メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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V.Ⅶ排除

 621は後回しにしていた解放戦線からの依頼を再確認する。

 

『レイヴン、貴方に引き受けてもらいたい作戦がある。ルビコン解放戦線は、アーキバスからの「壁」奪還を企図している……貴方にはその起点となる重要な一手を頼みたい』

 

 アーキバスの主力が中央氷原に集中してるうちに、解放戦線は「壁」を奪還したいのだろう。

 

『目標は駐留部隊の指揮官、V.Ⅶ スウィンバーンの暗殺だ。スウィンバーンは拠点への侵入者および依頼者を特定するための監視部隊を多数抱えている。「壁」の奪還計画を秘密裏に進めるためには、隠密での作戦遂行が不可欠……くれぐれも慎重に頼む』

 

 そこでV.Ⅶを暗殺する、というわけだった。621の脳裏に、ラスティの言葉が思い出された。

 

 解放戦線は企業と独立傭兵の共倒れを狙っている──。

 

 例えばスウィンバーンと共にまとめて始末するとか。依頼を持ってきたエアもそのあたりの裏取りはしてるはずで、問題ないはずだが……。

 

《監視部隊に見つかることなく目標を奇襲し、確実に撃破する……。いつもとは違う戦い方が求められそうです》

 

 

 

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 ベイラムの高速輸送艦でベリウスに渡り、更にグリッドをたどって解放戦線の某拠点まで移動。そこから輸送ヘリで「壁」へ向かう。

 621は10日間ほどかけて「壁」に降り立った。時刻は夜、天候は雪。奇襲には絶好のコンディションだった。

 

《ミッション開始。提供された情報から目標の位置を推定しました。送信します》

 

 HMDにマーカーが表示される。621の現在地は、壁を正面に見た街区の右端。マーカー地点までの距離はおよそ3100m、「壁」に設けられた街区の左端が表示されていた。

 

《監視装備MTには注意を。記録を取られたら、ミッションは即時失敗です。キャプチャカメラを向けられたら、身を隠すかすぐに撃破してください》

 

 敵の目をかいくぐり、街区を横断しなければならない。621は建物の影から影へと、アサルトブーストで低空を高速飛行する。

 

《レイヴン! 監視装備MTです!》

 

 途中何機かのMTが侵入者に気付き、カメラのフラッシュを焚いたが、風景写真を撮ったに過ぎなかった。

 

 621は奇襲作戦と聞いて持ってきた長射程ショットガンを握りしめる。目標まで400mほどまで接近していた。

 

 倉庫脇がマーカー地点だったが、ACの姿は無かった。おびき寄せられたか?

 

《目標はいない、ようですね。もしかしたら夜警に出ているのかもしれません》

 

 夜警? ナイトウォッチの? 621は訝しんだ。自ら率先して哨戒して──。

 

 光と爆発音。街区の外からだった。

 

《レイヴン──あちらを!》

 

 空にグレネードとライフルとおぼしき曳光弾が放たれていた。位置からして外堀より向こう側だと621は判断した。

 

《戦闘状態にある機体反応を検出。おそらく目標のスウィンバーンでしょう》

 

『次から次へと不法者……いい加減学んでほしいものだ。フム……これは解放戦線の機体構成ではないな……』

 

 聞こえてきたのは、甲高い男の声。中堅というより、若手という印象を抱かせる声だった。

 

 621は街区外縁の垂直カタパルトを使用、防壁に飛び乗った。炎上中の残骸が2機。

 

《目標を確認。ヴェスパーズのナンバー7、スウィンバーンです》

 

 マーカー情報が更新される。ここから1100mほど離れた外堀の対岸、残骸のそばに四脚ACが1機。

 

《奇襲する好機です。行きましょう》

 

『なるほど……ベイラムか。時代遅れの斜陽グループめ。まとめて再教育センターにぶち込んでやるか……スネイル閣下も喜ばれるだろう』

 

 621は独り言をつぶやく敵機の背後から接近、80mまで近づいたところで両腕のショットガンを発砲した。

 

『ぐぉあーっ⁉』

 

 621は敵機がひるんでいる間にプラズマミサイルを発射、同時にブーストキック。蹴り飛ばされた敵機にリロードを終えたショットガンを浴びせた。

 

『なっ、何事だ⁉』

 

 敵機が肩の大型グレネードで反撃、621に直撃させてきた。ACS負荷限界で機体が硬直する。621は更に四脚による回し蹴りで吹き飛ばされた。

 

『よっ、よせ! 背後から奇襲するとはなんという卑劣……!』

 

 硬直が解けた621はショットガンを発砲、今度は敵機が硬直した。蹴り飛ばし、ショットガンで追撃する──四脚は硬直時間が短い。ブレードで追撃するには距離があった。

 

『どこの雇われかは知らないが……』

 

 岩場に逃げ込んだ敵機を621は追い詰める。相手の機動が制限されるため、蹴り放題だった。再び敵機がスタッガー。

 

『卑劣な不法者には指導が──劣勢⁉ このスウィンバーンが……劣勢だと⁉』

 

 621はブレードで連撃。直後に敵機がパルスアーマーを展開する。

 

『まっ、待て! 落ち着け!』

 

 パルスアーマーにプラズマミサイルと蹴りを放ったところで、621は見た。敵機が腕部兵装をパージするのを。

 降伏の合図──あるいは殴り合いの意思表示だった。

 

『いいか、私はヴェスパーズ第7隊長……つまり会計責任者でもあるということだ』

 

 話し始めた敵機を前に、621は戦闘行動を中断。リペアキットを使用してAPを回復し、様子を見る。

 

『部隊の入出金については私に管理権限がある。見逃してくれれば悪いようにはしない。分かるな?』

 

 悪いようにはしない、というのが分からなかったが、見逃せ、という意図は621に伝わっていた。

 

 僅かな時間、621は考えた。

 

「エア、暗殺作戦は失敗。たぶん──今の時間でアーキバスに通報が入った」

 

 敵機に対する奇襲効果も既に切れている。隠密を優先する場合、これ以上の戦闘は避けるべきだった。

 

 依頼を取ってきたエアの面子を潰す形になるが、敵機を見逃す。621は決めた。

 

「エア、今回は……申し訳ない」

 

 心の内に生まれた起伏に対し、621はまだ語彙が欠けていた。ぎこちない謝罪の言葉をエアにかけ、回線を開く。

 

「こちら不法者。貴機の要求に応じる」

 

『素晴らしい。道理を弁えているようだな』

 

 すぐに応答があった。相手の声音が調子を取り戻しているのが、621には分かった。

 

『貴様にはスネイル閣下より褒章が下るだろう……不法者とは違うな。私の指導を胸にますます励むのだぞ』

 

 そういって、スウィンバーンはアサルトブーストを点火、離脱していった。

 

《……スウィンバーン、作戦エリアから離脱しました。レイヴン、あなたの選択は尊重しますが……》

 

 何か言いたげなエアが、突然緊迫した声を発した。

 

《待ってください! 機体反応を検出。来ます!》

 

 

 

 

 

 

『信義により立つ任務の不履行……万死に値する。サンズのワタシを払えい!』

 

 街区の方からACが1機飛んできた。そのまま621の前まで来ると、アサルトブーストで突っ込んできた。

 

《あれは解放戦線のAC⁉ 応戦を!》

 

 目付け役だろう。向こうもただで帰すわけにはいかないはずだ。

 

『不義にして富み且つ貴きは浮雲の如し。不義なる雇われよ、ルビコンの土となれい!』

 

 見たところ軽量二脚機。エルカノの「フィルメサ」フレームのシルエットが確認できた──コアだけオールマインド製「マインドα」だったが。

 

 アリーナで交戦した機体、シノビだ。

 

 621もアサルトブーストで接近、空中でショットガンを発砲する。相手は蹴りと、プラズマロアーで攻撃してきた。

 

 お互い地上へ降りるタイミングで敵機がパルスアーマーを発動。それを見て621もアサルトアーマーを発動させた。パルスアーマーを纏って近づいてきた敵機をパルスエネルギーが飲み込む。

 直撃。アサルトアーマーが敵機のパルスアーマーを一気に削り、ACS負荷限界にまで追い込んだ。

 

 621はクイックブーストで接近しながらショットガンを発砲、外した。続いてブレードを振るう。ジャンプして避けようとした敵機に連撃が命中。

 

 HMD上部に表示された、敵機の推定APゲージが回復する。リペアキットを使用したらしい。これでお互いリペアはふたつ。

 しかし621はダメージレースをするつもりはなかった。一気に決める。

 

《敵ACの情報を集めました。ルビコン解放戦線に身を寄せる凄腕暗殺者、六文銭。芝居がかった口上は一種の攪乱戦術──惑わされないよう注意を》

 

 左ハンガーのバーストアサルトライフルで引き撃ちしてくる敵機を、621はアサルトブーストで追い、蹴る。空振り。

 

 ショットガンを撃つ。両腕。直撃。621はプラズマミサイルを発射し、再びブーストキック。振り抜いた左脚が敵機に直撃する。なおも距離をとろうとする敵機をクイックブーストで詰め、鉛玉の壁を叩き込む。敵機がスタッガー。すかさずブレードで連撃し、とどめを刺すべくリロードを終えたショットガンを撃った。

 

 外した。敵機が再度リペアキットを使用し、ショットガンで反撃してきた。

 

『AP、残り50%』

 

『一飯千金』

 

 互いにアサルトブーストで接近、蹴り合う。タイミングが合わず、双方の脚が虚を振りぬく。

 

『今こそ同志ツィイーの恩義に報いる時なり!』

 

『AP、残り30%』

 

 621はプラズマロアーをもろに浴びた。こちらも二つめのリペアキットを使用する。

 

 621はもう一度自分の攻撃パターンに引きずり込む。蹴りとショットガンの攻撃を絶え間なく、高密度に繰り返す。

 

 敵機が硬直した。621は持ち替えたブレードを一閃。破孔から炎が吹き出した。

 

『利によりて行えば……怨み多し』

 

 敵機が膝を屈する。

 

『不義なる雇われよ、ルビコンと共にあれい!』

 

 爆発。背中側の装甲が空を舞い、敵機は沈黙した。

 

《敵ACの撃破を確認》

 

 エアが疲れたように嘆息した。

 

《いろんな人がいるものですね》

 

 小物の指揮官、裏切る傭兵、そしてサプライズニンジャ。三者による戦闘の痕跡は次第に雪の下へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

『調子はどうだい、ウォルター?』

 

「難しいところだ」

 

 ACの出払ったガレージの中で、ウォルターはカーラと通信をしていた。

 

「621の仕事は堅調だが、どうやら幻聴が続いている。様子を見る限りでは、あいつを損なうものではなさそうだが」

 

 ルビコンに降りた当初、621はまさに「機能以外死んでいる」ように見えた。

 戦闘の効率を上げるために、苛烈な攻撃を行うというアプローチがとられ、無口ながら高い攻撃性をもっていた。要は喧嘩っ早いのだ。その性質は今も変わっていないが、最近は口数が増えてきた。

 コーラルに飲まれる前からもわずかながら喋るようになっていたが、幻聴が始まってからは更に口数が増えてきたように感じる。

 

 また本人の性格として、戦略的判断もこなせる高い洞察力を持つ。自分の感情に無頓着ながら、他人の感情を推し量ることを身につけたのだ。

 最近はそれに磨きがかかってきた。そして脳内のCパルス波形を見る限り、どうも感情に起伏が生まれはじめている。幻聴によるものかは分からないが、621は人間性を取り戻しはじめている──

 

『……あんたの調子を聞いたつもりだったんだがね、ウォルター、まあいいさ。それより、コーラルをさっさと見つけた方がいい』

 

 てっきり621の調子を聞かれたと思ったウォルターであった。それにしても、事態に変化があったようだ。

 

『「友人たち」の危惧した通りさ。封鎖機構の相手ばかりしてるとだ、ウォルター。ことによっては間に合わなくなるからね』

 

 どうやら相手が想定より速い。いつでも切り札を出せるようにしておくか……。

 

 ウォルターは次の「仕事」へ621を送り出すべく、準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

『新着メッセージ、2件』

 

 アーキバスの極超音速機を利用し、4日で中央氷原まで舞い戻った621は、メッセージを確認する。まず1通目から。

 

『アーキバスグループ傭兵起用担当、V.Ⅷ ペイターです。V.Ⅶを助命され、解放戦線のACを撃破されたそうですね。当社から報奨金が振り込まれていたはず、確認はお済みでしょうか』

 

 最初のメッセージはアーキバスからだった。報奨金はしっかりと振り込まれていた。なお、621は解放戦線の作戦放棄に対し、違約金を払っている。

 

『取り急ぎの報告となりますが、当事者たるスウィンバーンは醜態を晒し部隊の品位を下げたとして、スネイル閣下の命により再教育センターへ移送されました』

 

 再教育センター……一体何をされるのやら。

 

『以上です。引き続きアーキバスグループをよろしくお願いします』

 

 もうひとつは。

 

『登録番号Rb23、コールサイン、レイヴン。貴方の実績情報が更新されました。アリーナにおいてCランク帯の仮想戦闘が開放されています。戦闘技能の向上に、お役立てください』

 

 いつものやつだった。621はアリーナへアクセスした。




 収入:470,000
 
 基本報酬:200,000
 報酬加算:270,000
 詳細
   スウィンバーンの助命受諾:270,000
 
 支出:239,384
 
 修理費:24,384
 弾薬費:15,000
 報酬減算:200,000
 詳細
   解放戦線の作戦放棄:200,000
 
 収支:230,616
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