メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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海越え

 ドーザー(ヤク中)他派勢力を排除したその日のうちに、621のもとに上層区画への案内がカーラより届いた。

 翌日には打ち出せると言う。見事な手際だった。

 

ドーザー(ヤク中)の言うことを、どこまで信用して良いかは分かりませんが……。情報を得る意味でも、まずは話に乗ってみましょう》

 

 エアの言葉に、621も同意を示す。もっとも、この期に及んで裏切るようなタイプではないと、621は判断していた。「灰かぶり(シンダー)」、あるいは燃え残り、火種。621はカーラが「アイビスの火」の生き残りであるという確信を持っていた。あくまで直感的に、だが。

 

《あなたと出撃するのはこれで3度目ですね、レイヴン。少し慣れてきました》

 

 621にとっては、実質1回だ。我らがハンドラーのいるガレージに戻らない限り、仕事は終わらないのだった。うまく中央氷原で合流したいところだ。

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

『始めるよ、ツーリスト! 伝えたとおりだが、案内は任せな。だけど、ひとつ貸しにしておこうかね』

 

 621はグリッド086下層最奥区画の更に奥に設置されたエレベータに乗り込む。むき出しにされた制御装置にアクセスすると、防風カバーが作動し、エレベータを密閉した。

 

『このエレベータはグリッドの天辺……外殻に当たる区画に行きつく。残念ながら、そこは私らの縄張りじゃない』

 

 エレベータが上昇を始める。速い。高度計の数字が見る見る増えていった。

 

『分かるかい? 封鎖機構が衛星軌道から睨んでやがるのさ。ドーザー(ヤク中)ってのは総じて頭のネジが緩い……度胸試しに向かう奴もいたんだ。結果はお察しさ』

 

 エレベータが止まる。3700mから7200mまで、621は一気に上昇した。

 

《上層に到達しました。マーカー情報を送信します》

 

 HMDに目的地が表示される。直線距離で3000mほどあった。

 

《カーラの言ったとおりです。この高度は、封鎖衛星の狙撃範囲になっているようです》

 

 隔壁が開く。正面に上り坂があり外へ出られた。見えたのは西陽と、赤い照準の網。

 

 ──それは、侵してはならない「領域(ライン)」──。

 

『立ち入り禁止区域への侵入者を検出。対象を排除します』

 

 621は上からの砲撃を避けるため、足場にあるダクトスペースから進んでいった。警告音に続いて何かが飛来し、頭上を覆う金網にぶち当たった。

 

《……封鎖機構の警備システムのようです》

 

 足場が途切れる。目的地は別の足場の上だから、飛行する必要があった。

 

『……おや、ここからは隠れる場所はなさそうだね』

 

《強行突破するしかないようです》

 

 いや、足場から出ている橋の下から抜けられそうだ。621は浮遊しているオービットを潰しつつ、橋の下を飛んでいく。

 しかし、その橋の途切れる先は、本当に遮蔽物がなかった。

 

『排除します』

 

『焼かれるんじゃないよ!』

 

 連続したアラートが鳴り、直後にレーザーが飛んでくる。しかし621は反対側の足場まで渡りきった。いくつか設けられた下側の空間に着地する。

 

『……まさか機体ひとつで封鎖衛星の狙撃をかいくぐる奴がいたとはね。やるじゃないか、ツーリスト』

 

 ここから足場の上側まで行く必要があった。少しでも遮蔽が切れると『排除します』だ。レーザーが飛んでくる。621は着実にレーザーを回避していき、やがてマーカー地点に到達した。

 

『侵入者が衛星狙撃地点を突破。脅威レベルを引き上げます』

 

《カーゴランチャーまであと少し……》

 

『封鎖施設に接近する侵入者を検出』

 

 オービットが邪魔だった。621はバーストライフルで撃墜していく。

 

『……せっかくだ、ついでに掃除を頼もうか、ツーリスト。気に入らない上の住人には退去してもらおう』

 

 621はオービットを全機撃墜した。

 

『そんなところだね。カーゴランチャーを起動しようか』

 

《あれです。コンテナにアクセスしてください》

 

 新たなマーカーが表示される。このコンテナか。同時にもうひとつ表示。補給シェルパだった。用意の良いことだ。

 補給を済ませた621はコンテナにアクセスする。

 

『あとは、あんたがそいつに乗り込んで……』

 

 地響き。621はアクセスを中断する。レーダーに感あり。

 

《……待ってください! 敵性反応!》

 

 気配を察知した621は上を見上げる。巨大なレールガンの支柱、その上から何かが降ってきて、621の前に着地した。アクセスしようとしていたコンテナが押しつぶされ、爆ぜる。衝撃で大地が震えた。

 

 六脚の大型機動兵器だ。ACよりだいぶ大きい。中心にキャノンを積んでいるのが見えた。

 

《っ⁉ この機体は……》

 

 621はターゲットアシストを起動。まずはライフルを放ちながら接近。至近距離から両肩の小型連装グレネードを全弾発射。敵機のACSに大きな負荷を加えた。

 

『……あんた、まずいのに絡まれたよ。そいつはC兵器、シースパイダー型。ろくでもない技研の遺産さ。こんなところに配備されていたとはね!』

 

 更にライフルでダメージを加え、621はスタッガーをとる。グレネードのリロードが終わるまでライフルで追撃。直後にグレネードを斉射、命中させる。

 

 敵機の硬直が解ける。警告音。見れば、キャノンをチャージしているようだった。真紅のエネルギーを充填しながら、敵機がジャンプする。ブースタの炎も紅かった。

 追いかける621に、やはり真紅のビームが飛んでくる。短射程のタレットだろう。そこへ敵機がキャノンを発射。至近距離から放たれた紅いビームが、621に直撃した。スタッガーは免れたものの、APが2600ほど飛んでいく。

 

 敵機はタレットをばら撒きながら、小刻みにジャンプを繰り返す。脚が厄介だった。少なくないダメージをくらう。何より衝撃力が大きい。更に飛んできた真紅のプラズマミサイルにより、621の機体もACS負荷限界。硬直する。

 

『AP、残り50%』

 

《ジェネレータから──コーラル反応……。確かに通常の機体ではない。注意してください、レイヴン》

 

 621は追撃のミサイルをクイックブーストで回避。リペアキットを使用し、ライフルを撃ちながらアサルトブースト。シースパイダーを蹴りつける。

 

 再び警告音。コーラルキャノンが連続して飛んでくる。621は初撃こそ回避したものの、二発目は避けきれなかった。それでも接近しようとする621に対し、敵機が背後に回り込んで脚を振り下ろした。621はまたしてもスタッガーをとられた。

 

『ツーリスト、そいつは研究に取り憑かれた狂人どもが作ったんだ。技研といってアイビスの火で滅んだ連中だが、成果物の方は生きてたみたいだ』

 

 追撃はなし。

 敵機もACSに負荷が溜まっている。再度攻撃のアラートが鳴るが、621はライフルを撃ち続けた。攻撃される前にスタッガーをとってやる。

 

 果たして敵機が硬直した。621は両肩のグレネードを発射し、ブーストキックを放った。

 

《敵機損耗──効いています、レイヴン!》

 

 621は極め付けにアサルトアーマーを発動した。621を中心にパルスエネルギーが爆発し、シースパイダーを容赦なく襲った。直撃だ。

 

 硬直から抜けた敵機が、再びキャノンを撃ち、脚を叩きつけてきた。621はこの攻撃の間にグレネードを命中させたあと、ライフルを浴びせつつ、これらを避けきってみせた。

 

 敵機が硬直する。短時間でスタッガーを複数回とることができた。621はリロードの速いグレネードを中心に追撃した。敵の推定APの表示は、およそ3割から4割ほど。

 こちらもAPが心もとない。621はリペアキットを再び使用した。残りはひとつだ。

 

 ここで敵機の様子が変わった。やや焦げた装甲から煙をあげる敵機が、脚の付け根にあるブースタ全てを点火させ、飛び上がったのだ。

 浮上した敵機は脚を大きく広げ、中心部から房のようなものを突き出した。まるで針葉樹の球果のような形をしている。蜘蛛というよりも、死をまき散らす松ぼっくり、デスボックリだ。

 

『おいおい……飛んだよ、ツーリスト!』

 

《敵機からコーラル反応……危険です!》

 

 房の部分にコーラルのスパークが奔り、エネルギーが充填。先端からビームとして発射された。敵機より上にいれば当たらないだろう。621はエネルギー管理を意識して、敵機の上から攻撃をかけていった。

 

『……うちの製品開発のヒントにもなりそうだ。久々に工房に籠りたい気分だね』

 

《敵機、損傷拡大。あと一息です、レイヴン!》

 

『やっちまいな、ツーリスト!』

 

 敵機、ACS負荷限界。

 

『左肩武器、残弾50%』

 

 今回はかなり弾薬を使ってるな、そう思いつつ、621はグレネードを放った。敵機がグレネードの爆炎に包まれる。

 

《敵機システムダウン……ジェネレータが爆発します!》

 

 機体の至るところから、真紅のエネルギーが噴出し、爆発を起こす。球状の、まるで超新星のような爆発だった。機体の中心から光が漏れるのが、621のHMDに投影された。

 

 ジェネレータに使用されていたコーラルが爆発。そのエネルギーは敵機全体を包むほど大きかった。燃え尽きた敵機が地面に落下する。その様子に、エアが息を漏らした。

 

《コーラルを動力に使うなんて……》

 

『面白いものを見せてもらったよ、ツーリスト。……さて、本来の目的に戻ろうか』

 

 カーラにとっては、これはショーだったようだ。面白い、と言われても、621にはピンと来なかった。敵が来たから、戦った。それだけだ。

 

『さっさとコンテナに乗り込みな。打ち上げ操作はこっちでやる』

 

 今度こそ621はコンテナにアクセスする。

 

『よし、始めるよ』

 

 それにしても空が紅い。ルビコンに来てから、いや、覚醒してからまともに空を見上げたのは初めてかもしれない。ひたすらに紅い空が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 コンテナの扉が閉まると、視界は黒一色となった。窓も、内部の照明もない。

 

『ところで、ツーリスト……あんた、ウォルターに飼われてるんだって?』

 

 暗闇の中で、カーラの通信と、鉄の擦れる音だけが聞こえた。レールの上を移動しているようだった。

 

『ふむ、主人を選べる犬はいないが……。それにしたって……あんたは運がない。まったく同情するよ』

 

 カーラの言葉は違うと、621は感じた。良いハンドラー(ご主人様)だ。

 勝手に死にかけた飼い犬に補填金を出し、命令違反をため息ひとつで済ませる雇い主など、そういるものでもないはずだ。ラスティもスッラもだが、どうして悪し様に言われるのだろうか。

 

 621にまだ自覚はないが、その心には確かに、感情の起伏の種が植え付けられていた。

 

 衝撃と、がちゃりという音。前のコンテナと連結したようだった。続いて、何かの駆動音が聞こえた。コンテナを射出するレールドライバーに、エネルギーが充填される音だろう。

 

『……ああ、それからもうひとつ。カーゴランチャーはカーゴ専用だ、分かるだろ?』

 

 横方向の動き。射出の微調整だろうか。

 

『有人で打ち出された奴なんて今までいなかった。少なくとも無事じゃ済まないよ』

 

 向きが固定された。更に前から何かがレールを移動してきて、コンテナと接触した。621には見えなかったが、複数のコンテナをまとめて射出するためのソケットシャトルが前から滑ってきて、コンテナをはめ込んだ。各コンテナがロックされる。

 

 なおもエネルギーが充填され続ける。シャトルのブースタが点火。その衝撃は621にも伝わった。いよいよだ。

 

 エネルギー充填100%。レール上は電気があふれるほどのエネルギーで満ちていた。空気抵抗を減らすため、シャトル先端部が閉じる。ブースタ出力最大。振動が更に大きくなった。

 

『不運なあんたの、幸運を祈るよ』

 

 射出。コンテナが猛スピードで、西に向かって打ち上げられる。強烈なGを621は感じた。グリッド135のカタパルトとは比較にならない加速だった。

 

 射出されたコンテナは、しばらくの間シャトルによって飛行する。沖合に建造されたグリッド上空を通過したところでシャトルが分離、各コンテナは連結を解除し、スラスタで所定の針路をとる。変針が完了すると、4つ設けられたブースタに点火。あとは目的地まで巡航するだけだ。

 

 621を乗せたコンテナも変針を終え、ブースタを点火した。衛星砲にも射角がある。カバーしきれないところを、RaDは空路として使用していた。

 

 621は外が視える(・・・)のに気づいた。全てが真紅に包まれて、揺らいでいる。コンテナの中からは見えないはずの空までもが、灼けた色をして視えた。

 

《……レイヴン?》

 

 その反応にエアが興味を示した。

 

《ああ……あなたには、見えているのですね。このルビコンを対流する……コーラルたちの声が》

 

 灼けた空を、621は旅していく。コーラルと共に。同じ場所を目指して。

 

 やがて衝撃があった。コンテナがドラッグシュートを展開して減速、着地する。荒っぽい着地だった。コンテナの部品が飛び散ったであろう音がした。

 

《……ウォルターの見立ては当たっています》

 

 コンテナのドアロックが解除され、開いた。一面の銀世界。遠くに古そうなロケットが見えた。宇宙港だろうか。

 

《コーラルは……この捨てられた荒地のどこかに》

 

 しばらくの間、621は中央氷原の景色を眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

『強化人間C4-621、通常モード移行。新着メッセージ、2件』

 

 あの後、621は別途送られた調査キットを用いて先行調査を行い、ベイラムと、ついでにウォルターに送り付けた。

 ウォルターの方は野暮用が想定より長引いたらしく、ガレージだけが飛んできた。621は久々にガレージへ戻った。

 

『中央氷原に到達したようだな、621。よし、俺の方も野暮用が片付いたところだ』

 

 ウォルターのメッセージは、現在の状況と、今後の方針を伝えるものだった。

 

『アーキバスは独自のルートで現地入りし、調査部隊を展開しようとしている。ベイラムも、お前の先行調査を受け追い付いてきたらしい。分かるな、場所が変わっても、企業たちのやることは同じだ。お前はそれを利用しろ』

 

 もうひとつはオールマインドからだった。

 

『登録番号Rb23、コールサイン、レイヴン。貴方の実績情報が更新されました。アリーナにおいてDランク帯の仮想戦闘が開放されています。ここから中位ランカーです。戦闘技能のさらなる向上に、お役立てください』

 

 ショップの入荷通知も来ている。依頼が来るまで621は遊ぶことにした。




 収入:330,000
 
 基本報酬:330,000
 報酬加算:0
 
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 修理費:26,848
 弾薬費:43,800
 報酬減算:0
 
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