『仕事だ、621。ベイラム系列企業から依頼が入っている』
621に、中央氷原で最初の仕事が舞い込んだ。依頼主は大豊だった。
『傾注、G13 レイヴン! ベイラム同盟企業、大豊からの依頼だ』
映し出されたのは、凍った大地に空けられた穴と、採掘施設らしきもの。吹雪で見えづらい。
『作戦地点は中央氷原ヒアルマー採掘場。貴様にはそこに設置された、アーキバス調査キャンプを襲撃してほしい』
画面が切り替わり、調査ドローンが映し出された。これが今日のプライマリターゲットだ。
『氷原で穴掘りした後、アーキバスは調査ドローンを飛ばして観測データを収集した。その中には当然、コーラル集積反応に近付く手がかりも含まれているに違いない。端的に言うと、貴様の仕事はそのデータの奪取だ。期待するぞ、G13!』
ブリーフィングが終わる。久々にG13のエンブレムを付けての出撃だ。
『……621、そういえば幻聴は収まったか? 仕事に差し支えるようなら言え。調整する』
今のところ、エアは仕事の支障になってはいない。グリッド086では世話になったこともあり、621は様子を見るつもりだった。
『メインシステム、戦闘モード起動』
FCSを新調した621の新機体「ローダー4.4」が、氷の大地に降り立った。新しいFCSはベイラムの「TALBOT」というモデルだ。ライフルを射撃しつつ蹴りを多用する戦法では、中距離よりも近距離を重視したこのFCSがマッチしていると、621は判断した。
また、アリーナDランク報酬でOSTチップを手に入れた。621はこれらを武装の威力強化へつぎ込んだ。直撃補正は最大強化、実弾、EN、近接武器はそれぞれ1段階強化されている。
『ミッション開始だ。停泊している調査ドローンから観測データを抜き取っていけ』
HMDにマーカーが表示される。全部で4つ。621はクレーン中継地点、一番高度の低いドローンから狙うことにした。後回しにすると集中砲火を浴び、離脱に手間取りそうだった。
降下した高台から621は飛び出し、ブリザードの中、アサルトブーストで最初の目標に向かう。
距離が800mを切ったあたりでエネルギーが切れた。621は自由落下で目標に接近していく。
『はっ……? 侵入者か⁉』
『AC単機──恐らくは独立傭兵か……』
『大方ベイラムの差し金だろう。迎撃しろ!』
歩哨のMTが621に気付き、ミサイルを放ってきた。621はミサイルを回避し、ライフルで片付ける。ドローンの近くにはこの1機しかいなかった。
621はドローンにアクセスする。
『621、目標はデータ回収だが、障害はお前の判断で対処していけ』
セキュリティレベルが高い。時間が掛かりそうだ。621は近寄ってくる小型ドローンをプラズマミサイルではたいた。アクセスが完了、ウォルターから解析結果が飛んでくる。
これは中央氷原の地質調査の観測データだ。地表を捜査した解析結果らしい。反響に異常のある地点があった。中央氷原から島ひとつ越えた先の海底。まるで巨大な空洞でもあるようだった。
『興味深い内容だ。このデータはコピーを取っておこう』
621は上昇、右側のマーカーを目指した。敵の攻撃をかいくぐってドローンにアクセスする。
『これでふたつめ……』
敵の攻撃は激しかった。方々からグレネードが飛んできた。
アクセスが終わる。地表のコーラル濃度のデータだ。ベリウスとほぼ変わらない。8割は不活性コーラル──アイビスの火の余燼だ。
《ルビコンの大気には今なおかつての災害の名残が漂っています。残留コーラルの流れ──私たちの旅路で通過したものも、そのひとつです》
エアが「交信」で補足してきた。逆にいえば、ウォッチポイントで逆流したのは活性コーラルというわけだ。
残りはふたつ。621は正面にあるマーカー地点へ向かった。
アーキバスはかなりの大部隊を送り込んだようで、四脚MTの姿もあった。621はクレーンの下をくぐり抜け、敵の側面を迂回してドローンにたどり着くと、アクセスを開始。
『3つめだ』
中央氷原に点在する旧時代の拠点について記録されていた。
多くは惑星封鎖機構がアイビスの火の後に建造した施設と推測している。封鎖システムの完成によって役割を失ったようだが、多少の手入れで拠点化できると結論付けていた。
《中央氷原は不毛の地としてルビコニアンにも捨て置かれてきました。封鎖機構の手が入っているということは、やはりコーラルに関する何かがある……》
621は最後の目標へ向かう。配置についていたMTや砲台を撃破しながら。
『これで最後のようだな』
中央氷原の近海を撮影した状況が記録されていた。しかし特定の海域で映像が欠落している。ウォルターはカメラへの干渉を疑っていた。
《これだけ広大な氷床、何があってもおかしくは……》
『そこのAC! 我々の調査拠点で何をしている⁉』
新手だ。輸送ヘリがこちらへ向かってくる。中身はMTだ。
『出払っていた部隊が戻ってきたようだ……。撃ち落とせ!』
ヘリ以外にも敵性反応。四脚MTだった。621はでかぶつから始末することに決めた。
621は上からプラズマミサイルを発射、四脚MTの背後に着地する。ライフルを発砲しながら、振り向いたMTにアサルトブーストで体当たり、続けて蹴りを入れた。更に左右のライフルをバースト射撃。両腕からもう1発ずつ放つと、早々にMTが硬直した。
621はこれにプラズマミサイルで追撃、再び蹴り上げると、ブレードに持ち替え、振り下ろした。621が更に蹴とばすと、そのまま炎上して動かなくなった。
1発も撃つことなく沈んだ四脚MTを後にして、621はヘリから降下したMTの排除に移る。地形を利用し、移動しながらライフルを撃つ。全機撃破。
『傾注、G13 レイヴン!』
ベイラムから緊急通信が入った。
『だいぶ羽目を外したようだな。連中が本部と観測データの受け渡しを開始した。現場に急行し、阻止してくれ!』
新たにマーカーが表示される。距離は2000mほど。風力発電装置群の向こう側らしい。
621は目標地点へ急ぐ。MTがグレネードを撃ってきたので、回避しつつ、プラズマミサイルをばら撒く。
風車を抜けた先に、補給シェルパがあった。目標地点は目と鼻の先、正面の陣地内部を指している。
補給を終えた621は、陣地へ突入した。目に付いた四脚MTに狙いを定める。
『AC! 報告にあった独立傭兵か!』
『撃ち落とせ。ベイラムにデータを明け渡すな!』
『殲滅しろ、621』
了解、と返答しようとして、621は異音に気付く。低い音だった。何かが接近してきてくる。
621は四脚MTと交戦をしつつ、いつでも退避できるよう周囲を確認する。崖の上が良さそうだ。
『……待て! 何だこの音は⁉』
アーキバスの面々が慌ただしくなる中、621は四脚MTを撃破。
『上空から……攻撃⁉』
視界の端にレーザーの滝を捉えた621は、反射的に射点を見上げた。上空の飛行物体からレーザーキャノンが複数、真下へ向け放たれていた。
射角から逃げようとした621の背後に、MTの放ったミサイルが突き刺さった。スタッガー。
幸いにも、621はレーザーの攻撃範囲から逃れることができていた。無線からアーキバスMT部隊の断末魔が響いて、消える。レーザー攻撃で全滅したようだ。
《レーザー掃射! 危険です、レイヴン!》
621は事前に見定めた崖の上へ退避する。ここなら状況の確認が容易だった。
『この艦は……識別信号は封鎖機構!』
飛行物体は船の形をしていた。青いブースタに混じって、オレンジのブースタが点火されるのが見えた。増設したものか……? いや、これは……ミサイル。
621は斜め前にアサルトブースト、降り注ぐミサイルをスピードで振り切った。
直後、上空から何かが複数降ってきた。
『サブジェクトガードの戦力ではない……執行部隊が投入されたか⁉』
封鎖機構特有のグレーのカラーリングが施された、ACより二回りほど大きな二脚の機体。手にはレーザーライフルを装備している。
《レイヴン、応戦を!》
621は手近な1機にライフルを浴びせる。接近戦を嫌い、引き撃ちを図った背中に7発ほど撃ち込めば相手は堕ちた。それほど硬いわけではなさそうだ。
下に固まっている集団がある。いずれもMTだった。ミサイルを撃たれれば厄介だ。621はアサルトアーマーでまとめて処理した。
『621、相手は封鎖機構のLCだ。サブジェクトガードのMTとはわけが違う』
《この機動力……気を付けてください、レイヴン!》
敵機は
残りは2機。いずれもLCだ。621は、盾持ちの1機が妙に強く感じた。先に盾を持たないほうから墜とし、1対1に持ち込んだ。
この機体だけ、やたらとクイックブーストが速いのだ。同時にミサイルを精度良く放ってくる。対処しづらい敵ではあった。
621は地形を利用した。クイックブーストを噴かして段差に引っかかったところを集中攻撃。蹴りを入れ、ライフルをぶち込み、ブレードで盾もろとも切り刻む。続いて放ったプラズマミサイルが敵のAPを削りきった。
《LCを撃破!》
母艦の方はどうなったのやら。
《敵艦が再度接近しています!》
低い曇の合間から、敵艦が接近してきた。艦首から何本ものレーザーを照射しながら突っ込んでくる。しかし、そこは621の間合いだった。
621はアサルトブーストで敵艦へ急接近、一気に甲板上へ飛び乗った。敵艦から展開された子機を気にせず、艦橋を蹴りつけ、踏みつぶした。
『良い判断だ』
《敵艦、動力系統に誘爆!》
『吹き飛ばされるぞ! 離脱しろ、621!』
621はアサルトブーストで陣地側へ退避した。艦の方はエネルギーが暴れまわって、やがて中央から二度、三度と青白い爆発を起こして墜落した。
『……ひとまず脅威は去ったか』
子機を蹴散らした621は、炎上を続ける艦を見下ろす。
『封鎖圏内はSGの管轄下だ。なぜ執行部隊や強襲艦が出てくる? 特例の派遣か? あるいは……』
地面に大きな影が、にゅっと出てきた。
『待て! あれは!』
621は空を見上げる。先ほど撃墜した艦と同型、封鎖機構の強襲艦だった。
『ルビコンに不法侵入した、全ての勢力に告ぐ』
広域放送で呼びかけられる。警告だった。
強襲艦は1隻ではなかった。2隻、3隻、4隻……。複数の強襲艦が、吹雪の中、この一帯を飛行していた。
『ただちに武装解除し、封鎖圏外へと退去せよ』
先頭の艦の舷側に大きく描かれた、封鎖機構のエンブレムが目に付いた。恒星系をモチーフにした、円形のエンブレム。その下に大きく、惑星封鎖機構と書かれている。
PCA
PLANETARY CLOSURE ADMINISTRATION
『これ以上の進駐は惑星封鎖機構への宣戦布告と見なし──』
飛んでいるのは強襲艦だけではない。それらに搭載された子機が、編隊を組んで飛行していた。
『例外なく排除対象とする』
5隻、6隻、7隻……。10隻まで数えたところで、621はそれ以上をあきらめた。
『繰り返す。例外はない』
封鎖機構の大艦隊が、その合間を縫って飛ぶ護衛機の編隊が、雪の舞う空を埋め尽くしていた。621は立ち尽くし、空を見上げ続ける。
《この……艦隊は……》
エアがつぶやく。その言葉で、621は身震いしている我が身に気付いた。戦闘中のコックピットに温度変化など起きないはずだ。寒くもないのに、なぜ。
『……どうやら派手にやりすぎたようだ、621……』
ウォルターが静かに告げる。調教師はいたって冷静だった。
『企業も、俺たちもな』
当初の目的は果たした。621はヒアルマー採掘場を後にし、ひとまず帰投した。
621たちは封鎖機構の目から逃れることができ、かつ、企業と連絡を取りやすい地点を探し出した。機材の移動を終えたのは、強襲艦との戦闘から4日後のことだった。
一息ついた621のもとにメッセージが入る。
『やあ、レイヴン。ヴェスパーズの──君の良き
その壁越えが初対面だった。こちらの機動に対して完璧に合わせるラスティの操縦技術を、621もよく覚えていた。
『……積もる話はあるが、本題に入ろう』
映し出されたのは、あの日現れた、封鎖機構の大艦隊。
『封鎖機構が制圧艦隊を展開した……。今ではルビコン全域を支配下に置いている。うちもすでにいくつかの調査拠点を失った。ベイラムも同様のようだな』
アーキバスのヒアルマー採掘場に、ベイラムのヨルゲン燃料基地。いずれも一帯のランドマーク、旧バートラム宇宙港に隣接した各企業の調査拠点だったが、宇宙港を含めて封鎖機構の手に落ちたようだ。
『ルビコン解放戦線は、この状況を、ある意味では好機と捉えているようだ。私から言わせれば、捕らぬ狸の皮算用だな』
ラスティの状況説明が続く。どうやら解放戦線の情報も手に入れているらしい。ベリウスからは一時的に企業の目が離れている。解放戦線としてはチャンスと感じたのかもしれない。
『このままでは、企業も、解放戦線も、それから独立傭兵も共倒れだろう。君にアーキバス系列からの依頼を回しておく──「壁越えの傭兵」の力、ぜひとも貸してほしい』
621の知らぬ間に、あだ名がついていた。売り込みには使えるだろう。
直後にウォルターからメッセージ。
『V.Ⅳから連絡があったようだな。俺の方にも仕事が届いている──ベイラムグループからだ。両社ともコーラル調査どころではなくなったようだ。ブリーフィングを確認しろ、621』
《……レイヴン。私も、あなたに相応しい依頼を探してきました。あなたが企業にも重用される有力な傭兵であることは理解しましたが……、私はあなたに……ルビコンに生きるものについてより深く知ってほしいのです》
一度に3つ、依頼が来た。621は順番をつけるべく、ブリーフィングの確認を始めた。
収入:229,600
基本報酬:100,000
報酬加算:129,600
詳細
汎用兵器の撃破:28,000
砲台の撃破:8,000
軽MTの撃破:45,600
重MTの撃破:48,000
支出:51,430
修理費:23,230
弾薬費:28,200
報酬減算:0
収支:178,170
封鎖機構、キレた‼