あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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シリアルだと思った!?
残念!シリアスだよッ!!


救う気があるのかなぁ、と自分でも疑問に思ってきました。


08 オレは悪くないッ!

 白い空間を見上げる。

 どうしようも無く遠い世界。どうしようもなく、遠い理想。

 一息、それこそゆっくりと息が吐き捨てられる。

 

 誰かが言う。

 もうやめろ

 

 そんな言葉を幾年聴き続け、幾度も無視し続けた。

 また床に顔を向けて手を動かし始める。

 まるで河原で石を積むように。

 まるで意思を摘むように。

 遺志を紡ぐように。

 決して届かない理想へと、進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「ちょっと、ええかな?」

「あん?」

 

 珍しく、と言ってもここ最近ではコチラから話す事も中々増えてしまったのだけれど。それでも珍しく私から(ライト)君に声を掛けた。

 間抜けた声を出して、(ライト)君はコチラを向いて笑顔になる。

 

「デートの誘いか?」

「……なんや、ゲンコツが好みやったんか」

「ジョーダンだろ?」

「コッチのセリフなんやけど…いや、まぁええわ」

 

 相変わらず軽い、と思ってしまう。

 けれども、それでも、彼に僅かながら惹かれている自身もいる。

 瞼を閉じて深呼吸をして、心の中を落ち着ける。うん、大丈夫だ。何が大丈夫かはわからないけれど、うん。

 持っている紙束を丸め直して、もう一度口を開く。

 

「ちょっと話ししたいんよ」

「……わかった、屋上で告白だな」

「はぁ…素敵な脳内やなぁ」

「素敵だろ?」

「ホント、ハッピーやわ」

 

 頭の中の話である。私の手を引いて、歩き出す。

 学校での行動なので、当然、なのはちゃんも立ち上がり、着いて来ようとする。

 が、

 

「ゴメン、なのはちゃん。二人きりにさせて」

「え?どうして?」

「……大事な話なんよ」

 

 彼女には話せない。それこそ、光君を好いているなのはちゃんだから、話せない。

 せっかく、彼が居ない今日を選んだのだ。リインフォースからの念話で呼び出された事は聞いたが……、まぁこちらとしても都合はいい。

 彼に聞かれると、都合が悪くなる。

 

「なんで?はやてちゃんと二人きりなの?」

「なのはちゃん、ちょっとだけやから」

「嘘、」

「嘘やないよ。それこそ休み時間が終わる前には私は戻ってくるよ」

「ホント?ホントに何もないの?」

「ソレはホンマや」

「なら私も着いて行って大丈夫だよね?」

「……はぁ」

 

 少しだけ、ホンの少しだけ、ざわついた心を落ち着ける。

 コレは、私が彼に抱いている気持ちと違う。一方的な依存……いや、私も彼には一方的に依存していたか。依存させてくれなかった、思っていたが、前を考えると結構依存させてくれていた。

 気付かなかった…というよりも、気付かせてくれなかった、というのが正しいのだろう。

 

「なのは、」

「フェイトちゃんもはやてちゃんの味方なの?」

「なのは、落ち着きなさいよ」

「アリサちゃんも……みんな、私の」

「わかった。私も言い方が悪かったわ」

 

 なのはちゃんの言葉を遮って、言葉を出す。あの先の言葉は、きっと言ってはいけない言葉だったと思う。

 なのはちゃんを鎮めようとしていたアリサちゃんとフェイトちゃんに一度だけ視線を向けて、なのはちゃんをジッと見る。

 少しだけ涙目で、コチラを睨めつける彼女。

 なんだ、心を落ち着けて見れば、ただの怯えた子供じゃないか。親を取られそうな、そんな迷子の子供。

 

 色々考えると、この事実を彼女に知らせるべきではない。いや知らせたところで意味はない。

 それでも、彼女が知りたい、と思うのならば。いや、彼女が彼と離れないのならば、知らせた方がいいのだろうか。

 もしも……夕君なら。と考えてしまった。

 私も彼女の事を言えないらしい。思わず苦笑してから口を開く。

 

「なのはちゃんがそんなに聞きたい、言うならええよ。放課後に私の家に集合してもらってええかな?」

「いいよ…ソレで」

「うん、なら、そうしよ」

 

 ずっと掴んでいた(ライト)君の腕を離して、なのはちゃんに微笑んでみる。睨まれた。まぁ仕方ないか。

 思わず苦笑してしまい、そのまま席に戻る。

 フェイトちゃんはなのはちゃんの方に行き、アリシアちゃんは机に突っ伏している。対極的やなぁ…。

 こちらに近づいてきたアリサちゃんとすずかちゃんに向く。

 

「で、集合って事は私らも行った方がいいのかしら?」

「参加は自由やね。先に言うけど愉快な漫才が聞けると思わんといてな」

「……はやてちゃん。その話って、昨日と今日じゃなきゃ、出来ない話?」

「……たぶん、そうやろね」

「なら、私は行くよ」

 

 本当に、この子は偶に同じ学年か不思議に思ってしまう。

 私も、たぶん人の事は言えないけれど。まぁ他人を評価できる程偉くもないか。

 

「なんか、嫌な予感しかしないんだけど?」

「危険は……ないよ……?」

「なんで言い淀んで、更に疑問形?」

「いやぁ、私も大丈夫やとは思ってるんやけど、さっきのでわからんようになってなぁ」

「なのは?」

「イエス。うーん、大丈夫やろか」

「……暴れるとか?」

「そういう事やなくて、うーん、何て言うか、難と言うか…」

「アンタ、偶によく分からない言い回しするわよね」

「アリサちゃんやったらわかるやん」

「わかるけど…」

「難といえば、易ければ、と答えたほうがいいのかな?安くもない内容だろうけど」

「アンタもね」

「わかるよね?」

「わかるけどさ…なんだろう、チクショーと叫びたい」

「ジト目で見下して、豚野郎、やね」

「なんでそんな断定的なのよ」

「いや、覚えといたほうがエエで。たぶん、きっと、役にたつと思うわ」

「……豚野郎」

 

 今しがた、目に見える範囲で二人ほどびくんと震えた男子が見えた。もちろん、藪をつつく様な事はしない。蛇ではなく、亀が出てきそうだが。

 

「いやはや、愚問やなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 はやてがオレに告白するであろう放課後。

 恥ずかしがっているはやては、自分の家にオレを呼ぶという大胆な行動に出た。

 なるほど、コレはいつの間にかフラグが建設されていたんだろう。

 

 しかし、告白ならば、どうしてなのはを呼んだのだろう。

 なるほど、わかった。オレにハーレムを築けというのだろう。うむ、最高だ。

 

「ライト君…?」

「ん?どうかしたか?」

「本当にはやてちゃんの家に行くの?」

「当然だろ!?何言ってるんだよ」

「……うん、だよね」

 

 何故か落ち込んでいるなのはに微笑み、そして頭を撫でてやる。これで彼女は元気になる。

 ニコポナデポってスゲーわ。うん。

 はやてを落して、そこから闇の書のメンバーも落して。

 思わず笑いが出そうになるのを抑える。抑えても、口はどうやら変わっていたらしい。まぁそれでもいい。

 

 八神家に到着して、チャイムを押せば金髪のお姉さんが出てくる。

 

「よっ」

「……待ってましたよ、ライト君、なのはちゃん」

「こんにちは、シャマルさん」

 

 どうやら主賓を待っていたらしい。

 軽く手をあげてオレは笑って挨拶を交わす。

 

「どうぞ、みんな待ってます」

「おう!」

 

 部屋に入ると、そこにはフェイトとアリシア、すずかとアリサ、そして

 

「……みんな、揃ったな。ほな、話をしよか」

 

 家の主である、はやて。もちろん、闇の書のメンバーもそろい踏みだ。

 本当に、最高だ。

 

「みんな、テキトウに掛けてな。長くなるか、短くなるかは、わからんから」

 

 つまり、オレへの気持ちを言ってから告白か、直接好きですみたいな?そんな感じか!

 やばい、これはやばい。オレにも遂に幸福が来たか。

 

「さて、話……の前に確認したい事があるんよ」

「ん?」

「ライト君さ……そのレアスキルって何時から持ってたん?」

「あ?なんでスキルの話なんて」

「ええから、答えて?」

 

 コレはオレが七年程前に願いで手に入れたモノだ。

 しかし、公にしている内容は少しだけ違う。

 

「コレは生まれた時から持ってたぞ?」

 

 そういう事に成っている。もちろん、事実を知っている人間なんている筈がない。

 

「そっか…そうやんな」

「ん?なんだ」

「今から七年前…言うても私らが三歳の時、一つの世界が壊れた」

「七年前?」

「そう、七年前。……管理局の中枢近くにあった情報やねんけどな。罪人が収容されとった世界らしいんよ」

「ざい…人……」

 

 あの時の…星だろうか。

 オレが掃除をしたあの世界の事だろうか。ならば、ソレは誇ることだろう。きっとみんなソレを知って、オレを褒めてくれるだろう。

 

「あぁ、あの星ならオレが掃除したよ」

「……」

 

 全員が沈黙する。

 口を閉ざしている、というよりは、ポカンとしている。

 そうか、オレがそれほど凄いのか。

 

「……はぁ、アホらし」

 

 はやては持っていた紙束を投げた。バラバラと落ちる紙に沢山の文字が書かれている。

 ソレを追っていると、紙の壁の中から腕が伸びてきた。

 

「ッゲ!?」

 

 少しだけ白い腕がオレの首を捉えて、座っていたソファに押し付けられる。

 紙が落ちる頃に、腕の元を確認すれば僅かに白い光を纏ったはやてが居た。

 

「な、なんのつもっ」

「喋んな、ええか、友達やから、今、ココで、止まってるんや」

 

 はやては下唇を噛み締めている。

 なにがそれ程思う事があるんだ?

 オレは正しい事をしたんだぞ?

 

「なんでや、なんで、あんな事」

「はやてちゃん、離してよ」

「なのは!?」

 

 隣を見ると、桜色の光が数個浮いている。

 いつの間にか、白いバリアジャケットを着ているなのは。

 そんななのはを見ることもせずに、はやてはオレをにらみ続ける。

 

「…はやてちゃん」

「……ゴメン」

「なのはも」

「……」

 

 すずかがはやての後ろから現れ、なのはの隣にはアリサが居た。

 オレの首は解放されて、ようやく自由になった空気が身体に入ってくる。

 

「ホンマに…最高に、最低やな」

「ちょっとはやて、説明しなさいよ。何がなんだかわからないわ」

「……」

「なのはも、その槍?杖?どっちかわからないけど、降ろしなさい」

「……うん…」

 

 ようやくバリアジャケットを解除したなのはが座り、ピリピリとした空気が少しだけ緩和された様な気がした。

 

「……さっきも言うたけど、とある罪人達が収容されてた世界があった。掃除、という名目でその世界に武器の雨を降らせたんが、そこのバカや」

「……」

「……おい、よく考えろよ!オレは当然のことをしたんだぜ?」

「人殺しが?正しいやて?」

「オレは悪を殺したんだ、正しいことだろ!!」

「そ、そうだよ!!ライト君は何も悪くないじゃない!」

「じゃぁ、聞こか。あの場所に住んでいた人は、何なん?人?それとも、ゴミ?」

 

 そう言ったはやての目は、とても冷たくて、とても、真っ直ぐだった。

 

「で、でも、悪人なんだぜ?」

「もう一つ。悪人と呼ばれる存在は殺すべきなん?」

「そりゃぁ……死ぬべきだろ」

「じゃぁ、今すぐ私を殺しいや」

「なんでだよ!!」

「夜天の書とかいう危険物を所持、及び管理局勤めの魔導士を損傷、原生生物への蒐集活動、こうやって上げてくと、結構罪深い罪人なんよ?私って」

「そ、それでも、はやては殺せねぇよ」

「なら、掃除したら?」

「そういうことじゃねぇ!!」

「じゃぁどういうことやねん!!」

 

 はやての叫びに、少しだけ後ずさる。

 叫んだはやては溜め息を吐いて、また口を開く。

 

「……悪人の子は、悪人なんか?」

「そう……なんじゃないのか?」

「なら、私達も殺されて然るべきだね」

「母さんは元、と言っても次元犯罪者だし」

「お前らは違うだろ!!」

「ライトの言った事は、そういう事だよ」

「ッ!?」

 

 違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!

 オレは悪くない、悪くないに決まってる。

 

「もしも、親が誰かに殺された、としよか」

「……なんだよ」

「もし誰かに親が殺されたら、どうする?」

「そんな事…あるわけないだろ」

「なら考え。考えて、物を言うてみ」

 

 親が、殺されたら。

 もしも、あの平凡で平素な親が、殺されたら。

 

「……犯人を見つける」

「見つけて?」

「見つけて……」

 

 殺す。

 絶対に、殺してやる。

 

「…許す」

「……嘘はええよ。顔がそう言うてない」

「……なら、どうしろっていうんだよ」

「思ったこと、言うたらええだけやん。私もたぶんそう思うし」

「……殺す」

「うん。やろね。私もそうする」

「それが、何なんだよ…」

「うん。で、今なんやけど、夕君の親の仇が目の前に居るわけや」

「……え?」

 

 背筋がゾクリとした。

 頭の中がグチャグチャになって、視界がグラつく。

 

 耳になのはの叫びが聞こえる。

 ぼんやりと見えるなのはは、みんなに喚き散らしている。喚いて、オレを抱きしめている。

 

 違う、違う。

 

 オレは、オレは悪くないんだ。

 

 

 オレは……

 

 

 

 悪いのか?

 




~紙束
 アリシアさんが徹夜で仕上げてくれました。無駄になりました

~精神的追い込み
 お忘れのようですが、小学生です。小学生とはなんだったのか…

~なのは()
 ニコポナデポ依存、というか中毒者

~皇 光
 彼の母の仇。とはやてとフェイトは思っている。もちろん、情報統合しているとそういう事になる。

~現状の情報
 罪人を収容している世界にライト君が武器をブッパ。だめだわー、全滅だわー、全滅してるだろうわー。
 が管理局から仕入れれる情報。事実だが、全てではない

~時系列
 今しがた、夕君とリインフォースの密会が終わったあたり。リインフォースが珈琲を飲んで「にがっ…」と言ったあたりと言ったほうがいい

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