メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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チャプター1
密航


 軌道上を埋め尽くすデブリを搔き分け、突入カプセルがコースをとる。

 既に大気圏最上層、熱圏と呼ばれる領域まで降下していた。主星の光による発電システム網をくぐり抜け、ブースタを吹かしながらカプセルは降下を続ける。

 

 地上から通信が飛んだ。

 

『ルビコンが近い。そいつを起こしてくれ』

 

『ハンドラー・ウォルター、認証しました』

 

 積荷に搭載されたCOMが応答する。

 

『脳深部コーラル管理デバイスを起動』

 

 電子音。

 COMによるモーニングコール。

 

『強化人間C4-621、覚醒しました』

 

 星間航行用メインエンジン、カットオフ。分離。

 突入用ブースタ、点火。燃焼開始。

 

『仕事の時間だ、621。突入カプセルの電源を落とす。あとは合図を待て』

 

 突入用ブースタが短い役目を終える。

 カプセルは高度を下げ続け、分厚い大気を押しのける流星となった。

 

『今だ。ACを起動しろ』

 

 積荷が目覚める。同時に減速用ブースタが燃焼を開始。

 

 その様子を見つめるものがあった。

 封鎖されたルビコンへの密航者を排除すべく、惑星封鎖機構によって設置された衛星砲が、その役目を果たそうとしていた。

 

 レールキャノンが放たれ、突入用ブースタを掠める。

 すぐにブースタは分離され、爆散。それを尻目に突入カプセルがルビコン上空を突っ切る。

 

 そのまま高度を下げていくが、カプセルは限界を迎えていた。

 高度10000m。ルビコンに多数建造された、グリッドと呼ばれるメガストラクチャ。

 その上空に差し掛かったところでカプセルが空中分解した。

 

 空中に放り出された積荷が、グリッドの一角に飛び込んだ。天井を突き破って。

 

 

 

 

 

 

 積荷──ACに搭載された操縦装置、C4-621は、衝撃によって一瞬意識を失う。

 

『ISB2262、ルビコン3への降下、完了』

 

『座標は……グリッド135。誤差はあるが許容範囲だ』

 

 機体にダメージがある。おまけに硬直していた。着地でACSが負荷限界を迎えたようだ。

 

『この先のカタパルトを使え。それで帳尻が合う』

 

 ACSが回復するのを待って、621は機体を直立させる。続いて戦闘モードを起動。COMが音声を発する。

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 HMDの映像が機体後方からの三人称視点に変化。ブースタ出力制限緩和、FCS起動、エネルギーリサイクリング開始。機体が戦闘可能な状態になる。

 

 621は機体の動作確認を始めた。まずは視点操作から。自機を中心にカメラが動く。背景はダクトスペース。落着で瓦礫が散乱していた。異常なし。

 

 続いて歩行。ゆっくりと歩く。もちろん生身の人間よりは断然速い。支障なし。

 

 621の機体はACの中でも二脚と呼ばれるタイプである。人と同じように、ふたつの脚で歩行するのだ。ACの操縦は神経接続を前提としていたから、強化人間であれば自分の身体を動かすのと変わらない感覚で操縦できた。

 一方で常人の、特に適性の低いパイロットは情報量に耐えられず、廃人となるケースも多かった。

 

 次にブースト系の操作。とはいえ出力調整はコンピュータが行うから、使いたいときに瞬時に使えるかを確かめる。

 特にクイックブースト。意図した通りに噴射できなければ死に直結する。これも問題なし。

 

 戦闘に支障なし。機体についてそう判断すると、621は移動を始めた。

 

 HMDに目的地がマークされている。700mほど離れた、やや高い地点だった。

 ブースタを吹かして前進。浮揚する。飛んだ先はダクト口だった。眼下には輸送用の鉄道が敷設されている。

 

 同時に、4機のガードメカを見ることができた。MTはいない。距離は約350m。

 

『ガードメカは排除しろ』

 

 ウォルターからの指示に従い、621は右肩の4連装ミサイルをマルチロックで発射。1機につき1発。

 ミサイルは寸分違わず目標に命中、4機全てを撃破した。

 

 これを見届けた621はアサルトブーストで一気に前進。線路脇まで降りる。

 今度はMTが2機。1機にミサイル4発と、右腕のアサルトライフル1発を放ち、もう1機にも発砲。こちらには4発。

 

 MT2機の残骸を後にして進むと、転車台に行きつく。

 転車台には車両が乗っており、その脇にガードメカが2機。その奥に置かれたコンテナ前方に3機。更に別の線路がやや高い場所に引かれていて、ここにMTが1機。

 

 621は近めのガードメカ4機をミサイルで処理する。奥に1機残っているので、これをライフルで撃破。MTから飛んできたミサイルはコンテナを盾にした。

 

 残るはMT。コンテナから飛び出してミサイルを放つ。そしてライフルを1発。MTが爆散しながら放ったミサイルをクイックブーストで避けると、辺りは静かになった。クリア。

 

 そのまま線路沿いに進んでいくと、ウォルターから通信が入った。

 

『機体が損傷している。修復しておけ』

 

 621は左スティックのボタンを押す。

 

『リペアキット、残数2』

 

 COM音声と共に、HMDのAP表示が09080に変化、AP残量100%であることを示していた。神経接続で操縦するACだが、リペアキットなどは例外である。

 

 隔壁に行きつく。621が開けると、線路端の向こうに外の景色が広がっていた。雪の舞う空の大部分をグリッドが覆い、その下に白い尾根が連なっている。麓には市街地のようなものが見えた。

 

『見えるか。お前にはあの汚染市街に降下してもらう。カタパルトにアクセスしろ』

 

 ウォルターの言葉通り、右にカーブした線路の先にカタパルトがある。621は指示を実行した。

 

 エレベータによって高さが調整され、シャトルと接続。固定。

 スチームシリンダ接続。ブラストディフレクタ展開。

 アサルトブースト、巡行モードで点火。

 

『飛べ、621』

 

 射出。

 

『……この惑星(ほし)でコーラルを手にすれば』

 

 空を飛ぶ621へ、ウォルターが語りかけた。

 

『お前のような……脳を焼かれた独立傭兵でも、人生を買い戻すだけの大金を得られるはずだ』

 

 621は脳にコーラルを注入した旧世代の強化人間だ。ドライカーボンの骨格と光ファイバーの脳神経を持ち、戦闘に適した人格を形成している。

 副作用として、手術以前のエピソード記憶が消失。感情も失った。

 

 そうした医師の説明を、被験体たる621は重く受け止めなかった。

 重要なのはたったひとつだけ。

 

 戦うこと。

 

 それが強化人間に与えられた意味だった。

 

 

 

 

 

 

 621は汚染市街を見下ろす高台に着地した。ブースタから熱風が吹き出し、背部カバーが閉じる。

 

『仕事を続けるぞ。ACの残骸を漁り、生きている傭兵ライセンスを探せ。密航者には身分証が必要だ』

 

 死体漁り。手っ取り早い策が示された。

 

 正面にガードメカが4機いる。621はミサイルを放った。全弾命中。

 

『AC⁉ 一体どこから……』

 

 しかしターゲットの数が減らない。ガードメカではない、全てMTだ。見間違えていた。

 

『所属不明。独立傭兵か⁉ 応戦しろ!』

 

 複数のMTを相手取る場合、1機ずつ倒していく方が効率がいい。621は密航前、僅かにあった準備期間からそう判断した。

 

『解放戦線の武装ゲリラか。仕事の障害になる、排除しろ』

 

 ライフル弾が飛んでくるが、動き続けていれば当たらない。普通のMTはFCSの性能が低い。621はそのまま4機を撃破。

 

 邪魔者の消えた高台から汚染市街を見渡すと、HMDにマーカーが表示された。

 

『ACの残骸反応をいくつか検出した。マーカー地点を巡れ』

 

 指示を受け、621は高台から見て一番左のマーカーを目指す。200m手前にMTが2機いた。

 

『いたぞ! 報告のあった機体だ!』

 

『所属を吐かせるぞ!』

 

『盾持ちがいるな。だがお前はブレードを持っている』

 

 ミサイル発射。2発ずつのマルチロック。右のMTに急接近。

 斜め上から左腕のパルスブレードで切りつけると、機体ごと盾に受け流された。

 

 621は一度後ろにクイックブーストして距離をとる。ライフルでけん制しながら距離を詰め、ブレードを振るう。

 盾が砕ける。もう一度振るう。ブレードが今度こそ敵の機体を切り裂いた。1機撃破。続けてもう1機もブレードで仕留める。

 

 付近はクリア。621は左腕が失われたACの残骸に近づく。戦闘で撃破されたようだった。

 

『パイロット情報を抜き取れ。解析はこちらでやる』

 

 ウォルターから解析情報が飛んでくる。

 

 ルビコンでの登録番号はRb18、コールサイン「トーマス・カーク」、ランクはEランク、26位。独立傭兵。

 

『このライセンスはすでに停止されている。次を当たれ』

 

 621は最も近いマーカーを確認する。方位214、1300m。

 アサルトブーストで向かうと、HMDにコーションが出た。新手。

 

『あれは……⁉』

 

 距離の表示がみるみる減っていく。目の前にサーチライト。ヘリコプターだ。ロータの回転音がする。

 

『SG! サブジェクトガードが来たぞ!』

 

『よせ、構うな! 退避しろ!』

 

 そのロータの音も、傍受された解放戦線の無線も聞き流しつつ、621は目の前のアーチをくぐった先、MT4機を倒そうと前進した。

 

 アーチをくぐる。HMDの上に、巨大なロケットランチャーが映っていた。それが正面のMTたちに向けて放たれる。

 

 なぎ倒されていくMTたち。爆風は621をも巻き込んだ。APが2000近く吹き飛ぶ。幸いACSは無事だった。ウォルターが釘を刺す。

 

『封鎖機構の巡回だと……? 余計な手出しはするな。目を付けられるとまずい』

 

 退避した621は、建物の隙間から大きなヘリを見やる。ヘリはしばらく旋回した後、どこかへ飛び去っていった。

 

 やり過ごしたと判断し、621は仕事に戻る。すぐそばに目標の残骸があった。

 

『解析していくぞ』

 

 この機体は固定ユニットと共に転がっていた。

 輸送ヘリの残骸は先ほどのグレネードで吹き飛ばされたのか、見当たらなかった。

 

 登録番号Rb29、コールサイン「G(Gun)7 ハークラー」、ランクは22位、Dランク。ベイラム・インダストリー所属となっている。ライセンス失効までは、あと12時間と記載されていた。

 

『企業所属では足が付く。避けるぞ』

 

 次のマーカー地点は直線距離で1700mほど。方位240。

 621はライフルをリロードしてから、再びアサルトブーストで向かう。

 

 道中のMTを無視して進み、近づいていく。

 最後の残骸は、周囲に敵が複数いた。ドローンとMTの混成部隊。

 

『大豊とシュナイダーに動きがある。グリッドも危ないかもしれん』

 

『我々にはストライダーと「壁」がある。弱気になるな』

 

 雑談の声を気にすることなく、621はミサイルを発射。ドローン4機を狙う。

 

『企業……ではない。独立傭兵か⁉』

 

 残骸の脇にいたMTをブレードで片付け、そのままアクセスする。

 周囲にはまだ敵が複数残っていたが、この程度なら耐えられると判断。無視する。

 

『このライセンスはどうだ』

 

 登録番号Rb37、コールサイン「モンキー・ゴード」、ランク圏外の独立傭兵。ライセンス失効までは15日ある。

 

『ランク圏外のパイロットだ。目当てのものではない』

 

 離脱した621は、飛行しながらウォルターの話を聞いた。

 

『もうひとつ反応を検出した、621。マーカー情報を送る、当たってみろ』

 

 マーカーが送られてくる。崖の上、高所に建設された施設の奥。

 

『高所への移動には、垂直カタパルトが使える。活用しろ』

 

 621は垂直カタパルトらしき装置を探し、その上でブースタを吹かす。

 

 機体が直上に放り上げられた。勢いを残したまま、アサルトブーストで目標に向かう。

 

『あれだ、あの残骸にアクセスしろ』

 

 クレーターができていた。中心には輸送用のヘリがひしゃげて転がっており、炎を上げている。残骸はその脇に仰向けで横たわっていた。

 

 アクセスする。よく見ると、621と同じ探査ACのフレームだ。頭部だけ人型で、これはカメラそのものといった趣きの純正パーツとは異なるものだった。

 左腕にパイルバンカーを装着しており、傍らにはアサルトライフルが転がっている。肩の武装は地面に埋まっていてよく分からない。

 

 アクセス完了。ウォルターから解析結果が伝えられる。

 

『登録番号Rb23、傭兵ランク圏内。コールサインは……』

 

 山影から何か出て来た。先ほどの大型ヘリ。それが621の方へまっすぐ向かってくる。

 

『むっ⁉』

 

 ウォルターも気づいたようだ。短くうめく。

 

『やはり目を付けられていたか』

 

 こちらを攻撃する気なのは明らかだった。

 621はターゲットアシストを起動する。これはカメラと照準操作を機体に任せ、操縦に集中できる機能だ。一対一での戦闘で高い効果を発揮する。

 

 接近してブレードを二振り。続いてミサイルを至近距離から発射。ライフルも浴びせる。

 

『封鎖機構とやり合うのは本意ではないが』

 

 やや遅れて、ウォルターが仕事を伝えてきた。

 

『構わん、迎撃しろ。今ならお前が特定されることはない』

 

 621は距離をとろうとする敵機にアサルトブーストで迫った。ライフルを撃ち、ミサイルを放つ。

 

 敵機が硬直する。ACSが負荷限界を迎えたのだ。

 621はすかさずブレードで切りつける。その間に右腕のライフルをリロード、発砲を再開。

 

『効いているぞ。畳みかけていけ、621』

 

 621は機体をできるだけ敵機のそばに置くことを意識する。密着した状態なら、敵の攻撃は物理的に当たらない。

 

 機体のエネルギーが切れて上昇できないときも、常にライフルで攻撃を続ける。決して攻撃の手が緩まることはない。

 

 確実に墜とす、621が考えているのはそれだけだった。

 

 ミサイルを放つ。ブレードを振るう。届かない。

 もう一度振るう。今度は届いた。

 

 ヘリコプターの機首が切断され、炎が吹きあがる。

 やがて火は機体各部にまわっていき、大爆発。敵機は空中で消滅した。

 

『惑星封鎖機構SG、大型武装ヘリの撃墜を確認した。今日の仕事は終わりだ、621』

 

 最後のライセンスはどうやら当たりだったようだ。

 

『手に入れたライセンスのコールサインを伝える』

 

 ──認めよう、君の力を。

 

『「レイヴン」』

 

 ──今この瞬間から君はレイヴンだ。

 

『これがお前の、ルビコンでの名義だ』

 

 

 

 

 

 

 コーラルと呼ばれる物質がある。

 

 辺境の開発惑星、ルビコンで発見されたそれは、新時代のエネルギー資源、および情報導体として、人類社会に飛躍的発展をもたらすと嘱望された。

 

 待っていたのは災害だった。

 

 アイビスの火。

 

 その炎と嵐は周辺星系をも巻き込み、致命的な汚染を残し、元凶たる新物質もまた、跡形もなく焼失したかに思われた。

 

 だが──

 

 コーラルは、いまだルビコンに燻っていた。

 

 やがて人々は気付くことになる。

 

 その火種に。




 収入:170,000
 
 基本報酬:170,000
 報酬加算:0
 
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 修理費:11,692
 弾薬費:8,840
 報酬減算:0
 
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