで、なのはから力が抜ける。まさか士郎さんから教わってた訓練がこんな時に役にたつなんて。

 

「皮肉だな」

 

 上着をなのはに被せて、オレは宙を翔ける。

 先に見える赤黒い塊が敵なのだろう。

 虚空から一本の剣を取り出す。この距離からの剣射なら相手を射殺せるかもしれないが、フェイト達を巻き込むかもしれない。

 剣一本で、フェイトとはやての救出。

 その後、現状の把握と敵の駆逐。

 そうすれば、アイツを止めれる。

 

「行けるさ……オレなら大丈夫だ」

 

 自分に言い聞かせた言葉は、以前なら何でもなしに言えた言葉。今は無理やりひねり出すしか出なかった言葉。

 

―アリシア、フェイトとはやての位置は?

―詳しくはわからないけど、そこから真っ直ぐ

―了解!!

 

 翔ぶスピードを速めて、オレは剣を振りかぶる。

 視界の奥に金色を確認できた。そのした辺りに向けて更に速度を上げて振りかぶっていた剣を振るう。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「なにぃ!?」

 

 何の抵抗も無く斬れた触手。フェイトを抱き上げて空に逃げる。

 

「ラ、ライト!?」

「おう!はやては?」

「あそこに!!」

「よっしゃぁ!!」

 

 フェイトを空に残してオレはまた触手に突っ込む。

 次はこちらに触手が迫ってくるが、速度はそれほどない。手数もアイツの魔法弾程ない。避けれる。

 

「はやてぇぇぇぇええええええ!!」

 

 また触手を切り落とし、はやてを抱きかかえて空に逃げる。

 朦朧としているらしいはやてをフェイトに渡してオレは触手を生やした御影を見る。

 

「死にぞこないが…」

「ハッ!!その死に損ないに色々されてんのはどっちだよ!!」

「ライト!!その光…」

「…あぁ」

 

 少しだけ薄くなったが、オレにはまだアイツの魔法が残っている。アイツが力を貸してくれている。

 

「クソがぁ!!我に吸収される宿主如きが!!我に歯向かうというのか!!」

「アイツがそんな簡単にくたばるかよ!!」

「よかろう、ようわかったわ!!ならば最初に喰ろうてやろう!!宿主から最初に!!」

 

 アンヘルが触手に覆われて実体が見えなくなる。

 ウネウネと触手が動いているということは、実際生きているのだろう。

 

―あーあー、テステス。聞こえてるメンバーはいるかね

「御影!?」

「ユウ!?」

―おー居たか。うむ僥倖

「オマエ!!生きてたのか!!」

―まぁ、今は辛うじてな…今もアレの阻害を躱しながら念話を飛ばしてる

「よかった……」

―よかった…いや、よくないのかもな

「どういうことだよ」

―良かれ、悪かれ、俺の身体の九割方はアレに乗っ取られてる

「え?」

「どうにかなんねぇのかよ!!」

―結構思考したが、無理だ

「……どうすればいい?」

 

 

 

 

 

 

―簡単だ……俺を、殺してくれ


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