メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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グリッド086侵入

《ベイラム・インダストリーからの依頼です。ウォルターが同社に持ちかけた中央氷原におけるコーラル集積情報……その確証を得るため、あなたに先行調査を依頼したいとのことです》

 

 621はエア手製のブリーフィングメッセージを再生していた。ウォルターのものと遜色ないつくりだ。

 

《アーレア海を越える手段ですが……》

 

 画面に巨大な施設が映し出された。レールキャノンにも見える。

 

《グリッド086の上層区画に備え付けられた大陸間輸送用カーゴランチャー。これを用いた中央氷原へのAC打ち上げを提案します》

 

 弾道輸送でひとっ飛びというわけだ。

 画面が更に切り替わる。

 

《グリッド086は「ドーザー(ヤク中)」と呼ばれる、コーラルを向精神薬(ドラッグ)として扱うならず者の巣窟です》

 

 621は、このグリッド086の光景に既視感を覚えた。

 

《中でもここをテリトリーとする「RaD」を名乗る一派は、非常に好戦的な武器商人でもあります。道中は危険を伴うでしょう。私があなたをサポートします、レイヴン》

 

 ブリーフィングは以上だった。

 それと同時に621は思い出した。ここはルビコンに来る前、グリッドでの戦闘を想定したシミュレーションで使用されていた場所だ。なぜウォルターがグリッド086のデータを持っていたのかは分からないが、用意された機体もRaD製だったことをふまえれば、何かしらの伝手があるのだろう。

 

《グリッドへの侵入方法はお任せください。システム解析や改ざんには多少の心得があります》

 

 それは是非とも助かる話だが、その前に考えなければならないことがある。

 ウォルターなしでどうやって輸送まわりをやりくりするか。

 

 ヘリの飛ばし方は621も知っているから問題はないし、出撃、回収もヘリをどこかに降ろしておけばいいだろう。問題は任務中にヘリに何かあっても対処できないことだ。破壊されればそれまでだ。それに、主人の留守中にヘリを壊したとなっては流石にまずい(・・・)。それぐらいの判断は621にもつくようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 1週間後、621はボナ・デア砂丘西端に位置するグリッド086の地上基部までたどり着いた。

 

 アーキバスの輸送網に潜り込んでベリウス西部まで移動、その後は単機で荒野を進むという道のりだった。アーキバスの哨戒網は穴も多く、621は誰にも見つからずにここまでの旅路を踏破したのだった。

 

《これよりグリッド086に侵入します。システムにバックドアを作成》

 

 エアが「玄関」をこじ開ける。このカタパルトはセキュリティのため、外部の者は当然使えないようになってるのだ。

 

《垂直カタパルト、ロック解除》

 

 カタパルト設置部、シャトルと車輪を固定するロックが解除される。機体の重量と自重でカタパルトが沈みこんだ。

 

《スチームシリンダ接続》

 

 蒸気が音を立てて噴き出る。レシーバ内の圧が急上昇し、エネルギーを溜め込んでいく。

 

《射出します》

 

 セカンダリロックが爆薬で解除され、ため込まれた圧を解放した。

 カタパルトが猛スピードで急上昇を開始。レールの上を滑走する車輪から火花が散った。

 

 一気に2000m近く上昇すると、やがて踏み切り用の機構が作動した。カタパルトからジャンプするように機体を離脱させるのだ。

 

 正面に外部からの輸送用線路が敷かれている。621はその上に着地した。停止した機体は自動でブースタを絞り、ノズルから熱風を吐き出した。

 

《さあ、レイヴン。仕事を始めましょう?》

 

 ウォルター以外からそれを言われるのは初めてだった。621は若干の抵抗感を本能で覚えたが、それは仕事への意識で上書きされた。

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

《マーカー情報を送信しました。上層につながるエレベータを目指しましょう》

 

 エレベータは下層区画の最奥に存在するため、まずは奥へ進んでいく必要があった。マーカーは最初の隔壁を示している。

 

 621は二層構造になっている連絡線の下側を進んでいく。右からアラート。ウォルターのデータと同じなら、ここのMTが放つミサイルは威力が大きい。621は柱を盾にしてやり過ごす。

 

 マーカー付近まで到達した621は、アサルトブーストで急上昇。一気にマーカーへ接近する。ここにチェーンソー持ちのACがいるはずだ。

 

『どこの馬のホネだあ? タダでここを通れるとでも思ってんのかア?』

 

 いた。接近してくる黄色いACをFCSが捕捉。621はターゲットアシストを起動し、挨拶代わりに両肩の小型連装グレネードを放った。全て外れる。

 

 小型連装グレネードはメリニットのベストセラーモデルである。重量、威力、回転率ともに高性能で、同社の大口径大火力モデルからシェアを奪い、業を煮やしたメリニット上層部によって炸薬を減らす対応がとられるほど、傭兵たちの人気を博している。

 ここは天井が低いところもあるため垂直ミサイルが使いづらい。そこで621もこのグレネードを持ち込んだのである。

 

『ボス、見ててくださいよお。この「無敵の(インビンシブル)」ラミーが、客人をもてなしてやりますんでエ!』

 

《アリーナ登録情報を見つけました。機体名「マッドスタンプ」で識別。……ランクは最下位》

 

 チェーンソーを持っているのは知っていたが、ラミーだったか。621にとってはどうでもいいことだった。呂律の回らない、鈍重な敵機をスピードで翻弄しながら、621はライフルを浴びせ、グレネードの爆風を絡ませる。

 

 敵機がACS負荷限界を迎え、硬直。621はリロードを終えた左のグレネードを直撃させる。

 

『俺とマッドスタンプに勝てるもんかよオ!』

 

 ついでに蹴りを入れ、離脱。ここで敵機が硬直から抜ける。そこに621は右のグレネードを放り込んだ。

 

『クソッ……「流れ者(ツーリスト)」にしちゃあ、やるな』

 

 621は敵機が上昇したところで再度スタッガーをとった。グレネードを追撃で撃ったが、角度が悪く当たらなかった。

 

 ライフルを撃ちながら距離をとる。序盤戦で被弾するわけにはいかなかった。相手の射程外から射撃を続ける。

 

『おっ……俺の! マッドスタぁあーンプっ!』

 

《敵機を撃破》

 

 マッドスタンプが崩れ落ち、爆発を起こす。最初の隔壁が開くのが見えると同時に、広域放送がかかった。

 

『好き放題やってくれているようだね……、お客さん(ツーリスト)。私らRaDは歓迎会が大好きさ』

 

 女の声だ。剣吞な雰囲気がひしひしと621に伝わってきた。

 

『お入り、せいぜい親睦を深めようじゃないか』

 

《礼儀の正しい人ですね。招待に応じてみましょうか、レイヴン》

 

 621は言われるがまま、先に進む。

 

《広域放送の女性について情報を集めました。カーラ──ドーザー(ヤク中)の有力な一派、RaDの頭目です》

 

 MTを蹴散らす間に、エアが情報を収集してきた。

 

《彼女は3年前、ジャンク技師とハッカー集団を率いてRaDに加入。その後わずか半年で実権を奪い、組織を急激に成長させています》

 

 621が目覚めたのがおよそ1年ほど前だから、そのころにはRaDがカーラとやらに乗っ取られていたようだ。

 

 マークされた隔壁へ到達、アクセスする。

 

『待ってたよ、お客さん(ツーリスト)! 言っただろ、パーティーが大好きだって』 

 

 HMDにアラート表示。後方からだった。上から丸い何かがふたつ落下してきて、振り向いた621の前で立ち上がった。

 

 腹を晒した1機に621はグレネードを斉射、粉砕する。もう1機はライフルで処理する。

 資料では「腹筋爆裂ダンゴムシ」なるコードネームを振られていた、RaDオリジナルのMTだった。攻撃を硬い外殻で守り、隙を見て展開、腹に隠し持ったガトリングと小型ミサイルを叩きつける戦法をとっている。

 

『へえ、なかなかやるじゃないか』

 

 621は次の区画へ侵入する。ここからしばらく、天井が低いエリアになる。

 

 まずは正面から天井裏に入り込む。MTがいた。撃破する。

 621が道なりに進むと、金網に空いた穴から下に降りれるようになっていた。そこにもMTが1機いる。

 

 621はMTへライフルをバースト射撃して撃破。

 次は後ろからMTが襲ってくるポイントだ。621は振り向きながら下へ降り、天井から奇襲をかけようとしたMTを撃破した。

 

 なおも道なりに進んでいくと、見覚えのある場所に出た。ちょっとした縦穴になっていて、先ほどのダンゴムシが襲い掛かってくる地点だ。

 目の前に丸まったそれが落下してきた。立ち上がって腹を晒した瞬間にグレネードをぶち込む。メリニット謹製の爆薬により、敵は粉砕された。

 

 この先は行き止まりに見えるが、上昇した先に通路がある。進んでいくと溶鉱炉の脇に設けられたコの字型の空間に出た。

 

 MTが2機いる。621は近い方を先に撃破。もう1機は閉所でミサイルを放ってくるため、やり過ごしてから撃破した。

 

 溶鉱炉周りは情報が少ない。スキャンしていくと、溶鉱炉を挟んだ区画に反応があった。

 MTが固まっていた。621はこれらを排除、駄賃を稼ぐ。

 

 しかし反応は残っていた。距離は直線距離で120mだが、不思議な場所にいる。これでは……地面に埋まっていることになる。更に不可解なことに、MTの形をしていない。

 情報にはなかった、所属不明のACだ。

 

 周囲を探ってみるが、抜け道がない。収穫はなぜか高炉の出銑口にあったACの残骸ぐらいだった。熱した鉄に晒されていたものの、ログが残っていた。

 

 湯の通り道? 621は思考する。

 反対側には使われていない方があるが……。こんなところにいるのだろうか。

 

 621は使われていない鉄の通り道へ入り込む。果たして空間があった。おそらくはスラグの貯蔵庫。空だった。そこから更に続くダクトスペースを、621はスキャンを重ねて進んでいく。

 

 ターゲットアシスト起動、うまく死角に潜んだACを、スキャンで捕捉する。

 

《この機体、ほとんど情報がありません……所属不明の独立傭兵です》

 

 情報は少ないが、報酬の追加にはなるはずだ。

 621は角から飛び出す。

 

『かかったな、取り立て屋! 君たちに返済する道理はない、死んでもらおう!』

 

 かかったのは相手の方である。621はグレネードを斉射。スタッガーをとり、ライフルで追撃した。

 

『安心したまえ、君たちの融資を無駄にはしない。ほら、この新たな機体を見てくれ。こうして私の信用は拡大していくのだ!』

 

 よく喋るが、良い的だった。狭い空間でグレネードが命中しやすい。相手はレーザーハンドガンで抵抗してきたが、照準が甘い。

 

『くっ……どうして分からない! 借りた金を、なぜ返す必要がある……⁉ ある金は活かすべきだ……なぜ理解しない……っ!』

 

 シールドを張ったところで、グレネードの前には無意味である。この男に金を借りる才はあったが、命を守る才はなかった。

 

《敵ACを撃破。何か勘違いをしていたようですが……。行きましょうか》

 

 621は来た道を戻る。マーキングされた隔壁を開けると、再度開けた区画に出た。最奥へ行くには、ここを突破する必要がある。

 

『どいつもこいつも、不甲斐ないね。あんた一人を雇った方が安く付くんじゃないかと思えてきたよ』

 

 真っ直ぐ進み、足場を飛び越えて621が進んでいくと、目当てのものが見つかった。

 621はそれに向かって発砲する。

 

 天井に括り付けられた爆薬が落下し、下にいた目標を吹き飛ばしていく。

 

『おや、歓迎の花火に気付いたのかい。あんた、勘がいいね』

 

 このポイントはMTがたむろしているが、天井の爆薬を落とせば四脚MT1機を相手にするだけでいい。

 

『なるほど……今度のお客さん(ツーリスト)は一筋縄ではいかないようだね』

 

 621は四脚MTにグレネードを斉射してスタッガーをとると、アサルトブーストで急接近。そのまま蹴りを入れ、ライフルをぶち込み、リロードを終えたグレネードを再び発射した。爆炎に包まれて四脚MTが四散する。

 

『分かったよお客さん(ツーリスト)、もう十分だ。言いたいことは分かった。降参するよ。これ以上は割に合わないからね』

 

 相手の声音が変わった。しかし621は知っている。RaDにはまだ隠し玉が残っている。

 

『良いよ、通してやる。さっさと行きな』

 

 隔壁が物々しい音を立てて開かれる。

 

《次はどういう魂胆でしょうか。進んでみましょう、レイヴン?》

 

 区画間のエリア左手に、補給シェルパがある。621はここで補給を行った。残す隔壁は一枚。この向こうが最奥区画だ。

 

『あんたは向こう見ずなようだね。嫌いじゃないよ、ツーリスト(・・・・・)

 

 隔壁のロックが解除され、開かれる。

 区画の奥に、大きな影が鎮座していた。

 

『でも、さよならだ』

 

 621が接近していくと、それが目を覚まし、腕を広げて突進してくる。

 

 製鉄や鋳造で使用される炉から、赤熱した解体用のアームが生えている重機。資料でのコードネームは「地獄のデスルンバ」。

 これを初めて621に紹介したウォルターは、珍しく笑いをこらえるような表情すらしていたのを、621は記憶している。

 

《やはり罠でした。流石はドーザー(ヤク中)、評判通りです》

 

 ドラッグの影響かはさておき、珍しい思想の兵器なのは間違いないだろう。

 

《解体作業を行う無人重機のようですが、性能は侮れません。破砕アームに巻き込まれたら終わりです……気を付けて》

 

 エアの言う通りで、621も仮想戦闘で何度か即死したことのある相手だ。相手は溶鉱炉だから、炉の中に常温の異物を放り込む必要がある。

 しかし、破砕アームが邪魔で下の湯口は狙いづらい。反対に炉の投入口は飛行して狙う以上、エネルギー管理が重要になるうえ、こちらも思ったほど炉の中にヒットしない。

 おまけに相手の図体が大きいため、機体を引っかけられ、最終的に押しつぶされたり、壁際に追い込まれることもあった。

 

 621はひたすら飛行し、投入口に鉄を叩き込んでいった。四脚の方が効率は良いだろうと思いつつ、ライフルとグレネードを撃ち続ける。

 

 しばらくすると、投入口から不純物が吹き出し、周囲に飛び散った。労災案件だが、無人機ゆえの機能だった。

 

『ナイス! 聞いていた以上だ。だが、クリーナーが笑えるのはこれからさ』

 

 621は不純物を数回、もろにくらった。APが残り3000前後まで減る。

 ルンバは破砕機を回転させ、溶けた金属を湯口から吐き出し、投入口から逆流させてそこら中にまき散らしはじめた。

 

《行動パターンが変わった……危険です》

 

 そのまま腕を621めがけて叩きつける。621は腕の外側へ回避して事なきを得た。

 

 再び投入口へ攻撃をかける。スタッガーしていようと、そうでなかろうと、常に攻撃していく。

 

 再び不純物に直撃。AP残り6。621はリペアキットを使用。反撃にライフルをフル稼働させ、同時にグレネードを投げ入れる。

 

 投入口から大きな爆炎が上がった。これまでとは違う質の、機械が壊れる際のものだ。目立たないがジェネレータなどがあるあたりでも小爆発が起き、スパークが奔った。

 まるで火山の噴火のような爆発を起こして、デスルンバが沈黙する。

 

《敵機システムオフライン。完全停止を確認しました》

 

『……もういいよ、ツーリスト。私たちは不幸な出会いだった。でも……あんたとは仲良くした方が賢明みたいだね。上層へ行くんだろう? 案内しようじゃないか』

 

 今日はここまでのようだった。飄々とした口調で女が名乗る。

 

『この「灰かぶりの(シンダー)」カーラがね』

 

 

 

 

 

 

 翌朝。エアが知らせを持ってきた。

 

《レイヴン。RaDの頭目、カーラから依頼が届いています。また何かの罠という可能性もあります……。しかし、彼女はあなたの実力を認めた模様。その線は薄いはずです。ブリーフィングを確認してみましょう》

 

 

 

 

 

 

 映像記録:債権回収業者の最期

 

 RaDのMT集団に追い詰められたこの機体に、なおも迫るドーザー(ヤク中)へ向けられた音声が録音されていた。

 

『待て! 待ってくれ! 俺はしがない債権回収業者だ。ここがあんたらのシマとは知らなかったんだよ。あいつは逃げ隠れるのが得意なんだ。今ごろこのグリッドのどこかに……。やっ……やめてくれ! 殺さないで……!』

 

 命ごいはだれの耳にも入らなかったようだ。




 収入:448,400
 
 基本報酬:160,000
 報酬加算:288,400
 詳細
   「借金王ノーザーク」の撃破:40,000
   汎用兵器の撃破:4,800
   軽MTの撃破:91,200
   重MTの撃破:62,400
   ACの撃破:30,000
   特殊重機の撃破:60,000
 
 支出:108,128
 
 修理費:25,428
 弾薬費:82,700
 報酬減算:0
 
 収支:340,272

カーラからの呼び名ですが、ビジターではなくツーリストにしています
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