あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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誤字訂正。
壊れてる途中に人間に

壊れてる途中の人間に
報告感謝。


07 失礼な。俺は変態だ

「意外に、愛らしいモノなんだな」

「そう言われたのは、久しぶりかな」

「七年ぶりか?」

「違うよ、えーっと…」

 

 彼女は虚空を見つめて指折りに数を数える。

 ソレが両手に差し掛かってから、少し止まる。そしてニヘラと力無く笑って

 

「にへへ、忘れちゃった」

「……」

「そ、そんな目で見ないでよ、ちょっと待ってね、えーっと、えっと」

 

 もう一度彼女は虚空を見つめて、何度かコクリ、コクリと頷きながら数を数えていく。

 大体、四十六回程頷いたあたりで、彼女はニッコリと、次はかなり満面な笑みを浮かべて。

 

「とっても昔だよ!」

 

 そう言った。それはもう、キリッと効果音がつきそうなぐらい自信たっぷりに。

 コロンビア。

 

「まぁどうでもいいか」

「お兄ちゃんが聞いたことなのに!?」

「ソレは、それだ」

「そうなのか?」

「そうなのだよ」

「そうなのか!」

 

 また彼女はコロコロと表情を変えて、笑いながらクルクルと回っている。

 もう少し回るスピードが早ければ、スカートの中身が見えるだろう。もしくは俺がしゃがめばいいのか。

 ピタッと彼女が止まって、少しだけ頬を膨らませてコチラを睨む。

 

「なんだ?」

「オトメの秘密を覗かないでくれるかな?」

「はて、何の事かさっぱり」

「お兄ちゃんの思考は、こっちに流れてくるんだよ?」

「オトコの秘密を覗かないでくれるかな?」

「にへへ、嫌だよーっだ」

 

 “アッカンベー”をしてから、また彼女はカラカラ笑う。

 その笑いがゆっくりと終わり、彼女はコチラを向く。

 

「ワタシを使う人っていうのは、どことなく、壊れてる人が多いんだよね」

「そうなのか?」

「うん。今までも、たぶん、これからもなんだけど」

「人間だから、仕方ないさ」

「そうだね。ワタシ……この場合、どう言えばいいんだろ」

「大きな力とかでいいんじゃないか?」

「力、か。うん、兵器って言われたこともあるからそれでいいか」

 

 可愛いは兵器。

 

「にへへ、考えてることはわかるんだよ?」

「知ってるよ」

「…………く、口説かれてる!?」

「黙れ妖女(ようじょ)め」

「酷い言い方だなぁ、まったく」

 

 また彼女は力無く微笑む。

 にへへ、と笑ってから話を続けようとする。

 

「えーっと、どこまで喋ったんだっけ?」

「ショーツを見せてくれるか否か、だろ?」

「そうだった。えっと、兵器を得た人だから、壊れてるかもしれないんだけどね」

 

 覚えてるじゃないか。チクショーめ。

 

「にへへ…………ワタシを得たから壊れた人。壊れたからワタシを得た人。だいたい、二通りしかワタシと適合しないんだけどね」

「そうなのか?」

「そうなんです」

「そうなのか。で、俺は?」

「それだよ。そこなんだよね」

 

 何が、ソコなのか分からないが、人を指差すんじゃありません。

 触手でも、ダメだぞ。

 

「コレではしないよ……チッ」

「おい」

「にへへ。お兄ちゃんは違うんだよね」

「違うって、何が?」

「正確には、ワタシとの適合の順番かな」

「……」

「普通はワタシを得て壊れちゃうか、もしくは壊れて安定してる人ぐらいにしか適合できないんだ」

「研究資料にはなかったぞ?」

「当たり前じゃん。壊れて安定してる人はワタシを当然の様に受け入れたんだから、壊れるかどうかなんて分からないよ」

「前者は書く暇もないのか」

「にへへ、ゴチソウサマデシタ」

「お粗末様」

 

 溜め息を吐いてから、ニンマリと笑う彼女を少しだけ警戒する。

 

「大丈夫だよ。宿主を強制的に食べる趣味はないから」

「そうか」

 

 警戒をゆっくり解く。

「そうだよ。内から、じっくりと、少しずつ、味わって、食べないと」

「訂正、警戒は怠らない様にする」

「にへへ、そうしてね。誰かも言ってたでしょ?警戒を常にし続けろ、って」

「俺の言葉だ」

「そうだっけ?まぁいいや」

 

 いいのか。いや、いいか。

 

「で、なんだっけ?」

「今日のショーツの色の話だ」

「そうだった。えっと、白だっけ」

「白なのか」

「黒の方がよかった?」

「いや、なんか、予想通りで反応しづらい」

「じゃぁ、履いてない事にしよう」

「履いてないのか?」

「見せようか?」

「……いや、やめとこう」

 是非見せてください。

「思考と言葉が一致してないよ」

「いつもの事さ」

「そうだね。いつも通りだ、にへへ」

 

 少しだけたくし上げられたワンピースの裾はギリギリのラインで止められて、パッと離される。ふわりと裾は元の位置に戻ってしまう。

 別に見たかった訳じゃない。覗きたかっただけだ。

 

「どう違うの?」

「背徳感」

「納得しちゃった…」

「おめでとう。君も変態だ」

「失礼な。ワタシは淑女だよッ」

「例え淑女だとしても、冠には変態と書かせてもらえ」

「戴冠式には呼んであげるね?」

「全裸ネクタイ、白ソックスで参加させてもらおう」

「ずらっとそういう人間が並んでると、何が普通かわからなくなっちゃうね」

「そこでは、ソレが普通なんだから、大丈夫さ」

「大丈夫だね、にへへ」

 

 背徳感や羞恥心のない世界なんて、ツマらん世界だろうがな。

 

「お兄ちゃんは、どっちでもなかったんだよね」

「壊れてもなかったし、壊れなかった」

「ううん。壊れてる途中だった」

「……そうか」

「うん。だからオカシイんだ」

「壊れてる途中の人間に適合した事か?」

「壊れてる途中の人間にワタシが導かれる事。あの時までは一切無かったから」

「そういう時もあるんじゃないのか?」

「残念な事に、ワタシを作ったアノ人はワタシがすぐに意識を取り戻せるように、そういった人間へ入り込める様に作ったんだ。本当に、残念だけど」

「随分な自信だな」

「アナタが彼女を崇拝してるのと、同じ理由よ」

「納得してしまった…」

「おめでとう。君も変人ね」

「失礼な。俺は変態だ」

「……」

「……いや、えっと、で、何の話だっけか」

「ネクタイは何をつけるべきかの話じゃなかったけ?」

「普通のネクタイだな」

「蝶ネクタイは?」

「シルクハットでも準備しとけ」

「脱線しすぎかな」

「奪戦はしてないけどな」

「まぁどうでもいいけど」

「至極、どうでもいいな」

 

 にへへ、と彼女は笑い、俺は溜め息を吐き捨てた。

 

「別に、どうでもいい話なんだけどさ」

「あ?」

「御影夕はまだ、彼を許してあげれないの?」

「当たり前だろ。アイツは絶対に殺す」

「うん。ワタシと適合した理由なんだろうなぁ」

「壊れてないさ。当然、壊れてない」

「そうだね。壊れてるのは彼だけでいいや」

「アイツは必死なんだよ。それこそ、出口のない迷路でずっと迷ってる」

「自分で出口を閉じちゃったのにね」

「それでも、アイツはソコに居続けるしかないんだよ」

「どうしようもないのかな?」

「さてね。俺は知らんよ。助ける気はない」

「大切じゃないから?」

「大切であるわけが無い。あんなヤツ」

「まぁどうでもいいけどさ」

「そうさ、どうでもいい」

 

 俺は肩を竦めて、彼女は珍しく溜め息を吐いた。

 そんな彼女の後ろから、ソロソロと黒い線達が迫っているのが見えた。

 

「時間切れか」

「そうみたい」

「じゃぁ、戻るとしよう」

「うん。あぁそうだ。夜天の子……えっと、リインフォースだっけ?」

「なんだ、知り合いだったのか?」

「長年生きてると巡り合わせってのが在ってね。ワタシの方が年上なんだけど」

「……あぁ、見た目で見てた」

「し、失礼なんだぞ!!」

 

 彼女は両手をパタパタと上下して怒る。

 つまり、こういう所も年上だから…いや、彼女の睨みがキツくなった。考えるのはやめよう。

 

「時間がないんだが?」

「あ、うん。リインフォースに伝えてほしいんだ。『いいご主人様でよかったね』って」

「……お互い、ってのが抜けてるぞ」

「イイご主人様だと思ってたんだ」

「もちろんじゃないか」

「なら、自分をもっと大切にするべきだよ」

「お互い、とは付けないでおこう」

「にへへ」

 

 ゆっくりと視界が白んでいく。

 彼女の輪郭が、世界と一緒にぼやけてくる。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。約束、守ってくれる?」

「……なるべくは、な」

「にへへ。じゃあさ」

 

 ぼやけた彼女が、ゆっくりと真っ赤な口を開く。

 戸惑った様もなく、淡々と言葉を告げる。

 

「ワタシを殺してくれないかな?」

 

 

 

 

 

 そして、俺の意識は浮上する。

 

「…………」

 

 見慣れた天井に、床から伸びる本の塔達。

‐自宅

‐自室

 息を思いっきり吸い込む。ゆっくりと吐き出して、呟く。

 

「それは…卑怯だろ……」

 

 俺はようやく溜め息を吐いた。




~コロンビア
 南アメリカ北西部に位置する共和国制国家。

~可愛いは兵器
 可愛いは正義

~全裸ネクタイ、白ソックス
 正装。冬場はマフラーもしている

~白ワンピースとくるくる回転
 別にコレが書きたかったからそういう格好にした訳じゃない。でもロマン、そしてあざとい

~アトガキ
 猫毛です。
 アンヘルの約束は『ワタシを殺す事』です。
 明るい彼女の口から暗い言葉が飛び出ました。仕方ないね。なんせ私もびっくりしてるんですから。
 こんな事を書いてるんですが、コレはみんながハッピーエンドに終わらせるつもりです。つもりな筈なのになぁ……

 彼が卑怯と言ってる理由は、守ろうとしている彼らの“想い”と今回の“約束”が絡まってるからです。
 正直な話、ちゃんと纏めれるか不安で仕方ないですけど。アンヘルタソが言っちゃったんだもん。

 どうにかしてみます。

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