『傾注、G13 レイヴン! ベイラム同盟企業、大豊からの依頼だ。我が方は封鎖機構に対して陽動作戦を展開する』
作戦地点への移動中、621はブリーフィングを再確認していた。次の依頼はベイラムからだ。
『貴様の配置は中央氷原のエンゲブレト坑道。ここは老朽化したウォッチポイントのひとつでもあり、近く封鎖機構が修繕に入る予定だという』
映し出されたのは、まさしく坑道だった。岩を縦に掘り抜いたトンネル。621にとってウォッチポイントといえば、バルテウスと戦ったあの場所である。正確にはウォッチポイント・デルタと呼ばれるそれとは、設備が比較にならないほど古く見えた。
『当該坑道へと侵入し、補修対象のセンシングデバイスを見つけて破壊せよ』
目標は最奥にあるセンシングバルブの破壊──621はウォッチポイント・デルタでの仕事を思い出す。逆流する真紅のエネルギーを。
『封鎖機構を誘引し、近傍拠点から兵力を分散させるのが目的となる。ブリーフィングは以上だ。期待するぞ、G13!』
『大豊はお前の価値をいまいち理解していないようだ。話を付けておこう』
621は別に気にしていないが、ウォルターは621が不当な扱いを受けていると判断したようだ。
『メインシステム、戦闘モード起動』
『ミッション開始だ。地下坑道にある旧型センシングデバイスを破壊しろ』
621は旧バートラム宇宙港敷地のすぐ脇に位置する、エンゲブレト坑道入口に機体を降ろした。入口は恐らく封鎖機構のキャンプ地となっており、電源装置とケーブル、簡易倉庫に雪上車が用意されていた。
621は坑道へ侵入する。入口は横穴で、400mほど進むと縦穴が始まっていた。
原始的な坑道だった。基礎は岩盤そのもので、補強に鉄骨が使用されている。
『古びた施設だが最低限の戦力は配備されている。油断はするな、621』
縦穴といっても、一直線ではなく、岩の張り出した箇所があった。621はそうした足場を、スキャンも併用して慎重に降りていった。
標高にして400mほど降りた地点で、整地された区画に出た。
採掘物や物資の輸送用と思われるトロッコと、そのレール。連絡用の道路。地上か、あるいはより深い区画へ繋がるであろうエレベータ……。しかしそれらは使い古されたもので、電気こそ来ているものの、ところどころに落石があった。
『
封鎖機構のMTが3機。621に気付いて攻撃してきた。
『襲撃? なぜここを?』
まとまっていた2機をプラズマミサイルで、離れた1機をライフルで潰し、621は先へ進んだ。トロッコ用ゲートの上を通過しようとして、何もないことに気づく。
《……足元に注意を》
ゲートの先は奈落だった。レールもそこで途切れている。しかし、炭鉱は奥へ続いていた。地下空間の上端だけを利用しているのだ。狭い岩盤と岩盤の間に梁を設け、飛び石の要領で奥へ進めるようになっていた。
《奈落の底から微弱なコーラル反応──ここも地中支脈に通じているのかもしれません》
ウォッチポイントは地中支脈の流量制御を行っていた施設だけに、あり得る話だった。
梁の先に小部屋が設けられたところもあった。目ぼしいところには掘削用の小部屋を設け、反対側に集積用のものを用意したのだろう。これらも今はほとんど使用されていないようで、封鎖機構のものと思わしきリペアロボットが修繕にあたっていた。
『G13! 入電だ、レイヴン!』
レッドから通信が入った。
『想定より早いが、封鎖機構の地上部隊がそちらへ向かった。連中を釘付けにしてやろう──盛大にな。以上だ、通信終わり!』
『……聞いたとおりだ、621。手早く終わらせて抜け出すぞ』
621は天井に沿って飛行する。道中の敵は全て無視した。
やがて、最奥と思われる小部屋に到達した。二段構造になっていて、下側に目標地点がある。上に張り付いていたメカが621の前を地面へ落ちていった。待ち伏せ用だったのだろう。621は素通りし、目標へ向かう。
『あれがターゲットだ。シールドで保護されてはいるが、内側から叩けば問題はない』
621は目標のセンシングデバイス、入口から1500mほど低い地点にある小部屋の下層にたどり着いた。目標は稼働中の装置に取り付けられていた。一見すると掘削機に見えるが、どうやって流量を見ているのかは分からなかった。
不可解なことに、この装置が置かれている場所だけが、周囲より沈みこんでいる。コンクリートで固められた地面があちらこちらでひび割れていた。地震のような地殻変動でもあったかのようだった。
地下水が染み出ている。紅かった。微量のコーラルを含んでいる。はっきりとコーラルの声が視えた。
621はシールド内部でライフルの引き金に手をかけ、瞬時に思考する。
コーラルの流れを制御する、あるいはしていた装置を破壊する。装置は古く土台が陥没しており、コーラル混じりの地下水が存在することからも、既に機能不全に陥っている可能性がある。そしてウォッチポイント・デルタのような十分に管理されたウォッチポイントですら、センシングバルブの破壊によってコーラルが逆流した……。それはつまり──
引き金を引く。両腕のバーストライフルから放たれたライフル弾はその運動エネルギーを遺憾なく発揮した。火花が散り、閃光を放った。シールドが消失する。
つまり──センシングデバイスを破壊すると、コーラルが逆流する。それも致死量を優に超えて。
ウォッチポイント・デルタでは、恐らくエアが621の命を繋いだ。今度は助からないかもしれない。621はただちに反転、設置されていた垂直カタパルトに飛び乗った。
『目標を破壊。ミッション完了だ』
カタパルトを射出。621は背後で大爆発が起きるのを感じた。センシングデバイスが掘削機ごと吹き飛んだのだろう。
《……レイヴン、待ってください。コーラル反応が強まって……!》
621は何かが吹き出すような音を聞いた。光の反射で周囲の岩が真紅に輝く。
『コーラル逆流だと⁉ 馬鹿な、この程度の刺激で──621、引きあげろ──今すぐ!』
飛び上がった621は、すかさずアサルトブースト。攻撃型リペアメカが撃ってくるレーザーに目もくれず、坑道を入口を目指す。
『
『何が起きている⁉』
地上部隊が追ってきていたらしい。無数のレーザーが621に飛んでくる。加えて、奈落の底からコーラルの紅い奔流が轟音と共に次々と吹き出してきた。
『コーラルの奔流には触れるな。装甲が持たんぞ!』
恐らく高濃度のコーラルによって、ただでさえAPがじわじわと減っていた。奔流が直撃すれば塵も残らないだろう。
『
『G13──レイヴン! 何が起こっている⁉ 先ほどの震動はなんだ? 状況を説明──』
無線に流れる声は、いずれも混沌に満ちていた。レッドの通信にウォルターが割り込む。
『説明は後だ。すぐに出ろ、621!』
コーラルによるスリップダメージと、封鎖機構からの攻撃によって、621のAPは半分を切っていた。リペアキットを使用して回復する。
『
『「続行」……⁉ この状況で、どうやれと⁉』
《地上まであと一息……。急いで、レイヴン! ここを上です!》
621は最初に降りた縦穴の真下まで戻ってきた。アサルトブーストは真上への移動には使えない。ブーストの上昇速度頼みだった。視界は全て真紅に染まり、通路と岩の見分けがつかない。621は突き出た岩場に引っかかった。
《コーラルが迫っています!》
621は機体をずらし、縦穴を上りきる。
『621、走り抜けろ!』
あとは出口までの横穴だけだ。621はアサルトブーストに点火。光が見える方へ突き進む。コーラルはここまで上がってきており、横からも噴き出してきた。さながら段違い平行棒だ。621は本格的に噴出する前に横穴を飛ぶ。
そのまま坑道の外へ飛び出す──白い。機体カメラの調整よりも早く、日光と、そしてコーラルによる閃光が、HMDを白一色で塗りつぶした。
『何とか……間に合ったようだな』
視界に色が戻る。坑道の出口からコーラルが噴出していた。
『……仕事は終わりだ。戻って休め、621』
《……一歩間違えれば、あなたはコーラルに飲み込まれていた。レイヴン……あなたの仕事はいつも危険と隣り合わせですね?》
いつも命を懸けなければならないのか。エアからの問いかけに、そうだ、と621は答えた。
「仕事だからな」
『傾注、G13 レイヴン! エンゲブレト坑道での作戦成功を受け、ミシガン総長より貴様への伝言がある。「コーラルに飲まれかけるとは災難だったな。貴様のケツには文字通り火が点いたことだろう。その火は次の遠足まで大切に育てておけ」。以上、通信終わり!』
既にベイラムからメッセージが来ていた。レッドは普段からミシガンと似た口調を心掛けている。当然伝言も威勢の良いものとなった。
果たして尻に火が点いただろうか……621は自問自答する。
坑道の外へ出た瞬間、確かに肩の兵装をパージしたときと同じものを感じた。機体が身軽になる感覚。自分はプレッシャーに晒されていたか? 任務の完遂に最適な行動をとるのは、これまでと変わらないはずだが……。
621には、火が点く点かないにかかわらず、まだ仕事がひとつ残っていた。
ベリウスに舞い戻り、「壁」にてV.Ⅶを排除するのだ。
収入:151,000
基本報酬:130,000
報酬加算:21,000
詳細
汎用兵器の撃破:4,000
軽MTの撃破:17,000
支出:20,894
修理費:18,394
弾薬費:2,500
報酬減算:0
収支:130,106
明日より投稿時間を戻します。基本的に18時21分です。