あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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救済回開始。
あえて、章分けして、章に名を付けるならば
『夕編』
という事になります。

普通に考えてれば、この話を続けても普通なのだろうか…。
前で満足している人たちは、読まない方が得策だと思います。


空白期~夕編#ユウ編19話から分岐
01 ボケを善処しよう


 最悪だ。

‐思考朦朧

‐カット

‐自己解析開始

‐エラー

‐体温上昇

 寒気がする。頭が痛い。ついでに身体を起こすだけで億劫だし、足が覚束無い。

‐不養生か?

‐ずぶ濡れで風呂にも入れずだったからな

‐原因判明してた

 カット。しかしながら、どうするか。

 幸い、シャマルからもらっていた咳止めはある。あるが……コレは風邪薬では無い。解熱剤ですら、ない。

 

 ズビッ。

 

「これは、本格的に、まずいかもしれん……」

 

 頭痛のする頭を必死で回転させながらどうにか手を考える。

‐死ぬに一票

‐死ねよもう

 カット。それには大いに賛成だ。しかしながら、彼女たちを悲しませる、というのはかなり嫌だ。

‐つまりバレなければいい

‐なるほど、取り繕え

‐よかろう、やってみろ

‐魔法式構築

 強化魔法を行使して、グラつく身体を無理やりに補強する。

 平衡感覚はなんとか取り戻したが…。

‐痛覚カット

‐温感カット

 ……これで、正常か。

 何度か手を握ったりを繰り返して感覚を確かめる。

‐動作正常

‐意識も正常

‐オールグリーン

‐体調?なにそれ美味しいの?

 まったくだ。まったく……、

 

「アホらしい」

 

 さて、行こう。

‐自己解析してたら色々エラーデルナー

‐フシギダナー

‐フシギダワー

‐フシギダネー

‐ダネフッシ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「……あれ?」

 

 なぜだろうか。いつもの様に本を読んでいる彼が少しだけオカシイと思ってしまった。

 どこか集中していない、というか顔が少しだけ赤いような気がする。

 

「うーん…」

「すずか、どうしたの?」

「いや、ゆぅ君が」

「はいはい、ノロケは勘弁して」

「違うよ!?」

「ふーん…で、アイツがどうかしたの?」

「なんか、おかしい様な……?」

「アイツがオカシイのはいつものことでしょ?」

「そう、なんだけど」

 

 どうだろうか。彼がオカシイ事は大して変わらないのだけど、なんというか、彼が彼らしくないのだ。

 

「なぁ、すずかちゃん。私の気のせいかもしれんねんけど、夕君オカシない?」

「はやてもソレを言うのね」

「ね?」

 

 かと言って、彼に問いただしてみてもどうせはぐらかされるに決まっている。

 アリサちゃんは大きく溜め息を吐いて、席を立つ。

 私達はソレを唖然としながら見て、抑える事もできずにアリサちゃんを見送ってしまった。

 

「ねぇアンタ」

「……ん?なんだ、バーニングさんか」

「ぶつわよ?」

「いや、スマン…」

 

 そんな言葉から始まる会話。当然のようにそれほど離れていない教室内の出来事だから、聞き耳を立てれば聞こえる声だ。

 

「アンタ…どこか調子悪いとかないの?」

「……調子?」

「ほら、なんか……」

「そうか…ふむ、悪かった。もう少しボケを善処することにしよう」

 

 そう言って、もう話は聞きませんよ。とでも言うように本を閉じて教室から出ていく彼。

 アリサちゃんは顔に思いっきり疑問を浮かべて戻ってきた。

 

「確かに、オカシイ」

「うーん、何がおかしいか分からないから追求も出来ないし…」

「どうしたもんかなぁ」

「ん?何悩んでるんだよ?オレが聞いてやるぜ?」

「……この悩んでる時に、タイミングが壊滅的に悪いわね、アンタって」

 

 笑顔でこちらに来た皇君に溜め息を吐いて、やや放置気味で話を進める。

 

「どうしようか」

「直接問い詰めるのが一番なんやけどなぁ」

「躱されたじゃない」

「ですよねー」

「何の話をしてんだよ!!オレも混ぜろって」

「……アンタは夕君と友達やのに何も気付かんの?」

「ユウ…?あぁバ・・御影の事か。アイツがどうかしたのか?」

「どうかって……様子がおかしいやろ?」

「様子?」

 

 顎に手を置いて少しだけ考える素振りを見せる彼。

 そんな彼を見ながら、やはり後ろめたい気持ちが湧いて出てくる。

 既に踏ん切りのついた気持ちだけれど、化け物として、偽って生きている私にとって彼は非常に危うい存在だ。それこそ、自己の存在を軽く全否定する存在である。

 そんな彼と一緒に居続ける事は、騙し続けなくてはいけないということで、後ろめたい気持ちが湧いて出る。現在進行形で騙しているアリサちゃんやはやてちゃんとは比べる事すら些細な感情だけれど、やはり意識してしまうのは彼が異性であるからか……。いや、天敵だからだろう。

 そう結論づけてから、そんな天敵とも呼べる存在と軽々と冗談を言う彼は、やはり凄い。というか、化け物と知られてなお普通の精神で居れる事が凄い。

 

「別に、普通なんじゃねぇの?」

「なんやろ、あんたに聞いた私がアホやったわ」

「はやてはアホじゃないだろ」

「そういう事や無いんよ……」

「?」

 

 そんな感情の整理に必死になってる間に、彼の結論は出たようで。まぁわかりきってた結論が彼の口から飛び出たのは言うまでもない。

 ゆぅ君は彼を見ているのに、彼は一切周りを見ない。その辺を考えると、やはり彼の友達であることが勿体ない。いや、否定すればするほど何故だかゆぅ君が可哀想に思えてきたから思考をココで止める。

 

「おやぁ、珍しい組み合わせだねー」

「アリシアちゃん。夕君、ちょっとおかしくない?」

「ユウちゃん?……うーん、確かに普段より反応が早すぎたり、ボケのキレが悪かったり、ツッコンでくれなかったりだけど、普通じゃないの?」

「なんやろ、夕君の存在がわからんようになってくるな、ソレ」

「私にとってのユウちゃんはそんな存在だよ。損な存在と言ってもいいけど」

「一緒じゃねぇの?」

「ライトはアレだ。アレな存在だ。レアな存在」

「オレはオレだからな」

「そうだねー。すっごくレアだ。ウェルダンになればいいのにー」

 

 そんなアリシアちゃんの呟きは誰も触れなかった。笑顔で言った彼女が決して触れさせてくれなかった。

 ともかく、彼がオカシイ事は確定したのだけれど、ソレの原因がさっぱり分からない。

 

「あ、戻ってきた」

「ん?なんだその……人の顔にメガネが付いてる!?みたいな顔は」

「いや、眼鏡着けてるやん」

「まぁそうだな。正解どうも」

「確かにオカシイね」

「お菓子なんざ持ってないぞ?」

「オイ、御影。お前おかしいぞ」

 

 ……。

 いや、言ってくれるのはありがたい。ありがたいのだけれど、それほど直球で、それも聞き間違いが起きそうな言葉で言うのはいかがなものか。

 ゆぅ君も止まっていて、数秒固まったあとに溜め息を吐いた。

 

「お前って、偶に鋭いよな」

「あぁ!?オレは常に鋭いっての!!」

「外角が鋭いんだな、わかります」

「また意味のわからない事言いやがって」

「意味は、わかるだろ…外角の逆に内角があってだな。つまり外角が鋭くなると逆に内角が」

「そういう事じゃねぇよ!?ふざけんな!!」

 

 そう言って彼はゆぅ君に腕を振りかぶり、勢いがついた腕が彼の顔に迫る。

 咄嗟の出来事で誰も反応出来なかった。いや、殴られようとしている本人だけは違った。

 パシンッ、と乾いた皮膚の音がして彼の拳がゆぅ君に掴まれていた。

 

「いきなり殴るなよ、怖いな」

「え?」

 

 彼はまるで信じられないモノを見るように唖然とする。まるで、自分の拳が受け止められた事がおかしいように。

 そんな彼を溜め息を吐きながら見て、そして拳を解放した彼は悠々と彼の隣を通り過ぎようとする。

 

「ふざけんなよ!?」

 

 彼がゆぅ君の腕を掴み引っ張る。

 その行動に制止を掛けたのは私の隣にいるはやてちゃんだった。

 

「いや、ふざけてんのはアンタやろ!!急に殴りかかって」

「なんでお前、こんなに熱いんだよ!!」

「普通考えられ…え?」

 

 彼の言葉にはやてちゃんが止まった。

 熱い?誰が?この流れで言うならばゆぅ君なのだろう。ならゆぅ君のどこが熱い?

 

「ん?俺はさっぱり暑くないが?」

「ふざけんな!!ちょっと来い!!」

「引っ張るな、歩きにくい」

「お前の足が覚束無いだけだろ!!」

「いや、これでもマトモに歩けてる方なんだが」

 

 そう言って消える彼らを私達は見送るしかないのだけれど…。

 引っ張られてヨボヨボと歩く彼と引っ張って歩く彼。そんな二人を見送って、私達は唖然とするしかなかったのだから。

 

 

 

 




~時間軸
 ユウが動き出す前。詳細を言えば、すずか家に訪問した次の日に当たる。
 故に、ユウの最後の願いはまだ口に出されてません。

~ダネフッシ!!
 バ~ナ、バナバナ

~アトガキ
 猫毛布です。
 こんな感じで、あったかもしれない出来事から救済を始めて行きます。
 尤も、救済の種まきは夜天事件中にしてたので、こうした未来も容易く想像出来る程度、にはなってると思います。

 既に、私とユウの望んだ結末を迎えたのですが。皆様と彼女達の望んだ結末はまだ迎えてないので。
 今暫く、『あぁ神様、お願いします』にお付き合いしていただける事を願います。

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