621は新しい依頼を確認する。件名は『ウォッチポイント襲撃』。発行人はハンドラー・ウォルター。
ブリーフィングを再生する。
『これはある友人からの……ごく私的な依頼だ』
映像の中で、ウォルターがやや遠慮がちに切り出した。
『「ウォッチポイント」と呼ばれる施設がある。地中に眠るコーラルの支脈を監視し、かつてはその流量制御も行っていた施設だ。お前にはそこを襲撃してもらう』
映像がウォッチポイント内部のものに変化した。
『目標は最奥にあるセンシングバルブの破壊』
センシングバルブ……流量制御用のものを……破壊する?
『当該施設は惑星封鎖機構のサブジェクトガードが警備に当たっている。企業たちも表立っての手出しは避けるだろう。つまりこの仕事は、俺たちだけで遂行しなければならない。……単機での夜間出撃となる。気を引き締めてかかれ』
ブリーフィングは以上だった。
621は武装を検討する。相手がSGだけで終わるのかどうか、だ。増援や、予想外の敵が出てくることを考慮しなければならない。
しばし思案した後、621はいつもの武装を選択した。両腕にバーストライフル、右肩に垂直プラズマミサイル、左肩にパルスブレード。どんな敵が相手でも、戦える構成だ。
ベリウス北部、所々氷の浮かぶ海にグリッドが乱立している。その間を縫い飛行する輸送ヘリの影があった。時刻は夜中。闇夜の中、雨が降っていた。
『準備はいいか、621』
腕部を保持していたクランプが解除される。カーゴランプが開いた。
『心配するな。独立傭兵が単機で仕掛けてくるとは封鎖機構も想定していない』
機体はそのままレールで運ばれ、やがて肩クランプのみで保持された状態になる。真下は海だ。
『行ってこい、仕事の時間だ』
肩クランプ、ポジショングリーン。ロック解除。
投下。
『メインシステム、戦闘モード起動』
早速ウォルターから指示が飛ぶ。
『証拠は残すな。目撃者は──全て消していけ』
ウォッチポイント第1区画に降下した621は、まずレーザー砲台の破壊を狙う。アサルトブーストで接近しつつ、ライフルをセミオートで3発、左右共に発砲した。砲台がレーザーエネルギーを暴走させて爆発する。
『
『敵は……AC単機だと? どこの所属だ』
『詮索は後にしろ。交戦する』
封鎖機構が混乱している間に、621は区画にもう1基置かれたレーザー砲を排除する。
残りは雑魚だ。封鎖機構のSGが運用している機体は、バーストライフル2発で撃破可能だ。つまり両腕から1発撃てばいい。
『
『はっ⁉ 本部と繋がりません!』
『
ウォルターが連絡線に細工をしたようだ。封鎖機構の上位機は出てこないらしい。
残り2機。621が始末するのにそれほど時間はかからなかった。
621は第2区画へ侵入する。
『あのAC、どこから来た⁉ 歩哨部隊はどうした!』
第2区画はサーチライトが用意されていた。点灯する前に621は砲台をひとつ撃破する。
『
『四方から狙い撃ちにされるぞ。機動力を活かせ』
621はまず、邪魔な場所にいたMTをプラズマミサイルでどかす。遮蔽を使いながらレーザー砲台を破壊し、残敵の掃討に移った。
『
最後の1機を仕留めた。
『マーカー情報を更新する。指定する方向へ向かえ』
621は前方が開けた場所に移動した。海の上にぽつんと施設が置かれており、こちらと連絡橋で結ばれていた。
この施設は……見覚えがある。あの空飛ぶミサイルリングと戦った場所と、屋上の構造が酷似していた。
『見えるか、あれがウォッチポイントの制御センターだ。目標はその内部にある。侵入しろ』
ウォルターの指示通り、621はアサルトブーストで施設へ向かって飛行する。途中でエネルギーが切れた。621は連絡橋の上に着地した。
気だるげな男の声が無線機から聞こえてきた。
『ウォッチポイントを襲撃だって……?
制御センターの向こう側から飛来する1機のACを621は捉える。相手はセンターの上に着地した。
アーキバス標準フレームを中心に、脚部だけオールマインドの二脚という機体。珍しいチョイスだ。
『また犬を飼ったようだが、何匹殺せば気が済むんだ』
敵だ。交戦する。621はターゲットアシストを起動、アサルトブーストで突撃していく。
『貴様……スッラか⁉』
『哀れな犬よ。お前には同情するぞ、心底な。飼い主が違えば、もう少し長生きできたろうに』
621はプラズマミサイルをけん制で放つ。敵機はパルスガンを撃ってきた。パルスガンは射程が短い。序盤、621は引き撃ちをすることに決めた。
敵もミサイルはプラズマミサイルを使用しているようだ。回避する際は、プラズマを浴び続けないよう621は意識する。
敵機がアサルトブーストで距離を詰め、蹴りを放ってくる。621はクイックブーストで回避、同じく蹴りを見舞った。更にバーストライフルを撃ったが、これは外れた。
『C1-249……独立傭兵「スッラ」。第1世代強化人間の生き残りだ』
プラズマミサイルが命中し、ACS負荷限界を迎えた老兵に、621はブレードで切りかかった。
『……躊躇するな、621。さもなくばお前が死ぬことになる』
おや。躊躇はしていないが、621は機体操作を誤った。アサルトアーマーが暴発する。アサルトアーマーは左右スティックの特定のボタンを同時に押すことで発動するため、暴発することはめったにないのだが。
隙を晒した621に脚が飛んでくる。スタッガー。621は追撃をすんでのところで回避した。お互い硬直からの回復が早い機体だ。
『619と20はどこだ。死んだか? 私が殺ったのは何番だったか……』
『……奴の言葉に構うな。集中しろ』
その言葉がウォルター自身に向けたものであることを、621は直感的に理解していた。集中を切らすことなく、621は敵を排除することのみを考え続ける。
海上にて、お互いにアサルトブーストでぶつかり合い、蹴り合う。硬直したのは敵機の方だった。621はブレードで攻撃する。
『この感じは第4世代か。上手く育てれば優れた猟犬になる……不憫なことだ。ここで死んでしまうとは』
『AP、残り30%』
ノイズが入った。たぶんプラズマミサイルが当たったのだろう。621はリペアキットを使用して回復し、リロードを終えたプラズマミサイルで反撃。更にバーストライフルを撃ちこんでいく。
プラズマミサイルが着弾。波間に敵機が倒れ込んだ。
『ウォルター……ウォッチポイントは、やめておけ……』
『……敵ACの撃破を確認した』
敵機は炎上し、それっきり動かなくなった。
『621、奴のことは気にするな。……だが、よくやった』
相変わらず雨が降っている。酷い天候だ。
『……仕事に戻るぞ。センター内部に侵入し、目標を破壊しろ』
621はセンター入口のシャッターにアクセス。内部に侵入する。すぐそばに補給シェルパがあった。
なぜこんなところに? 621は疑問に思いつつ、シェルパにアクセス。残弾とリペアキットを元通りにする。
道なりに進むと、すぐに巨大な縦穴へ出た。周囲の壁全てが、制御に用いるコンピュータでできている。とてつもない大きさのスーパーコンピュータ群だ。
621は機械の縦穴を降下していく。高度マイナス1000m。穴の底には確かに、目標のセンシングバルブが設置されていた。
『……それだ。中央にあるデバイスを壊せ』
弾薬がもったいない。621は蹴りで破壊することにした。ターゲットアシスト起動。
ブーストキック。1回、2回。ハウジングが半壊して中身がずり落ちてきた。621は再び蹴りを入れた。2回。
暴走を起こした青白いエネルギーによって、制御装置が爆ぜる。
『……良くやった、621』
ウォッチポイントが機能を停止する。コンピュータたちから光が消えた。
『仕事は終わりだ。帰投しろ』
621は振動を感じる。
地面から真紅の液体がしみ出してきた。これは……コーラル?
『待て……いかん!』
振動が大きくなってきた。何かが這い上がってくるような、そんな響きだ。
地面から紅い液体が次々と湧いてくる。
『……621、退避しろ!』
世界が、紅の閃光で染まった。光は更に強さを増していき、621の意識ごと飲み込んだ。