アリーナ Dランク帯
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」、No.22。これよりDランク帯に入ります。対象AC、鯉龍。コールサイン、G3 五花海。検証を開始します』
Dランク帯最初のACは鯉龍。分裂ミサイルを左腕と右肩に装備し、あとはマシンガンとパルスシールドという支援型の四脚機だ。パイロットの五花海は詐欺師らしい。
対する621の武装は両腕に装備した長射程ショットガンと、いつも通りの肩に装備したプラズマミサイルとパルスブレードだ。
このショットガンは、バズーカに匹敵する攻撃力と衝撃力を構えなしで繰り出すことを可能にする。ショットガンなだけあって近距離から一気に攻撃を行うのに適した、まさにコア理論を体現したような武装だ。両腕のショットガンを撃ち、リロード中にブーストキックを行うことで、相手に撃たれる前に集中攻撃するのが理想形だ。
『メインシステム、戦闘モード起動』
アサルトブーストで突撃する621に、マシンガンが浴びせられた。621は被弾を気にせずプラズマミサイルを発射、そのまま鯉龍に突っ込んだ。ショットガンを発砲。距離が遠かった。跳弾の表示。621は蹴りを放つ。しかし相手が後退し、外れる。背後から分裂ミサイルが621に突っ込んだ。621が放ったプラズマミサイルも着弾し、鯉龍にダメージを与えた。
621はクイックブーストで更に距離を詰める。ショットガンを右腕から発砲。右腕の1発はパルスシールドに阻まれたが、左から撃った方が直撃。鯉龍が立ち止まり、パルスエネルギーを暴走させる。アサルトアーマーの予備動作だった。それを見た621はクイックブーストで離脱。ダメージを受けたが、直撃は避けた。
621は再びプラズマミサイルを発射、続いて両腕のショットガンを撃つ。これを2サイクルしたところで鯉龍がACS負荷限界。硬直した。ブレードに持ち替えて連撃、更にブーストキック。これはシールドに阻まれた。次に放ったショットガンも同様に、シールドに阻まれる。しかしプラズマミサイルがヒット、撃破判定が下りた。
『目標の撃破を確認。検証を終了します。お見事でした』
撃破時間は25秒。なるほど、それなりの力はあるようだ。
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」、No.21、ランクD。対象AC、キャンドルリング。コールサイン、
次のAC、キャンドルリングは軽量タンク機だ。ルビコン土着企業、エルカノの開発した軽量タンク脚部「フォルタレサ」。キャンドルリングは上半身もエルカノ製軽量フレーム「フィルメサ」で構成されており、地上ブースト速度は軽量二脚機に匹敵する。タンクゆえに構えがないため、高速で重武装による攻撃が可能だ。
武装は4連装ハンドミサイルを両腕に、小型連装グレネードを両肩に装備している。いずれも回転率の良い武装だ。絶え間ない攻撃を仕掛けてくることだろう。
パイロットのリング・フレディは帥夫ドルマヤンの男娼で、彼の孤独に寄り添うべく戦うらしい。
『メインシステム、戦闘モード起動』
621はアサルトブーストで接近しながらプラズマミサイルを発射、相手はハンドミサイルを撃ってきた。ミサイルに突っ込んだ621は、至近距離でショットガンを発砲。外れる。プラズマミサイルも命中せず。
距離をとろうとするキャンドルリングを、621はアサルトブーストで追った。相手はドリフトしながら180度ターン、視界の外へ素早く動く。FCSが置いていかれそうになった。
警告音。再び正面に捉えたキャンドルリングの肩にコンテナが表示、グレネードが発射態勢にあることを示していた。621は前へクイックブーストして回避を狙ったが、避けられなかった。グレネード4発をまともに貰って、機体が硬直した。追撃にミサイルが放たれ、621のAPを削り取っていく。
『AP、残り50%』
キャンドルリングの方はほとんど無傷だ。遮蔽物があるエリアへ移動する相手を、621は追いかけた。警告音と共に、グレネードが撃たれるが、遮蔽物が盾となった。直後に遮蔽から飛び出し、621はプラズマミサイルを発射、命中せず。間髪入れずにショットガンを発砲。左は外したが、右は当たった。
なおも移動するキャンドルリングをアサルトブーストで壁際に追い詰める。蹴りを放ち、リロードを終えたショットガンを放つ。スタッガー。同時にプラズマミサイルも発射して追撃。ブレードに持ち替える暇はなさそうだった。密着した状態だからアサルトアーマーを選択する。キャンドルリングもパルスアーマーを張ったが、621のアサルトアーマーの発動が先だった。
621はブレードに持ち替え、パルスアーマーを切りつける。パルスブレードはパルスエネルギーを用いるだけあって、パルスアーマーへの攻撃性が高いのだ。再びプラズマミサイルを発射。着弾前にリロードを終えた、右腕のショットガンを撃つと、キャンドルリングのパルスアーマーが剥がれた。そこへプラズマミサイルがフルヒットしてダメージを与える。
形勢は逆転した。飛んできたグレネードを回避した621は蹴りを入れ、ショットガンを撃つ。右、左。HMDに敵機撃破の表示が出た。撃破時間は37秒。
『目標の撃破を確認。検証を終了します。お見事でした』
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」、No.20、ランクD。対象AC、リコンフィグ。コールサイン、V.Ⅴ ホーキンス。検証を開始します』
3機目はリコンフィグ。ヴェスパーズの第5隊長、ホーキンスが操る四脚機だ。
ホーキンスはスウィンバーンと同じ第7世代強化人間で、技術革新に到る過程で多くの同僚や部下を失ってきたという。しかし、彼は自身を納得させたと紹介文にあった。第4世代までのコーラル技術世代における非人道性や、第5世代と第6世代、いわゆる「狭間の世代」で起きた凄惨な事故を思えば、何倍もまともな時代になったと考えたようだ。
このAC、リコンフィグに対し、ショットガンは有効性に欠けた。四脚機は姿勢安定性能が高く、スタッガーまで持ち込むまで時間がかかるのだ。ホバリングした相手に翻弄され、蹴りを組み込めなかった621は、隙をレーザーブレードで突かれて撃破された。
621は、今までのバーストライフルを使ってリコンフィグを撃破した。撃破時間は41秒。ある程度ショットガンとの違いが見えてきた。
当たり前の話だが、使える空間の差が出ていた。ショットガンは常に近距離で戦う。これは攻撃を回避する際、ほとんどタイムラグがないことを意味する。ブーストキックをライフルを持つときよりも多用するため、敵の至近距離でエネルギーが枯渇する状況が多い。一連の攻撃でスタッガーまで持ち込めれば良いのだが、そうではない場合が問題だった。相手の攻撃を避けきれないことが多いように621は感じた。
バーストライフルを使用する際は、状況に応じて近距離から中距離での戦闘を組み合わせ、いつでも一定以上のダメージを与えることができる。至近距離だとかえって当たりにくいキックや近接武器も当てやすい。ショットガンでは回避一辺倒になるような少し距離がある場合も攻撃と両立できるのが強みだった。もっとも、これは技術を要する。攻撃と回避のメリハリをつけられる点は、ショットガンの強みだろう。
『目標の撃破を確認。検証を終了します。お見事でした』
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」、No.19、ランクD。対象AC、ヘッドブリンガー。コールサイン、G5 イグアス。検証を開始します』
Dランク4機目、ヘッドブリンガーは見覚えのある機体だった。独自にカスタマイズされたベイラム製「メランダー」フレームの中量二脚機。速射性リニアガンとマシンガン、4連装ミサイルに円形シールド。トレーナーACとほぼ同じ武装だ。
多重ダムで組んだ相手だった。はずだ。G4 ヴォルタはタンク機で、「壁」のこともあり覚えていたが、イグアスの方は621の印象にほとんど残っていなかった。そんな奴がいたな、という程度だった。
パイロット紹介文によると、イグアスは621と同じく第4世代強化人間だという。元は路地裏の博徒で、あるとき大きな賭けに負け、そのカタとして強化人間手術の実験台となった。その後ヴォルタと喧嘩に明け暮れるようになり、ある日木星戦争の英雄とされる軍人に因縁を付けたようだ。顔面が変形するほどの返り討ちに遭い、今に至るそうな。
『メインシステム、戦闘モード起動』
621は再びショットガンを手にしている。例によってアサルトブーストで接近しながらプラズマミサイルを放つ。相手もミサイルを放った。621は被弾を承知で距離を詰めることを優先した。621のプラズマミサイルは回避されたが、距離を詰めて放ったショットガンがヘッドブリンガーを捉える。
銃撃戦。マシンガンの連射と共にリニアライフルが飛んでくる。621はショットガンと蹴り。ときどきミサイルが飛び交う。APの削り合いは互角だったが、スタッガーの取り合いは621が上だった。
621は硬直したヘッドブリンガーにプラズマミサイルで追撃。更にアサルトアーマーを発動したが、相手の硬直が先に解ける。期待したダメージは出なかった。
距離をとろうとするヘッドブリンガーを蹴りつける。逃がさない。621はショットガンと蹴りを繰り返し、プラズマミサイルを叩きつける。ヘッドブリンガーが再び硬直するのを見て、621はブレードに持ち替えた。そのまま2度、切りつけると、相手が吹き飛んだ。撃破。34秒だった。
『目標の撃破を確認。検証を終了します。お見事でした』
『戦闘技能検証プログラム「アリーナ」、No.18、Dランク帯、最終検証です。対象AC、シノビ。コールサイン、六文銭。検証を開始します』
Dランク最後のACはシノビ。鯉龍のような、異文化由来のネーミングだ。この機体は軽量二脚機で、キャンドルリング同様、エルカノ製「フィルメサ」フレームをベースに、コアだけオールマインドのものを使っている。
武装は右腕に短射程ショットガン、左腕にプラズマフロアー、つまり機雷投射機を装備している。肩はオールマインドの特殊ミサイルを右に、BAWSのバーストアサルトライフルを左のハンガーに装備する構成だ。全体的に近距離戦を狙っているのがうかがえた。
オールマインドのパーツが多いのは、それだけ独立傭兵としての性質が強いことを示していた。パイロットの六文銭は失われた古典芸能、とくに日系移民文化に造詣が深い人物で、かつて餓死寸前のところをツィイーに救われたらしい。施された一宿一飯の恩義に報いるため、今は解放戦線に味方しているという。
『メインシステム、戦闘モード起動』
621はいつも通りアサルトブーストによる突撃とプラズマミサイルによる先制攻撃。シノビも特殊ミサイルを発射し、やはりアサルトブーストで突っ込んできた。距離がどんどん縮まっていく。621は衝突と同時にショットガンを発砲しようとしたが、相手が脚を出す方が速かった。621に蹴りが炸裂する。かわりにプラズマミサイルがシノビに命中した。
621は続けざまにシノビへ蹴りを入れ、ショットガンを発砲。たまらず相手はパルスアーマーを発動する。それを見た621はアサルトアーマーを接近した状態で発動、パルスアーマーを解除してスタッガーを取った。パルスアーマーは同じパルスエネルギーに弱い。アサルトアーマーを直撃させることでパルスアーマーを引き剝がし、一気にACS負荷限界まで持っていけるのだ。
硬直したシノビに621はショットガンを見舞い、ブレードに持ち替えて振り下ろした。連撃がフルヒット。シノビが崩れ落ちた。
わずか11秒の短い戦闘。ショットガンの最適パターンはこれだろうと621は思った。使い道を考える必要がある。瞬時に大きな衝撃を加えられる要素が、ショットガン以外にも必要だ。そうでなければ、バーストライフルで柔軟に戦った方が良さそうだった。
『目標の撃破を確認。これでDランク帯の検証を終了します。お見事でした』
『通信が入っています』
『Dランク帯の突破、おめでとうございます。貴方の傭兵としての熟達、その一助を担えていれば幸いです』
オールマインドからの定型文だった。
『オールマインドは全ての傭兵のためにあります』
621はその後もしばらく、ショットガンを用いた戦闘のシミュレーションを行った。