メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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BAWS第2工廠調査

『仕事だ、621。依頼主はルビコン解放戦線。ブリーフィングを確認しろ』

 

 621の新しい仕事は、解放戦線からだった。今まで散々壊してきた相手だ。

 

『……「壁」の喪失は我々にとって手痛い一撃だった』

 

 発行人の声は重々しい響きを帯びていた。しばしの沈黙が流れる。

 

『だが、貴方は企業の手先というだけではないと信じている。我々はきっと共にやっていけるはずだ』

 

 感情のこもった口調で、作戦内容が説明されていく。

 

『ベリウス地方における主要MT製造拠点、BAWS第2工廠の調査を頼みたい。BAWSは顧客を選ばない、我々の戦力維持には欠かせない企業だ』

 

 これは本当だ。621もBAWSのバーストライフルには世話になっている。

 

『その彼らの第2工廠が、ある晩を境に突如として音信普通になった』

 

 話が本題に入る。画面には工廠内と思われるカメラの映像が流れた。複数の物体を捉えかけているが、エラー表示で一杯になり、機能を停止したのが見て取れた。

 

『ただの回線不調なら、見て帰るだけなのだが……。何というか……ストライダーのこともあり、内部でも慎重派の声が大きい。身内の恥を晒すようだが、貴方の助力をもらえると助かる』

 

 ブリーフィングは以上だった。

 不審な点の多い依頼だ。そもそも見て帰るだけにしては報酬額が高すぎる。

 何か待っているのは間違いないだろう。

 

『……出る前にひとつ助言を送ろう、621。「不測の事態を予測しろ」』

 

 違いない。621は初めて訪れる、ベリウス北部の沿岸地帯に降下していった。

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

『ミッション開始だ。BAWS第2工廠の調査を始める』

 

 621は屋上から深夜の工廠内へ侵入していく。正面搬入口付近はミールワーム一匹の気配すらなかった。

 

「壁」で拾った映像記録と、ブリーフィングで流された映像記録。ふたつの記録を621は思い出す。

 工廠の少し奥まった区画、ここに「何か」が複数いる。ジャミングで確認しにくかったが、恐らく光学迷彩だ。カメラアイのような光が記録されていた。

 

『周辺を確認しているが……機影ひとつ映らん』

 

 上からでも当然検出せず。ステルスだ。ACのスキャンには反応するだろうが……。

 621は両腕に装備したショットガンを意識する。相手は透明化しているのだから、奇襲を仕掛けてくるはずだ。ショットガンなら、考える余裕がない状況でも、撃てば当たる。距離さえ守っていれば。

 本当はヴォルタが装備していた長射程ショットガンが良かったが、入荷していなかった。621が持ち込んだのは短距離ショットガンである。今回は至近距離での戦闘を想定しているため、衝撃力を除けば大した違いはない。

 

『一体何があった? 静かすぎる……』

 

 工廠を左右に横切る連絡道路には車が置き去りにされていた。時間が止まったかのような感覚を621は味わう。

 

 なおも進むと、レーダーに感あり。方位172。まだコンテナは表示されていないが、敵がいる。ターゲットアシスト起動。

 警告音。HMDに射点が表示される。

 

『……避けろ! 621!』

 

 レーザーが飛んできて、ウォルターの緊迫した声が聞こえた。自由落下中の機体をレーザーが盛大に外していく。

 

 621はクレーンを盾に敵機へ接近する。暗号通信が混線したが、内容はまったく分からない。

 

『621、射線から位置を特定しろ』

 

 既に621はアサルトブーストで敵機に突撃していた。そのまま体当たりする。両腕のショットガンを放ち、即座に持ち替えたブレードで連撃。クイックブーストで距離を詰め、リロードを終えた右腕のショットガンを発砲。敵機を撃破。

 

 妙に強度がある。バラバラになっても暗号通信を送っていた。

 

『……なるほど。MDDか。MDDに……暗号通信……。こいつが工廠を……一夜にして落としたのか……? 621、調査を進めるぞ』

 

 621は右側の通路から探索する。ACかMTか、分からないが残骸があった。スキャンをして入念に……反応あり。曲がり角の先、残骸の目の前だ。

 

 621はショットガンを零距離射撃。近すぎて当たらず。腕の間に敵機が入り、奇襲は失敗に終わった。ブレードでの攻撃に切り替える。スタッガーをとった。621は蹴りとショットガンの射撃を繰り返して敵を撃破、まだ生きている残骸にアクセスした。

 

 映像記録が残っていた。警備中の哨兵だったようだ。

 

『そうビクビクするな。BAWSは星外企業にもMTを提供している。この工廠が目を付けられることはない』

 

 最初は通信をしていたようだ。音声も明瞭に聞き取れる。

 

『なるべく多く売りつけて資金をエルカノに回すんだ。それが俺たちルビコニアンの生きる……どうした? 通信が途切れ……』

 

 突如ジャミングがかかり、映像に変化が現れた。人型の兵器だ。いま交戦した機体……ではない。これはACだ。中量二脚機。

 どこのメーカーかまでは分からなかったが、この機体がまだいるのかもしれない。

 

 通信内容自体も興味深いものだった。特にBAWSもエルカノに資金を回しているという話。ラスティの通信ではファーロンがエルカノに技術を提供するという話だったが……。

 621は考察を打ち切る。今は作戦中だ。考察は生きて帰ってからにしよう。

 

 工廠の奥へ進む。ここは「壁」で拾ったログにあったところだ。

 

『狙われているぞ!』

 

 ウォルターから警告。同時にアラートが鳴る。あのレーザーは弾速が速い。621は警告音が鳴り終わった瞬間にクイックブーストで回避する。

 

『……同型のステルス機体か。距離を詰めていけ、621』

 

 621はクイックブーストで的確にレーザーを避け、敵機に接近していく。

 接近したら、ショットガンを撃つ、ブレードを振る、ショットガンを撃つ──撃破。イージーゲームだ。

 

『621、どうやら今度は1体ではない』

 

 レーダーに敵影が残っている。方位356。何もないはずの地面に火花が見えた。いる(・・)

 

 621はブレード攻撃から戦闘に入った。敵機はレーザーウィップを放ってきた。621の機体にウィップが当たった。1500近くAPが飛ぶ。重たい一撃だ。

 ブーストキックからショットガン、ブレードと続けざまに攻撃を加え、ウィップ持ちを撃破した。

 

『不明機体を撃破した。先に進め、慎重にな』

 

 621は工廠の奥、ブリーフィングのカメラが捉えた地点まできた。スキャンをすれば、やはり敵機が見つかった。

 ショットガンとブレードで先制攻撃をかける。ブレードの1発目が外れた。621は追撃のショットガンを放とうしたが、敵機が消えた。どこへ行った?

 

『……看破したか。やるな621。それが「不測の予測」だ』

 

 621は遠距離攻撃を放ってくる機体から撃破を狙った。見逃した1機を再度捕捉、ショットガンで撃破する。続いてもう1機に接近、ブーストキックを中心にショットガンとブレードで攻撃、撃破した。

 

 あとはレーザーウィップを装備した近接タイプ。空中にレーザー機雷をばら撒いてきた。多少傷を負ったが、621はこの機体も撃破、付近はクリア。

 

『不明機体の撃破を確認した。行くぞ、621』

 

 二重の隔壁を開ける。厳重に蓋をされた工廠の最奥へ、621はたどり着いた。

 

 縦穴があった。大きく、そして深い。

 

『これは……コーラル反応か? ……621、降りて確認しろ』

 

 深さ1000mを超える地下空間に、「井戸」があった。紅い。ただの地下水ではなかった。

 

『間違いない。この液体は……微量だがコーラルが混じっている。地中支脈からの湧出現象……。BAWSが「井戸」を隠していたということか』

 

 突如、再び暗号通信が混線した。

 

『621、上から来るぞ!』

 

 レーダーに敵影4。その内の1機と目が合った。621はHMDに映し出された赤い光を見逃さなかった。アサルトブーストで突撃、叩き落す。

 

『数が多い。各個撃破しろ、621!』

 

 レーザーが四方八方から飛んでくる。おまけに迷彩を解除し、パルスアーマーを張った1機がロックの邪魔になる。非常に戦いづらかった。

 

 気がつけばAPが危うい。621はリペアキットを使用した。

 

 苦労しつつ、621はもう1機、壁から引きはがし、ばらす。

 

『2機撃破。集中を切らすなよ、621』

 

 エネルギー容量が足りない。もっと良いジェネレータが欲しかった。

 アサルトブーストで接近し、蹴りとブレードを使う。エネルギーは常時枯渇ぎみで、常に警告音を奏でている。

 

『あと1機だ。始末しろ』

 

 残ったのはパルスアーマーを張る近接タイプ。621はミサイル、ショットガン、蹴りでアーマーを削っていく。特に蹴りの効果が大きかった。

 

 敵機のパルスアーマーが剥がれた。スタッガー。621は全ての武装を使って攻撃する。ブレードを振り、キックをかまし、ショットガンを叩き込む。

 

 敵機がバラバラになって転がった。破片の状態でも、まだウネウネと動いていた。まるで生体兵器だ。

 

『……これが最後のようだ。見て帰るだけの仕事ではなかったな。戻って休め、621』

 

 621も疲労を感じていた。生体センサが疲労を感じているのだから、休むべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 薄暗いガレージの隅で、ハンドラー・ウォルターは連絡を取っていた。通信がつながる。

 

『しばらくぶりだね、ウォルター。なかなか元気そうじゃないか』

 

 年齢を感じさせない女性の声が飛んできた。いつの間にか、声だけなら自分の方が年上になってしまった。

 

『新しい強化人間を手に入れたみたいだね。617たちはどうした?』

 

「仕事をした。おかげでルビコンまでこぎつけた」

 

 かつて別の人間にもされた質問に、ウォルターは答えた。

 

 脳裏に浮かぶのは彼らとの日々。コーラル関連施設を探し、大量のコーラルが埋まっていることを確かめるためだけに、手駒として過酷な戦場を引きずり回し、ろくな食事も与えず、部品として使いつぶした日々だ。

 

 最期だって立ち会えなかった。封鎖機構が解放戦線から接収した、井戸の湧出状況調査のために送り出した4人は、ひとりも帰ってこなかった。ひとりは老兵に殺され、残りは敵と相討ちになってまで、仕事を果たした。人生を取り戻すことなく。

 

『……ハッ。それで新入りの様子は?』

 

「悪くはない」

 

 彼女の気遣いが身にしみた。いつだって笑い飛ばす彼女に、何度救われたことか。

 

「だが第4世代は不安定だ。仕事は選ばないと……そちらの首尾はどうだ」

 

『「友人たち」の残した情報が見つかったよ。望みのものはウォッチポイントにある』

 

 その後しばし雑談をして、ウォルターは通信を切った。

 

 621に、「仕事」をしてもらう。これで大きな手がかりが見つかるはずだ。また封鎖機構を相手にするが、願わくば生き残ってほしいところだ……。

 

 いや。ウォルターはかぶりを振った。

 

 俺にそんな願いをする資格など、ありはしない。

 

 

 

 

 

 

 帰投した621は、コックピットから出られなかった。ひどく疲れていた。

 

『新着メッセージ、1件』

 

 ウォルターからメッセージが来た。

 

『戻ったか、621。BAWS第2工廠で発見した、コーラルの湧出現象についてだが……』

 

 ACの中で、621はメッセージを聞く。

 

『あれは地中支脈からわずかに染み出たものだ。あの「井戸」は放っておけば枯れていく。俺たちの目指すコーラルではない。……それから』

 

 ウォルターの話が続く。621は、ウォルターの声が徐々に遠ざかっていくように思われた。

 

『お前には次の仕事を送っておいた。これは企業や解放戦線からの依頼ではない。ブリーフィングを確認しておけ』

 

 メッセージが最後まで再生されても、621は微動だにしなかった。

 621の生体モニタリングデータは、呼吸、脈拍、脳波がいずれも安定傾向にあることを示していた。ACのシートを枕に、猟犬は眠りにおちた。




収入:180,000
 
 基本報酬:180,000
 報酬加算:0
 
 支出:27,794
 
 修理費:17,514
 弾薬費:10,280
 報酬減算:0
 
 収支:152,206
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