メインシステム、戦闘モード起動   作:留式

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大型ミサイル発射支援

『久しぶりだね、ツーリスト。あんたにひとつ仕事を頼みたい』

 

 ベリウスでの依頼はふたつ来ていた。そのうち片方の依頼主がRaDであった。発行人はカーラ。グリッド086で世話になったRaDの頭目である。

 

『封鎖機構の実力行使だが、いよいよ私らのビジネスにまで影響が出始めた。コヨーテスの腰抜けどもが連中を恐れて靡きやがったのさ』

 

 ブリーフィング映像には、グリッド086周辺に位置するドーザー(ヤク中)の拠点が次々とバツ印でマークされていく様子が映っていた。

 

 コヨーテスといえば、621がグリッド086で暴れまわった隙を突いてきた連中だ。唐突に舞い込んだ掃除の依頼は、621にとって久々となる負荷の低い仕事だった。

 

『今じゃ後ろ盾を得て調子付いたのか、RaDのシマにも再びちょっかいを出してくる始末だ』

 

 そんなわけで、とカーラが切り出す。

 

『打ち上げ花火をプレゼントだ──こいつでお星さまにしてあげようじゃないか』

 

 画面に映し出されたのは──ミサイル。HEAVY MISSILEと示されている。ハイブリッド式で、液体燃料に着火してある程度上昇した後、固体燃料で一気に加速するという。

 

 外観を見る限り、フェアリングがない。弾頭もタンクもむき出しだった。本当に飛ぶのだろうか。

 

『コヨーテスは罰当たりだが、狡猾な連中だ。あいつらは当然発射の妨害に来る』

 

 今度はミサイルの配置と敵の侵攻予測方向が示された。ミサイルはウォッチポイント・デルタ制御センターの正面に3発用意され、陸地側にあるコヨーテスのグリッドを狙う予定だった。

 敵はウォッチポイント第2区画から、海を渡って侵攻してくると予測されている。連絡橋沿いを正面から行くパターン、あとは左右の開けた海上を進むパターンの3つが想定されていた。

 

『そこであんたの出番だ。連中を迎撃し、ミサイルを防衛してくれ。犬っころと封鎖機構にRaD印の特製花火を見せつけてやろうじゃないか』

 

 

 

 

 

 

 621は再びウォッチポイント・デルタへ降り立とうとしていた。ウォルターはザイレムで得たデータの整理に手間取っているようで、次の仕事から合流することになった。

 

《そろそろ作戦時間です、レイヴン。出向くとしましょう》

 

 ウォルターこそいないが、エアがいる。作戦の指揮はカーラが執ることになっていた。

 

ドーザー(ヤク中)たちがコーラル酔いで遅刻などしなければ良いのですが》

 

 時刻は夕方だった。今回は雨ではなく、晴れ。621は灼けた空のもと、ウォッチポイント・デルタ第2区画へ降下した。

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 作戦開始時刻をちょうど迎えたところだ。しかし、制御センター前では既に曳光弾が飛び交っていた。

 

『先に始めてるよ、ツーリスト! 配置につきな!』

 

《時間通りに来たはずですが……。血の気が多い人たちです》

 

 ブリーフィング通り、ミサイルの発射装置機が3基、制御センターの正面に設置されている。ミサイルは発射機のブームに据えられているが、今は横倒しになっていた。

 3発の内、中央の1発がメインで、これだけは守り切る必要がある。左右のサブミサイルの傍らには防衛火器として4連装ガトリング砲台が1基ずつ設置されており、敵の第1波に弾をぶちまけていた。

 

 621もこれに加わるべく、アサルトブーストで制御センターに向かって飛び出す。まずは左側のミサイルを狙うMTを両肩のプラズマミサイル、さらにライフルを使って一掃した。

 

 続いて右ミサイルを狙う敵にプラズマライフルをマルチロックで発射。まとめて消し飛ばし、残った1機をライフルで潰す。

 

《敵勢力、第1波の撃破を確認》

 

 ドーザー(ヤク中)が相手ということで、621は左肩をブレードからプラズマミサイルに載せ替えている。右と同じ、3連装の前方発射式だ。

 

 二脚MTをはじめとする低速軽装甲機が相手の殲滅戦こそ、プラズマミサイルは真価を発揮する。3発撃ったとして、いずれかの炸裂範囲内に一定時間、敵が収まっていればよいのだ。逆に言えば、1発当たっても3発当たっても威力は同じである。

 なれば、マルチロックで広範囲にダメージゾーンを敷き、一網打尽にしてしまえばよい。両肩に搭載すれば、更に撃破の期待値が高まるという考えだった。

 

『準備完了だ、チーフ。ミサイル発射シーケンスに入る』

 

 ミサイル運用オペレータから通信が入った。寡黙な仕事人という雰囲気の、男の声だった。

 

『ああそうだ、紹介がまだだったね。チャティはうちのシステム担当だ。無口だが、仕事のできる奴さ』

 

 おしゃべり(チャティ)? 621は思い出す。

 アリーナで戦ったばかりのAC乗りだ。「おしゃべり(チャティ)」スティックは、確かカーラの作ったAIだという話だった。同一の存在なら、さぞ頼りになるエンジニアなのだろう。

 

『さて、くっちゃべってる暇はない。犬っころの相手をしてやんなきゃね』

 

 621にミサイルのテレメトリデータが送られてきた。ミサイルの残りAPと、打ち上げ5分前で止められた、カウントダウンシーケンスの進行状況がHMDに表示される。

 

『まさか長いものに巻かれようとはね……ドーザー(ヤク中)が、まともな判断しやがって』

 

 長くはもたんよ、とつぶやくカーラ。621にも感じ取れるほど、哀れなものを見るような声だった。

 

 621はカウントダウンシーケンスが再開したのに気づいた。スティックが仕事を進めているのだ。

 T-300、ランチャー起立。ミサイルが真上を向く。T-290、タンク加圧開始。

 

 そのとき、音と共に、HMD上にコーションが出た。3機。方位250あたりから空中を移動している。MTを搭載した輸送ヘリだ。

 

『第2波が来る。近寄らせるんじゃないよ!』

 

《正面、左手方向から接近中です。迎撃してください、レイヴン》

 

 エアが言いおわる頃には、621はアサルトブーストで編隊に接近、両肩のプラズマミサイルをマルチロックで発射している。

 青紫の花が空に咲き、中身ごとヘリをバラバラにした。

 

『手際がいいねえ、ツーリスト。目がくらんじまって、まったく不憫だよ』

 

 橋とその脇からも敵機が来ていた。621はこれもライフルで一掃する。

 

 5秒ほど経過して、再びレーダーに反応。方位290、射場正面左から3機。プラズマミサイルで殲滅。

 直後には正反対、正面右から3機。621はこれも全て撃破した、瞬間にコーションが出現。

 

《橋の方から接近しています》

 

『犬っころどもがぞろぞろと……すり抜けないよう注意しな!』

 

 第2区画にそびえるタワーの間をくぐり抜け、輸送ヘリが4機、トレイル編隊で飛んできた。抜けたところでダイヤモンドに隊形変換する。

 621は編隊へアサルトブーストで接近。プラズマミサイルで2機を撃墜。残りにライフル弾を叩き込み、MTが降下する前に始末する。

 

 その頃には左から再びMTが来ていた。

 

『せわしないねえ、ツーリスト。待つ時間も花火の内だ。お客さんを楽しませてやろうじゃないか』

 

 621はアサルトブーストで飛んでいき、プラミサミサイルを発射。右肩からの全てが外れ、倒しきれなかった。1機からライフルが飛んできて、621は今日初めて被弾した。ライフルで返礼し、1機ずつ潰す。

 

 間髪いれずに、今度は右から3機。蹴散らした。直後に警告音。

 

《第3波、橋の方から接近中。これまでとは異なる機体です》

 

 橋の脇にMTが3機現れた。同時に何かが高速で突入してきて、621の背後で着地した。

 

トイボックス(おもちゃ箱)じゃないか……うちのスパイシーな製品さ。優先的にやりな!』

 

 正面のMTを始末した621は振り向き、連絡橋の上を前進するMTに目を向けた。見覚えのある等脚類のようなシルエット──腹筋爆裂ダンゴムシだ。トイボックスというのはこの正式名称らしい。

 621は背後からプラズマミサイルをトイボックスに向けて発射、アサルトブーストで蹴とばした。真っ二つになったトイボックスが爆散する。

 

『ミサイル発射シーケンス、50%完了』

 

 スティックからの進捗報告。計画通りだった。既にミサイルは設備電源から内部電池へパワーソースを切り替えている。

 T-150、発射機と慣性誘導計算機の角度読合せを実行。射角が完全に固定される。今日は垂直に打ち上げる予定だった。

 

『チャティは順調なようだね。あんたもやられるんじゃないよ、ツーリスト』

 

 応答のかわりに、中央から突破をはかるMTを621は撃破する。

 直後、再び高速の飛行物体が突っ込んできた。

 

《3方向から同時に来ます》

 

『トイボックスのおかわりだ。撃ち漏らすんじゃないよ!』

 

 ダンゴムシが3機襲来。621は右のダンゴムシに両肩のプラズマミサイルを全て放ち、中央の機体をライフルのみで撃破。残る1機にプラズマミサイルを再び両肩から放つ。倒しきらない。

 ダンゴムシの両手に多数搭載された、ガトリングガンが火を噴いた。621はその背中にライフルでもう1発入れる。撃破。

 そうなると、やはり右の敵機はまだ動いていた。621は橋越しにライフルを撃ち、とどめを刺す。

 

《……敵の増援が追いついていないようです》

 

『手加減してやりな、ツーリスト。花火会場がこれじゃ盛り上がらないよ』

 

「……花火大会には海水浴がセットだと聞いた」

 

 仕事の合間に流れてきた星外のニュースを思い出して621がそう返すと、カーラはひとしきり笑ってから、言った。

 

『どこでそんなの覚えてきたんだい、ツーリスト? まあいいか、特等席に招待してやりな!』

 

 その間にも621は3機編隊で侵攻してくるMTを次々と撃破している。

 

 HMDの片隅では、発射シーケンスのログが急加速していた。可能な限り早く打ち上げられるよう、スティックがいくつかのシーケンスをスキップしたのだ。

 ちょうど打ち上げ90秒前だが、既にブースタ動作チェックが始まっていた。続いて入力された目標データの照合が開始される。

 

『全ての不法戦闘員に告ぐ』

 

 呼びかけと共に、HMDにコーションが出現。これまでより高速、高高度から侵入してくる。

 

『速やかに武装解除せよ、意思なき場合は即刻かつ無差別に排除対象となる』

 

 惑星封鎖機構の強襲艦だった。しかし単艦で、子機も出さずに突っ込んできた。

 

 これを見たのか、スティックがシーケンス進行を更に早めた。RLG重心設定チェック。セーフアーム作動、点火系導通チェック。コンプリート。タイマ点火管制装置起動、10秒後にタイマ電源オン。何もなければ更に30秒後、リフトオフ。

 

『繰り返す。例外はない』

 

 艦首のレーザー砲から光が二筋、ミサイルへ向けて放たれた。警告射撃。

 

『強襲艦だと⁉ ボス犬のお出ましときたみたいだね。ぶちのめしな、ツーリスト! 艦を墜とすのは得意なんだろう?』

 

 621は即座に強襲艦の甲板まで上昇し、プラズマミサイルとライフルでめった打ちにした挙句、艦橋を踏み抜いた。艦橋と機関が直結しているため、艦橋さえ潰せば致命傷となるのだ。

 舷側が裂け、青白いエネルギーが噴出する。艦内はずたぼろだろう。乗組員の原形はまず残らない。

 

《封鎖機構強襲艦の撃破を確認》

 

『そう、それだ! 良い余興を見せてもらったよ、ツーリスト』

 

 621が強襲艦の相手をしている間に、スティックが作業を進めていた。アライメント開始。誘導制御系、フライトモードに切り替え。フライトモード・ステータスチェック。

 続いて点火回路準備。中間スイッチをオン、更に安全スイッチ、セーフアーム、着火装置、モータのスイッチが全て発射側に入れられる。トーチ点火。ノズル周辺から火花が飛び散りはじめた。

 

 スティックの仕事はここまでだった。あとは発射まで完全自動となる。

 

『ミサイル発射シーケンスが完了した、チーフ。いつでもいける』

 

『上出来だ、チャティ! ……あんたもだ、ツーリスト』

 

 残り47秒というカウントダウンの表示が消える。実際には発射10秒前。

 

 モニタ解除、ブームコントローラ・パーキング解除、全システム準備完了。ミサイルが地上から完全に独立する。

 

『さあ、派手に打ち上げるよ!』

 

 621は発射機の正面に居座った。生身では吹き飛ばされる距離だが、ACなら問題ない。

 

 打ち上げ4.7秒前、エンジンに着火信号が送られ、トーチの力を借りてノズルから橙色の炎が飛び出す。着火完了、フライトロックイン。

 

 墜ちていく強襲艦をよそに大地が震え、熱でフレームディフレクタが軋み──散水装置は贅沢品なのだ──ブラストで塵が巻き上がった。

 

 1秒前、コントローラ開始。タイマ起動。NAVスタート、姿勢制御計算開始、システムからOKの信号が出る。同時に油圧系もチェック、これもパス。

 打ち上げ0.09秒前、チェックコマンド確認。コンプリート。

 

『星になりな……クソ野郎ども!』

 

 時刻T。リフトオフ。

 

 ブームに沿って真っ直ぐメインミサイルが上昇する。やや遅れてサブミサイルもリフトオフ。

 

『ツーリスト──着弾予測地点を表示しよう』

 

 スティックが座標を送ってきた。方位330あたり、打ち上げ地点から約3000m離れたグリッドだった。支柱が無い区画。

 621はウォッチポイント第2区画側、作戦エリアぎりぎりまでアサルトブーストで飛行する。

 

 所定の高度まで上昇しスラスタで横倒しになったミサイルが、ターゲットの方向へ進路を変える。

 固体燃料に点火。どひゃあ、という音が621の背後から聞こえた。

 

 飛行する621の頭上を、急加速したミサイルが突き進んでいく。一瞬で追い抜かれた。

 そのままミサイルは目標に突入、炸裂した。2発が命中。右のサブミサイルが目標を外れ、ひとつ奥のグリッドに突っ込んだ。

 

『……ちょっとずれたか? まあでも、だいたい計算どおりかね』

 

 辺り一帯を覆い隠すほどの爆炎が上がり、爆発音が機体を揺さぶる。

 

《レイヴン……綺麗な花火ですね》

 

 621は花火に意識を集中させていた。しかし、綺麗という言葉は621にも納得がいく表現だった。灼けた空にも負けないような輝きで、何かが浄化されるような感覚。

 

 思い起こせば、崩壊するストライダー、バルテウスのミサイル、グリッド086で見た夕焼けに坑道を逆流するコーラル……。

 仕事の途中に出会う色鮮やかな光景。今まで意識こそしていなかったものの、なるほど綺麗という言葉で表せそうだった。

 

「……ああ」

 

 電子声帯から、思わず声が漏れた。

 

「綺麗だ……」

 

 

 

 

 

 

『RaD、「おしゃべり(チャティ)」スティックだ。花火会場では世話になったな。チーフはお前とつるんでいると楽しそうだ……。これからも相手をしてやってくれ。用件はそれだけだ。じゃあな』

 

 花火大会から帰ると、スティックからメッセージが来ていた。良い付き合いにしたいのは、621も同意するところだった。

 

 珍しく621は名残惜しさというものを感じたが、次の仕事があった。今度はベリウス中部、4度目となる「壁」での仕事だった。




 収入:320,000
 
 基本報酬:160,000
 報酬加算:160,000
 詳細
   RaD製サブミサイルの防衛:160,000
 
 支出:24,012
 
 修理費:1,412
 弾薬費:22,600
 報酬減算:0
 
 収支:295,988
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