辺境の開発惑星「ルビコン3」の荒野に砂塵が巻き上がる。
『ハウンズ、作戦領域到達』
独立傭兵小隊「ハウンズ」の中量二脚探査AC3機が、編隊を組んで前進する。彼らは目標である大型エネルギー砲の目前まで迫っていた。
『フェーズ2移行』
低く垂れ込めた雲の下、防衛火器が曳光弾を放つ。発砲炎と弾丸の描く軌跡が煌めき、発砲音が響き渡った。
火線に晒されながら、なおも3機は進み続ける。目指す先では、エネルギー砲の砲口が妖しく輝いていた。
閃光と、轟音。
侵入者目掛けて放たれた青白い一撃は、しかし散開したAC各機に当たることなく地面をえぐった。たとえ軍人であっても肝を冷やすような状況だったが、彼らはそんな素振りを見せなかった。
編隊中央に位置取った機体からミサイルが放たれる。24発。両肩に装備された12連装垂直ミサイルの斉射。
しかし、発射に伴う隙は見逃されなかった。再び放たれた青白い閃光が機体の右半分を吹き飛ばし、もう半分が地面を転がる。
『619、生体反応ロスト』
619の放ったミサイルが最初の防衛線を一掃する。残された2機のACは炎と煙の中を突き進み、防衛線を突破していく。
『突入ルート再計算開始』
1機は右腕にガトリングガンを装備した支援役の「617」、もう1機はハンドガンとライフルを装備した遊撃役の「620」だった。
617は左肩に装備したパルスシールドを展開して攻撃を引き付ける。しかし数発の実弾を浴びたところでシールドが消失、左腕ごと吹き飛ばされた。
これを受けて620が先行、次の防衛線を突破する。エネルギー砲は目と鼻の先にあった。
それを阻むかのように。
突如、装軌式の大型兵器が地中から飛び出してきた。履帯が617の右肩に載った拡散バズーカを持っていき、頭上すれすれを飛び越えて背後に回る。振り向いた617と、赤い視線が交差した。
617はすかさずガトリングガンを発砲。おびただしい鉄量を叩きつけるが、しかしこれは装甲に阻まれ、有効打とはならなかった。
その間に620が接近。ハンドガンをばら撒きつつ、あえて正面を横切って注意を引きつけにかかる。2門搭載されたガトリングキャノン、それから1門の多連装レーザーキャノンが620を捉えるべく、砲塔が旋回する。
チャージ完了。拡散されたレーザーキャノンの初撃が620に襲い掛かる。右腕が吹き飛んだ。直後に次弾が直撃。ACSが負荷限界を迎えて620の動きが止まる。ほぼ連発された3発目も直撃。機体が爆散した。
『620、反応ロスト』
続いて接近を図る617に向け、車載ガトリンググレネードキャノンが火を吹いた。617はクイックブーストを併用して切り返し、これを回避。履帯の間、車体に括り付けられたコアの正面に潜りこんだ。
そのまま衝突。何かがひしゃげるような音。ブースタ出力を最大まで上げた617は、自機よりはるかに大きい相手を押しとどめた。
間髪入れずにカメラアイマウントの脇、装甲の隙間にガトリングガンを叩きこむ。ガトリング特有の断続的な発砲音と、弾丸が金属に激突する音が響き渡った。
617は撃ち続ける。銃身が赤熱して輝き、周囲には火花が飛び散るが、射撃を止めなかった。発砲しながら、銃身を押し付けた。零距離射撃。
マズルフラッシュと火花が機体を赤く照らし、銃身からは音を立てて煙が上がった。それでも617はトリガーを引き続ける。
残弾を全て叩き込んだとき、相手は既に鉄屑と化していた。
一方で617の機体は装甲が剥がれて一部は内部が露出、更にブースタが消耗して深刻なオーバーヒートを起こしていた。
『ターゲット情報更新』
赤熱し、銃身が曲がって使い物にならないガトリングガンが打ち捨てられる。617は全ての兵装を失った。
急速冷却装置が作動。あらゆる所から煙を吐きながらも、赤く光るカメラアイは正面にそびえるエネルギー砲を捉えて離さなかった。
『フェーズ3、パターンE』
617はコア拡張システムを起動。コア背部のカバーが展開され、青とも緑ともつかないスパークが迸る。
アサルトアーマーが発動。パルス爆発。光が弾け、エネルギー砲を粉砕する。同時に617の機体も限界を迎えた。頭部が、コアの上半分と共に消し飛ぶ。
上空のオペレータAIが無機質な声を発した。
『617、ロスト』
それが聞こえる者はもうこの場にいなかった。
残っているのは、燃え盛る鉄屑だけだ。
『ハンドラー・ウォルターに報告』
戦場に雨が降り出す。雨粒が灼けた金属の表面を流れて、滴り落ちた。
『ミッション完了』
「また来たのか。よくもまあ、飽きないことだ……」
来客の訪れを知った部屋の主は、窓のブラインドを開けながら独りごちた。ついこの間引き渡したばかりだというのに、まさかもう使いつぶしたのか。
「で、617たちはその後どうだ?」
いったい何と戦ったんだか、聞いてやろうじゃないか。扉を開けて入ってきた来客に、部屋の主は話しかけた。
「教えてもらおうか、ハンドラー・ウォルター」
杖をついた、初老の男だ。何も知らなければ老紳士にしか見えないだろうその男は、しかし部屋の主の言葉に応じることはなかった。
「まあいい。在庫処分の手間が省ける」
彼らは正直なところ、不良在庫だった。
どのみち処分せざるを得なかったのだから、少しでも利益を出せただけマシだ。
さて、こいつはどうだろうか。
極低温に調節された部屋の中、防寒装備に身を包んだ部屋の主は、傍らの手術台に横たわる「それ」に目をやる。
胴体を断熱材で覆った上に全身を高分子ビニールラッピングで保護。頭部には酸素マスクと共に、手術時に使用した装置が装着されたままだった。
これらの上から、上半身には電極が突き刺さり、身体のあらゆるところにチューブとコードが繋がれていた。いくつかはモニタリング用のものだったが、またいくつかは別のところに繋がる。
手術台の前に佇む、灰色の巨大な鉄の塊。人型機動兵器、アーマード・コア。617たちと同じ探査用フレーム。コードはそこへ繋がっているのだ。
第4世代強化人間「C4-621」。それが手術台に横たわる物体の
ACの操縦に最適化された、最重要パーツである。
第4世代強化手術を行った被験体のうち、生死問わず621体目にあたる。こいつは人型だが、もはや人間ではない。予後としては、意思の疎通が困難で、感覚や記憶にも障害がある例が多い。
「この個体は……動くが、機能以外は死んでいるものと──」
「御託はいい。起動しろ」
部屋の主の言葉を来客が遮った。相変わらず鉄のような男だ。ようやく口を開いたな。
もちろん、焼かれた過去の話だ。今ここでラップ巻きにされている有機体はエースパイロットではなく、部品だ。素体こそ良いが、しかし旧世代型に過ぎない。
旧世代型に期待するものではない。動くには動くが、まともではない。そういう製品なのだが、本当に理解しているのだろうか、この男は。
もっとも、来客──ウォルターが部屋の主に対して、製品についてのクレームをつけたことはなかった。
頭に埋め込んだ、脳深部コーラル管理デバイスの起動作業に入る。最初の起動だけは、闇とはいえ医師がやらねばならない。
まずは首元に繋がっているチューブ類を抜く。脳深部に注いだ新物質「コーラル」に身体を馴染ませるため、血中に微量のコーラルを投与していた。他にも色々と投与していたのだが、それらを一緒に抜き取った。
「621……」
作業を進める間、傍らで621を見つめていたウォルターが呟く。
「お前に意味を与えてやる」
脳深部コーラル管理デバイス、起動。AC頭部のサブカメラアイが赤く灯る。
生まれて初めての世界はどう見えるのだろうか。
「仕事の時間だ」
その言葉に応えるかのように、メインカメラが赤く光った。