『みんな』幸せのハッピーエンドが見たいだけだ   作:ラトソル

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『みんな』幸せのハッピーエンドが見たいだけだ

 

『怜さんの夢ってなんなんですか?』

 

 なんてことない会話の記憶。数少ない同じ日本人ということで、仲良くしてくれていた彼との交流の中のほんの一部。

 

『俺の夢?』

 

 愛想がいいって訳でもないけど、話上手で、悩みとかも聞いてくれて、親身に寄り添ってくれて。

 そんな彼のことを、少しでも多く知りたいと思ってしまったのは、強欲だったのかな、なんて思ったりもして。

 

 私の質問に、彼は少し間の抜けた顔を見せたけど、悩む素振りなんか見せずに、笑って答えてくれた。

 

『そんなの、決まってる────』

 

 

 

「────嘘つき」

 

 零れた音は、誰に届くことも無く闇の奥へと消えていった。

 

 

 

「睡眠ぐらい取ったらどうですかドクター」

 

 次なる特異点の解析、人理焼却の黒幕や、魔神柱の解明。それだけでは無いが、やることは多い。

 所長の席が空いてしまった今、僕がその代理を務めなければならず、デスクで生活していると言っても過言では無い社畜っぷりを見せる僕に苦言をもうしてきたのは、カルデア職員の一人である天野怜くんだった。

 

「大丈夫、ちゃんと寝てるよ」

 

「それ、いつの話です?」

 

「……一昨日」

 

「仮眠は睡眠に入らないですよ」

 

「……四日前、かな」

 

 ほら、とおちゃらけたように言う彼にしてやられたなと思う。彼は魔術師だ。しかし、高名な家でも、歴史のある家系でもない、無名の魔術家系……というか、彼以外魔術を知る者が居ないらしい。

 彼自身、秀でた才がある訳でもなく、魔術を追求している訳でもない。ほとんど一般人と変わらない彼は、『魔術使い』と言った方がいいのかもしれない。

 

 僕自身、彼の魔術を見たことはなく、本人も「大したことない」と言っているので、深く聞くことは無かった。

 

 魔術師特有のプライドやら弱肉強食やらは彼の中には無いようで、分け隔てなく接する彼は結構人気だ。怜くんは気づいてないだろうが。

 

 大抵のことをそつ無くこなす彼に当てはまるのは『器用貧乏』。特出したものがないが、欠点らしいものもない。強いてあげるなら、魔術の才だが……職員としては、あまり関係の無いものだ。

 

「立香ちゃんとマシュが頑張ってくれているのに、前線に出てもない僕が休む訳にも行かないよ」

 

「それは極論では? 確かにドクターは前線に出ては無いけど、あなたがいなければ特異点攻略は不可能ですよ」

 

「……」

 

「後方支援から始まるサポート。元一般人である立香のメンタルケア。あなたは彼女の支柱です。カルデアにとっても」

 

「それは、どうかな」

 

 特異点のルートや、サーヴァントの伝承などを伝えるという意味でのサポートなら、僕はやってるけど。

 メンタルケアに関しては、君の方が彼女に貢献してるんだよなぁ、と声音にせずに思ってみたり。

 

 ────立香ちゃんの支柱は、間違いなく君だよ、と言いたい気持ちもある。

 

「その仕事、俺でも出来るやつでしょ。あとは俺がやっとくんで、寝てください」

 

「じゃあ、ちょっとだけ」

 

「8時間は寝ろ」

 

「あ、ハイ」

 

 強引に席をぶんどった彼の圧に思わず敬語を使ってしまった。

 

「作業してたらダ・ヴィンチに報告しますからね」

 

「それは……怖いな」

 

 苦笑いを浮かべつつ、彼の見せる不器用な優しさに肩から力が抜ける。同時に、今ままでは我慢して隠していた眠気が遅い、足元がふらついてしまう。

 

 思考が纏まらず、部屋に戻って眠ることだけ考えた僕は、彼にお礼だけ告げて、早々に自分の部屋へと向かった。

 

「……貴方には、生きてもらわないといけないんですよ、ドクター」

 

 そんな彼の呟きは、僕の耳に伝わることは無かった。

 

 

 

 

 

 終局特異点。

 

 魔術王ソロモン……いや、ゲーティアが正体を顕にし、管制室に緊張が走る。

 

「行くのかい?」

 

 所長席に腰を下ろし、盤面を見ていたロマニが意を決したように席を立つ。いや、既に決めていた覚悟を改めて思い浮かべたのだろう。

 そんなロマニに、ダ・ヴィンチは驚くような様子も見せず、こうなることが分かっていたかのように、意味の無い確認を取る。

 

「あとは頼んだよ、レオナルド」

 

「君は、本当に────」

 

 ズルいな、と。困ったように、呆れたように音を鳴らそうとしたダ・ヴィンチは、しかし口が開くことなく。

 膝から崩れ落ちていくロマニを、慌てて支えに行った。

 

「どうしたっ、ロマニ!!」

 

 先程とはうってかわり、血相を変えたように表情は焦りを浮かばせている。ロマニの体からは完全に力が失われており、最悪の事態が脳裏をよぎるが。

 

「落ち着け、眠らせただけだ」

 

 ロマニの急変に場が騒然とする中で、その声はよく響いた。ハッと意識をそちらに向けたダ・ヴィンチは、よく知る顔がいつもと変わらぬ顔で立っているのを見る。

 

「怜、君。なにを」

 

「ドクターには生きててもらわないといけない。それだけだよ」

 

 怜から魔術を使用した残滓を感じ、もう一度ロマニへと視線を向ければ、胸が上下に動いており、本当に眠っているだけだと分かると、一息つき肩の力を抜く。しかし、怜の不可解な行動に僅かな警戒心と困惑を浮かべながら会話を試みる。

 

「────は?」

 

「ドクターを頼んだ、ダ・ヴィンチ」

 

 言葉を告げようと、頭の中で最適解を探す中、怜から感じた底なしの魔力に思わず呆気に取られ、思考が鈍る。

 その総量は、滲み出る上澄みしか感じないながらにも、聖杯級の魔力を正しく感じ取った。

 

 狙った訳ではなく、得てして生まれてしまった隙を掻い潜り、怜は魔術を用い、僅かな魔力残滓すら残さないままに姿を消した。

 

「────さて」

 

「なんだ、貴様は」

 

 魔術王の玉座を前に、二人の少女とゲーティアが相対する間へと、突如男が現れる。

 なんでもないように現れた男の顔を、ゲーティアはレフ・ライノールを通じて知っていたが、深く関わっていなかったことから情報の不足により問いただす。

 

「────怜、さん?」

 

 橙色の美しい髪に、僅かに体を汚す少女が、驚愕の表情を浮かべながら、震える声を発する。

 大盾を構える少女も、思わず目を見開き、状況についていけないかのように口を半開きにしていた。

 

「怜……天野怜か。カルデアの一職員が、ここへ何の用だ?」

 

「へぇ、俺の事知ってるのか。意外だな、レフ・ライノールとは関わりを持たないようにしていたんだが」

 

「────なに?」

 

 飄々と、散歩でもするかのように歩き、立香とマシュへと近づくと、両手をそれぞれに向ける。

 すると、手のひらから淡い光のようなものが溢れ出し、それらは二人の体を包み込むと、傷や汚れがたちまち消えていき、消費した魔力が全快していく。

 

 最後に、驚きが消えずに固まる立香の頭を優しく撫で、未練を残すことなく振り返り、ゲーティアの視線を交わす。

 

「なんだ、その眼は……その力は」

 

 ゲーティアから禍々しく、しかし洗練された魔力が解放されていく。地面は揺れ、剥がれ、砕け、大気は悲鳴をあげ、指を輝かせる指輪が光を帯びる。

 

「なんなのだ、貴様は。何をしに来た、何が出来る、不愉快だ、不遜だ、不敬だ。もう終わりを告げる貴様らの旅に抗おうとでも言うのか」

 

 宝具の前兆を感じたマシュが盾をかまえ、怜の前へと出ようとする中、怜は右手を後ろへとかざし、マシュの動きを止める。

 困惑する2人を置き、怜は両手を握り、そして開くを繰り返すと、一度目を閉じた。

 

「今更来て何が出来るというのだ。魔術の才がないお前が────」

 

「ゲーティア」

 

 目を閉じたままに、ゲーティアの言葉を遮ると、どこか嬉しそうに声音を告げる。

 

「仮にも魔術王の名を騙ったのなら、お前にもこの景色を見せようと思う」

 

「──誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの アルス・アルマデル・サロモニス」

 

 会話は不要。そう告げるかのように、ゲーティアは無情にも、人類史を燃やし尽くす熱量を誇る光帯を放出する。

 

「全員生存のハッピーエンドを築こう」

 

 視界が白一色に染まる。熱いとも、寒いとも感じない。莫大な熱量は、対粛清防御でもかくやという程の破壊力、規模を誇る。

 

 それに対して、怜は、焦ることなく、予定調和であるかのように……言葉を紡いだ。

 

「────さあ、『根源』を見せてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘つき」

 

「『みんな』生きるハッピーエンドじゃなかったの……?」

 

「……うそ、つき」

 

 

「あなたがいなきゃ、意味なんて、ないのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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